ネスケの4.78が出てます。4.77からの変更点ですが、リリースノートによると、Windows のホイールマウス(インテリマウス)のサポート向上、Sun Javaプラグインのサポート向上、細かいマイナーバグフィックス、AOL Instant Messenger と Flash Player 5 がバージョンアップ。だそうです。
なにかと評判の悪いネスケ4ですが、スタイルシートを無効にすれば(edit - preferences - advanced にて「Enable style sheets」のチェックを外す)、文字中心の軽量ブラウザとしてある程度、存在意義もあるのでは、ないでしょうか。
スタイルシート有効(デフォルト)でのブラウザ画面は、4.77と変わりばえしないので、あえてスタイル指定を無効にした場合の画面をキャプチャしてみた。スタイル指定に対する反応は妙ちきで予期できないネスケ4だが、スタイルをオフにしてしまえば軽快で明晰だ。文字色のような飾りを排した姿は見ようによっては、エレガントともいえる。画像を見る[24kb]
ダウンロードサイズ22.4MB、インストールサイズ59.7MB(手元の Windows 版でフルインストールの場合)。容量の半分は RealPlayer8 Basic 、更新されてないけど同梱されてるということのようです。インストールすると、勝手なことばかりしてうっとうしい real だけど、あればあったでストリーミングはBGMばかりか語学学習にも使えてべんり。勝手に常駐するのは不愉快ですが、そういうときは、窓の手の「自動実行」タブから「削除」すればEnable StartCenter のチェックを外せばOK。他方、インテリマウス対応うんぬんですが、手元で試したところ、ブラウザのヘルプをひらいたら中ボタンが使えませんでした(中ボタンクリックで閉じるの設定にしてるのですが機能せず。ネスケのメインウィンドウは、ちゃんと中ボタンで閉じます。また中ボタンの「ぐりぐり」は、ちゃんと機能します)。
いくらなんでもブックマーク文字化け問題は、もう修正されてると思いますが、判然としません……手元で試した限りでは化けません(なおってます)が、どのバージョンで直ったのかうやむやのまま。4.77で修正されたとする人もいましたが、窓の杜は当時、4.77では未解決だと主張していました。現在、窓の杜のNetscapeのページをみると、「v4.7xではブックマークの日本語が文字化けをおこすことがあります」という、あいまいな記述。誤報にならぬよう責任回避な書き方をしている面もあるでしょうが、それより、ネットスケープ・コミュニケーションズ社が問題が修正されたことはおろか、そもそも問題が存在すること自体、公式に認めていないというありさまで、そっちがむしろ不誠実です。たぶんどれかのバージョンの「いくつかのささいな不具合を修正」という表現のなかに含まれてるのでしょう。(文字化け修正は、実質的には、日本の一ユーザが使った非公式なパッチの適用が標準的な方法だった。もしこの親切なユーザがいなかったら、ネットスケープは今ごろ……)
なお、一般に、文字化け問題は4.74のエンバグと思われてるようですが、前にも書いたように、じつは大昔の4.51フィンランド語版でもまったく同じ問題がありました。窓の杜の「4.7x」というぼかした書き方でもじつはまだ誤報で、言語によっては「4.5x」でもブックマークが壊れます。といっても、窓の杜の読者のほとんどすべては日本語版か英語版しか使わないでしょうから、実用上、「4.7xの問題」で良いでしょう。
証拠画像:Netscape 4.51[fi] —— 左が日本語版のブックマークを引き継いだ直後、右が次回起動時。Netscape 4.74[en]とまったく同じ文字化けパターン(ル→・#139; など)が生じる。つまり、この問題は 4.7x に特有では、ない。
考えてみると、ネスケ4の日本語版は4.75を最後にもうまる1年近く更新されてないわけです。内容が古すぎの文字化け修正情報のページがいまだに毎日たくさんアクセスされているのは妙だと思っていたのですが、「ネスケ4日本語版の“最新版”はブックマークを破壊するならず者で、ネスケ社がそれを一年も放置したままだ」という事実に着目すれば、あんな古ぼけた情報でもそれなりに需要があるのかもしれません。
