7 : 18 MAD美味しんぼ

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MAD美味しんぼ 3題

2005年 9月16日
記事ID d50916

激突! 放射能料理対決

団社長: で、今度の「究極」対「至高」の対決は、放射能を使った料理、ということで進めたいのですが。

大原社主: しかし放射性物質なんて料理に使えるのかね。体に害があるんじゃないの。

団社長: 常識で考えればそうなのですが、実は「放射能を使った料理」を題材にしたいとおっしゃっているのは海原先生なんです。

山岡: 何、雄山が?

団社長: はい。「伝統を墨守するだけが料理ではない。 放射能と言えば悪、原子力と言えば危険、とばかの一つ覚えのように考える衆愚しゅうぐもうひらくという点でも意義深いことだ」と…

富井副部長: 対決を断れば我々は衆愚ということか…

山岡: いいですよ。そんな挑発に乗るわけではないけど、 向こうがそれでやりたいというなら、ミシンでもこうもり傘でも。

*

ゆう子: 放射能を使ったお料理なんて、本当にできるのかしら。

山岡: そうだなあ。プルトニウム。劣化ウラン。…煮ても焼いても食えないものばかりだ。

二木まり子: 山岡さん、栗田さん、こんにちは。いいものを持ってきてあげたわ。 バヌアツみやげ、ストロボの柄よ。

ゆう子: ストロボの柄…?

二木まり子: バヌアツの海には素晴らしい珊瑚さんごしょうがあるのよ。 新聞記者の方にはお気に召すと思って。 だってK・Yって「栗田ゆう子」のイニシャルでしょ? 写真家の彼氏によろしくね。

ゆう子: 何のことやらさっぱり…

荒川: それにしても二木さん、日に焼けたわねえ。

二木まり子: それはもう、今年は夏中、南太平洋の島でのんびり過ごしていたから。 ちょっと焼き過ぎちゃって体中、痛いわ。お金がありすぎて、つい海外で優雅なバカンスを過ごすのも考え物ね。おほほ。

山岡: そうか、その手があったか! 日焼けだよ、日焼け。

ゆう子: どうしたの山岡さん。

山岡: 今度の「至高」との対決の鍵となるのは、日焼けだったんだ。

*

三河編集長: 今回のテーマは「放射能料理」です。 それでは「究極」の側からお願いします。

京極: はて。ただのアジの開きの焼いたのにしか見えへんけど…

唐山陶人: 放射能で突然変異した魚なのかな。あんまり食べたくないなあ。

山岡: 大丈夫。ほら、ガイガーカウンターを近づけても、何ともないでしょ。

京極: ほな一口…

唐山陶人: こ、これは…!

京極: ただのアジの開きどころやない。この豊穣さ。

唐山陶人: 魚のうまさを繊細なメロディーにたとえるなら、 このアジのうまさはポリフォニー、 それも四声部、五声部の旋律がからみあった複雑な音楽だ。めちゃくちゃうまいぞ。

秀沢局長: 信じられない…。 いくつもの味の成分が絡まり合って複雑で重厚だが、それでいて軽妙で典雅。 まさに、音楽でたとえるなら、 バッハのフーガの技法、パッヘルベルの三重カノン、ラベルのパバーヌを合わせたようなすごさ。 いったいどんな調理法を使ったんだ。

山岡: 電磁波は料理と深い関係にあります。 炭火で焼いた焼き肉がうまいのは遠赤外線の作用だし、 天日で干した干物のうまみは、紫外線によるタンパク質分解酵素の活性化、遊離アミノ酸の増加によると考えられる。 またこれは調理のあるべき姿とは言えないが、 電子レンジはマイクロ波を利用している。

山岡: しかし天日で干す場合、時間をかければかけるほど味は熟成するが、 同時に、強烈な陽射しのせいで蒸れたり腐ったりする危険も増す。 本来は時間をかけたいが、かけ過ぎることができない。 もっと短時間で、長時間天日で干したのと同様の効果を出すことができれば、このジレンマは解決する。 ガンマ線の照射がその答えです。このアジは開きにしたあと、天日で干す代わりに強力なガンマ線を照射したもの。 放射線の平和利用がいかに素晴らしいか示すため、あえて、それ以外には手を加えず、単純に焼いただけ。 一般の家庭で作るには、蛍光灯に付属しているグローランプを30万個ほど並べれば手軽に代用できます。

富井副部長: そうか、放射線は一瞬でも、長時間夏の直射日光を浴びた場合の日焼け以上のケロイドを生じさせる。 兵器に使えば物騒な話だが、このように料理に平和利用すると…。しかし、うまい。これはうまいですぞ。 ほっぺが落ちそうだ。

三河編集長: 「究極」の側の放射能利用調理法はなかなか好評のようです。 それでは次に「至高」の側の料理をお願いします。

唐山陶人: これは…刺身かな。

京極: タイの頬肉や。

唐山陶人: うわはぁ、何というこなれた味…!

山岡: !!!

海原雄山: さよう、マダイの頬肉。そのまま普通に調理しても絶品だが、 それを内部被ばくさせてあります。

京極: 被ばくした魚…!

海原雄山: ご心配なく。 被ばくさせたのは捕獲直後。 半減期は38分。 つまり今こうしてお出しする時点では、放射能は事実上ゼロです。 その代わり、半減期の短い同位体をいかに海水に組み込むかでは大変な苦労をしました。

唐山陶人: 海水に組み込む?

海原雄山: まず世界で最も汚染がないトンガの海水を採取しました。 次にこれを実験室内で徐々に加熱、凝固点の違いを利用して、塩化ナトリウムのみを分離する。 同時に塩素の放射性同位元素である塩素38を使って特殊な方法で合成した放射性の塩化ナトリウムを、分離した塩化ナトリウムと同量、加える。 この作業によって、トンガの海水が塩化ナトリウムの塩素部分のみ放射性に置き換わった放射性の海水となるわけです。 半減期が38分であるから調理は手際よく行わなければならない。 極上のマダイを生きたまま、常温に戻したこの放射性海水の中に放り込む。 ここからは「究極」側の担当者の説明とも一部重なるが、放射線は紫外線と同様の効果を及ぼし、腐敗なき熟成が行われる。 しかし単なる外部照射と違い、線源は海水そのものなので、タイの体内にも浸透し、隅々まで均等に効果が及ぶ。 しかも半減期が短いので翌日には放射能が抜け、安全に食べることができる。 その結果は…言葉で説明するより味わっていただくのが早いというもの。

唐山陶人: うむ、人類未到の領域を感じさせるわい。 「究極」側のアジの干物風も素晴らしかったが、それはアジの干物の延長線上を出ない。 日光の代わりに放射線を照射しただけ。 それに対して「至高」のタイは調理法そのものが新しい。

