大山会系佐田組

殺人

命の価値

 のっけから詰まってしまった。
 僕の知人友人には人を殺した奴はいないし、殺されたのもいない。窃盗傷害放火恐喝くらいならいるが、殺人となるとちょっとねえ。しょうがないので、僕の知る限り初めて、僕と同い年の男が人を殺した話をしよう。
 その事件は僕が小学校5年の時に読売新聞の社会面の隅の方に小さく載っていた。事件の質からすれば恐ろしく簡単すぎる扱いだったが、当時は少年犯罪がブームじゃなかったし、少年に対する保護が手厚かった頃だからね。それでなければ大事件が起きていたのだろう。
 その小学校5年生は何をしたか、強盗殺人である。
 北海道に住む彼は好奇心がとても強く、気が弱かったのだろう。エロ本に興味があったのだろうが、買う勇気はなかった。補導員が四つ角に立っていた当時、たとえ勇気を振り絞ってレジに持っていっても売ってくれなかったかもしれない。そうすれば地方のことだから万引きの如くに店主が親や学校に報告するだろう。彼の名声は地に落ち、あとはつらい生活が待っている。
 少年はそのエロ本を盗もうとした。ところがそれをレジのオバサンに見破られてしまった。彼は逃げようとしたが路上で捕まってしまった。自分の名誉を守るため、彼は石を手に取るとオバサンの頭に叩きつけた。
 これが事件の概要である。
 当時、僕は友人の家によく集まって、馬鹿話しながらゲームやったり漫画を読んだり、自堕落な生活をしていた。その頃、エロ本もよく手に入れては輪読していた。
 僕は獄中の少年に対してせめてもの慰めに、その夜一冊のエロ本を街のゴミ収集所に投げ捨てた。
傷害

暴力教室

 小学校三年生の時まで、保守的な街の保守的な学校に通っていた。
 今ではとても信じられないことだが、ここでは体罰がおおっぴらに行われていたのだ。僕はこの二年間を除いて体罰というのを受けたことがない。
 僕の当時住んでいた街は本当に中産階級とはちょっと云えなさそうな貧しいブルーカラーが殆どだった。なんせ「チベット」とか「アマゾン」とか揶揄されるほどの、周囲とは隔絶された田舎だったのだ。なんせ90年代に入るまで汚水設備がなく水洗トイレが導入できなかったくらいなのだ。
 そういう教育もろくに受けていない人間の集う街のこと、生徒は教師に殴られて当たり前、いや寧ろ殴ってくれるのは教師の溢れる愛が滲み出ての行為、感謝せねばならないのだ。うちの母親は「子供のためにドンドン殴って下さい」と家庭訪問で懇願する始末。
 そのせいか僕は低学年の二年間、ずっと殴られっぱなし。殴られると肌の色が変わるから(女のくせに拳で殴るのだ)、そんなときは連絡帳という奴に事細かに僕の罪状と殴ったことを律儀に書くのだ。連絡帳は保護者が見てハンコを押すのが義務だったのだが、親に見せるとまた殴るのである。
 さて、最も記憶に残っている体罰は誤って教室の花瓶を割ったときだ。これは全くの事故なのだが、その前の時間に別件で殴られていたため、わざとだと疑われて鼻っ柱に強烈なのを一発食らった。
 鼻からはとめどなく血が流れ教師は真っ青になった。そしてしきりに猫撫で声で謝罪を始め、保健室には送らず世話をしてくれた。僕は痛かったが先生が優しくしてくれる上に、日記帳には何も書かなかったので嬉しかった。
 その夜、先生が我が家を尋ねてきた。
 贈答用のタオルを片手に土下座せんばかりの母親を前に殴りすぎたことを丁寧に詫びた。現代の父母なら逆に教師に起訴状をたたきつけ刑事告訴も辞さないところだが、いかんせん教育のない両親はそのことが解らない。
 父親は他人に対して追従やおべっかの出来ない損な男なのだが、教師という存在にはやたら弱い。気にすることはない、と口で言えばいいものを僕を呼びつけて一発張り飛ばし「この野郎、先生に謝れ」とあべこべに怒鳴りつけた。
 僕はこの理不尽さに、怒り狂い翌日、なんと先生をホウキの絵でぶっ叩いて泣かせてしまったのである。

 こんなものは武勇伝ですらない。
 ただこの事件は余程インパクトがあったとみえ小学校6年生の時、偶然当時のクラスメートと再会した折り、「そういえば山ち、先生を泣かせたよね」と一番に云われた。今ではとても想像できないバイオレンスな時代であった。
暴行

暴行と傷害の差

 暴行と傷害の差が長らく解らなかった。だから勝手に流血に至るものは傷害、それ以前のものが暴行だと、そう思っていた。ところがそれが誤りであるのは法学部に入って2年目の時に解った(僕の大学の刑法総論という1年必修の講義は刑法ではない)。
 傷害と暴行の差は有形力の行使が傷害罪の要件に当たるか否かであり傷害罪の要件とは通説・判例ともに「生理的機能の障害」かそれに加えて「身体の外貌の著しい変化」である。ま、簡単に云って有形力によって健康を不良にするものは傷害と考えればよい(と思う)。
 暴行罪とはそれ以前の状態、傷害罪は暴行罪に内包されているわけだ。
 無形的・心理的を除く一切の攻撃によって与えられた異常な作用を指し、他にも直接体に触れなくとも日本刀を振り回したり、拳の寸止めや石を投げたりする行為も暴行になる。
 いやあ、週に1回90分、1年間続ければこれだけの偉そうなことが抜かせるようになるという模範のような話だ。その割に成績は悪かったけど。
 恥をさらすようではあるが、このHP、はじめは今現在「傷害」の項にある文章を「暴行」の欄に入れていた。何故かというと教師の体罰によって流血に至ったのはただの一回で、あとは顔を腫らす程度だったからだ。僕はこれを長らく「暴行」だと思っており、新聞でも時々出てくる「傷害」だとは夢にも思っていなかったのだろう。
 もちろん、正解を云うとこの行為は傷害罪である。「怪我をさせるためではなく、教育のためだ」とはいっても自分の意志でぶっ飛ばしたことには代わりがないんだから、警察に行って被害届を出せば受理してくれるだろう。
 その上で学校教育法第11条に基づいて教育委員会に訴えるなり、国家賠償法第1条違反で損害賠償するなりすりゃあよかった。ま、後者は無理でも前者はなんとかなったかなあと思う。
 今回はまったくオチがないが、一つ利口になったと思ってご寛恕あれ。
強盗