もう少し明るく考えるなら、ブラウンオリフィス、ブックマーク破壊……とネスケ4が次々ととんでもないことをやらかしたのは、わざわい転じて福とも言えます。仮にネスケ4がこれほどひどいブラウザでなかったら、それなりに使えてしまうので、新しいものを試すのが苦手な人々がそれをしつこく使いつづけ、結局、ウェブ上のネスケ4汚染が今ほど急激には改善されなかっただろうし、ニーズがある限り、ネスケ社もサポートを続けざるを得なかったかもしれないからです。ここは心機一転、ネスケ3がそうなったのと同様、ネスケ4のことは忘れて、ネスケ6をちゃんとすることに集中してほしいと思ってます —— 個人的にはモジラのほうをおすすめしますが、Outlook Express の Hotmail 連動がべんりと思うかたがおられるように、Netscape の Webmail 連携が重宝なかたもおられるでしょう。
4.78のリリース、第一感としては、正直、意外でした。4.77のときはモジラが若かったので Linux のひととかの需要があるのだろう……と思えたけれど、いま「4.78」って何の役に立つのか……。善意に解釈すれば、本当に単なるマイナーバグ修正だけ……ということでしょうか。現場の開発者としては、バグを修正したい良心があるのは当然でしょう。また、もっと経営的な「上層部」の判断として、「Netscapeは死んでいない」といちおうアピールしてみる意図もあるのかもしれません。しかし、ネスケ4のサポートを続けることは現状、プラクティカルな意味があるし、ネスケ4の直接の改善の形でCSS対応を良くするという道もあり得るわけで、「ネスケ5」というバージョン番号が空いているのは、あんがいだてじゃないのかも。
ネットスケープ社のネスケ6についてのたてまえからすれば「ネスケ4は obsolete である、当社はもうネスケ4をサポートしない」というのが筋ですが、現実問題として、そうしたW3Cピューリタニズム、モジラ原理主義は、Mozilla神のために128MBのお布施を捧げられる裕福な者以外には、とうてい受け入れられないでしょう。モジラがメモリ空間を節約するか、または、メモリをギガで数えるのが当たり前の時代になるまで(ごく近い将来でしょうが)、ネスケ4みたいな軽めのブラウザの需要は、あるでしょう。
ここで「モジラ原理主義」というのは、挑発的な表現ではあるけれど、単なる記述概念です。「W3Cの正しい教えを完璧に具現した存在であるブラウザを世界中に広めよう」という気持ちのことです。モジラが実際に、標準準拠を果たしている唯一のブラウザであるとすれば、この気持ちには、共感できる部分も大きいでしょうし、もし実際には標準準拠の不完全さが目立つようなら、「なまぐさ坊主の説教」とも見られるかもしれません。また、仮に不完全な点が多くても、それに対して率直で謙虚なスタンスであれば、好感を呼ぶでしょうし、仮に完全な標準準拠を実現していても、権威主義的にごり押しするようであれば、反感を呼ぶかもしれません。
まだまだ世界中には16MBのマシンを使っている者もいるでしょうに、公称64MB(実際には128MB)以上必要とするモジラは、けっこう要求が高いです。ネスケ4なら半分以下のリソースでも動くでしょう。
モジラを支持したいと思うかたの多くは、もちろんモジラの問題点も認識していると思われますが、なかには悪い意味で先走った動きの傾向もあるようです……若々しい改革精神は分からないでもないですが、今のモジラは、もっぱらモジラ自体のパブリックテストのために(フィードバックを受けるために)公開されているとみるべきで、それに照らして判断するような権威ある教典では、ありえません。布教活動は、標準準拠の看板からいつわりをなくしてからでも遅くないでしょう。灰色の教典でなく潔白な教典をもって。
例えば、list-style-image の透過画像を透過させられないネスケ6.1をもってきて「このブラウザで正しく表示されないページは正しくない」と言い張るのはナンセンスでしょう。表示が乱れるのはモジラの側のバグだからです。今は、ウェブ作者の側がモジラのバグに触れないようにあれこれ苦労している段階で、実際、6.1が正式公開されたのでやむなく list-style-image を透過画像でない画像に変更しましたが、これは「ネスケ4の機嫌をとっている」ときの、あのムダな労力を強いられる感覚そのものです。