大原社主: ……。

小泉編集局長: ……。

三河編集長: えー、審査の結果を発表します。 「究極」の放射能料理は大変素晴らしいものでしたが、 海水の塩素をアイソトープに置き換え内部被ばくさせるという「至高」の技法と比較した場合、 単に放射線を浴びせただけの調理法は幼稚と言わざるを得ません。 料理そのものについても、 放射線を外部照射した「究極」の料理は、魚の表面と内部で熟成の度合いが異なるため、完全にこなれた味となっていません。 調理法の素晴らしさ、結果の素晴らしさのいずれにおいても「至高」の側の勝ちと判断します。

海原雄山: フフッ、士郎。 おまえは放射線と言えば外部から被ばくするものとの固定観念にとらわれ、内部被ばくにまで考えが及ばなかった。 電子レンジが調理のあるべき姿でないと言いつつ、おまえは放射線を単に照射しただけで満足し、それより先を考えようとしなかった。 放射線を浴びせることで熟成させるというのは放射能料理の入口に過ぎないのだ。 単に浴びせましたというだけで「究極」とはかたはらいたい!

山岡: うぐっ…

*

富井副部長: 山岡のやつ、呆然としているようだな。

谷村部長: 山岡くん、まあ、そう気を落とさずに。

山岡: いや、ちょっと考え事をしていただけです。 雄山の調理法はまだ改良の余地があるのではないかと…

谷村部長: 本当かね?

山岡: 雄山は塩素だけ放射性にしたけど、 金を惜しまないなら、水自体をトリチウムの重水にして、そこに魚を漬け込めば熟成効果が上がるはず…

谷村部長: 無理じゃないかな。 同じ放射性物質でも、トリチウムは半減期が10年以上だからね…。

山岡: そうか、その問題があったか…。放射能料理は奥が深いな。

ゆう子: でもトリチウムは核融合発電の鍵。 クリーンな原子力発電への道を開いてくれる存在。 放射性物質には医療・文化財調査・学術など、たくさんの平和利用の分野があるのね。 放射能がお料理にも役立つことが分かっただけでも、今回は収穫だったんじゃないかしら…

究極の化学調味料

荒川: とは言っても、事実上、日本の国民食よね。

三谷: そうそう、何にでもお醤油かけるみたいに、何にでも入れちゃう。

ゆう子: 三谷さんは、特にお醤油が好きよねぇ…!

谷村部長: 何の話かね。

山岡: ばかばかしい話です。化学調味料が日本の国民食だなんて。日本の恥部ですよ。

谷村部長: ほお、化学調味料か。確かにその問題は一度、研究してみる必要があるんじゃないかな。

山岡: 研究するまでもない。あんなものは使ってはいけない。それだけです。

荒川: 先入観と偏見じゃないの、それ。隠し味に微量、使うくらいありだと思うけど。

谷村部長: うむ、否定するにせよ、十分に研究もせずに結論を出すのは良くないよ。

*

山岡: ちぇっ、デパートの食品売り場に取材に行ってこいだなんてさ。 化学調味料なんて見るのもいやだよ。

ゆう子: こうしてよくよく見ると、いろんな種類があるのね…。

山岡: サイズがいろいろあるだけだよ。中身は全部同じ、グルタミン酸ナトリウムとイノ…

ゆう子: あら、海原先生!

海原雄山: む、おまえたち、こんなところで何をやっているんだ。究極の料理とやらの材料探しか。

ゆう子: よくお会いしますね。

海原雄山: ストーリー展開の都合だ。そんなことより、何だ、おまえたちは、化学調味料を買いに来たのか。情けないにもほどがある。 やんぬるかな。「究極の料理」、地に落ちたり。

山岡: そんなふうに化学調味料のことをあしざまに言うからには、それなりの研究と論拠があるのだろうな。

海原雄山: ばかも休み休み言え。化学調味料のどこに研究の余地があるというんだ。 すべて画一、同じ味。研究するまでもないこと。

山岡: 十分な研究もせず頭から駄目だと決めつける。無知と偏見の固まりだな…。

海原雄山: ではおまえは、化学調味料を使ったうまい料理を知っているとでも言うのか。付き合いきれん。中川、行くぞ。

山岡: 敵前逃亡しようというのか。

海原雄山: 敵前? 逃亡? ふっ… 何が望みだ。

山岡: 今度の「究極」対「至高」の対決、化学調味料を題材にしたい。究極の化学調味料を味わわせてやるよ。

海原雄山: ……。

ゆう子: 山岡さん、いくらなんでも、それは…

海原雄山: 良かろう。それでは、わたしも至高の化学調味料の使い方を見せてやろう。

ゆう子(独白): 山岡さんたら… 化学調味料をあれほど否定してたのに、海原雄山への敵愾てきがい心から今度はムキになって擁護するなんて…

*

三河編集長: えー、今回は「化学調味料」を題材に料理していただきます。 では「至高」の側からお願いします。

海原雄山: まず、この汁物を味わっていただこう。

唐山陶人: む…

京極: これは…

海原雄山: お気に召さなかったようですな。今のは前座。それでは至高の化学調味料料理をお出しします。

大原社主: はて、また同じ汁物が。

山岡: …そういうことか。

海原雄山: 最初にお出ししたのと、次にお出ししたのは、まったく同じ汁物。 ただし、最初の方には微量の化学調味料が加えてある。お分かりのように、化学調味料は完成された繊細な味わいを破壊するものでしかない。 「至高」の化学調味料の使い方、それは使わないことです。

小泉局長: しかし化学調味料を題材とした勝負で化学調味料を使わないというのは、規定違反なのではありませんか。

海原雄山: 審査の先生方がそう判断なさるなら、失格でも結構。 「至高」の化学調味料の使い方、それは使わないこと。 それがわたしの解答だ。

三河編集長: では「究極」の料理をお願いします。

嶺山社長: 「究極」の側も汁物だ。

唐山陶人: あれれ。ははあ。なんだ、士郎も同じ答えを出したのか。この自然で癖のない味。 「究極」の出した答えも化学調味料は使わない、ということだったとは。 やはり親子だな。

富井副部長: でも山岡の汁物の方がおいしいよ。

唐山陶人: だしの取り方が良かったんじゃろう。だが今回は汁物対決ではないし、両者が出した答えが同じなら、 引き分けということか。

ゆう子: 待ってください。「究極」の汁物は化学合成された調味料で味つけしたものです。

秀沢局長: それこそ反則だ! 天然のいい材料をふんだんに使って、これは化学調味料だと言い張る。 規定違反です。

山岡: 説明しましょう。そもそも化学調味料は化学の知見と技術によって合成された調味料のことであって、 何もグルタミン酸ナトリウムに限らない。限る必要もない。

ゆう子: わたしたちは、まず信頼のおける一流の調理人、30人に麩だけの吸い物を作ってもらい、 それを化学分析し、検出されたすべてのアミノ酸について、別の経路から抽出したものを化学的に再合成したのです。 まさに「究極の化学調味料」です。