白のたまごっちに込められた想い

 僕も刑法学を学ぶまで知らなかったのだが、強盗罪と恐喝罪というのは紙一重なのだそうな。両者とも暴行・脅迫をダシに他人の財物を奪い取ることなのだが、それが相手の反抗を抑圧するか否かがボーダーラインなのだ。
 その詳細はここで書くには難しすぎるし、その能力もないので、どうか本屋か図書館で専門書を手に入れて下さい。
 つまりカツアゲのつもりでも、うっかり刃物を出しちゃったりすると強盗に問われることもあるんで注意ですね。またひったくりは窃盗ですが、バイクで自転車の前カゴからひったくったりすると強盗罪になり得るんですね。
 ちなみに強盗罪は5年以上の有期懲役、つまり普通に考えれば5年から15年ですね。恐喝や窃盗が10年以下に比べると、重い。強盗は銀行やコンビニとかを襲わなければならないと思っている君、甘いぞ。これを知らずに恐喝のつもりで強盗やっちゃった奴が何人といることか。更に云うと恐喝と傷害なら併合罪ですが、強盗と傷害なら強盗致傷で無期懲役が顔を出してきます。下限は7年。傷害のつもりで相手が死んでも、恐喝なら傷害致死との併合でどんな悪くても無期にはなりません。これに対し強盗の場合はついに死刑が顔を出してきます。
 さて長々と前置きを書き連ねてきましたが、ここで僕が思いを馳せるのは、あの「たまごっち」大ブームの時にレアと称される白のたまごっちをカノジョに贈らんが為に持っていた通行人をナイフで刺しちゃった奴のこと。
 立派な強盗致傷ですね。
 まあ実刑、それも5年は免れないでしょう。どっかで万引きすれば良かったのにね(店には気の毒だが、刺される方もたまったものではない)。後の事情はみなさん御承知。たまごっちブームは退潮の如くすうっとひいて、バンダイは億単位の負債と在庫の山を抱えました。
 僕はブーム後、電気街の片隅で1つ200円で売っているのを買いました。あの犯人、今頃獄中で何を考えているのでしょうか?
強姦

助かったのは男か女か

 小学校六年生の夏の日、1時間目がはじまっても先生は来なかった。
 代わってきたのは隣のクラスの先生で、彼女は「先生は遅くなるから静かに自習していなさいね」と云った。クラスは早速馬鹿騒ぎの喧噪に包まれ、僕は塾の問題集を開いた。この頃、僕は分不相応のハイレベルクラスに入れられ、四苦八苦の生活を送っていたのだ。
 さて、担任は二時間目に二人の女子を連れて戻ってきた。二人ともちょっと家がアレな感じの乱れた人で、休み時間は常に「かっこいい先輩」(ま、当然ワルな中学生である)の話をしていた。公立学校には必ずいるのである。
 さて、担任は特にクラスの児童には何も云わなかった。いつもなら見せしめにこっぴどく叱るのに、これは妙だと思った。
 何事もなかったように先生は「朝の会」(中高で云うところのHRである)の開催を宣言し、今日の予定や注意事項を話し出した。クラスメートはみんないぶかしんだが、まさか先生に何があったと訊くわけにはいかない。
 その謎が解けたのは「一分間スピーチ」のときであった。
 これは「朝の会」の終盤、日直が一分間好きなことを話すのである。そして奇しくも当日の日直は先生に捕まっていた彼女だった。
 いきなりイントロから彼女は核心を切り出した。

「わたしは学校をサボってテレクラに電話しました」

 クラスは静まり返った。慌てて担任が彼女に黙るように云った。彼女はその命に従ってそれ以上云わなかった。担任は朝の会の終了を告げるとそのまま一時間目の授業を始めた。
 僕は彼女と特に仲が良かったわけではないので、それ以上のことは知らない。ただ、学校をサボったのはばれても、テレクラに電話をかけたことが何故ばれたのだろう。おそらく男と待ち合わせて、通報されちゃったんだろうな。でも、もし男がロリコンだったら?
 13歳未満の女子との性交は、同意があろうと強姦罪が成立する。
恐喝

犯罪捜査を覗き見て

 僕は忘れもしない1998年2月26日に恐喝の被害にあった。
 敵は舐めたもので、近隣の生徒を震え上がらせる不良高校の制服を着てた。なんとか逃げきると、交番に事件を伝えた。警官達は一通りの話を聞いてすぐパトカーの出動を要請した。なんでも鍵は「見知った顔か否か」というところらしい。当然僕はそんな奴知らない。
 斯くして僕は犯人狩りの為にパトカーに同乗することになった。
 ところがやることといえば、大通りを一通り回るだけ。ただ警察も馬鹿ではないので近隣のパトロール要員に命令を飛ばして、警戒をさせた。
 無線が「コンビニ**にマル被らしき少年集団発見、被害少年との面通しをお願いします」という声が入ってくる。ところがいってみると、そこで震えているのは我が校の生徒だったりする。
 呆れたことに警察は近隣学校の制服を知らないのだ。その後も母校の生徒を捕まえて「あの目つきの悪い奴かい?」といったりする。
 まあみつからないね。
 1時間探索して、警察が云うには「またきっと現れるから、そしたらすぐに知らせて欲しい」だと、御丁寧にもその巡査部長は「警察はちゃんとやったと両親にいっておいてね」とPRに余念がない。
 まだ警察の不祥事が騒がれない事件のことであった。

 この経験で僕が知ったのは

* 知人を襲うのは馬鹿
* 警察は制服や学校のことに関して全く無知
*コンビニなどに潜伏するのは愚の骨頂
* 車やバイクでは見回るが、徒歩では絶対に動かない

 こういうところ。
 ちなみにこの話には後日談があって、翌日、僕は先生に呼び出された。恐喝団は翌日に僕の時より5人も多い8人がかりで重武装の上、後輩を襲撃したというのだ。学校が警察に強く要請したらしいが、犯人は結局捕まっていない。
遺棄

幻想かも知れない

 遺棄、とは刑法の217条にあり老年・幼年・身体障害・疾病のために扶助を必要とするものを遺棄した場合に罪となる。一年以下の懲役。ちなみに最近続出のパチンコ中に子供を車内において熱中死させる親は保護責任者遺棄致死罪という218条に引っかかり、五年以下となる。
 さてさて、僕があの事件を起こして十年以上たった。たとえあれが無期懲役に該当する罪だとしてももう公訴時効は越えている。あの話をしよう。
 僕の近所にKという男の子がいた。何故か彼は僕になついてくれてよく一緒に遊んでいた。4つ下の子である。家ははっきり云って貧しかったが彼自身は孝行息子の鏡のような元気な奴だった。
 彼とはよくキャッチボールをしたり、ゲームをやったりしていたが、ある日「相撲を取りたい」といってきた。その当時の僕らのルールでは畳一枚が土俵でそこから出たら負けという押し合いみたいなものだった。当然だが舞台は常に室内だった。彼の家で、彼の両親はいなかった。いつもいなかったような気がする。
 そして相撲は常に僕の力勝ちだった。年齢から云って当然なのだが、元気さが取り柄の彼のこと、何度でもぶつかってくる。単調さを感じた僕は一度父から教わった。足払いをかけてやった。
 これが見事に決まってしまったのだ。
 Kは後頭部を見事に打つと、白目をむいて泡を吹いた。
 読者よ、これをヤマダ一流の誇張された法螺話だと思ってはいけない。人間、本当にカニのように泡を吹くことがあるのだ。僕は最初彼がふざけているのだと思い、軽く蹴ったりしていたのだが、いよいよ反応がないことに驚いた。
 当然「殺してしまった」と考える。そして僕は何をしたか。
 自宅へ逃げ帰ったのである。そして自室に帰ってひたすら怯え続けた。
 僕は待った。彼の死を伝える報を、警察からの電話を、そしてサイレンの音を。ところがいつまで経ってもそれは来なかった。いつも通りに食事に呼ばれ、家族で夕食を取り、床についた。
 翌日、怯えながら学校に行った。昨日のことが夢のようだった。
 授業を受けながら突然教室に警官が入ってくる妄想に悩まされた。
 給食を終え昼休みに彼の姿を見たとき僕は心底驚愕した。まったく信じられなかった。足はちゃんとあった。白目をむいても、泡を吹いてもいずに、元気にサッカーボールを蹴っていた。
 彼とはその後、一緒に遊ぶことはなくなった。誘われたが、怖かったのだ。彼の一家は数年後、引っ越していった。近所に住んでいる人達は彼の一家に挨拶したようだが、僕はそれさえも行かなかった。

