Yugoslavia

2000.09.17

コソボにおける米軍の蛮行

[CNN] ワシントン発 - コソボ(地図参照)で平和維持活動にあたっていた米軍が、市民を守るためにそこに行ったはずなのに、あべこべに、守りに行った相手に対して暴行を行っていた。米軍は、この件についての詳細な報告書を月曜日に公表する予定。

フランク・ロンギ軍曹(Staff Sgt. Frank Ronghi)の部隊が、市民に対する暴行を行っていた。ロンギ軍曹は、計画的殺人、同性に対する性的暴行、アルバニア系の子どもに対するわいせつ行為を自供し、すでに無期禁固の判決を受けている(罪を認めるのと引き替えに死刑判決をまぬがれた……アメリカに特有の司法取引制度)。ロンギ軍曹の部隊は「がいして虐待的」だったという(generally abusive……性的暴行を示唆することば)。

調査の結果、四人の士官を含む九名が処罰を受けた。ただし減給ないし懲戒免職の処分で、刑事罰ではない。この九名は、武器で市民を脅したり、暴行を加えたり、長期にわたり不法に監禁していた。

ユーゴスラビアの地図

解説

兵士による性的暴行や残虐行為は、あまりおもてざたにならないだけで、人間の歴史において、きわめて普遍的なことだったと思われる。とくに部族や町を征服した兵士たちが被征服民に対して行うことは、ヒトの伝統的文化と言って良いだろう。

コソボ紛争に関し「平和維持活動」におもむいた軍隊が平和維持どころか治安を乱していたとは変な話だが、アメリカはNATOによるユーゴスラビア爆撃を主導しており、もともと侵略国。侵略した軍隊が侵略先の弱小国で蛮行を行うのは、当たり前のこと。旧日本軍もさんざんやったことだ。大東亜共栄圏、アジアの平和を守るため、と称して。

処罰された九名の名が公表されないことに不満をいだく向きもあるかもしれないが、べつに公表したからとて良いことがあるわけでもなし、殺人や強姦などの犯罪事実が示されているわけでもないので、妥当だろう。まぁヒト文化としては、犯罪者の顔が見たいとか、さらには親の顔が見たいといったわけの分からない心理は、あるかもしれないが。軍事的紛争で秩序が失われている地域において、とりわけ上官が率先して計画的殺人などの蛮行を行っている場合において、指揮下の兵士は、むしろある意味で被害者として、異常な心理状態に追い込まれるであろう。異常な状況下で上官が人を虐待し「お前もやれ」と言ったとして、銃をつきつけたり殴ったりといった程度のことであとから減給や懲戒免職になってしまうのは、ちょっとアンラッキーともいえる。

対人地雷が敷設されたりしている無秩序な世界と「平和な民主国家アメリカ」本国との、ふたつの世界の接触、兵士の心理状態におけるある種の二重価値を冷徹に考えるべきだろう。テレビの前に座ってコーラを飲みながら「平和維持に行ってなんと悪いことを」とのんきにおこっているのは、浅はかな理解と思われる。今ごろ暴力をふるった兵士のほうも、それがトラウマになっているに違いないのだから。

このニュースで気になったのは(前からよく思っていることなのだが)男性が強姦罪の被害者に認定されない(別の観点からいえば女性は何をしても強姦罪の実行犯にならない)という奇妙な性差別意識が「guilty to sodomy」という妙な表現のねじれとなって現れていることだ。ルーアニア法やドイツ刑法じゃあるまいし、アメリカのニュースでこんな表現を見るとちょっと驚く。


2000.11.19

[yu]アメリカとユーゴが国交回復

ユーゴスラビアのことを書きます。一通りぜんぶ書くのは大変なので、ボスニア紛争は今回は省いて、コソボ中心でまとめてみます――。

旧ユーゴスラビア連邦は、いくつもの連邦構成共和国から成っていました(下の地図のスロベニアからマケドニアまで)。これらの共和国はアメリカの州のようなもので、独立国では、ありませんでした。が、それらが次々とユーゴ連邦から分離独立を始め、今ではユーゴスラビアは、ずいぶん小さくなってしまいました(地図の黄緑色の部分)。そのうちユーゴスラビア連邦自体が消滅し、「芯」のセルビアが「セルビア」という国名で残ることになるかもしれません(ユーゴスラビア連邦:セルビア=ソビエト連邦:ロシア)

