チンパオ島

食堂へ  僕ら家族は僕の母校に行くため、「I松どおり」という旧街道を車で移動していた。ハンドルを握るのは母で、助手席に家人、僕は後部座席にいた。
 車は途中でエンコしてしまい、僕らは煙を出す車を見て、溜息をついた。母は「私達が直すから、あんたは早く学校に行きなさい」と云った。いつもなにか僕は高校の制服を着ていて、学校がある駅の方向へ歩いていった。
 ただ何事も考えずに暗い道を歩いていると、明るいコンビニの灯が見えた。
 「もう駅前のコンビニについたのか…」
 そう思って入ると、中は大学の学生食堂になった。
 いつもの如く滅茶苦茶に混んでいて僕は自分の座る席を探した。入口近く、丼物のコーナーの近くで文芸部の後輩4人に逢った。彼らは口々に煙草をくわえていた。
「よっ、大佐じゃ〜ん。講義でてる〜?」
 彼らは妙に軽快な、現実ではありえないタメ語だった。
 一人は丸坊主、もう一人は金髪だった。
「今度の講義ってさ、バンダナ必修でしょ? 買った〜?」
 そうだ、憲法の講義ではバンダナが必修だったと思った。慌てて僕は購買に走った。購買はダイエーの店内そっくりであり、僕は色とりどりのバンダナを前に、黄色とピンクとどちらにするか悩み続けた。
教育実習申込  新くて軽快なJAVACHATを楽しんでいたら、中高の時代に尊敬していた先生がいきなり入室してきた。おお、と喜んでいたらよく解らない名前の人たちが20人近く入室してきた。
 吃驚して掲示板に行くとそこも異常な書き込みが多発していた。
 僕は大いに慌てて、それでも冷静に教育実習の書類を提出すべく母校へと向かった。
 母校では生徒でごった返しており、僕は3号館から2階に上がると先生を探しに、教室を見て回った。授業はやっておらず生徒たちは三々五々、思い思いの所にいた。
 僕はある教室に入って、生徒から話を聞いた。「教育実習の申込に来たんだが…」返事を返すものは誰もいない。僕は頭に来て隣のクラスに入ったが、似たようなもの。通りがかりの教師に声をかけても梨の礫、僕は途方にくれたが、ある大事なことを思い出した。
 リュックを初めの教室に置き忘れた。僕は慌ててクラスに戻ったが、何分アディダスの量産リュック、教室にはたくさんのリュックが散乱していて解らなくなった。なんとか片っ端からあけていって(ハズレのリュックは紙やら綿やらが入っていた)自分のものを探した。
 下駄箱前で先生に会い、書類を提出すると母校を出る。
 場所はゲームセンター前に出て、牛丼とラーメン屋どちらに行くか迷い、ラーメン屋に行く。ラーメンとコーヒーを頼んで食べる。料金を2500円請求された。3000円持っていたのでなんとか払う。何故か隣に女の子がいて聞くとコーヒーを頼んだせいであることを知り、納得する。
 ラーメン屋から路地を国道に出て、右に曲がってデパートにあるアイスパーラーで食うか、左に曲がって帰るか考え、結局帰ることにする。いつのまにか車を運転しているのだが、やけに道路にパイロンがある。
 僕は調子に乗って、片っ端からパイロンを倒していった。
 と、いくつかのパイロンから石油が噴出す。
 やばいと思った瞬間爆発して「GAME OVER」の文字が見えた。
山犬レポート  僕は助役と電車に乗っていた。夕暮れ時の曇り空で、ローカルな田舎の風景が車窓から見えた。今日は修学旅行の2日目である。彼は修学旅行は全部で4日間で、2日目と3日目の間に1日平常授業の日があって、その日は学校に戻らなければならないといった。
 僕はその理屈がわからなかった。
 電車が止まり、僕はちょっと涼しい街に降り立った。それは地元のO駅であるということは解ったが、何故ここが修学旅行の行き先になるのかはわからなかった。
 助役は「じゃあ、平常授業の日に旅行記はアップするから大佐も書いておいて」というと夕暮れの坂を登っていった。僕はやることがないので坂を下っていった。
 と、変な男が猟銃を投げていった。
「山犬が出たから退治してくれ、お前にも責任がある」