 以上が僕と彼の話である。この恐怖を知っているからおそらく僕は人を殺すことはないと思う。もうあれから十年が経過した。当然彼のその後は知らない。もう法的には何の問責もない事件ではあるが、道義的な責任は消えゆくこともなくいつまでも心に留まっている。
放火

放火魔は三輪車に乗った

 さて、放火である。
 読者諸君はここで僕がどんなことを書くのだと想像するのだろうか?
 僕はここで僕のよく知る放火魔のことを書こうと思う。彼はこの罪科により保護者共々警察に呼び出された。なんということか、僕のクラスメートに放火魔がいたのである。とはいっても小学校のことだが。
 放火と強姦はキ印の二大犯罪と云うが、この犯人も頭のねじが相当ゆるんでいる男だった。低学年の級友の顔はあらかた忘れてしまったが、こいつのアホ面は強烈に印象に残っている。男のくせにおかっぱ頭で、どうしてと思うほどのエロ目、鼻水はいつも垂れており、口元はゆるんでいる。大抵想像のつく顔で特殊学級送りになるほどではなかったが、訳の分からないことをよく喚いていた。
 その彼が空き地で火遊びをして草むらをあらかた焼き、消防署出動の大騒ぎを起こしたのは小学校二年生の時だった。僕はその噂を本人から聞き、ヨタ話だと思っていたのだが担任からの発表で驚いた。何人かの友人宅には警察から電話が入り、空き地は当日封鎖されたそうだ。
 その日も彼は学校にはちゃんと来ており、反省するどころか嬉々として自慢げに燃えたところを話していた。強盗と強姦と放火は刑務所で手口を自慢するらしいが、こんなものだろう。
 僕の担任は体罰主義者で、僕なんぞも些細な理由で何度も殴られた。一度、血を流して担任が贈答用のタオル片手に謝りに来たことがあるくらいだ。その先生のことだからこいつ半殺しじゃすまないぞ、と勝手に後の展開を心配していたが、何と先生は事実を云っただけで彼には何も云わなかった。
 あんまり想像外にキレたことをすると鬼教師も沈黙するのだ。
 そんなことを考えた。

 彼の噂は中学校に入って、一度だけ聞いた。
 二年生の時、ガラの悪い奴に「お前、**ってしってるか?」と訊かれた。転校のせいで、中学校にあの頃の知己など一人もいない。何故彼が知っているのか、僕はビックリして先を促した。
「いや、お前○×小出身だろ? そいつ俺と塾一緒でさあ。驚いたことに毎日三輪車で来ているんだぜ。どういう奴だよ? イカれてるぜえ」
 身長が伸び、声変わりも経た彼などどうしても想像できなかったが、三輪車に乗ったところはとても想像できた。その後、彼の話は全く聞かないが、また放火などしないことを強く祈る。
詐欺

ケーサツをハメた男

 これは我が親愛なる友人・Yの冒険談である。
 彼は僕が見てもやんなるぐらい、粗暴で喧嘩っ早くてそのくせ気が弱いというどうしようもない奴だ。いつも財布の中は空っぽで、身なりも構わずにボサボサの頭で街をうろついている。
 そんな彼がある寒い夜、牛丼屋に入った。
 いつもの「大盛りツユタク」をオーダーした後、彼はおもむろにポケットに手を突っ込み五百円玉を探し出した。彼は臆病なので、お金を確認してからでないと飯一つ食えないのだ。
 さて牛丼が来たが、金は出てこない。財布の中は空、あるはずの五百円玉がない。ポケットを全部二度あさったがどこからもでてこない。
 Yは顔面蒼白になり、慌てて店員を呼び事情を説明した。
「あー、身分証明書出してくれりゃあ、いいっすよお」
 バイト学生に学生証を差し出すと、Yは近くの銀行までダッシュした。幸いここらの地理には詳しい。
 ところが好事魔多し、折角息を切らせてきたのに、時は週末午後六時、Yの持ってる地方銀行のカードではこの街のどこの銀行でもおろせない。一瞬このままトンズラこくことも考えたが、学生証は敵の手元だ。食い逃げで逮捕退学など洒落にもならん。
 ところでここは法学生。Yはうろ覚えの断片知識で一人頷くと徒歩五分の道を三分でダッシュし、警察署(さっきもいったがここの地理には詳しいのだ)に出頭した。そして警官に云うに曰く。
 「定期落としちゃったんです。お金貸してくださーい」
 そう、定期をなくしてしまった場合、警察では最寄り駅から自宅までの普通電車の代金を貸してくれるのである。雑談をかけてくる暇そうな警官に相槌を打ちながらありもしない紛失届を書き、金を借りた(身分証明書がないので、身元保証に親に電話をかけられた)。
 そして再び走って牛丼屋へ。牛丼はなかった。
 僕、じゃなくて彼は金を払う、ところが店長らしき男が現れて受け取らない。それどころか、御苦労だったと一杯無料で奢って貰った。本当に気持ちのいい人達で僕はたびたびこの店を使っている。
 結局、彼の手には警察からせしめた少額貨幣が残った。このまま返すのも不自然だから、彼はその金でジュースを勢いよく飲み、翌朝確かに返却した。なお、五百円は彼の自宅のハンガーの下に落ちていた。ばら銭をポケットに入れる癖を止めたのはいうまでもない。
 最後に、このYは断じて僕のことではない。法と正義を愛する僕が、警察官をペテンにかけるなんて大それたことをするはずがなかろう。なんせ僕は粗暴で喧嘩っ早く見える反面、気が弱いんだから。
横領

