27 OGMの「Ogg離れ」一部マニアにとっては待望のリリースだった Nero 6 だが、2003年7月26日のリリースから数日たって、問題が発見された。 操作を誤るとハードディスクの全消去さえ起きかねない。
注意が必要なのは、DVD のバックアップを行うツール
Nero Recode Beta ver.0.90 で、
Nero 6 Ultra Edition Package 2 (nve20022.exe)に含まれている。
DVD のバックアップを行うとき、コピー先または一時作業用フォルダとして指定したフォルダが空でないと、
Nero Recode は「コピー先にすでにファイルがあります。消去しますか」という意味のことを聞いてくる。
DVD関係のファイルをまとめてある大きなフォルダを指定したり、何かのはずみで例えばルートの C: を指定した場合、
ダイアログにYESと答えると、とんでもない事態が発生してしまう――そこにどんな重要なファイルがあろうがあるまいが、
サブフォルダも含めてぜんぶ消されてしまうのだ。
Ahead Software 社では、URGENT INFORMATION FOR USING NERO RECODE V.0.90 のなかで、 「できるだけ早く問題を解決するための更新を行う」としている。 なお、この製品はプロテクトされたDVDのバックアップは行えない。
潜在的な問題が見つかった Nero Recode
画像はDVDデータ読み込み中の様子
この問題はとっくに修正されています。必要なかたは最新版をどうぞ。
DVDバックアップについては、わざわざ有料のバックアップ用ツールを買わなくても、DeCSS以降の各種ツールがあることは周知だ。 DeCSSはLinux上でDVDを鑑賞する目的で開発され、開発者とされるノルウェーの若者が訴えられたものの、 裁判ではこのツールは合法と認められた。ツールの目的についても上記の通りであることが裁判でも認められているので、 DeCSSは、日本の著作権法・第120条の2にいう「技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置」にも相当しないだろう。 「専ら」とは言えないので……。
これらのツールは、現に広くネット社会一般で利用されており、公知である以上、 DVDは「技術的には」保護されていない。 暗号学の立場からみて、秘密鍵がこれだけおおっぴらに露見してしまったら、 もはやその情報が保護されているとは言えないことは明らかだ。
そもそも日本の著作権法でいう「技術的保護手段」は、 コピープロテクト信号を「音若しくは影像とともに記録媒体に記録」する方式を指し、 音や映像のデータそのものを暗号化するDVDの方式は、 法律にいう「保護手段」の定義にあてはまるのかどうかも疑問だ。 いわゆるコピーコントロールCDも、何もしなくても普通にコピーできてしまうケースも多いので、 同様に疑問がある。
[PrintScreen]を押せばどのコマでもキャプチャーできるのはWindowsの機能で、 無圧縮AVIでいいならWindowsはいわばコピープロテクト信号を無視する。 「用いられる機器(=Windows)が特定の反応をする信号」と言えるのはリージョンコードだけで、 日本の法律上、DVDはPCに対しては技術的保護されていると言いがたい。 ソフトDVDプレーヤー自身がキャプチャー機能を持っていることも多い。
ともあれ、実際問題、 DVDディスクは踏んだり落としたりして簡単に壊れてしまう心配があって、 高いお金を払って買ったデータをバックアップしたいと考えるのは自然なことだ。 さらに、DVD1枚に30分ものがたった1話や2話、果てはABパート別売といったマニアの心理につけこんだ非道な商法が広く行われているが、 仮にそれを認めるとしても、連続したシリーズである作品が10枚、20枚といった物理媒体に分割格納されていて、 ディスクを入れ替えないとAパートからBパートへシークもできない、といったありさまでは、 とても作品を快適に楽しむことなどできない。いわば「広辞苑」が5枚のCDに分かれていて「あ」から始まる言葉を調べるときと「け」から始まる言葉を調べるときとでは、いちいちディスクを入れ替えなければならないようなもので、利用者の利便性をいちじるしく損なっており、 その目的も理解できないわけではないのだが、消費者に与える不利益とのバランスのうえで適切とは思えない。 利用しやすくするためすべてをハードディスクにインストールして、いちいちディスクを入れ替えなくていいようにするのも、ごく自然な考えだろう。