海原雄山: 何と…。

山岡: それだけではありません。カリウム、マグネシウム、銅、亜鉛、モリブデンなどの微量要素についても、 さまざまなパラメータで同じ30人にダブルブラインド・テストを行い、最もおいしく感じられる配合を決定した。 驚いたことに、ダブルブラインド・テストの結果は、この調理人たちが自分で最高と考えている配合とは有意に異なった。 つまり、われわれの化学調味料は単なる「本物の味」の再合成ではなく、そこから一歩進んでいる。 数学的・統計的に根拠ある事実を用いて、化学的な合成を行った。 その素材は、主に無機塩の形で海水から抽出したものです。

嶺山社長: そ、それじゃやはり規定違反じゃないか! 海水という自然素材を加工しているのなら、化学調味料とは言えない。

ゆう子: いわゆる「化学調味料」も、サトウキビから抽出したものです!

嶺山社長: ……。

三河編集長: 審査の結果を発表します。 「至高」の側はたとえ失格と判定されようとも化学調味料は使わないのが最善である、という主張を貫きました。 協議の結果、この点については失格とせず、一つの見識と認めることにします。 しかし、「究極」の側の汁物の味は「至高」をしのいでいる。 しかもその調理法は、まさに「究極の化学調味料」と言うべきもの。今回は「究極」の側の勝ちとします。

焼きそばパンを守れ! (きんぎょ注意報!)

中学生A: 山岡さん、助けてください!

中学生B: 焼きそばパンが、焼きそばパンが危険なんです! 助けてください!

山岡: こ、困っているのは分かったからさ。 何がどう危険なのか、順序立てて説明してくれないかな。

中学生A: 実は…

*

ゆう子: なるほど、A子さんたちの学校の理事長が、購買の焼きそばパンを発売中止にしようとしているわけね。

山岡: 「焼きそばパンは下品な食べ物で校風に合わない」…か。 でもその理事長の言うことにも一理あるよな。焼きそばパンなんて、あんまり品のいい食べ物じゃない。 食べ物自体もそうだけど、手巻き寿司と同じでさ、口で食いちぎる食べ方がちょっと…

ゆう子: 「クロワッサン・サンドは品がいい」…そう言われれば確かに…

山岡: いや、それもどうかな。北米のバーガーキングには「クロワッサンイッチ」という朝食メニューがあるけれど、 脂っこくてあまり感心しない代物だったよ。

中学生A: そうですよ、そうですよ! 理事長ご推薦のクロワッサン・サンドに負けない究極の焼きそばパンを作ってください!

中学生B: クロワッサンなら上品だ、なんて西洋かぶれのブランド品志向と同じです。 焼きそばパンこそ日本人の心のふるさとっ! よくぞ日本人に生まれけり、という料理なのですっ!

中学生A: 焼きそばパンを守れ! クロワッサンを追放せよ!

中学生B: 尊皇そんのう攘夷じょうい! 尊皇攘夷!

山岡: たはっ…

*

山岡: そりゃパンはさ、国産の良質な小麦粉を使って、イーストフードなど使わずまじめに作ればおいしく作れるよ。 天然の酵母を使って。 焼きそばだって、良い野菜を使ってきちんと作って、できたての熱々のを食べれば、おいしい。だけど、焼きそばパンとなるとなあ。 その場で調理するのでもない限り、 中の焼きそばは冷めてしまう。冷めた焼きそばなんておいしいはずがない。あんパンとはわけが違うんだ。

ゆう子: でもカレーパンはどう? カレーだって、一見、できたてがおいしくて、 時間がたって冷めたらおいしくないはずだけど、カレーパンのカレーは冷めているわ。

山岡: そうか。カレーパン方式があったか。閉じ込めてしまえば酸化しにくく、風味の劣化を防げるぞ。

中学生A: 閉じ込めちゃだめよ。

中学生B: そうそう、焼きそばの上に紅ショウガが乗ってるところが、かわいいんだから!

中学生A: なんか山岡さんて、頼りなくなくない?

中学生B: 海原雄山に頼もうか…

山岡: 雄山がそんな頼みを聞くもんか。冷めてもおいしい焼きそばパンを作れ、だなんて。

海原雄山: 話は聞かせてもらった。

山岡: ど、どこからわいて出たんだ。

海原雄山: 燕雀えんじゃくいずくんぞ鴻鵠こうこくこころざしを知らんや。小人は細かいことにこだわり、本質を見ない。

山岡: 冷めてもおいしい焼きそばパンを作れるとでもいうのか。

海原雄山: やはりな。

山岡: 何がやはりなんだ。

海原雄山: 言葉で説明しても無駄だろう。今からその理事長のところに案内してもらう。 本質とは何か知りたければ、おまえも来るがいい。

*

千歳: 美食家として名高い海原雄山先生にお越しいただくなんて、光栄の至りです! わたくしが理事長の、藤ノ宮千歳です。

海原雄山: この学校の購買には、都会ノ学園にはない焼きそばパンがあるそうですな。

千歳: いえ、その、ぁ…あのようなものは禁 —

海原雄山: さすがは新田舎ノ中学。

千歳: えっ…?

海原雄山: 都会ノ学園は何でも西洋風にすれば高級だと思いこんでいる。実に情けないことだ。 自国の文化さえ尊重できずに、他国の文化を尊重できるわけがない。 クロワッサンならおしゃれだなどと、凡人の考えそうなこと。 焼きそばパンは日本が世界に誇る食べ物です。

千歳: も、もちろんですわ…。らんま1/2にも登場しますもの。おほほほほ。

海原雄山: 都会ノ学園の生徒会長は、バレンタインのときも、ベルギーのチョコレートを取り寄せて独り悦に入っていましたな。 一方、あなたはバレンタインなどくだらないという態度だった。

千歳: よくご存じで…。

海原雄山: ええ、かないみかと、こおろぎさとみの区別がつかない者は、美食倶楽部には入会できない。 ともあれ、一言賛辞をお伝えしたかったのです。 それではこれで失礼します。

*

中学生A: 海原先生、ありがとうございました。理事長は禁止を撤回してくれました。

中学生B: それどころか、焼きそばパンを奨励することになったんですっ!