ユーゴスラビアの地図

現在のユーゴスラビア連邦は、セルビア共和国とモンテネグロ共和国のふたつだけから成っていて、そのうちセルビア内のコソボでは激しい分離独立運動が続いています。ここの地域は、本来は国境の向こうのアルバニアの一部で、住民も九割がアルバニア人。自分たちはユーゴスラビア国民じゃない、ということなのか、ユーゴスラビアの国勢調査にも協力せず、ユーゴスラビア政府に税金も払わないそうです。なお、コソボの独立派のなかにも、強硬な武装闘争派と、穏健な非暴力主義者とがいるようで、その点、「アルバニア系住民」とひとくくりには、できません。

ボイボディナは、今のところニュースに出ないけれど、ハンガリー人が多いところです。

ダイジェスト版ユーゴ紛争

旧ユーゴスラビア連邦。「北」は天然資源が豊富、金持ち外国人観光客が集まる海岸もある。「南」は資源に乏しいが政治的中心(首都)としてあれこれ指図する。そこを襲った長引く不況。「北」は考えた:なまいきな「南」を養うせいで、おれたちゃ貧しい。おれたちが地元で稼いだカネを、なんだってセルビア中央政府にみつがにゃならん? 独立すれば、もっと豊かな生活が送れる! それを見てあせった「南」、今でもこんなに貧しいのに、収入源を失うなんて絶対ゆるせない。「独立だ、ダメだ」のいさかいがエスカレート。とりわけ、ユーゴを統一した強大な大統領チトーが死んでからは。

さてところで地球全体。「あのさぁ、冷戦って終わったんだよね〜するとNATOっていま何のために存在してんの〜?」「いや、その、仮想敵国ソ連がなくなっても、我々には地域住民のみなさまのために奉仕するという役目が……」「はぁ?なんのことぉ?NATOいらねえよ、予算のムダ」「おぉぉぉ!ほらほらほら、ユーゴで紛争が起きています。我々の出番、解決してみせましょう」と、外野から空爆を始めれば、解決するどころか、ますます泥沼に、はまった。

コメント

必要以上に肥大化したインドネシア国軍が自分たちの必要性を証明したいと思っていると、「ちょうど」そのとき、「民族紛争」が「激化」したり、公安調査庁が行政改革で廃止されそうになると、「ちょうど」そのとき、日本各地で「騒ぎ」が「起きる」、というような、よくある話。NATOが本質的に必要かどうかじゃなくて、ヨーロッパで不要論が高まってるという現実と、それへの対処ってこと。

ユーゴスラビアの地図

火薬庫の導火線

ユーゴ紛争の第一段階は、いちばん北のスロベニアの独立。これは、わずか十日間の戦闘でケリがついた。次にその下のクロアチアの独立戦争。少し長引いた。さらにその下のボスニアの奪いあい。ひどく長引いた(ここは旧ユーゴ時代の重要な産業地帯で、豊富な鉄鉱石や石炭資源、従ってまた火力発電所が集中しているそうです)。そして、ついに、そのまた下にあるセルビア本体に火がついた。「みんな独立するなら、おれたちだってしたいよ」と言い出したのは、バルカン戦争のどさくさで本国アルバニアから切り離され、気がつくとユーゴ領にされていたコソボ地域のアルバニア人。

まさに導火線を火が伝うように、上から下へ、きれいに紛争が移動。このまま行くと、バルカン戦争のたたりで、マケドニアのアルバニア人だって黙っていないし、ギリシャやトルコもあぶない。アルバニアが「アルバニア人保護」と言って介入してくるかもしれない。また、ギリシャとトルコというNATO加盟国同士が争えば、NATOの枠組みは崩れる。本当は、それでも良かった。NATO軍なんて、前時代の遺物で、もうなくても困らない。アルバニアや、ギリシャ、トルコあたりの国境線も、変更するほうが、かえって筋が通るかもしれない。

が、一方において、NATOの偉い人や、御用達の武器商人(のかせぎでうるおっているアメリカなど)は、NATOがなくなれば困る。また、アメリカは現在、NATOというシステムを通じて、ヨーロッパでも強い影響力を持っている。アメリカ主導でユーゴ侵略もできるが(というか実際やったが)、それも「NATOの決定、NATO軍の行動」という口実があるからこそ。NATO、ないし北大西洋条約がなくなれば、米軍がヨーロッパにしゃしゃりでる口実がなくなる、それは安保条約がなければ米軍が日本に駐留できないのと同じ。

できたばかりのEUという枠組みも関係したかもしれない。EUがどの程度「強い」ものになるかは加盟国の結束にかかっているが、EUができたころ、ちょうどユーゴスラビアでなんかもめている。経済制裁なんかで足並みをそろえて、「おれたちにさからうと怖いぞ」というEUの強さを内外に見せつける絶好のチャンスだったかもしれない。