自転車の恩返し

 物思うところがあって、少年事件の統計を調べてみたことがある。
 一番多いのは窃盗罪であり平成10年度の段階で12万件ある。そして2番目が横領罪が3万5千件もある。暴行傷害が足して1万、恐喝が6千である。
 なんでこんなに横領が多いかと思って調べると、放置自転車をかっぱらった連中がここに編入されるからだという。なるほど、みなさん一度くらいは自転車をパクられた経験があるだろうし、友人知人からそういう体験談を聞いた人もあるだろう。
 自転車というのはみなさん御存知の通り傘の柄で簡単に鍵などはずせるのだ。僕の友人に一人何故かよく鍵をなくす奴がいて、その度にどっからか傘を調達してはぶっ壊していた。そしてこれが簡単にあくんだ。
 自転車泥棒の罪悪感のなさは青少年を中心にとんでもないところまで来ており、殊にガキの間では犯罪の自覚すらないからね。よくよく注意しているとデパートの駐輪場や駅前の駐輪場で輪になってパクろうとしている少年少女の姿が散見される。
 最近では成人式の帰りに行ったデパートでそのテの集団を見た。
 まあ、目撃しても自分に関係のない限りは何も云わないのが世の常人の常という奴で、自転車泥棒に関する限り日本もグローバルスタンダード「盗まれた奴が悪い」という標語が適用されるんだろうな。確かに元々ついている鍵だけを頼みにするのは心細い。
 かといって電動自転車のような要塞級の防備をするのも馬鹿らしい。結局は日本人の善人性を信じるしかないんだよな。僕は過去二度自宅から自転車をやられたが、いずれも乗り捨てられた先で、善意の住人から通報を受けている。
 もし買い物帰り、自分の自転車をいじってる奴を見つけたら半殺しにするけどそんなことって滅多にないだろうな。かくて僕に出来るのは自宅付近に乗り捨てられた放置自転車を調べ、電話番号があれば持ち主に連絡することだけだ。
窃盗罪

悪党社会の秀才幹部候補生

 いわゆる学校教育の秀才と悪党の世界での頭の良さとは絶対的に違う。
 僕が小学校6年間の相棒だった彼は明らかに後者の才があった。前者は全く出来なかったが(僕はよく宿題の代行をやっては報酬を得ていた)、こと犯罪に関しては彼は抜け目なくやっていた。小学生の犯罪だから大したことはないが、やるときは絶対にばれなかったし唯一の友人兼秘書の僕にも相当の報酬をくれた。
 これは僕が唯一彼の犯罪に協力したときの話だった。
 当時、僕らはビックリマンシールの商売をしていた。天使のシールを学校から遠く離れた駄菓子屋で買い、それを売り払うといった簡単な商売だった。他にも斡旋や悪魔カードの大量交換などをしていた。僕も彼も貧乏で、殆どチョコは買えなかったから、なんとか各の職才を生かして人から貰っていた。
 ある日、彼は僕を近所のスーパーに誘った。本当はそこに行くと学区破りの重罪犯になり職員室に呼び出されるのだが、そんなことは鼻っから眼中にない。
 そのスーパーは食品がメインなのだが、衣料品や学用品も若干扱っており、クリーニング屋や軽食堂もある大きめのスーパーだった。
 彼はいきなり軽食堂(セルフサービスの店で自由に座れるのだ)の椅子にかけると、僕にこう云った。
「あのさ、悪いんだけど。オレ、この店に前払いでビックリマンチョコ20個買ってあるんだ。ちょっと持ってきてくんない?」
 明らかに今考えれば万引きの指示である。しかも自分は手を汚さない最低の入れ知恵だ。しかし僕は何とそれに従い全く疑うことなくチョコレート20個をレジの脇をすり抜けて彼の下へ持っていったのである。
 まったく僕は疑いもしなかったわけでその堂々とした態度は立派な物だっただろう。彼は満足そうに「ありがとう」というとシールだけ抜き取り、チョコは全部褒美として僕にくれた。まったくいい面の皮である。
 帰り道、彼は一冊の本を持っていた。来るときには持っていなかったものだ。「なんだい、それ?」と聞く僕に「ビックリマンシールアルバム、貰ったんだ」と彼は答えた。
 嘘だった、それがカウンターで売っているものだと僕は知っていた。
 そしてそこでやっと僕は彼に唆されて万引きをやらかしたことに気がついた。
 とはいっても彼はこれをネタに僕を揺することもなく、相変わらずどこから手に入れたのかシールをばらまいていた。彼とはその後もカードダスの取引や小学生の疑似通貨である牛メン(牛乳メンコの略でビン牛乳のキャップ)の密売(射幸心を煽るとやらでクラスでは禁止されていた)やエロ本の購入代行などの可愛い悪事に手を染めたが、相棒を「とんでもないワルだな、こいつ」と思ったのはこの時が最初である。
賭博罪

となりのヤクザ

 TV番組の変更期になると、やたらと各局は二時間程度の特番を組みたがる。その中でもどの局も必ずやるのが「列島警察24時」的な警察官密着取材番組である。警察官には好意的な感情を抱いている僕であるが、このテの番組はモザイクがやたら多く、イライラするのであまり見ていない。
 それでも、たまに見るとやはりいいことはあるらしい。
 高校生の頃、何気なくその手の番組を見ていたら殊もあろうに我が家の付近の店が出て来るではないか。徒歩にして約十分。小学校以来ずっと通学路として朝晩通い慣れた道路が映っている。
 初めはモザイクだらけのせいもあってよく似た街かと思ったが、画面の右上に「**県**市」とあったので肝炎下。これは僕の街だ。
 ビックリして見続けると、警察官たちは大挙して道路沿いのビルのに入って行く。ここの老朽化したビルの1階には靴屋が入っていて、ここで僕はいつも靴を買っていた。もちろんこの店はただテナントを借りていただけだろうが、それにしても何事だろう。
 その答えとも云うべきナレーションが入る。

    「暴力団事務所の秘密カジノに警察の一斉検挙作戦が始動!」

  だはあ、と僕はのけぞった。まさかあんなところに組事務所があるとは全くおもわなんだ。しかも秘密カジノ? いったいどこの国の話よ。TVではモロやっちゃんな組員のみなさんが、モザイク越しに「カメラひっこめろよ、このヤロー」などと喚いていた。
 警察のポスターで、よく「過激派は善良な市民を装って潜伏しています」とあるけど、これは当たっていると思う。あれだけ派手な連中が闊歩していたのを、僕は十年以上住んでいるのに気がつかなかったんだから。
公職選挙法
違反