海原雄山: 士郎、分かったか。彼女たちの願いは「おいしい焼きそばパンが食べたい」ではなく「焼きそばパンが購買からなくならないようにしてほしい」だった。 理事長の考えは「焼きそばパンはまずい」ではなく「世間体が悪い」、要は「認められたい」「高く評価されたい」ということにすぎない。 おまえはまたしても「天然酵母」だの「閉じ込めればいい」だの、材料自慢、腕自慢に走り、 相手が真に何を望んでいるのか、人の心が見抜けなかったのだ。料理の基本はもてなすこと、人の心を楽しませること。 基本すら分からぬおまえに、果たして究極の料理が作れるのかな…

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ラーメンライス幻法 3題

2009年 3月28日
記事ID d90328

攻殻美味しんぼ — 'Bot for the Chef

(モトネタは「MAD美味しんぼ 3題」(2005年9月)の「激突! 放射能料理対決」)

***

団社長: で、今度の「究極」対「至高」の対決の題材は、ハイテクを使ったラーメンライス、ということで進めたいのですが。

大原社主: しかしラーメンライスにハイテクもローテクもあるのかね。要するにラーメンとごはんだろ。

団社長: 常識で考えればそうなのですが、実は「ハイテクを使ったラーメンライス」を題材にしたいとおっしゃっているのは海原先生なんです。

山岡: 何、雄山が?

団社長: はい。「洗練と上品だけが料理ではない。 ラーメンと言えば庶民、ラーメンライスと言えば下品、とばかの一つ覚えのように考える衆愚しゅうぐもうひらくという点でも意義深いことだ」と…

富井副部長: 対決を断れば我々は衆愚ということか…

山岡: いいですよ。そんな挑発に乗るわけではないけど、 向こうがそれでやりたいというなら、宇宙船でも超伝導でも。

*

三河編集長: というわけで番外編なので、途中は省いていきなり対決です。 それでは東西新聞社からお願いします。

京極: はて。ただの安っぽいラーメンライスにしか見えへんけど…

唐山陶人: どこがハイテクなんじゃ。わけが分からん。

山岡: 論より証拠。まずはお試しください。

京極: ほな一口…

唐山陶人: こ、これは…!

京極: ただのラーメンライスどころやない。この法悦。

唐山陶人: ラーメンのうまさを繊細なメロディーにたとえるなら、 このラーメンのうまさはポリフォニー、 それも四声部、五声部の旋律がからみあった複雑な音楽だ。めちゃくちゃうまいぞ。

秀沢局長: 信じられない…。 いくつもの味の成分が絡まり合って複雑で重厚だが、それでいて軽妙で典雅。 まさに、音楽でたとえるなら、 バッハのフーガの技法、パッヘルベルの三重カノン、ラベルのパバーヌを合わせたようなすごさ。 いったいどんな調理法を使ったんだ。

山岡: 味覚は大脳の働きと深い関係にあります。 「うまい」という満足感は、突き詰めれば、大脳の味覚の受容体が適切に活性化されることだ。 ほろ酔い加減で食うと同じラーメンでも異様においしく感じられますが、アルコールの作用で大脳の認識が変化するためです。 われわれのラーメンライスは、この考えを推し進め、ラーメンライス受容体に特異的に作用する 8,0,1-ヘプタナナシサン-4,6,4,9-ピョコラアナローグ-2D-φ[3,17,23]-妖化フェアリシウムを配合してあります。 この物質は、α1β2およびα1β4サブタイプ受容体を直接刺激し、大量のドーパミンを放出させる。 これによって脳は「めちゃくちゃうまいラーメンライス」を認識します。

山岡: 一方、パーシャルアゴニストとして拮抗(きっこう)作用も持ち、まずいラーメンライスに反応する受容体のα2β6サブタイプをブロックしてしまう。 これにより、実際に食べている「安いラーメンライス」の不快な刺激は一切感じられないことになります。 大脳を直接制御する、まさに究極のハイテク料理と言えるでしょう。

富井副部長: そうか、料理がうまいというのは要するに、大脳皮質の化学反応だったんだ…。しかし、うまい。これはうまいですぞ。 ほっぺが落ちそうだ。

三河編集長: 「究極」の側の味覚野の薬理的制御技術はなかなか好評のようです。 それでは次に「至高」の側の料理をお願いします。

唐山陶人: これは…小さいどんぶりだな。

京極: ミニサイズのラーメンライスかな。

唐山陶人: うわはぁ、何という…!

全員: うまい!!!

海原雄山: さよう、ミニサイズのラーメンライス。 しかも普通に小さいだけではない。ナノボットが入っている。

京極: ナノボット…?

海原雄山: ナノボットとは、ナノメートル、つまり10のマイナス9乗メートルの分子レベルの大きさで動作する極小マシーンです。 いくら微小とはいえ異物なので、普通に経口摂取すれば不快な反射が起きる可能性を否定できない。 しかしラーメンライスのような、性急にかきこむ料理に加えれば、この関門を突破できるのです。 小さいどんぶりを使って一口で丸飲みできる量をお出ししたのは、 ラーメン内の位置によらず、確実にナノボットが体内に入るようにするため。

小泉編集局長: ラーメンライスをナノボットの溶媒と割り切るとは。何という斬新な…。

海原雄山: このナノマシーンは体内に摂取されると、 血管内を高速で自走して大脳に達し、 眼窩(がんか)前頭皮質をシグナル伝達レベルで物理ハッキングするようプログラムされている。 これによって味覚野が何を認識しているかと無関係に脳は「うまい」という最終判断しかできなくなります。 もちろん用意したラーメンライスそのものも美食倶楽部の技術を駆使した本当においしいものですが、 ナノボットはさらに、感覚性言語野と運動野を直接駆動し「うまい」という言葉の想起と発音を強制します。 その結果は…今実際にご経験いただいた通り。

唐山陶人: うむ、人類未到の領域を感じさせるわい。 「究極」側の味覚野の化学刺激も素晴らしかったが、それはアルコールや麻薬の延長線上を出ない。 それに対して「至高」のラーメンライスはアプローチそのものが新しい。

大原社主: ……。

小泉編集局長: ……。

三河編集長: えー、審査の結果を発表します。 「究極」の大脳皮質味覚野のレセプターをターゲットにした手法は大変素晴らしいものでしたが、 大脳の認識そのものをターゲットにした「至高」のナノテクノロジーと比較した場合、 単なる薬物投与は在来技術であり、幼稚と言わざるを得ません。 料理そのものについても、味覚野のみを制御する「究極」の料理ではうまさのほかに心に雑念が残りますが、 言語野をハッキングする「至高」のラーメンライスでは「うまい」以外、何も考えられない涅槃(ねはん)の境地に達します。 調理法の素晴らしさ、結果の素晴らしさのいずれにおいても「至高」の側の勝ちと判断します。

海原雄山: フフッ、士郎。 おまえは脳に作用するといえば薬品、との固定観念にとらわれ、攻性ナノボットによる義体の物理的ハッキングにまで考えが及ばなかった。 味覚野は料理の受容の入口に過ぎず、最終判断は脳全体、料理の感想を言語化するのは大脳言語野だ。 入り口を押さえただけで「究極」とは笑止千万。

山岡: うぐ…

海原雄山: おまえには、脳が詰まった人間の頭をハッキングするのは、百年早い。 代わりに、あんこが詰まった魚の形のケーキでも盗み食っているがいい! それがおまえにお似合いだ、うわーはははは!