なぜこのような非効率な事態になっているのか。 もとをただせば、ネットの発達で中間の流通経路の必要性がますますなくなってきているのだから、 値段を法外につりあげる「ダフ屋」には、申し訳ないけれどやはりご退場いただかねばならないと思う。 以前は情報の普及に役立った出版社などが、今は逆に情報の普及をある意味さまたげる存在になってしまっている。 もちろん良い意味の例外もたくさんあるのだが……。
高い値段で作品を買っても、それを実際に作ったアーティスト、創作者には価格の5~10%しか入らないことにも注意する。 1万円で作品を買ったとして、9000円は「ダフ屋」のふところに入り、実際のアーティストは1000円しかもらえない。 しかし、アーティストは、その1000円で実際に何とか生活して、作品を制作できている。 もし中間の無駄を省けたら、アーティストにとってもファンにとっても何よりだ。 音楽業界・出版業界などのビジネスのあり方が変わるべきときが来ているように思う。
今すぐRIAAやMPAAをぶっつぶせと言うわけではないのだが、これから5年、10年くらいをめどに、 もっと効率よく、実際の作品を制作するクリエーターとそれを愛するファンの双方にとって有意義な形で、 著作物の流通のあり方、したがって著作権制度が、変化していくべきであろう。 そして、版元は、著作権を主張したいなら、それに伴う義務も果たさなければならない。 すなわち、著作物をむやみやたらと絶版にせず、出来る限りつねに手に入る状態に保たねばならない。 すぐれた作品でありながら、大衆性に欠けるといった理由で絶版にし、 お金を払っても買えなくしてしまっておきながら、なおも「友達から借りてコピーさせてもらうのも違法」などと言い張るのは まったくばかげており、その作品にとっては、あまりにひどい仕打ちだ。 ひるがえって、インターネットのちからを活用して、すでに絶版になったような古今東西のあらゆる作品を安価に提供できるようなことにでもなれば、 出版社は新しいビジネスチャンスを得て、マイナーな作品の作者、消費者、そして中間でライブラリを構築する会社の、だれにとっても良い結果になるかもしれない。
技術の状況が変わってきているのだから、変化は避けられない。 変化には一過的な痛みも伴うが、それもやむを得ない。 現実にそぐわなくなった過去の制度にしがみつくために著作権法をますます訳の分からないものにし続けること ――つぎあてにつぎをあてるような、屋上屋を架すような、法律の専門家からすら支離滅裂と言われるような改訂につぐ改訂――、 それは根本的な解決にはつながらず、一般の理解を得られないばかりか、 しまいには、「著作権」によって第一に保護されるべきクリエーターからもそっぽを向かれてしまうだろう。 なにしろ、作家を守るのでなく、中間の流通業者の既得権を守るための改訂ばかりやっているのだから。
Mac OS X 用 の Mplayer の GUIフロントエンド MPlayerOSX の新しいバイナリ、 2 beta 5 がリリースされた。リリースノートによると、 最新の動画形式 Matroska (.MKV)(→ 日本語解説|実験場) のサポートを含む新しいバージョンの Mplayer になっている。 Mac上で本当にMKVが見れるものか、人柱なOS Xユーザは試してください。 サンプルファイル。 DivX + MP3 のようなベーシックなMKVは、案外うまく再生できるかもしれない。 Soft-SSA は本家 Linux でもまだサポート実装完了してないのでさすがに絶対無理、 と思うが、まあネタで試してみるのも一興……クレイジーなサンプル。 Vdub のバージョン情報に Watch anime, saiyu sen jiko yo! とあるのをみて、 最先端メディアの世界は各国のアホに支えられていることを思い知ってください……
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OggDS がオープンソースになった結果は、少々意外な動きを含んでいる。 OGMは、Oggと実質的に無関係な動画形式になろうとしているのだ。
OggMux_nicについてのメモのなかで、作者の Nic は、OggDS の再開発の状況についてふれ、 OggDS内部のフィルターの代わりに CoreVorbis を、そして、SubTitDS の代わりに VSFilter を使うという方向性をあらためて明示した。 いずれも Matroska の開発に関連して生まれたフィルターだが、Matroska 以外でも使える高レベルのモジュール性を持っている。 これら「新OGM動画」の要素が、xiph の CVS で開発されているのでない、ということに注意。 OggDS のソースは xiph で公開されたが、それを契機にするOGM動画の再開発は xiph を離れた感がある。