もちろん、政治

 長く現職をつとめた市長が引退し数十年ぶりに市長選が始まった。
 出馬するのは四人いたが、本命は二人。一人は左派系の政党に所属していた元国会議員。もう一人は市議選でトップ当選して、現職の支持をとりつけた地元民だった。
 この選挙、後者の方は実は僕の友人の父親で比較的よく知っていた。選挙の年、もちろん僕は選挙権などなかったが、よく知る人物であり応援していた。同窓である息子は学力も運動力も僕に比べて遥かに良くできており、その人徳というのもちょっと余人には真似の出来ない、誰に聞いても好人物と評される敵のいない男だった。
 これは当然、彼を応援する他ない。
 元とはいえ国会議員に対せば圧倒的に不利だ。しかし彼の地盤は人口が多い割に市政から完全に見放されていた場所にあり、さらには現職の支持と無党派受けする若さと精悍な表情を武器にした。このため新聞が「まったく先の読めない情勢」と評するほどの攻防戦が始まった。
 そんな折り、母が不安げな顔をして友人宅から家に帰ってきた。
 母はパートに忙しいため、選挙事務所には入っていなかったが、勿論市議を応援している。
 その母の友人とは昔から栄えていた市街地に住んでおり、町の名士や金満家が多く住む街なのだが(つまりこの街の住人の支持が大きな鍵なのである)、そこに怪文書がばらまかれているという。
 B5版一枚にびっしりと詰まったワープロ文字に曰く「**(市議の実名)は私の妻に因縁をつけて強姦し、妻は一生子供の産めない体になり一家離散」云々という内容で(詳細は違うかも知れないが要するに妻をヤって、一家離散したということ)「市民のみなさんにお願いします。こんな男を市長にしてはいけません」という文言で締めくくられていた。
 嘘か誠かそれを調べる方法はないし、選挙期間にこういう手紙が出回るだけで目的は十分達せられる。そのせいか否か、彼は惜敗した。そして二度と選挙には出なくなった。この事件はまったく騒がれなかった。当然、誰の仕業かも解っていない。
 だから公職選挙法の欄にこれを描くことは迂闊であり慎まなければならない。
 僕はここに、特定個人の誰も犯人ではないことを明記しておく。

 息子の方、すなわち僕の旧友とは大学入試の前日、気晴らしに本屋に行ったときに偶然あった。僕は偏差値50程度の、彼は70以上の大学の赤本を見ていた。一組三大秀才のあまりにはっきりした末路だった。
 「どこを受けるんだい?」多少の決まり悪さとともに僕は訊いた。彼は「早稲田、慶応、上智、偏差値の高い私大はすべて受けるさ」と嫌味ない口調でさらりといった。
 「何学部だい?」僕の問いに、彼は小首を傾げ、そしてきっぱりと言った。
 「もちろん、政治」
児童福祉法
違反

お嬢様の暇つぶし

 昔、妙な女の子とつきあっていたことがある。
 彼女は名を聞けば3歳のガキでも知っている大企業の重役の娘で、大金持ちだった。そのせいかどうかお金には困ってないのだが、やることなすこと全て人とずれており、悪気はないのだろうが常に他人をあたふたさせていた。
 彼女とは一緒に彼女の仕入れたクスリを飲んでラリったり、弾けもしないくせに買った12万円のバイオリンを出鱈目に弾いたり、その他あまり世間に公言できないようなことを色々していた。これらの金額はすべて彼女払いである。しかも他に僕の自宅からの往復電車賃まで払ってくれた。
 そんな彼女がある日、電話をくれた。云うまでもないが彼女からである。
「あのさー、今日さー、バーでバイト始めたんだよね」
 はあ? と思った。僕らの学校はバイトそのものが禁止だし、大体高校生がそんなところで働いていいはずがない。児童福祉法違反だ。「で、なにしたんだよ?」気が気でないと僕は思う。
「別にい? 変なオヤジの隣でずっと喋ったり一緒にカラオケ歌ったりしただけ。時給三千円だし、チップに万券貰っちゃったあ」
「あ、そう」別に驚きはしなかった。わざとバレるキセルをやって十倍の料金払うような子である。
「で、たのしかった?」
「楽しかったよお。大佐も女の子だったらなあ、一緒に誘うのに」
 僕は呆れて電話を切った。
 彼女は全くお金には不自由していない。やろうと思えば何でも出来る。その彼女が暇を持て余してバーでオヤジの相手をしている。なんかすごい心の闇を感じた。家庭も全くというほどの放任家庭で娘の部屋に僕が上がり込んでも何も云わなかったし、彼女の兄もカノジョを連れていた。
 結局、彼女は数ヶ月後にそのバーをやめた。「何かされたのか?」と訊くと「別にい、飽きちゃったし。お金はあるから」と答えていた。
 その後も彼女と豪遊し、やがて自然消滅の形で別れた。
 彼女にとって僕もバーも暇つぶしだったんだろうけど、別に僕は怒る気も責める気もしない。彼女のお陰で一般人がまず味わえない体験をできたから。それと「ヒモ」ってのも案外悪くないな、とそう思ったりもしている。
著作権法
違反

DOG EAT DOGS

 こういうことを書くのは非常に抵抗があるのだが、まあ過去の話だし、昨年末買ったばかりの我がパソコンにはそのテのソフトは入っていないから、旧悪を暴露してもいいか。
 パソコンユーザーの高校生にとってソフト違法コピーなんて日常茶飯だろう。僕らの時代はそんなにメジャーでもなかったが、CD−Rなんぞが出来てからは実際無法地帯と云ってもよい。当然のことながら進学校というPCユーザーの多い我がクラスもその巣窟であった。
 僕は比較的貧しい出にも関わらず親の先見の明によって、中3の頃からPCを与えられていたから当然その輪の中に入っていた。
 ところがここからが問題である。
 クラスの連中は僕以外は全員当時隆盛を誇っていたNECのPC98であり、僕は富士通のFMデスクパワーを使っていた。とりあえずウインドウズという点では一致していたが、彼らはどういうわけか98専用の代物しか買わないのだ。これに対して僕はウインドウズしか買わない。
 ここまでくればお解りだろう。
 僕は買ったソフト買ったソフトすべてコピーさせられたが(別に強制されたわけではないが)、僕の方は何の利益も享受できなかったのだ。まったく最低である。ゲームがプレイできないのはいいとして、話題についていけないのはつらいものがあった。当時はさほど権力がなかったので尚更だ。
 この風潮は僕らのクラスが受験戦争に従軍するまで続き、98に陰りが見え始めた頃、終わった。
 損益対照表を書くまでもなく、僕が損をしているのは分明だ。「損をしているのはオマエじゃなくてソフトの制作者だろ?」といわれれば返す言葉もないし、実際その通りなのだがこのときの恨みはなかなか忘れ難いものがある。
 力を付けてから一度、こう脅したことがある。
「お前らが流通させてるエロゲー、名前付きで黒板に貼ってやろうか?」
 あの時の恐怖に震えた顔、小気味いいなあ。
銃刀法違反

