判例 平成14年04月25日 第一小法廷判決 平成13年(受)第952号 著作権侵害行為差止請求事件
要旨:
 家庭用テレビゲーム機用ソフトウエアの中古品の公衆への譲渡が著作権侵害に当たらないとされた事例

内容:
 件名著作権侵害行為差止請求事件 (最高裁判所 平成13年(受)第952号 平成14年04月25日 第一小法廷判決 棄却)
 原審大阪高等裁判所 (平成11年(ネ)第3484号)
主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人らの負担とする。
         
理    由

 上告代理人松村信夫,同島村和行,同村本武志,同田中千博,同岩井泉,同近藤剛史,同和田宏徳,同岡本満喜子,同前田哲男,同小岩井雅行,同斎藤浩貴の上告受理申立て理由について
 1 原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人らは,第1審判決別紙ゲームソフト目録一ないし六記載の家庭用テレビゲーム機用ソフトウエア(以下「本件ゲームソフト一」などといい,併せて「本件各ゲームソフト」という。)の各著作権者である。
 本件ゲームソフト一は,兵器製造会社が製造したウィルスによって汚染された都市から,主人公がウィルス等と戦いながら脱出するまでのストーリーが展開されていくという内容のいわゆるロールプレイングゲームである。本件ゲームソフト二は,プレイヤーがロボットを操作し,島の危機を救っていくという内容のロールプレイングゲームである。本件ゲームソフト三は,刑事が敵を追い怪物等と戦いながら発火事件の真相を解明していくという内容のロールプレイングゲームである。本件ゲームソフト四は,様々な格闘技を身に付けた登場人物が戦うという内容の対戦格闘型ゲームである。本件ゲームソフト五は,プレイヤーがアマチュアレーサーとなり,レースドライビングを楽しむという内容のレーシングゲームである。本件ゲームソフト六は,ワールドカップ優勝を目指してサッカーを楽しむという内容のサッカーゲームである。
 本件各ゲームソフトは,それぞれ,CD−ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが,ディスプレイの画面上の指定された位置に順次表示されることによって,全体が動きのある連続的な影像となって表現されるものである。本件各ゲームソフトは,コンピュータ・グラフィックスを駆使するなどして,動画の影像もリアルな連続的な動きを持ったものであり,影像に連動された効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており,アニメーション映画の技法を使用して,創作的に表現されている。なお,本件各ゲームソフトを使用する場合に,ディスプレイの画面上に表示される動画影像及びスピーカーから発せられる音声は,ゲームの進行に伴ってプレイヤーが行うコントローラの操作内容によって変化し,各操作ごとに具体的内容が異なるが,プログラムによってあらかじめ設定される範囲のものである。
 (2) 被上告人らは,上告人らを発売元として適法に販売され,小売店を介して需要者に購入され,遊技に供された本件各ゲームソフトを購入者から買い入れて,中古品として販売している。
 (3) 著作権法の制定された昭和45年当時,劇場用映画については,映画館等で公に上映されることを前提に,映画製作会社や映画配給会社がオリジナル・ネガフィルムから一定数のプリント・フィルムを複製し,これを映画館経営者に貸し渡し,上映期間が終了した際に返却させ,あるいは,指定する別の映画館へ引き継がせることにより,映画館等の間を転々と移転するという,いわゆる配給制度による取引形態が,慣行として存在していた。そして,映画製作会社は,配給制度を通じた公の上映によって劇場用映画の製作に投下した資金を回収しており,個々のプリント・フィルムは,劇場公開により多額の収益を生み出すものとして,高い経済的価値を有する状態にあった。
 2 本件は,上告人らが,被上告人らに対し,本件各ゲームソフトの中古品の頒布の差止め及び廃棄を請求する事案である。
 3 原判決が適法に確定した事実関係の下においては,本件各ゲームソフトが,著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条1項7号所定の「映画の著作物」に当たるとした原審の判断は,正当として是認することができる。
 そして,本件各ゲームソフトが映画の著作物に該当する以上,その著作権者が同法26条1項所定の頒布権を専有するとした原審の判断も,正当として是認することができる。