山岡: うぐぅ。

*

富井副部長: 山岡のやつ、呆然としているようだな。

谷村部長: 山岡くん、まあ、そう気を落とさずに。

山岡: いや、ちょっと考え事をしていただけです。 雄山の調理法はまだ改良の余地があるのではないかと…

谷村部長: 本当かね?

山岡: 雄山は味に対する最終判断をハッキングしたけど、 どうせハッキングするなら「至高の料理」と聞くとムカムカするように情報を上書きできれば、常に「究極」側の勝利に…

谷村部長: 無理じゃないかな。 そんなことをすれば、海原氏のことだ、それに対するワクチンプログラムを直ちにナノボットに組み込み、 今度は攻性防壁による逆ハックを仕掛けてくると思うよ。

山岡: そうか、その問題があったか…。ハイテク料理は奥が深いな。

ゆう子: でもナノテクノロジーは医療・工学・学術など、たくさんの平和利用の分野があるのね。 ナノボットがお料理にも役立つことが分かっただけでも、今回は収穫だったんじゃないかしら…

仏説ラーメンライス

(BakaMemo 2006年11月「ラーメンライスは実在しているか」より)

***

自在に観るシッダールタは、知恵と悟りを求めて何時間も瞑想していたが、 不意に「ラーメンライスは実在していない」と見抜いて、 世の迷妄を克服なさった:

舎利子よ、 ラーメンライスとは食べ方であり、 ラーメンライスという物自体が実在するわけではない。 ラーメンライスはラーメンではないし、ライスではない。 ラーメンとライスの二つの皿を前にして人が「我はラーメンライスを食べよう」と思うとき、 そこにラーメンライスは現れる。「やはりラーメンとライスを別々に食べよう」と思い直すとき、 ラーメンライスは消滅する。このようにラーメンライスという物は空であり、 ラーメンライスとして観測されるときにのみラーメンライスに収束する現象、 それがラーメンライスなのだ。

舎利子よ、 この世の料理はすべて実在しないという特性を持っている。 空であるラーメンライスは増えることも減ることもない。 美味しくなることもまずくなることもない。 熱くなることも冷めることもない。 古びることも若返ることもない。 動植物の死骸を切り刻み、加熱し、これは何々という料理であると呼ぶとき、 人はそれが実在する料理であるという迷妄にとらわれる。

ラーメン、ラーメン、パーラーメン。ニンニクラーメン、チャーシューヌキ。スバーハー。

そう唱えると、シッダールタは「分かったぞ」と叫びながら風呂に飛び込み、ついでにアルキメデスの原理を発見した。 何だか順序と時代考証がでたらめなようだが、知ったことではない。 ニンニクラーメンは菜食主義のため、チャーシューヌキは殺生を避けるため。 つじつまは合っているのだ。 風呂から上がるとシッダールタは、さっそくラーメンライスを食べた。 瞑想のし過ぎで腹ぺこだったのだ。 舎利子が「その料理は空なのではありませんか。先生は『色は空である』とおっしゃいました」と尋ねると、 シッダールタは「おれさまの腹も空なのだ」とお答えになった。

新訳・仏説ラーメンライス

おいしいレシピに帰依(きえ)いたします。

私はこのように聞きました:

1. 自ら在る方は、大衆食堂で注文した5人前の大盛りラーメンライスを眺めていたが、 どの皿にもラーメンライスが入っていないことを看破した。

2. 「ほら、サリプトラ君」その方は言われた。「ラーメンと、ライスが5つずつ並んでいるだけじゃないか。 『ラーメンライス』などないんだよ。 『これはラーメンライスである』という我々の思いこそが、『ラーメンライス』という迷妄のたった一つの根拠だったんだ」

3. 「ラーメンライスは空虚だ。この空虚さこそがラーメンライスなのだ。 生ずることもなければ、滅することもない。 指し示すこともなければ、指し示されることもない」

4. 「だからね、サリプトラ君、『ラーメンライス』には形がなく、においがなく、味がなく、手触りがなく、音がない。 ラーメンライスを食べたいという思いはなく、ラーメンライスを食べたいという思いがなくなることもない」

5. 「愛も、執着も、憎しみも、名誉も、不名誉も、ラーメンライスのようなものだったんだ」

6. 「だからサリプトラ君、過去と現在と未来の三つの時間を生きるすべての天使たちは、例えようもない紫亜(しあ)ちゃんによって、 美しいベルダンディーによって、 さらにまた、真のファンとしての慎みによりその名を挙げることはしない存在によって、祝福されている」

7. 「それゆえこのレシピは偉大であると認められるべきだ。 偉大な知恵のレシピ、 無上のレシピ、 比類なきレシピであり、あらゆる飢えの()やし手だ。 このレシピは、自分が正しくないと知っていることによって、真実である。 そのレシピとは…」

かんすい、かんすい、チャーシューメン、とんこつラーメン、なると、めし!

これでおいしいラーメンライスの出来上がりです。

画像の出典

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OH! スーパーわぴこチャン カーボンニュートラルのようなもの

2010年 7月 7日
記事ID e00707

OP

※注: オリジナルは『狼なんか怖くない』。以下はメタ・パロディーとして別の曲(S・O・S)。

(映像=みーこを膝、ぴーこを頭に乗せて、アルプスの少女ハイジ風ブランコに乗るわぴこ)

わぴこ: SOS! SOS! ほらほら呼んでいるわ
わぴこ: 今日もまた誰か 乙女のピンチ~
ぎょぴ: ぎょぴぴ~

(クレジット)「ロケ地: 岩倉南大鷺町」

わぴこ: 男はオオカミなのよ 気をつけなさい
わぴこ: 年頃になったなら 慎みなさい
わぴこ: 羊の顔していても 心の中は
わぴこ: オオカミがキバをむく そういうものよ

わぴこ: この人だけは 大丈夫だなんて
わぴこ: うっかり信じたら だめ
千歳: ダメ
わぴこ: だめ
千歳: ダメ
わぴこ: あぁ駄目駄目よ
わぴこ: SOS! SOS! ほらほら呼んでいるわ
わぴこ: 今日もまた誰か 乙女のピンチ~
ぎょぴ: ぎょぴぴ~

本編

タイトル

(わぴこの元気予報)

わぴこ: OH! スーパーわぴこチャン。わぴこの、カーボンニュートラルのようなもの、の巻だヨ!