 僕は銃を受け取ると男の後についていった。その家は昔僕の一家が住んでいた家で、僕は勝手知った家にあがりこむと風呂場に入りこみ、何も入っていない浴槽に身を隠すと戸板でしめた。
 そして山犬の遠吠えを聞きながらその姿におびえた。
 暗い浴槽の中で僕は山犬がやってくるのを待った。そして風呂場のドアが開く音がした瞬間、僕は起き上がって銃を撃ちまくった。もう恐怖と混乱で滅茶苦茶に撃った。シベリアンハスキーそっくりの犬は逃げていった。
 そうして弾丸がなくなると僕は再び風呂場に隠れた。
 「山犬が逃げた」という男の声が響いた。「裏庭にいるから止めを刺してくれ」男の声に僕は銃口を他所に向けて引き金を引いた。それで弾丸が込められたと、何故か僕は信じていた。
 僕は銃を持って裏庭に行った。犬は既に首がちぎれていた。
 血や血管や肉を引きずりながら、首だけが動いていた。近づいてみると首から小さな4つの足が出ており、懸命に藪に逃げようとしていた。
 僕は銃を向けると撃った。黄金イカの黄色いとびっこの様な散弾が犬にとどめを刺した。
 僕は「これでレポートが書ける」と喜んだ。
学食  学食がリニューアルオープンした。
 バイキング形式になったらしい。
 僕が行くとなんか食材を置いた高い棚が、まるで迷路のよう配置されており僕は中ですっかり迷っていた。
 そのメニューがまた値段が高く、あこぎな売り方で「そば300円」でその上の棚を見ると「天ぷら350円」ともあった。そばは冷えており、これで700円は詐欺だと思った。学食は何故か寒く、僕は暖かいものを探したが、スパゲティーもやはり麺とソースの値が分離しており、高かった(ナポリタンは安かった)。
 困っていると誰かが誰かに「出口のレジで金払うんだろ?」と云い、そして「ならレジに持ってかないで、ここで食べたらタダじゃん」などと云った。僕は何て賢い奴だと同調して、冷えた飯をと食った。ちっとも味がしなかった。
 学食を出ると外は猛吹雪だった。そして場所は小学校の校庭の様だった。風邪は強く、どんなに頑張って前に進んでも横断できそうになかった。
 フクロウが一匹嘲笑うように飛来して鳴いた。
 僕は腰の日本刀で一閃したが、フクロウは高く飛び、また笑う様に飛んだ。
 僕は何故ピストルを持ってこなかったか、後悔した。
 確かピストルは35ゴールドで売っているはずだったのだ。
深海デパート  僕は精薄授産施設の食堂に、家族4人で座っていた。
 周りにはたくさんの授産者たちが思い思いの格好で食事を取っていた。と、向かい側に座っていた母が「偉いわね、わざわざ2日間も実習を自主的に伸ばすなんて」と云った。
 出っ歯の男性授産者や30にして独身を嘆く指導員が、こっちを見て笑った。母は「でもたまには金持ち生活も悪くないわよ」と云った。授産者が一人出てきて「ママを大事にしなよ」と湿っぽく言った。指導員が「今日は帰りなさい」と云った。

 舞台はいきなり変わって、デパートの地階エスカレータに僕は母と乗っていた。そこはどう考えてもダイエーなのだが、僕はここをBという地元百貨店のはずだと思い込んでいた。
「デパートは階が上になるほど高級品を扱っていくんだ」
 僕は得意げに知識を披露した。階が変わりエスカレーターの最上の一歩を踏むたびに、蛍光灯のみの安っぽい売場から、アーバンな感じのシックな闇に変わっていった。そして7階を超えると、殆ど真っ暗になり最上階では何も見えなくなった。
 柱も障壁もない1フロアーそのままの売場。四方の窓から見えるのは旧市街の夜景だった。窓の下には水槽があり、蛍光グリーンの怪しい光が深海魚たちの姿をぼおっと浮かび上がらせた。そうだ、僕は深海に来たんだ。でもなんでエスカレーターを上がると深海につくのだろう。肌寒いところだった。
 母が屋上駐車場入口と書かれたドアに向かっていたので僕も追いかけた。光の中に消えた。