 4 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特許に係る製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を再譲渡する行為等には及ばないことは,当審の判例とするところであり(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁),この理は,著作物又はその複製物を譲渡する場合にも,原則として妥当するというべきである。けだし,(ア) 著作権法による著作権者の権利の保護は,社会公共の利益との調和の下において実現されなければならないところ,(イ) 一般に,商品を譲渡する場合には,譲渡人は目的物について有する権利を譲受人に移転し,譲受人は譲渡人が有していた権利を取得するものであり,著作物又はその複製物が譲渡の目的物として市場での流通に置かれる場合にも,譲受人が当該目的物につき自由に再譲渡をすることができる権利を取得することを前提として,取引行為が行われるものであって,仮に,著作物又はその複製物について譲渡を行う都度著作権者の許諾を要するということになれば,市場における商品の自由な流通が阻害され,著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられて,かえって著作権者自身の利益を害することになるおそれがあり,ひいては「著作者等の権利の保護を図り,もつて文化の発展に寄与する」(著作権法1条)という著作権法の目的にも反することになり,(ウ) 他方,著作権者は,著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって譲渡代金を取得し,又はその利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから,その代償を確保する機会は保障されているものということができ,著作権者又は許諾を受けた者から譲渡された著作物又はその複製物について,著作権者等が二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。
 ところで,映画の著作物の頒布権に関する著作権法26条1項の規定は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(1948年6月26日にブラッセルで改正された規定)が映画の著作物について頒布権を設けていたことから,現行の著作権法制定時に,条約上の義務の履行として規定されたものである。映画の著作物にのみ頒布権が認められたのは,映画製作には多額の資本が投下されており,流通をコントロールして効率的に資本を回収する必要があったこと,著作権法制定当時,劇場用映画の取引については,前記のとおり専ら複製品の数次にわたる貸与を前提とするいわゆる配給制度の慣行が存在していたこと,著作権者の意図しない上映行為を規制することが困難であるため,その前段階である複製物の譲渡と貸与を含む頒布行為を規制する必要があったこと等の理由によるものである。このような事情から,同法26条の規定の解釈として,上記配給制度という取引実態のある映画の著作物又はその複製物については,これらの著作物等を公衆に提示することを目的として譲渡し,又は貸与する権利(同法26条,2条1項19号後段)が消尽しないと解されていたが,同法26条は,映画の著作物についての頒布権が消尽するか否かについて,何らの定めもしていない以上,消尽の有無は,専ら解釈にゆだねられていると解される。
 そして,本件のように公衆に提示することを目的としない家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物の譲渡については,市場における商品の円滑な流通を確保するなど,上記(ア),(イ)及び(ウ)の観点から,当該著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡されたことにより,その目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,当該複製物を公衆に再譲渡する行為には及ばないものと解すべきである。
 なお,平成11年法律第77号による改正後の著作権法26条の2第1項により,映画の著作物を除く著作物につき譲渡権が認められ,同条2項により,いったん適法に譲渡された場合における譲渡権の消尽が規定されたが,映画の著作物についての頒布権には譲渡する権利が含まれることから,譲渡権を規定する同条1項は映画の著作物に適用されないこととされ,同条2項において,上記のような消尽の原則を確認的に規定したものであって,同条1,2項の反対解釈に立って本件各ゲームソフトのような映画の著作物の複製物について譲渡する権利の消尽が否定されると解するのは相当でない。
 5 そうすると,本件各ゲームソフトが,上告人らを発売元として適法に販売され,小売店を介して需要者に購入されたことにより,当該ゲームソフトについては,頒布権のうち譲渡する権利はその目的を達成したものとして消尽し,もはや著作権の効力は,被上告人らにおいて当該ゲームソフトの中古品を公衆に再譲渡する行為には及ばない。所論の点に関する原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 なお,上告人らは,頒布の差止めを請求しているが,被上告人らは貸与を行っていると認めるに足りないから,貸与については,理由がないことが明らかである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子)
            

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