本質は「民族紛争」じゃない

いずれにしても、本質は「民族紛争」なんかじゃない。「民族紛争」といえば、地域ローカルの問題みたいに聞こえ、アメリカやヨーロッパの利権がからんでいる、という点をごまかしやすいから、そういう言い方をするのかもしれない。旧ユーゴ連邦内においても、「国内の貧しい部分を切り捨てて、豊かな部分だけが独立する」といえば、弱者の切り捨てのようでていさいが悪いが、「これは民族の独立なのである」といえば正論っぽく聞こえる。

コソボに限ってはいかにも「民族問題」のようだが、本質はそうでないことは、ちょっと考えればすぐ分かる。いったい国境線を勝手に変えれば(例えば二次大戦後、北海道を無理やりロシアに編入して北海道民にロシア語を強制してれば)、あとから、なんかきっかけがあれば、とたんに不満が出る、それは「民族問題」じゃなくて、帝国主義の横暴というか列強が勝手に弱小国の国境線を引き直したのが原因でしょう。

さらにまた、内戦の集団的異常心理にのまれて殺人や残虐行為を行ってしまった一般の人々にしても、悪夢からさめたときには、「あれは長年の民族の対立だったのだ、民族のうらみなのだ、○○人は、こんな残虐行為をおかしたから、我々が○○人にああしたのは当然のむくい、神罰なのだ」とでも自分に言い聞かせなければ生きていけないだろう。つまり現地でもそういうロジックにすがり、外部でも「民族紛争」と信じようとしている。

異常な群集心理をあおったのは、(とくにコソボでは)NATOの空爆にほかならない。アルバニア人からみると、「我々の独立のためにアメリカはユーゴを空から叩いてくれている!独立は世界が認める正義だ!我々も戦おう、ユーゴ兵をみな殺しだ!」となるだろう。ユーゴ軍の立場からみても、似たことがいえる。すなわち――

コソボについてのたとえ

ある建物のなかに、A派とB派というのが立てこもり、対立してました。銀行に猟銃をもったグループがたてこもり人質をとっている、というイメージでもいいです(実際には人質の側も犯人グループのメンバーを虐殺してるわけですが……)。さて、建物をとりかこんだ警察隊。「おとなしく武器をすてて、全員でてきなさ〜い。君のお母さんは泣いているぞ。でてこないと攻撃するぞ」と、おどしてみせるくらいは、まぁ良いかもしれません。が、実際にその建物にむけて外から一斉射撃を開始すれば、どうなるか。建物のなかではパニックになって、A派とB派は、いっそう残虐なことを互いにしでかすでしょう。例えば、外からの無差別攻撃が始まったとき、銀行強盗の神経がさかなでされ、人質の扱いがいっそう乱暴になったとして、それは無理からぬこと。

さらに、「平和維持」のために建物に突入した勇敢なるアメリカ警察隊がですよ、犯人が人質にとっていた女の子を(救出するどころか)自分でレイプして殺しちゃうってのは、まぁいかにも人間的な行動でした……あの心理は、個人的な問題というより、そもそも、アメリカの介入が、おおもとにおいて、自分の利権のための侵略であったというところまでさかのぼらなければ、説明できない気がします。

ともかくNATOの空爆のせいで、かえって大幅に秩序が乱れ、大量の避難者(難民)が発生したのは、歴史的事実です。

アメリカ人は悪くない

もちろん、これは国家というシステムの問題で、ひとりひとりのアメリカ人が悪いわけじゃありません。NATO兵士にせよ、なんのうらみもない民間人を空から攻撃するなんて、気がすすまなかったでしょうし、平和維持軍にしても、ゲリラに殺されるかもしれないのを覚悟のうえで、軍人として、上官の命令に従って現地におもむいているわけでしょうから。

アメリカ合衆国にしても、もとをただせば人間的な感情で動いているわけで、要するに「世界のリーダーとして良い意味で指導力を発揮したい」という積極的な気持ち、そこに「世界のリーダーとしての威信や既得権を失いたくない」というおもわくが、からんでいるわけでしょう。