生徒会室

ぎょぴ: ぎょぴー。ぎょぴぴー。
千歳: あぁ、いいわねえ… やっぱり、乙女の夏の国内旅行は、京都よね。祗園ぎおんが私を呼んでいる…
千歳: お嬢様~♥
わぴこ: ちーちゃん、さっきから何の雑誌、読んでるの。
わぴこ: なになに、『特集: 京都議定書の本場でカーボンマイナス気分を満喫: 低予算の排出量オフセット』?
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: ちーちゃん、ばかぁ? “気分を満喫”したって二酸化炭素は減らないんだよ?
千歳: あら、そんなことないわよ、わぴこ。『誰かが節減してくれた排出量』を私が買うんだから、計算は合ってるのよ。
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: 排出枠を右から左へ動かすだけで排出量が減るわけないじゃない? ねー、ぎょぴ毛?
ぎょぴ: ぎょぴぴ!
わぴこ: そんなことより、ちーちゃん、ちょっとこれ見てよ…
千歳: えっ、新聞…?
千歳: 『楳図かずお、若返りたくてベニクラゲを大量にまる飲み、食あたり』
千歳: まあ、わぴこ、大ニュースじゃない?
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: それじゃない、その下! 押し紙のニュース!
千歳: いやーね、わぴこ、あんた押し紙なんて持ってるの?
わぴこ: ウン。押し花と間違えてたくさんもらったら、広告会社から詐欺で訴えられそうなの。わぴこ、どうしたらいいの? うるうる…
千歳: だいたい今どき紙の新聞だなんて、時代錯誤もいいとこだわ。いい、わぴこ、21世紀は物理メディアを離れ、仮想化された情報存在の、脱中心・自律ネットワ…
わぴこ: あーっ、電話だー。ちーちゃん、ごめん、電話鳴っちったからお説教はまた今度ね。校長先生からの指令かな?
千歳: もう…
わぴこ: (受話器を取って)はよーん! シュレディンガー准尉でーす。アハハハ! なんちってー♪
浅羽 (受話器の向こうで): あの、わぴこさんで、いらっしゃいますか。
わぴこ: うん♥ わぴこだヨーン!
浅羽: わたくし、みんなニコニコ・エコロジー! でおなじみのオフセット・プロバイダー、担当・浅羽と申します。あの…、わぴこ様の今月の炭素クレジットのお支払いがまだ…
わぴこ: きゃるめらっ! 呼吸に課金するなんてひどい! (一方的に電話を切る)
千歳: どうしたの、わぴこ。また炭素クレジットの催促?
わぴこ: そうだったけど、もう大丈夫。わぴこ、ちゃーんと断ったから。
千歳: あんた、この前、不良牛たちと花火大会やったとき、間違えて裏山一つ全焼させたからねえ…。大量放出された二酸化炭素が回収不能の不良債権になってるんじゃないの?
葵: (扉を激しくノックしながら)おーい、わぴこ。いるのは分かってるんだぞ。今日という今日は、給食費を払ってもらうからな。
わぴこ: いけね、葵ちゃんだっ。
葵: おまえ、もう6カ月も支払いが遅れてるんだぞ!
わぴこ: そんなことより葵ちゃん、3丁目のスーパーでトイレットペーパーの特売やってるんだって。
わぴこ: 先着1000名、お一人様2個限り!
葵: えっ? バーゲンセール? こうしちゃいられねえ、急げ~
(足がうずまきになって去る)
わぴこ: ふ・ふ・ふ、葵ちゃんが三度の飯より特売が好きで、助かった。
千歳: 給食費くらい清算したらいいじゃない。あんたいつもお昼に焼きそばパン買って食べてるんだから、残高がないわけじゃないんでしょう?
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: 焼きそばパンを買う炭素はあってもー、給食費を払う炭素はー。な・い・の!
わぴこ: きゃるめらっ!
千歳: なんかあんた、最近、ちょっとおかしくない?
わぴこ: あっ、そうだ!
わぴこ: そーだ、そーだ、クリームソーダ♪ (窓から外へ出る)

牛小屋

ウシ一家: いただきます。
ウシ太郎: もぐもぐもぐ。パパ! ママ! このシロツメクサ・バーガー美味しいよ!
ウシ江: ウシ太郎はシロツメクサ・バーガーがホントに好きね。
不良牛: うちで牧草を食べた排泄物を堆肥として牧草に還元する、持続可能な有機栽培だからな。うまくて健康にいいぞ。たくさん食べて、早く立派な不良牛になれよ。
ウシ太郎: 分かったよ、パパ。ぼくたくさん食べて、立派な不良牛になるよ。
不良牛: おっ、偉いぞ、ウシ太郎。シロツメグサの花が咲いたら、さあ行こう…
わぴこ: こら~! 不良牛!
不良牛: わ、わぴこさん… どうして牛小屋へ?
わぴこ: 牧草をそんなに食べまくっちゃ駄目じゃない! 二酸化炭素の吸収量が減るでしょ、めっ!
不良牛: あ、あっしにどうしろと…?
わぴこ: んー、わぴこの排出権を少し分けてあげるから、代金振り込んどいて♪
ウシ江: まあ、わぴこさんって、リッチなのね。売るほど排出枠があるなんて…
わぴこ: うん! わぴこねー、炭素クレジットで、100年先の排出枠まで前借りしちったー! ハハハ。
ぎょぴ: あーあー、わぴこちゃん、完全に虚業の亡者にとりつかれちゃってるよ。
ぎょぴ: あ、突然失礼。ぼく、ぎょぴ毛の心の声です。
ぎょぴ: だけど今後100年間の呼吸の権利を担保に排出枠を前倒しだなんて、めちゃくちゃ過ぎるよね。急いでわぴこちゃんを助けなきゃ。
ぎょぴ: 必殺、ぎょっぴーダンス! 悪霊退散!
わぴこ: ハッ! しまった、わぴこ、虚業の亡者に取り付かれてたみたい。
亡者: バイバーイ。次はグリーンピースにとりついて、環境破壊テロと闘うための環境テロを引き起こしてきまーす…
わぴこ: ふぅ、危なかった。
千歳: わぴこ! また電話が鳴ってるわよ。
わぴこ: はーい、今行くー。