エアポート危機一髪

 昔を振り返って「なんであんなに子供っぽいことをしたんだろう」と頭を抱えてしまうこと、実は僕はよくある。これから話す修学旅行での一幕は正しくその代表格だろう。
 高校時代、僕の属していたグループは今の感覚で云えばオタク系だった。別にアニメや同人にはまっていた奴など一人もいないが、ライフスタイルは確実にバンピーとは呼べない代物だったかんね。時々高校生を見たり、大学の連中を見てると歯がみしたくなってくる。
 と、いってもこれが「頭を抱える話」だというわけではない。
 こういう連中が修学旅行にやる違法事項は、夜這いでも飲酒喫煙でも地元狩りでもなく、ひたすらゲームである。それも当時はスーファミ。全くオタクの規範から一歩も出ていない。同窓の級友がビールを飲みながら呆れたような顔をしていたのを思い出す。これではクラスから軽蔑されるのも最もである。
 だがまあ偉そうなことを云ってはいけない。僕自身もガンシューティングの「リーサルエンフォーサーズ」をガンコン(銃の形の専用コントローラー)付きで持ってきたくらいだから。僕はプラスティックの青い銃をバックパックに下げて修学旅行に馳せ参じていたのだ。
 そして修学旅行が国内とはいえ飛行機で往復していたといえば何をかいわんやである。
 X線検査、これを空港の順番待ちを食らうまで全く念頭に入れていなかったのだ。云うまでもなくゲーム類の持ち込みは禁止されている。強制的に列に並ばされて僕は真っ青になった。X線で銃が出てきたら空港職員はビックリするだろう。プラスティックだと解っても、僕は教師に半殺しの目に遭い周囲からは侮蔑と嘲笑の的になるだろう。かと云ってもう逃げることは出来ない。
 絶望の気分で亡者の足取りと共に列を進んだ。
 僕の番、バックパックをコンベアに乗せた。
 そして祈るような気持ちで金属探知器のゲートを荷物と同時に通過した。

 警報が鳴った。

 女性の職員が僕の所へ来ると、映画のようにボディーチェックをした。級友は皆こっちを見ている。ああ、これで終わりだ、と思った。せっかくの旅行、出発の前に、僕の高校生活が終わるとは・・・
 職員は僕のポケットを叩くとこう云った。
 「鍵ですね、失礼しました」
 訳も分からず立ちつくしている僕にバックが押しつけられる。
 「順序よく先に進んで下さい」
 職員に注意を受けた。ゲートの脇にたっていた先生が「*番の待合室に行け」と指示を出した。助かったのだ。まさしく天に叫びたい気分だった。僕は名誉と、高校生たる地位を守った。

 飛行機に乗り、旅先のホテルに着く。既に1週間前に宅配便で発送したボストンバックがそこに届いていた。これは貨物として別便で送られ、また地元に戻すのだ。
 僕はガンコンを丁重にバッグに入れた。
覚醒剤
取締法違反

GET A DRUG

 情けない話だが小学生でさえ捕まる時世だというのに、僕は二十歳を超える今日に至るまで周囲にシャブ中で逮捕された奴というのがいない。いや、名誉なことと云えばそうだが、ネタがないのはつらい。ま、そのうち隣家の暴走族諸君のうちの誰かが捕まるのを祈ろう(酔ってんのか何だかしらんが、一晩中爆笑していたりする。アブネー)。
 さて、では外国人について書こう。
 裁判のコーナーと抵触するかも知れないが、裁判の傍聴に行くと多い事件が道交法違反、すなわち悪質事故と覚醒剤だね。個人的な感覚ではその覚醒剤の半分近くが外国、それも中東の人間の名前である。
 彼らに共通して云えるのは誰も傍聴に来ない、という点である。これは経験則としてまず間違いない。だから僕は見届人としていた方がいいのだろうけど、そんな度胸はない。別に外国人に殺されるとかそういうことにビビっているのではなくて、一際法廷が重くなっている気がするのだ。
 しかしそういうことを踏めてみると、繁華街の駅前に何するともなく立っている中東人(携帯が流行るまでは堂々と「テレカ10枚1000円だよー」と声をかけていたような彼ら)、やっぱ声かけると覚醒剤を売ってくれたりするのだろうか?
 モノの本(「隣のサイコさん」/宝島文庫)によると覚醒剤はヤクザに就職した先輩が高校に売りつけにくるとか、クラブの関係者が売ってくれるとか、飯場にやくざがくるとかいうが、いずれも僕には関係ない。
 まあ、僕は自分の精神力の弱さを熟知しているつもりなので、タバコも薬もやる気はないのだが、現実問題として簡単に手に入れられると思えば、なんとなく楽しい。
 ともかく、僕が解らないのは何故「覚醒」したがるかだ。中毒になれば例外だが、一般に覚醒剤を打つと大変活動的になる。飯場で使われるのはその為である。また活動的になる反面、食欲が落ちるのでダイエッターが求め始める。眠くならないのでアソビ人が欲しがる。
 僕に云わせればクスリをつかってまで働こうとは思わないね。かといって、
ダウナー系のヤクをやろうとは思わない。元々関心なことにはダルだから。え、眠剤? あいにく僕は布団にこもって5分で寝付ける自信があるからその必要もない。
毒劇物
取締法違反

シンナー中毒者のいた街

 毒劇物取締法違反で多いのは、やっぱシンナー中毒だろうねえ。
 麻薬や覚醒剤と異なりシンナーのような一般の用に使うのが不可欠な物は、ただ持っているだけでは罪とはならない。「吸引目的」で持っていたりすると罪になるのだ。
 僕が小学校に入学して一月もたたない暖かい頃、母親が青い顔をして家に帰ってきた。
 ちょうど僕の通学路に当たる市営住宅地域でシンナー中毒を見たというのだ。母が歩いていると、前から青白い顔をした男がビニール袋を口にあてながら、歩いていた。母は「あ、こりゃやばい」と思い目をあわさないようにそのまま通り過ぎた。
 と、突如後ろから大きな叫び声がする。獣の咆哮のような声をあげると、シンナー男は全速力で走り去っていった。母は心臓が止まるほどビックリし、遠ざかる男の背中を見た。と、突然男は振り返り、キョンシーのように手をだらりと前にのばし、ピョンピョン跳躍しながら母の方にやってきたのだ。
 彼女が一目散に逃げたのは云うまでもない。
 小学校に上がったばかりの息子の通学路に何しでかすかわからんシンナー男がいる。母は逆上し、警察へと走っていった。警察はそれに対し、パトロールを強化する、といった。
 僕はその後も普通にその道を歩いて通学し、結局何事もなかった。まあ母のあった事件のように公然とラリっていては捕まるのも時間の問題だろう。その後男がどうなったかは知らない。
 ただ問題はその場所である。
 この市営住宅地域は、差別的言辞を許して貰えれば異常な住民が多かった。朝から晩まで怒鳴っている家、糞尿垂れ流しのまま町中を徘徊している老女、暴力団、刃物で脅してサラ金から五十万円引き下ろさせて捕まったチンピラ。小二にしてクラスメートの前でディープキスをやらかすキス魔。
 みんなこの数戸の住宅から出た。
 付近の壁には猥画が書かれ、いつも誰かが喚いている街。僕はすっかりこの道は歩かなくなったが、今でも行けばとても我が家の近隣とは思えない猥雑な風景が僕を歓迎してくれるだろう。
軽犯罪法
違反

小話を一席

 今回は趣向を変えて小話の連続にしたい。六法をお持ちの方はどうか軽犯罪法のページを開きながら読んでいただきたい。さもなけば何の話をしているか解らないだろう。ちなみに数字は第一条の何項の話かというのを表している。