しかもAAC音声を真っ先にサポートした、ということは、 Ogg Vorbis を使わないOGM動画を普及させよう(AACのほうが音質が良いから)ということにもつながる。 OGM という入れ物も Xiph と無関係に生まれたものなら、そこに入れるなかみも Xiph と関係ない MPEG-4 のA/V となれば、 Ogg の立場はどうなるのか。
Xiph については、VP4までがフリー公開されVP5、VP6という時代のいま、VP3ベースの Ogg Theora にどれほどの期待ができるのか、 という疑問もある。いわゆる「オフィシャルなOgg動画」は、もしかすると、もうだめで、 「勝手に作った」OGM動画こそがずぶとく発展しつづけるのでないか。ただ、万一 Ogg Theora の仕上がりが Ogg Vorbis 級だと、 またまた分からなくなってくるのであって、もちろんそうなればそうなったで、そのほうが良いに決まっているのだが。
オープンソース化後の新OGM動画の仕様は、事実上 xiph 自身に決定権がなく、Nic と Koepi がSSA字幕MUXの実装方法などを決めることになりそうだ。
OggMux 0.9.5.1 の段階で明記された将来のMKVサポートの方向も、あらためて示されている。
つまり、将来的に、OggMux は、OGMでもMKVでも作れるフロントエンドになるようだ。
VDMはすでにそういう状態なのだから、驚くべきことではない。
OGMとMKVはコンテナとしては一種ライバル関係にあるが、つぶしあう関係ではなく、VSFilterひとつとっても分かるように、
非常に良い方向に相互作用を始めた。Nic は前向きだ。
Koepi のほうは、いろいろあって、Matroska と微妙な関係にあるのだが、他方において、xiph については
魚なんてだれも要らねえよ、臭いもんなあ
というすごい暴言も飛び出した(注: 魚臭い fishy という言葉には「不審な」「納得がいかない」といった意味もある)。2002年12月、OGMの創始者 Tobias が Xiph に参加することが決まったときの Koepi の第一声は「やった、これでOGMはOggだ」だったのだが、
今は「OGMはOGMだよ。Oggなんか関係ないね」というところか。
もちろん Tobias との関係が悪いわけではなく(それどころか、今回の Tobias のソース公開は、Koepi の希望を Tobias が聞き入れた形)、
Xiph の CEO だった Emmett と仲が悪いらしい。そして Emmett 自身も Xiph 内部で何がどうなったのやら、CEO を解任されてしまった。
開発者の内部事情などエンドユーザにとってはどうでもいいことなのだが、歴史覚え書きとしては、
OggMux の作者として、新しい動画形式を普及させた Koepi にとって、OGMが死んでゆくのは黙ってみているのに忍びなかったのだろう。
もうひとつ興味深い逸話がある。それは Koepi が同じ2003年7月に自分のサイトをリニューアルして、 Koepi's New Media Development Site という親しまれたサイト名を、 Koepi's Media Development Homepage に変更したことだ。 New という単語を削除したのだ。 OGM動画は、もはや「新しい」形式ではない。 これは動画作成者にとっては、分かりやすい実感だろう。 第一に、MKVの登場で、OGMは「もう古い」ということ(しかし、これからまた追い上げるわけだが)。 第二に、OGMはもはや「新奇な」好事家のためのフォーマットではなく、多少の欠点はあるものの、 一般に普及し定着した動画形式だ、ということ(良い意味で)。 同様に、MKVは今は物好きのためのわけの分からないフォーマットと見られているかもしれないが、 Linux、Windows に続いて Mac上でのサポートも始まって、「ほぼ軌道に乗った」と言えるだろう。
Ogg, OGM, MCF, MKV のフリーの4形式をいま改めて振り返るなら、 MKV は、いきなりスパートをかけてトップに躍り出た華々しい選手(しかし息切れするかも……)、 OGM は、それをみるや速度をあげて追随し距離を縮めつつある好敵手、 「大器晩成で最後に笑う」本命だったはずの Ogg は、なんというか、よく分からない内部事情でこけてしまったようだ(でもまだ分からない)。 「OGMの上位互換を保つ」と一度は公言した Monty だが、つまりは下位互換であるはずのOGMのほうが、独走を始めてしまったのだから……。 なお、Matroska = MCF + EBML で、MCFがEBMLを採用しなかったのは「再生のリソースが大きすぎるだろう」といった予想のためだった。 試してみたら Matroska は OGM とほぼ同じレベルのリソースでちゃんと再生できることが分かったので、 残念ながら MCF の出番はほとんどなくなったと言わざるを得ない。 周囲の反対を押し切って MCF を飛び出し独自プロジェクトを始めた ChristianHJW は「賭に勝った」のだ。 ChristianHJW が MCF を飛び出し独自プロジェクトを始めたとき、この分裂をみて、両方とも駄目になるのではと心配する向きも多かったが……。
