Book Guide 2009-09-16

産まない選択―子どもを持たない楽しさ

産まない選択―子どもを持たない楽しさ

人生選択の自由を阻害する社会はよくない

タイトルで早合点しないでください。福島瑞穂さんの編集意図は 1)様々な「産まない理由」を紹介する 2)出生率低下論議に複数の視点を提供する 3)出産・育児環境整備への要望の大きさを示す 4)生の声を多数紹介し読者に思考の契機を提供する の4点だと後書きに記されています。

本書は3部構成です。第1部は2本の対談記事による問題の概括と興味深い視点の提供、第2部・第3部は各5人(計10人)の手記による個別事例の紹介、となっています。編者の福島さんは出産・育児の経験者で、その体験を明確に肯定しています。その一方で、他者の「産まない選択」にも理解を示し、その判断を尊重します。

手記の書き手は様々です。積極的に「子どもはほしくない」という人の他にも、不妊治療に取り組んだが体外受精までは踏み出せなかった人、「2人目はほしくない」という人、居心地のよい現状を崩す動機がない人、将来的には産むかもしれない人、などなど。

一見バラバラながら、本書は「人生選択の自由を阻害する社会はよくない」という大きな主張に貫かれています。「産まない選択」が非難され人格・尊厳を傷付けられ沈黙させられることも、「産む選択」が生涯収入の激減・個人の時間の激減・教育費等の出費増など大きなコストと引き換えになることも、どちらも改善されるべきなのです。

「産まない選択」というタイトルは、本書が編まれた1992年頃に盛んだった福祉国家構築の議論が背景にあります。編者らは、出産・育児の障壁が下がった未来に「それでも産まない」人々が社会に糾弾されることを恐れたのです。現実には、その後の17年間、体感的な出産・育児の困難は増大する一方でした。

結果的に「産まない」人は「産めない」と説明すれば納得される社会となりましたが、それでよいわけがない。「産まない」選択への理解も全く進んでいない。本書の視点は現在も有効です。

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