家族防衛軍  オープンカーを僕は運転していた。場所はアメリカの高級住宅地のような街並みで、1件の平屋ながら広い家の前に車を止めた。家は薄いオレンジとピンクの中間色で、家の壁面に目玉をモチーフにした歯車の絵があった。
 これは友人の家でしばらく貸してくれるのだ。
 僕は2人の子供を下ろすと、プールの脇の芝生を越えて、管理人である中国服を着た黒人の老人に挨拶をした。
 「話は聞いています、自由にお使い下さい」と彼はいった。
 「治安は大丈夫ですか?」と僕は不安になって聞いた。
 彼は「街から離れていますし、塀も高いです。それに近隣の住宅と共同して守ってますから」と云った。「なんとなれば家の各地に避難部屋を用意して銃も用意していますから」
 そういい終わらない瞬間に、銃声が響いた。
 僕は目の前の待避部屋に逃げてロックした。ギターがあり、これが銃だった。ギターのネックが隣りあわせで2本ついていた。これをコッキングしてギター裏の引き金から発射するのだ。
 家の中から銃声が響きまくっていた。
 誰かがドアをあけた。バンダナ、革ジャンの白人中年だった。
 彼は一回開けると驚いたようにドアを閉めた。撃ち損ねたと思ったらまた来た。そこで左目を一発撃った。目玉を吹っ飛ばして倒れた。
 僕は部屋から飛び出すと、ギャング達に向けて撃ちまくった。
 2人殺したが、ある時から弾丸が出なくなった。物凄い音は出るのだが弾丸は筒先から落ちるのだ。
 ギャングは子供を連れ去った。
 1人のレイバンドレッドヘアの黒人とソバージュ頭の若い女がいた。彼らに僕は銃を向けた。
「撃ってみろ、そんな銃じゃ弾丸は出ないよ」男が言った。
 撃ってみた、殺せなかった。男はギターの弾丸を見ると「236じゃ話にならん。こいつを使え」と「山」型の弾丸を入れた。彼は続けた。「これで大丈夫だ、俺やあの女を撃つな、俺たちは近隣の自警団のメンバーだからな」
 僕は老黒人の言葉を思い出して土下座した。
 男は唾を吐いた。
飛行人収容所  僕は空き地の上を低速で低空飛行していた。空の飛び方は漫画にある通りである。うつ伏せになって、グライダーの様に手を伸ばし胸襟に力を入れるのである。羽がなくても空を飛べる。ただ自転車と同じように静止はできない。微速でも前進しないといけない。
 小学校のグラウンドのような草原をぐるぐる回っていると、飛行機が落ちてきた。物凄い爆音と炎が目に焼きつき何故か僕は警察官に捕縛された。
 僕は高層ビルの69階に連れ込まれた。オフィスのような壁で仕切られた部屋で、白衣の女科学者と、武装した女兵士の2人だけがいた。僕は拘束はされていなかったが、体が自由には動かなかった。科学者も兵士も何も語らなかったがただただ嫌な予感だけがした。このままでは殺されると思った。
 僕は長い間色々煩悶した。長い間ということしか覚えていない。僕は許可を受けてトイレに入った。トイレは男女別でエレベーターの脇にあって、男子トイレの小便器が人が一人は入れるくらいの穴だったので、入ってみたが、体が臭くなっただけですぐに詰まってしまった。
 濡れた下半身のズボンを脱ぎ捨ててトランクス姿でトイレを出るとエレベーターが目の前だった。僕は思い切ってボタンを押すと、一瞬で扉が開いた。乗り込む。1を押した。後から女兵士が追って来た。閉める。
 エレベーターは高速でしばしば無重力になっていた。
 エレベーターは2機あり、向かい側ではマッチョな半裸の男が縄跳びをしていた。
 1階に着くとそこはパーティー会場で、沢山の人がいた。紙吹雪は舞い紅白幕はそこら中を満たし、色々な商品が路頭に並べられていた。僕はズボンを買う。司会者が僕の名を呼んだ。女兵士が擂鉢状の会場を探していた。
 僕は逃げた。この会場は東京駅頭にあった。走って走って走って神田秋葉原とこえてお茶の水まで走った。そして灰色の廃墟ビルの陰に隠れた。すぐ近くまで女兵士は迫っていた。
 僕は祈った。



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