つまり、現在の順位はMKV、OGM、Oggなのだが、歴史的順序は正反対で、 Ogg Vorbis という革命がまずあって、 それに乗っかって OGM が生まれ、 その OGM の問題点を解消すべく MCF/Matroska プロジェクトが始まったのである。 現在の華々しい結果だけをみて、歴史的意義を無視することはできない。 「数学者の価値は、残した汚い証明の数による」というのと同じだ。 あとから来ればこそ、「そんなことやらなくても、もっと簡単にこうできるよ」と高みの見物のようなことが言えるのだ。 先駆者の仕事というのは、たいてい汚いし、手探りだし、少し間違っている。 何もないところに道を造ろうとしているのだから。 そうした先駆的な仕事と、 その先駆的な仕事をベースに不適切な部分を改善したエレガントな仕事のどちらを尊いと考えるかは、 見る者の感性しだいだが、 「何もなければ『間違っている』と否定することすらできない」という意味をよく考えるべきであろう。 MCFの開発者が「OGMは問題が多い。これはこうしたほうが良いし、あれはああしたほうが良い」などと「偉そうに」ごたくを並べることができたのも、 そこにOGMがあったからだ。
SRT内蔵のOGMを作ってみたのは、 2002年10月だった(OGM動画(XviD + OGG + SRT)の作成と再生)。 ogm_sample.zip とか ogm_sample_v2.zip というのをごらんになったかたも、おられると思う。 前者は xvid+ogg+srt sample.ogm というなかみで、『東京ミュウミュウ』OPにオンオフ可能な英語字幕がついている。 後者は small sample (tmm op).ogm というなかみで、同じOPに英語字幕とローマ字のクローズド・キャプションの2トラックがついていて、 切り替え・オンオフが可能になっている。当時の実感は、「これはすごい」「最先端の技術だ」というものだった。 そしてOGMはリソースを食い過ぎるという非難もあったし、ソフトサブとハードサブの長所短所をめぐっては動画作成者のあいだで議論もあった。 正直、あれから1年もしないうちに、OGMがこんなに当たり前の形式になるとは思わなかった。
ただオンオフ可能なプレインテキストが出せるだけだが、当時としては画期的だったOGM
残念ながら日本語は文字化けしやすい(=2002年10月当時のサンプルより)
SSA内蔵のMKVを作れるようになったのは2003年7月ごろ。 本当にごく最近の動画技術だ。 最初はテストとして「シリアル・ママ」という映画の一部に英語と日本語の2字幕をつけてみた。 SRT内蔵OGMをいろいろ試して、その問題点や限界を感じていたときだったので、 SSAの表現力の大きさはめくるめくものだった。従来、SSAはハードサブか外部ファイルとしてしか使えなかったのだ。 また、SRT内蔵のOGMでは日本語の文字化け対策が大変だったが、 ユニコードベースのMKVでは、日本語字幕は造作ないことだった。
次に、あるアニメに英語、ロシア語、タタール語の3字幕をつけた。 Windows のコードページに依存する従来のOGMでは、コードページが定義されていないタタール語の字幕はほとんど利用不可能だった。 ユニコードベースであるMKVの汎用性の高さを実証するサンプルとなった。
第三の例として、『東京ミュウミュウ』EDにSSAをMUXした。 このテストはSSAのさまざまなエフェクトを試す目的があり、カラオケ字幕やフェイドイン/アウト、ポジショニングなどが検証された。 さらに、西欧語ロケールに属さないハンガリー語、ポーランド語、まったく違う文字システムのロシア語、右から左に書くヘブライ語の字幕がシームレスに切り替わることが実証された。 このサンプルは、ver.1 から始まって字幕の数が増減したり、作り方の設定が変わったり、いろいろあったが、 ver.6 beta が完成見本。 最初は 480x360 で作ったが、より現実的にCPU負荷を調べる目的もあって、途中から 640x480 にしている。 このサンプルについては、例えば中国語圏などで「DVDはもう要らなくなる」という反応すらあった。 日本はもとより中国・台湾・香港・韓国などの多バイト文字圏、またヨーロッパでも西欧語以外のロケールの地域の人は、 みな多かれ少なかれOGMの文字化けにうんざりしていた。 OGMではDVDの代わりにならない。 MKVのSSAサポートは(この時点では)鮮烈だった。 クリックひとつで日本語、フランス語、アラビア語……などの字幕が瞬時に切り替わるのだから。