こうしたたぐいのごまかし的な回避の知恵を「福音」と呼ぶネスケ社も冗談半分なのか本当に変に神がかっているのか、はたまたアニメファンの受けを狙ってるのか知りませんが、それでもなお、まともなHTML4ライターから見ればネスケ4よりずっと好意的に見られているネスケ6でありモジラ。今のところは —— 。逆にいえば、それほど嫌われているネスケ4。 —— とすると、論理的帰結として、それほど嫌われているネスケ4より相対的にずっと好ましいと思われているネスケ6というのは、絶対スケールに換算すると、あんまり好まれているとは限らない。嫌われ者のネスケ4よりは好きだ、暗黒よりはずっと明るい色だ、という相対的な話にすぎず、いろんな意味で微妙。今のモジラを見る限り、一部の関係者が夢想しているらしい「福音をたずさえてきた預言者」なんていう歓迎のされ方は、あり得ないでしょう。むしろありそうな話は、ネスケ6完成版の鳴り物入りのリリース翌日、妖精現実に「Mozilla 1.0 と IE6 —— めくそはなくそ」なんて記事が出て、「標準準拠をあんなに強調していながら、モジラは、実際には、こんな単純なCSSも正しくレンダリングできない」という実例を証拠画像入りで10も20もさらされてしまう、ということです。細かな不備それ自体をとやかくいうつもりはないですが、またぞろ不備がたくさんあるのにネスケ社が「これはMSIEより優れているのだ。IEは邪悪だ」とほのめかすとしたら……。こっけいというより逆効果でしょう。今でもすでに「標準準拠が来たぞ~」と叫ぶオオカミ少年になりかけてるのに。
けれど暗黒より明るいことを根拠に自分は純白の光だと信じる者が必ず現れるでしょう。そんな灰色の仕様のうえで。日本語のなかに(セムハム系の文字どころか)ウムラウトやアクサンのついたヨーロッパの文字を混在させられないネスケ4からみたら、たいていのものは、りっぱに見えます。歴史が教えるところによると、憎い共通の敵をほろぼしたあとには、たいていうちわもめが生じるもの。今はネスケ4排斥という一点で多くの人が一致していますし、いずれにせよ、今のネスケ4は早晩すたれるでしょう。
それは良いのですが、そのあと、W3Cが規定してない部分についてモジラが採用している実装がデファクトスタンダードになって、実質的にだれもが「モジラでの見えかた」を基準にし、気にする、「こう書いたほうがモジラではきれいに表示される」という発想になってくるとしたら、その状況を皮肉に感じる者もいるでしょう。
ウェブページを書く立場からすれば、IEであれ、ネスケ4の後継(もしでれば)であれ、ネスケ6であれ、要するに標準準拠であれば何でも良いのであって、HTMLを実用にたえる程度にちゃんとレンダリングしてくれればたくさんです。「標準準拠のブラウザならどれで見たってほとんど同じ画面だからブラウザの選択は単に好みの問題」と言い切れる日が早くきてほしいのです……いっそ世界中モジラだけになったっていい。ちゃんと表示されるのなら。
しかし、今のモジラのような、CSS以前に文字を正しく表示できないブラウザが国際標準になってしまうのは好ましいとは思えません。i18nと言いながら主要な国際語の一つであるアラビア語を綴れないのは、いかにも不本意。初めからアラビア文字をサポートしないと割り切ればまだしも、語頭だろうが語中だろうが全部、独立形にしてしまうモジラのいい加減なアラビア語サポートは、正確でエレガントなアラビア語表示ができるIE5に大きく水をあけられている点のひとつ。もちろんモジラのほうがすぐれている点も多いのですが、「標準準拠」の勝負は決して一方的でなく、一長一短。そしてウェブを書く立場というよりブラウザを使う立場からすると「標準準拠」だけが唯一絶対の基準でもなく、へたれたネスケ4のほうがずっとマシな面すらあります。
ネットスケープにしても、現場でモジラの開発に加わっている開発者のかたの気持ち(良いものを作りたい)と、経営陣のかたの考え(おかねを儲けたい)は異なるでしょう。
そんなあれこれのさなか、もう終焉と思われていた Netscape 4.7x が 0.01 バージョンアップしてリリースされたのを、あなたはどうごらんになりますか……?