コソボが独立しようがしまいが、そのこと自体は、アメリカには、さして影響ないでしょうから。

日本の外務省サイト、「コソヴォ問題〜空爆の開始から終わりまで」をみると、「ユーゴ側は和平合意案を受け入れず」(だからNATOは空爆した)というような説明ですが、この合意案というのは、「さぁこの協定に署名しろ、しないと空爆するぞ」と、おどしてつきつけたもので、交渉の余地がなく、こういうのは「和平会談」とは言えないでしょう。少なくとも、まじめな和平努力とは言えません。これについては、いろいろな見方がありえます。ひとつは、和平なんてどうでもよく、単に「さぁ署名拒否したな、じゃあ空爆だ」という口実を作りたかった、という見方。ふたつめは、「NATOの軍事力を背景におどしても通用しなかった。NATOも口先だけで実際には空爆なんてできなかった」と思われたくない。つまり、すごんでみせた手前、あとには引けなくなってしまった、という見方。みっつめは、単に交渉のやり方が下手だった、という見方。

いずれにしても、現場で動くNATO軍としては、ユーゴスラビアと戦争する理由がいまいち分からず、空爆なんてしたくなかったようです。アフリカで「反政府ゲリラ」と戦ったポルトガル兵士なども、そういう気持ちだったようですが……。上層部のおもわくと、現場の感覚が一致しないのは、よくあることです。

余談

民族紛争と称することのなかでもとくに不自然に感じるのが「ムスリム人」武装勢力、という言い方。ほかの地域だと「イスラム武装勢力」「イスラム過激派」と一方的に悪者扱いされるのだが……。アメリカは紛争のさなか「ムスリム人」に武器を輸出した。内戦は武器商人のかきいれどき、イスラム過激派に武器弾薬を売って、もうけた。あとからアメリカは「平和のために」空から爆撃したが、下で撃ちあっている「平和を乱す」連中がにぎっている武器もアメリカ製だったりして。

なお、当たり前のことだが、イスラム教徒のすべてが過激なわけでは、ない。

もうひとつおもしろいエピソードがある。アメリカが言い出したNATO空爆は、国連安保理の決定でなく、勝手な行動だった。中国とロシアはNATO軍の独走を厳しく非難した。すると、NATO軍は、ユーゴにある中国大使館を「誤爆」した……本当に単なる事故だったのかもしれないけれど、気になる事件だ。

アメリカとユーゴスラビアの国交回復

で、本題のこのニュースなのですが、ひとことで言うなら、「ミロシェビッチ政権が崩壊した、大統領が変わった、政策が変わった」ということ。コシュトニツァとかいう新大統領は、どういう人かよく分からないけど、去年あんな空爆をやらかした連中ともう仲直りというのは、たぶん国内でも賛否両論でしょう。

アメリカからみても、たぶん計算外でしょう。独裁的なミロシェビッチのほうが、アメリカも交渉がやりやすかったのでは?似たもの同士だから。なにせアメリカはスターリンとだって仲が良かったわけだし。利権好き同士は同じ論理で「ごにょごにょだから、おまえは、そこを譲歩しろ」「よし分かった、ごにょごにょ」と話が通じる。自己保身のためなら他国に譲歩もする。それに対して、もっとユーゴスラビア国民のことを真剣に考えている相手なら、そんな単純な取引には応じてくれないだろう。相手がミロシェビッチ(世界的に悪者のイメージが定着している)であればこそ、アメリカのやりたい放題もある程度までゆるされていたが、相手がまじめに、話しあいましょうとやって来た今、もう空爆なんて誰が見てもできなくなった。

コソボからみても……ミロシェビッチへの憎悪で結束してたのが、攻撃相手が消えてしまい、独立運動が前よりやりにくくなったはず。アメリカが「ユーゴは悪い」と言ってくれていたのがアルバニア人にとっても支えだった部分があるのに、ユーゴスラビアとアメリカが結束したらコソボは混乱するでしょう。アメリカも大統領が変わる。そしたら、コソボの独立を支援しなくなる可能性がある……コソボの独立(アルバニアへの合併)を認めたら、それをきっかけに「アルバニア統一運動」が高まり、マケドニアなんかでも紛争が起きるかも。そうなるほうが本筋かもしれないけれど……。バルカン戦争や世界大戦で国境線を強引に引き直したツケが今ごろまわってきたようです。

少なくともアメリカの新大統領は、たぶんクリントン時代の教訓をいかして、もっと慎重な姿勢で交渉の席にのぞむようになるだろうし、それは良いことでしょう。ユーゴでもパレスティナでも、アメリカがとりつけた合意は、結局、和平につながらなかった。世界のリーダーとしての面目を保つことを優先しすぎて、交渉の実質がイマイチだったのかもしれません。面目をかなぐり捨てて、世界があっと驚くような柔軟な姿勢を見せれば、かえって我々のアメリカへの信頼も高まると思います。

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2000.11.20

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