この豪華絢爛とも言えるサンプルを見ると、 SRT内蔵OGM――最初「これはすごい」「最先端の技術だ」と思えた――が、いかにもみすぼらしく見えてしまう。 s32s.tripod.co.jpに両方の画像が並んでいるので、スクロールさせて見比べてほしい。
スタイリングばかりかカラオケ字幕など特殊効果も使えるSSA
現在ソフトサブはMKVでのみ可能、将来はOGMでもサポートされそう
だが、しかし、この例は、サンプルのためのサンプルの感が否めない。
これに対して、平行して作成してきたのは、 「霧のなかのハリネズミ」というクリップだった。ロシアの1980年代後半の、子ども向けテレビ番組に、 ロシア語音声のクローズドキャプションのほか、英語、日本語、フランス語などの字幕をつけたもので、 作成者たちは「逆ファンサブ」と呼んでおもしろがっていた。 短いクリップではあるが、最初から最後まで完訳されている。 このサンプルではSSAの表現力が非常に実用的な形で使われている。 難しい漢字にルビがついたり、日本では耳慣れない植物の名前が出てきたときに、画面の上に説明の注釈が入るのだ。 SSAならではである。 また、フラッシュバックのようにエコーがかかって遠くで響く声があるのだが、 字幕にアルファを指定して薄く見えるようにし、さらにフェイドアウトを指定したりして、 雰囲気が出ている。SSAならではだ。
このように、字幕作成者からみると、SSAをサポートしたMKVの恩恵は大きい。 日本語が文字化けしない。コードページを気にせず多言語が使える。エフェクトがかかる。フォントの大きさ、位置、色といったタイプセットができる。 リソースを気にしなければカラオケ字幕のようなダイナミック・エフェクトも使えるし、 またそうした特殊効果を使わなければ、OGMと同じ程度のCPUパワーで再生できる。 良いことずくめだ。
しかし、誤解しないでいただきたいのだが、MKVというのは別にSSA字幕を使うための形式ではないのだ。 そういう使い方もできる、というほんの一例にすぎない。 このサイト(妖精現実)では、たまたま字幕で遊ぶ趣味の者が集まっているので、 そういうたぐいの記事が多くなるが、だからといって「マトリョーシカって字幕の形式かなんかでしょ」などと勘違いしたことを言うと (何も分かっていないなどと)誤解を受けるから注意されたい。
MKVは、音声、映像、字幕のほとんどどんな組み合わせでも入れることができる、汎用コンテナでXMLのようにどんな使い方でもできる。 実際、バイナリレベルで、XMLライクなEBMLというデータ構造を採用しているので拡張性が高い。
XMLもそうかもしれないが、Matroskaも汎用性が高すぎて(何でもできすぎて)、逆にかえって何のためにあるのかピンと来ない、というのが、 一般の人の実感ではなかろうか。こうした記事を書いている自分自身、Matroskaのすべての可能性を探求しつくしていない。 特に、RealVideoとの組み合わせはまだまったく試していないが、従来のRMの評判と違い最近のRealはなかなかすごいらしい。 多くのマニアを引きつけている。
また、Matroskaは、すべての規格・仕様が明確で、完全にオープンソースである点でも、OGMとの大きな違いになっている。 OGMは仕様があいまいで、タグひとつ打つのも日本語だったらSJISなのかEUCなのかUTF-8なのかUTF-16なのか、 不明確だ。OGMの世界を作っていた OggDS と SubTitDS のうちで、 ソースが公開されたのは前者だけ。 当初の OGM は、依然としてクリアになっていない。 SRT で使えるタグにもドキュメントと実際のあいだにギャップがある。 VobSub の作者自身によって拡張され、ドキュメントが整備されているSSAと違い、やってみないと分からないようなところがある。 ただ、こうしたOGMの曖昧性も、時間とともに自然に解決されていくだろう。
あと数か月もすると、MKVも新OGMも、実験目的より実用目的のほうが高いものとなってくるだろう。 そして、どちらでもほぼ同じことができるようになるだろう。 その過程では、ふたつの可能性がある。
第一の可能性として、本当にどちらでも同じような、いわばHTML 4.01とXHTML 1.0のような、 どちらを使っても実用上あまり差がないようなものになるかもしれない。 その場合でも、切磋琢磨で互いを高め合ってきたわけだから、両方の形式の意義に変わりはない。 DivX と XviD のように、似たものがふたつあってもユーザには何の損もない。 むしろ選択肢が多いのは良いことだ。
