Book Guide 2009-09-13

黒祠の島 上 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-1)

黒祠の島 上 (幻冬舎コミックス漫画文庫 や 1-1)

本格推理小説の佳作を忠実な漫画化【問題編】

小野不由美さんが2001年に刊行された本格推理小説の佳作を原作とし、山本小鉄子さんがほぼ忠実に漫画化した作品です。2005~2006年に描き下ろし全3巻で刊行されました。今回の文庫版では1・2巻が上巻、3巻が下巻に再編されています。

主人公・式部剛は消えた知人・葛木志保の目撃証言を追って九州北西部に浮かぶ夜叉島へ渡る。島民の非協力的な態度のため式部の調査は難航する。島の風習、近日に起きた事件などの情報を得たものの、肝心の志保の行方はわからない。半ば諦めかけた頃、志保が島に滞在した痕跡と廃屋の大量の血痕を発見する。式部は島外の人間である僻地派遣医師・泰田均に狙いを定め、志保が死亡した事実と検案資料を引き出す。そして志保の本名が羽瀬川志保であり、島の出身者であること、そして志保とともに島へ向かった女性が志保と旧知の仲の永崎麻理だったことが判明する……。

シンプルな絵柄に膨大なセリフとモノローグからなり、絵が風景・状況・表情・しぐさ以外の情報を集約する役割に徹しているのが本作の特徴です。それゆえ読後感は小説にかなり近い。この原作を大切にする姿勢は買いますが、漫画的な情報整理の手法(人物相関図や現場の見取り図など)まで完全に排除しているのは、個人的には「もったいない」と感じました。

また、これは意見の分かれるところでしょうが、小説と漫画では得意な事件・物語の展開が異なるのでは……と私は思いました。雑誌連載ではなく描き下ろしだったこともあり、死体が登場するのは200ページ近く読み進んでから。観光資源に乏しい地味な島を巡ってひたすら証言を集め続ける展開は、漫画としては地味です。小説なら、言葉で世界を構築していくこと自体が面白みを生むのですが……。

「金田一少年の事件簿」シリーズのような、派手な展開と記号的なヒントを期待すると肩透かしを食います。腰を落ち着けて読んでください。

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