01.昔、家の近所に誰も住んでいない貸家があって、よくそこで秘密基地ごっこで遊んだものだ。入口の門は閉まっていても台所脇の勝手口は空いていたのだ。
02.ナイフを持ち歩くときは鉛筆を一本持ち歩くといい。これで正当な理由になるはずだ。ならなかったら製図やはどうやって生活すればいいのだ。
08.そんじゃキ印が刃物を振り回しているときに警察官が「体張って止めろ!」と叫んだらどうする? 僕は拘留でも科料でも受けて立ちますよ。
10.火薬をもてあそぶ! そういえば最近あのかんしゃく玉を見ないなあ。小袋に6つ入っていて、1袋30円。あの危険そうな毒毒しい色!
14.隣に住んでる自閉気味のガキ、何とかしてくれ。
15.「大佐」ってのは現在、日本には存在しない階級ですよ。だから罪にはならないんですね、「山田一等陸佐」とかいうとまずいけどね。
20.もも、しりを出して嫌悪の情! まあ時々「お前はやめとけ」って突っ込みたくなるカンチさんがいるけどね。思想の自由ってもんがあるからいたずらに差別しちゃマズいでしょう。また夏が来るなあ。
22.ノーコメント
23.風呂やトイレ(後者の趣味はないが)を覗いて科料なら一万円未満か。拘留は嫌だが、下手するとストリップより安いぜ(だから何だという事もないが)。
34.高校の頃、文化祭で「今世紀最後の文豪、山田大佐の最高傑作小説」等と称して文芸誌を売っ払ったが、これってやっぱ抵触するんだろうな。
淫行勧誘

愚問愚答−読者よゴメン

 淫行勧誘とは刑法182条にある規定で「営利の目的を持って淫行の常習のない女子を勧誘して淫行させること」とある。とすると繁華街でスカウトに精を出しているあの特徴的な服を着た人たちは何だろう? 具体的にはキャバクラ、風俗、AVのスカウトマンのことを指しているんですが。
 何、そんな人が跳梁跋扈している所など見たことがないと?
 そういうカントリーな人は一度、大都市の音に聞こえた繁華街に繰り出してみることだね。特に土曜の昼下がりとかさ、夜だとちょっとホストクラブや別個の勧誘が出て来ちゃうんだけど、昼間交差点で信号待ちの彼女らをしきりに口説いてるのはまずそれ系だね。
 驚いたことに交番の目の前でやっているところを見ると、ひっかからないんだろうね。
 この罪の要綱を三等分すると「営利の目的」「淫行の常習のない女子」「淫行させる」とある。ここで問題になるのは第二条件だろうな。第一は物の見事に当てはまるし、第三は教科書によると強姦等とは異なり最後まで行く必要はないから当てはまる。
 うーん、「淫行の常習のない」ねえ。
 と、ここまで考えてはっと思い立った。
 この罪、未遂は罰せられないんだ。と、いうことはスカウトするだけなら合法だから(ついていっても店との面接で蹴るかも知れない)、ああそうかそうか。
 読者よ、愚問愚答につきあってくれてごめん。
 では、ちょっと補足するか。
 田舎物だった僕が今更都会人気取りをしようとは思わないが、繁華街の駅前でぽけーっと待ち合わせなどしているときにあたりの人を見ていると、これが確実に田舎物だと解る。これ、都会生活長い人は十分でも駅前に立ってればわかります。
 素人が解るもんだから、玄人に分からぬ訳はなく、その子が並より上の素材ならば、ダークスーツのおにーさんが必ず寄ってきます。
 まあ、そんな話にうかうかついていく奴がどーなろうと知ったことではないですが、昨今もてはやされている「プチ家出」今日も某新聞が好意的な見方で報じていましたが(この左翼紙が)そんな理想的な物とも思えませんがね。
 ハハハ
未成年者
略取

暑い夏の恐怖体験

 未成年者略取というのは単に未成年者を連れ去ること。刑法としては未成年者略取及び誘拐、とあるがどう違うのかは手元の解説書にも書いていない。
 さて、もし僕の出た小学校の1992年9月版の学校の記録を読んでいただければ「小六の生徒が車の中に連れられそうになりました」云々の記事を読むことが出来ると思う。僕のことだ。
 小六の夏、生意気にも塾の夏期講習なんぞに通っていた僕はせっかくの休日も遊ばず塾と家とを往復していた。このときの勉強がその後中学高校そして大学の学習を支えたくらいだから、最近の小学教育は馬鹿に出来ない。
 ともあれその日も僕はその頃出た(と記憶している)アクエリアスのサマー缶を飲みながら、国道沿いの細い道を歩いていた。こういう暗い道は本当は歩きたくないのだが、激烈な日光の下では日陰が沢山ある方が嬉しかった。そういう道で事件は起きたのである。
 「おい、少年」
 どこからか声がした。人間一人で延々と歩いていると空想モードに突入する物だ。特にただまっすぐ進めばいい障害物も何もない道、僕は呼ばれてあたりを見回した。
 よく見ると隣に車が止まっていて、助手席の男が呼んでいた。
「おい、隣に乗れよ。一緒に遊ぼうぜ」
 誘拐だ、子供の頃から耳タコなまでにきかされたお馴染みのフレーズじゃないか。車に乗っているのは三人、みなみなゲーセンで見るような悪そうな人達だった。
 僕は走って逃げた。子供の足なので彼らにすれば捕まえられただろうが、別にそんなこともなかった。僕はそのまま家まで走り、担任の家に電話を入れた。警察には母親の強い命令でかけられなかった。
 しかし今になると彼らの目的は何だろう、と思う。
 このときの第一印象のせいで永らく「誘拐」だと思っていたのだが、なんかそうも思えない気がする。僕の服装は母お仕着せの悪趣味な服で、当時の写真はあまりのダサさに自己嫌悪を受けるほどである。卒業アルバムはそういう理由で封印している。そんな貧乏そうな子供をさらうかね?
 さらに恐喝にしたって確かに簡単に金を差し出すだろうが小学生をわざわざ車の中に連れ込んで出させるほどの物とも思えない。通行人だっていない道、降りて脅せばそれですむ。
 レイプ目的だとしても幼児ホモが三人乗りあわせるというのも妙だ。
 とにかく暑い夏、あの道を通ると、「ひょっとして彼らは本当に一緒に遊びたかったんじゃないか」と馬鹿な考えを思いつき、一人苦笑している。
名誉毀損