第二の可能性として、新OGMがMKVのポテンシャルに迫ろうとした結果、Ogg起源の構造ではMKVには本質的に太刀打ちできない、 という結論に直面したり、あるいは逆に、(例えばストリーミングなどの分野で)OGMなら簡単なのにMKVではできない、といったことが出てくるかもしれない。 この場合、一長一短だったり、いわば勝ち負けがあるわけだが、そうだとしたら、 それぞれの得意分野でそれぞれの形式を使い分ければいいだけだから、ユーザからみて何の損もない。 かえって2つの形式が並立している意義がはっきりする。
いずれにしても、2形式が共存することの意義は、歴史的に振り返ってみても、 今後の実際を現実的に考えてみても、明白であって、 「どっちのほうが良いの?」という幼稚な質問に還元されるような問題ではないし、 以上のような経緯を考えれば、新OGMとMatroskaの両方を、共感的な立場から応援してゆくのが正しい態度だろう。 既知の問題点を検証することも開発のうえからは重要だろうし、 その回避法を考えることは実用の立場からは重要だ。
以上の前提を踏まえたうえで、あえて比較を行うなら、2003年8月1日現在では、次のように言える。
「日本語のソフト字幕を使いたい」という明確な目的意識がある場合は、MKVをおすすめできる。 SSAでもSRTでも良い。OGMでも日本語ソフトサブは可能だが、かなり大変だ。英語の字幕で特殊効果も要らないなら、OGMのほうが良い。 US ASCIIのSRTで足りる場合にMKVでSRT字幕を使うのは、ある意味オーバースペックで、無駄だ。 OGMのほうが枯れていて安全だ。
チャプターを打ちたいなら、OGMだ。MKVには、まだチャプターのサポートがない。 したがって、DVDのバックアップには、現時点では、まだOGMが良い。 ただし、OGMでチャプターを打つときは、仕様がまだあいまいなため、将来との互換性で安全策をとりたいなら、 日本語は使わないほうが良いかもしれない。
SSAを使いたいなら、MKVだ。OGMには、まだSSAのサポートがない。 ただし、MKVでもSSAを再生できる環境はまだ限られている(例えばLinuxではまだSSA字幕を見れない)。
それ以外の場合、つまり映像と音声ひとつずつのいちばんふつうの場合には、 どちらでもほとんど同じなので、そういうときには稼働実績の長いOGMのほうが安心感があるはずだ。 しかし逆に、そういうシンプルな場合なら、MKVでももうふつうに使ってもあまり心配ないとも言える。 たいした差はないのだが、しいていうと、音声がMPEG(MP3またはAAC)ならMKVのほうが良いかもしれない。 経験的に、音声がMP3のOGMはなぜかリソースを余分に使う。 また、音声がAACのOGMは生まれたてで安定していない。 音声が Ogg Vorbis なら、OGMを使うのが自然と思うかもしれないが、 こんにちのOGMは、もう Ogg とは別の存在なので、あまりこだわる必要もない。 音声が、Vorbis または AC3 のときは、どっちが良いか断定できるような決め手はない。 好みの問題だろう。
友達にも見せてあげたりするようなことを考えた場合、MKVなどという形式で作ると 「どうやって再生するの?」となっていちいち説明するのは面倒だから、OGMか、さらに退却してAVIにしておいたほうが良い。 自分用に作る場合で、 oggenc -q 0 などと無理をしてまでサイズをぎりぎりまで削りたいなら、 一般にMKVのほうがわずかにサイズを節約できる。 しかし、これもCue挿入のパターンとか、いろいろ複雑な要素がからむので、微妙な点もある。
気になるなら両方作ってみるのがいちばん良い。 VDMでDirect Stream Copyすれば、 ほんの1、2分の手間で同じものをOGMとMKVの両方で簡単に書き出せる。 OGMを作れる人なら、何の困難もないはずだ。 気に入ったほうを残して、他方を削除しておけば良い。
以上の比較は、あくまで2003年8月1日現在の状況分析であって、新OGM、MKVのいずれも急ピッチで開発が進んでいる。 状況は流動的だから、ここに書いてあることを鵜呑みにせず、あれこれ考え合わせて自分で決めてほしい。 実験精神があるかたは、前述のようにOGM版とMKV版の両方を作ってみるのが良いだろう。 (試すと本当にどっちでも同じような気がしてくるはずだ。) また「そんなめんどくさいこと、したくないんだよー」というかたは、 AVIにするか、あるいはキャプチャーしたMPEG-2か何かをそのまま保存しておけば良いだろう。 しょせん趣味の世界。本人が満足できれば、それでいいのだ。