生徒会室

わぴこ: (受話器を取って)はよーん! 特殊刑事課でーす。アハハハ! なんちってー♪
校長(受話器の向こうで): もしもし、わぴこくんですか?
わぴこ: あっ、校長先生! はよーん!
校長: そうです、確かに私が、校長の校ちゃんです。
わぴこ: 元気?
校長: はいはい、わたしはいつも元気です。特に頭の触角はピョコピョコしてます。
わぴこ: ピョコピョコ? わぴこ、モフモフがいい。
校長: モ…モフモフ?
わぴこ: わぴこね、キツネのしっぽにモフモフされたい。ニャースのしっぽのうずまきを巻き戻して遊びたい。それでもって、わぴこ、みーこ積みやって、ペンギンの郵便屋さんになりとゎーい!
校長: そんなことより、今日は校長先生からわぴこくんへ、㊙指令があります。
わぴこ: ハッ、指令でありますか。校長先生?
校長: 最近、わが国では、ニセ炭素証券が大量に出回ってるんです。
わぴこ: ニセ証券?!
校長: そうです。わが国の炭素証券には、(1S,3S,4R)-(+)-メントールのにおい透かしが付加されています。ところが、ニセ証券には、光学異性体の(1R,3R,4S)-(−)-メントールのにおいが付加されています。素人には区別は難しいので、みんな困ってしまっているんです。
わぴこ: アハハハハ! わぴこ、ずぅえーんぜん意味分かんないヨ!
校長: とにかく! このままでは京都メカニズムが早々に破綻して、わが国の信用はがた落ちです。わぴこくん、行って何とかしてくだちゃい。
わぴこ: 分かったぁー! わぴこ行きまーす! ばいびーん! (電話切る)
わぴこ: ちーちゃん! ぎょぴ毛! レッツゴー!
千歳: おお!
ぎょぴ: ぎょぴー!

ビデオエッセイ

由梨香: ビデオエッセイ『ポーテーチャン謎ジャム炒め』、菅平すがだいら由梨香
由梨香: 遅く起きた午後は何をしましょう?
由梨香: 黒豆をマッシュして、ベジタリアン・ステーキを作ろうかしら?
由梨香: みじん切りの玉ねぎ・黄ピーマン。上質のパン粉。チリソースに、カイエンペッパー。
由梨香: 葵さま、あなたを想いながらオリーブオイルでパティを熱すると、
由梨香: うふっ、情熱的な辛さが食欲をそそるの。温かいうちに召・し・上・が・れ♥
由梨香: 遅く起きた午後は何をしましょう?
由梨香: あら、誰か来たわ。都会ノ学園の校長と理事長かしら?
由梨香: やーねー、学校を私物化してることがばれる前に、とんずらしなくちゃ…。

移動中

わぴこ: ははははは、ニセ証券犯人さん、ニセ証券犯人さん!
千歳: でも、こんな複雑そうな犯罪、どこから手を付けたらいいのかしら…。手がかりも何もないのよ。
わぴこ: うーーーーん… わぴこ、なんかもう、めんどくさくなってきちった。ねえ、ちいちゃん、帰ってポテチ食べよっか。
千歳: 駄目よ、わぴこ。まだ出動したばかりじゃない。
わぴこ: もうめんどくさいから、世界から炭素証券なんて、なくなればいいのにねぇ。
千歳: ばか言ってんじゃないわ。リソースは有限なんだから、炭素経済がなくせるわけないでしょう。
わぴこ: あっ、電話だ。
わぴこ: (受話器を取って)はよーん! エクリプスの肩甲骨でーす。アハハハ! なんちってー♪
校長 (受話器の向こうで): もしもし、わぴこくんですか。校ちゃんです。さっき言うのを忘れてましたが、じつは、わが国が誇る秘密研究機関・大橋医院に今回の事件の解決に役立つメカを作るよう頼んであります。至急受け取りに行ってくだちゃい。
わぴこ: 分かったぁー! わぴこ行きまーす! ばいびーん! (電話切る)
わぴこ: ねえ、ちーちゃん、大橋医院で、ちーちゃんが生まれた所じゃない?
千歳: そうよ、わぴこ。あそこにはわたしを作った人、わたしの本当のお父様がいるの。
千歳: お嬢様~♥

大橋医院

大橋 (大型モニターから話しかける): 触角の国からこんにちは。私が当・大橋医院の医院長、ドクター大橋です。
わぴこ (モニターに向かって): ドクター大橋先生さん、はよーん!
大橋: わぴこちゃん、校長先生から頼まれていたもの、できてますよ。それではプロモーションビデオ、スターッ…

ビデオの表示: ③、②…

通販風ビデオ解説: スグレモノ・メカ・ナンバー・ゼロゼロワン!
解説: 田中山、1号!
解説: この田中山1号は、最先端分析技術を誇るミニ・スプリングエイト加速器内臓。プログラムカセットを入れ替えるだけで、紛らわしいものを正確に、サブアトミック・レベルまで、しっかり解析可能です。さらに弁護士資格を持っているため、ピンチのときはすぐ訴訟を起こしたり、舌先で相手をごまかしたり、指定の結果を「出す」こともできます。
解説: ああ、素晴らしきかな、大橋医院。
解説: たたえよ、大橋医院。

大橋: どうです、わぴこちゃん。すごいでしょう。
わぴこ: ポテチー♥
大橋: 今回は、初回特典として、光学異性体・左右判別プログラムが付いてきます。
大橋: ところで…。隣に立っているそこの高慢女。
千歳: えっ… ま、まさかわたしのこと…?
大橋: わぴこちゃん、その女、少しは役に立ってますか? 嫌になったら、いつでも新しい理事長を療養先のスイスから呼びますからね。
千歳: そんな…。ひどい。この人がわたしの本当のお父様ではありませんように…
大橋: それでは、わぴこちゃん、健闘を祈る…

真っ暗な画面: …
真っ暗な画面: ……
真っ暗な画面: ………

大橋: ウグイスは誰にも媚びずにホーホケキョ。次回: 箱入り娘を、楊枝でほじくる。

真っ暗な画面: …

ニセ証券犯人のアジト

犯人: 右も百枚、左も百枚…
犯人: そうです。私がニセ証券犯人…
犯人: …どぇーす。
犯人: 食ったるで、食ったるで…
犯人: ニセ証券で世の中の利権をしこたま…
犯人: …食ったるでぇ!!
犯人: 目標は近い…
犯人: 右も百枚、左も百枚…
犯人: 右も百枚、左も百…