実話

 名誉毀損の構成要件は「公然と事実を摘示して、人の名誉を傷つける」ことである。
 もっとも「事実」とあるが、それが実際にあったことであるかどうかは問わない。例えば「**はレイプされた」と公に云えば、その正否を問わず罰せられる。また「公然」とは不特定または多数人が認識できる状態である。
 つまり、僕が文芸部末期に被害を受けた「精神異常者貼紙事件」はまさしく名誉毀損に当たる。
 高校も3年になり、部室からも足が遠のいた頃、ふとしたことで早朝の部室に入る用があった。発行されたと聞いた文芸誌を回収するためだ。と、久方の部室に貼紙が貼ってある。おや、何だろうと思って手に取ってみる。
 読み進めるに従い、手は震え鳥肌が立ってきたね。
 貼紙はFAXで送信されたものをコピーしたらしく、宛先と受信者番号が書かれている。発信元は文芸部の僕の同期部員で、僕と部長職を競った奴だ。宛先は当時の後輩の編集長。内容はといえばこれが驚天動地の出来事だった。簡単にいえば「山田はもはや被害妄想の激しい精神病患者であり、病院に入院するのも遠くない。彼の書く文章を掲載するのは文芸部のためにならず、以下、書き記す箇所をカットして製本して欲しい」というもの。
 まさか彼がそんなことを書くとはつゆ知らず、偽書かと思ったが末尾署名を見て確信した。書道の時間、彼が作った認印を押してあったのだ。こんなもんを本人以外が作れるはずはない。
 怒りは、あまりなかった。それが出てきたのはもっと後のことだ。あるのは失望と悲しみだ。その証拠に彼は一度も殴っていない。何故、彼がそんなことを云いだしたかも解らない。後に尋問すると「山田を守るため」とかくるしい言い訳をしていたが、いったい何から守るのか、とかどうして異常者呼ばわりが守ることになるのかは話してくれたことがない。
 後輩にも聞くと、彼は時々気に入らない人間を「被害妄想」呼ばわりをする癖があったらしい。どこから被害妄想なる発想が出てくるのか、解りそうな話である。
 ペンネーム、藤谷賢和。もう二度と使われない名前。僕を精神病呼ばわりし、多大な苦痛を与えた男。許されると思っているようだが、かつてこれ程の屈辱を受けたことはない。多分生涯恨みを持ち続けるだろう。
 先日、文化祭に母校を来訪した折り、未知の後輩が云った。
「先輩って被害妄想なんですかあ?」
 悪意のない冗談のように彼は言った。
「そうさ、いつCIAが襲ってくるか怖くて仕方がないんだ」
 そういって、僕らは大声で笑った。
激発物破裂

斜陽の学生運動に対し、親方日の丸は

 学生運動華やかな我が大学。
 とはいっても今は21世紀初頭。いくら学生運動の激しさで知られるとはいえヘルメット集団が我が物顔でキャンパスを歩いているわけではなく、普段は全く目につかない。そんな彼らの一年に一度の活躍の場が学園祭である。
 我が大学は学園祭のない大学としてW大やM大と並んで知られているが(え、知らない? 学園祭業界じゃ有名だぜ)実際はあるにはあって全く宣伝しないだけである。学園祭をやっておきながら受験生用の広報パンフに乗せないのは我が大だけで、そんなことをすれば第一志望の学生も来なくなるからだ。
 大学一年のとき友人と来たが、夏休みよりも人のいないキャンパスや本来かきいれどきのはずの学食の閉鎖に驚き、やることもなく開始三十分で帰ってしまった。キャンパスにあるのは「帝国主義撃滅」「天皇制打倒」「革マル、狭間私兵グループ根絶」「反戦講演会・朝鮮反革命集団を撃滅せよ」(どこが反戦じゃい)などなどなど。
 さて時間を戻して学祭四ヶ月前の七月某日、そんな学生運動に占拠されても一応自治会なるものがあり、生意気にも決起集会などをしている。メンバーは運動家を除くと実行委員という表皮に騙された政治問題に暗いパープー学生や学生運動からの要請により、強制的に動員をかけられた各サークルからの人身御供である。もちろん殆どノンポリであるが、これを「学校当局の横暴に決起した千名の学友たち」と書くあたり、傲慢なんだか馬鹿なんだか。
 その日、僕らのパーティーは六人くらいで集団下校していた。みんな土曜はその必修科目だけで帰りたいのだ。
 と、普段は校門前にいるはずの警備員が全員警官に変わっている。そうして彼らは僕ら学生を昼なのに赤い誘導灯でもっていつもとは違う道に誘導する。あたりにはパトカーが何台も止まり、呆れたことに機動隊のバスまで止まっている。
 僕らは大いに呆れたが、やがてとんでもないものを発見した。
 車体全体が銀色に光った不格好なトラックで、荷台は大きな球場の球が1つだけ。そこには黒字で「爆発物処理車」とあった。そして車の脇にはパイプの椅子が置いてあり、着ぐるみみたいな防護服を着込んだ機動隊員がこの暑い中真っ赤な顔をして待機していた。脇には警官が一人、手持ちぶさたに立ちつくしていた。

 これは完全な事実である。証人はいくらでもいる。
 はじめ、みんな「不発弾だろ?」と言い合っていた。ところが後に調べると不発弾は自衛隊の管轄なのだそうだ。確かに群衆の整理に機動隊は必要だったろうが、あんなにたくさんの機動隊が必要とも思えない。
 しかし学生運動だって警察があそこまで本気になって大学前をうろうろする程の出来事とは思えない。集まった学生は殆ど「土曜にこんなだせえ集会なんてかったりい、さっさと帰りてえよお」と思っているに違いないのだ。「街へデモをかけよう」なんて云おうものなら運動家が殺されてしまうだろう。
 付近に昔から住んでいる友人に聞いたが、この騒動は新聞には載らなかったそうである。また不発弾騒ぎも起きていないという。
 未だに解らない。
戸籍法違反

名前の〆切は14日まで!

 このコーナーでは「犯罪エッセイ」と称して様々な刑法犯や特別法犯に関連したエッセイを書いている。と、すれば今回の話は「法律違反」ではあるけど「犯罪」ではない。違反すると3万円の「過料」に処せられ、罰金同様強制的に持っていかれるのではあるがこれは刑法の規定する刑事罰ではないからだ。
 まあ、といってもこれは法律講義の時間ではないし、とにかく法律違反には違いないからまとめて論じることにしよう。
 さて子供が産まれると名前をつけなくっちゃいけない。これは出生届に書く必要があり、その出生届のリミットは出生より14日間である。これを過ぎると子供の人権は認められず学校にも通えなくなる、というのは嘘で両親が3万円の過料に処せられるのである。
 名付けることは出来なくても生まれる前に考えることは出来るから、妊娠を知ったときから数ヶ月、夫婦ともども名前を考えることになるのだが、人一人の運命を変えかねない話なのでそう易々と決まるものではないだろう。親戚等の思惑やマジナイなどの信用度も関係し、大変な騒ぎだろう。
 子供がいざ産まれても、決まらなかった場合は悲惨である。なにせ「暫定的にこの名前にする」という訳にはいかないのだ。改名という七面倒くさい手続をふまないかぎりその名前が通用してしまうのである。
 もし3万円払うのが嫌さに出生年月日を動かして書いたらどうなるか?
(病院で生まれた場合などは不可能だろうけど)刑法の公正証書原本不実記載罪となり、五年以下の懲役か50万円以下の罰金となる。ちなみにこっちの方は立派な犯罪です。
 備えあれば憂いなし。余計なお金を使わないためにも、ちゃんと夫婦で話し合って名前を考えておくべきだろうね。
 僕の本名はちゃんと由来がわかっているし、それなりに誇りを持っています。勿論出生届も間に合っています。祖母は「ノリオ」がいいと後に云ったらしいけど、「ヤマダノリオ」ではあんまりなので今の名前で満足しています。



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