野外

わぴこ: じゃあ、田中山さん、この証券のにおいをかいでみてっ?
田中山: クンクンクン。(キンコン・キンコーン)右旋性! 右旋性! わぴこさま、これは本物の炭素証券です。
わぴこ: すごい。当たった! じゃあ、これは?
田中山: クンクンクン。(ブーッ・ブーッ)左旋性! 左旋性! インチキ証券! 許すまじっ!
わぴこ: すごい。また当たった。ねえ、ちーちゃん、さっきから何一人でカチャカチャやってるの。田中山さんって、無駄遣いばかりするちーちゃんと違って、節約家で高性能だよ。
田中山: ふっ。日ごろの猫まんまに比べれば、メントールの香りは天国さ。
千歳: 何言ってるのよ、わぴこ…。証券のにおいをくんくん嗅ぐ変な悪徳弁護士と、深窓のお嬢様を一緒にしないでよね。
田中山: Suck my d***!
千歳: それはともかく、千歳スーパーお嬢様ネットの検索結果によると、ハコモノ証券は、主に産婦人科領域に出没するらしいのよ。
わぴこ: 産婦人科領域…?!
千歳: そうよ、とってもおめでたーい、マゾの先生たちのスクツよ。
わぴこ: んじゃあ、さっそく、トキせんべいの屋台を始めるよーん!
千歳: 分かったわ! 絶滅種のにおいで犯人をおびきよせるのね♪

校長: こうして、わぴこちゃん、千歳、ぎょぴ毛は、きんの砂糖のトキの屋台を始めたのでした… うーん、おいしそう♥

トキせんべいの屋台

千歳: ♪おめでたと、おくやみ
千歳: ♪昼も夜も馬車馬
千歳: ♪訴訟はたっぷり
千歳: ♪社会的評価少々
千歳: ♪地雷はお好みで
千歳: ♪あっけなくステっちゃう
千歳: ♪隠し味よ
千歳: ♪スリル満点 ギネ科の一人医長

千歳: ウン、美味しそうにこんがり焼けたわっ。あとはギネがネギしょって来るのを待つだけね。うふ。
わぴこ: ちーちゃん、これ1個いくらで売るの?
田中山: 原料の生産と配送で排出された二酸化炭素は200単位、調理で排出される二酸化炭素は100単位ですから、500単位で販売すれば儲けが出るかと。
千歳: 高過ぎるわっ! 私たちが排出する分は1個あたり50ってことにして、300で販売するのよ!
わぴこ: 300出して300ならカーボン・ニュートラルだね、ちーちゃん。

アントワネット: あら、この香りは…。トキせんべいの香り。お一つくださる?
わぴこ+千歳: いらっしゃいませー。
千歳: 熱いですから、気をつけてくださいね♪
アントワネット: トレビヤン!
千歳: ねえ、聞いた聞いた? トレビヤンですって! わたしのトキせんべい、大好評よ。
ぎょぴ: チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんなトキが飛んでいるもんか…。あっ、またまた突然失礼しました。ぼく、ぎょぴ毛の心の声です。『しょせん、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、この人をばかにしながら、この人のお菓子を食べているのは、大へん気の毒だ』ってね。えっ、意味が分かんない…? 「銀河鉄道の夜」のジョバンニのせりふだぎょぴ~。金魚が空を飛ぶんだから、お菓子が空を飛んでもおかしくないよねっ。それとも、お菓子がお空の星になるんじゃなくて、お空の星がお菓子になるのかしら…
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: 田中山さん、判定は?!
田中山: クンクンクン。(キンコン・キンコーン)右旋性! 右旋性! 本物の炭素証券です。
わぴこ: 何だ本物かぁ。
わぴこ+千歳: つまんないの~。

犯人(ニセ証券のつまったかばんを抱えて歩きながら): 祇園ぎおん精舎しょうじゃの鐘の音。諸行しょぎょう無常の響きあり。
犯人: ムッ、このにおいは…。トキせんべいのカホリ。絶滅の味!
犯人: (トキせんべいの屋台にものすごい勢いで走り寄って)この炭素証券で、そのせんべい、買えるだけ全部ください!
わぴこ: えーっ。それだけ全部?
犯人: はいっ!
千歳: わぴこ、大量注文よ。さあ、忙しくなるわよ。
わぴこ: きゃるめらっ!
わぴこ: ちょっと待って、ちーちゃん。ほら…
田中山: (ブーッ・ブーッ)左旋性! 左旋性! インチキ証券! 許すまじっ!
千歳: えっ。…ということは?
わぴこ: そうだ! このおじちゃんが、ニセ証券犯人だ!
犯人: ば、ばれたっ!
千歳: 田中山、行けーっ!
(犯人は取り押さえられるが、その乱闘で…)
わぴこ: ありゃりゃー。ニセ証券が…。ばらまかれたぁ…。
千歳: そして、実体のない亡者どもが、集まってきたわ…。
わぴこ: まぁいっかー。犯人はつかまえたし…
犯人: 今は反省してます!
わぴこ: 亡者どもは喜ばせたし…
(散らばったニセ炭素証券にむらがる人々)
亡者1: やったー。この炭素証券で冷暖房をガンガン使えるー!
亡者2: やったー。この炭素証券で石油をいくらでも使えるー!
亡者3: やったー。この炭素証券で森林を伐採しまくれるー!
わぴこ: これにて任務完了~。貧民パンでも食べに行く?
千歳: おおっ!
ぎょぴ: ぎょぴー!

ED

※注: オリジナルは『ツッパリHighschool Rock’nRoll』。以下はメタ・パロディーとして別の曲(ホネホネロック)。

校長 (シャウト): わぴこくん、終わりが始まります!

*

わぴこ: 人食い秀ちゃんが 大だいこ
わぴこ: 月夜にこっそり たたいたら
葵: ピンクの金魚の ぎょぴちゃんが
葵: ハートを描いて 踊ったぜっ
わぴこ: ホネホネロック
コーラス: ホネホネロック
わぴこ: ホネホネロック
コーラス: ホネホネロック
わぴこ: ホネホネ~エッ! ホネロック
校長 (シャウト): 皇太子妃をどこまでいじめれば気が、気が、気が、済むんだぁ!
校長 (シャウト): 夕日なんて どゎぁいっ嫌いだぁ!

次回予告

(♪そーこーのー だーれかさーん…)

わぴこ: 穴を掘って埋めた校長先生の顔に、見る見る不気味な斑点が!?
千歳: 一方わぴこは、ぽてちの食べ過ぎで虫歯寸前!
わぴこ: 危うし、悪代官!
千歳: 危うし、いけっち店長!
わぴこ: 『OH! スーパーわぴこチャン』、「わぴこのびわこ国体」と…
千歳: 「Tōkai Tokaino学園とか言っちゃって?」
わぴこ: あしたも花マル、元気になーれ♪

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