正論のゴリ押し

概説

本稿は私と id:oidashiya さんのやり取りをまとめたものです。表向きのテーマは、マンションの管理業者は「怠慢」なのか? といったあたりですが、私の主張の核心は「正論だけで世の中が回るはずがない」です。

よほど特別なケースでない限り、管理費を払わない住人に対してマンションの管理者は強硬策を取れません。マンションの管理費は、膨大な人件費を要する強硬策を実行するには安過ぎるからです。悪徳住人の管理費滞納は他の住人の不利益に直結していますが、強硬策にかかる費用を負担する方がつらいと考える住人が多いから、マンションの管理費は低額に据え置かれています。

id:oidashiya さんは、管理業者が滞納住人に対し弱い対応を続け、滞納が時効になるのは怠慢だと主張されます。なるほど正論ですが、無茶な意見です。安い管理費と強硬策を両立させる妙案があるならば、id:oidashiya さんはマンションの管理業者に転職なさった方がよいでしょう。

「やるべきこと」と「実際にやれること」には乖離があります。理想は理想、現実は現実です。それはお互い様であるはずで、正論をゴリ押しして「やるべきことをやらないのは怠慢だ」と糾弾する意見には賛同しません。

時効が成立している以上、id:oidashiya さんは前住人の滞納した管理費の一部を払う必要がありません。であれば、こちらも商売ですから最小限しか払わないのは当然です。ただ、管理費を取り損ねた管理業者を自業自得のように書くのはどうか。理屈ではその通りだけれども、理屈通りにいかない現実をなぜ斟酌しないのか。子どもを叱る大人には、正論を貫く蛮勇も必要かもしれません。しかし大人同士なら、お互いの事情を汲んで付き合っていくべきではないのか、と私は思うわけです。

最高裁判断の悪用[2004年4月27日]

id:oidashiya さんはマンション管理費滞納は5年間で時効成立――最高裁判決という記事ではまともなことをいっているのに、早速、管理費等債権の時効について、管理会社に「時効消滅した分は払わない」と言ってみたに書いているような悪用を始めている。

私は id:oidashiya さんとは意見が異なり、ぬるい管理で問題なく回っていく社会を望む。最高裁が短期消滅時効の適用により,不誠実な一部の滞納者がその納付義務を容易に免れる結果とならないようにするための適切な方策が,立法措置を含め十分に検討されるべきものと考える。と述べているのは、ふつうの管理人がふつうに管理していても悪徳利用者のゴネ得が生じないよう、法整備すべきだという意図だろう。

基本的に管理会社って管理費等の徴収に関しては、適当であり、せいぜい内容証明を送るのが関の山。管理をする会社というよりも、人材派遣や大規模修繕工事の斡旋業というところが大部分ではないでしょうか。事実、だからこそ、管理費滞納者が多い。

管理会社は、その名の通り「管理」を標榜するのなら、単なる人材派遣業・斡旋業から脱却し、管理費・修繕積立金をしっかりと回収して貰いたい。そして滞納者を出させないで貰いたい。

マンション住民は真の意味で「管理」をしない管理会社を即刻契約解除し、「管理」を行う管理会社、もしくは自ら進んで自主管理にし、自分たちで自治を守るくらいの意気込みをもたなければならない。

さすれば、管理費・修繕積立金等滞納問題並びにそれに起因する問題はなくなる、とそう思う次第です。

この id:oidashiya さんの提案を望ましい社会のあり方と考える人は少なかろう。内容証明を送付し続けることで時効を不成立とするよう法改正し、ゴネて逃げ切る悪徳住人の退路を断つ方向性こそが望まれているのではないか。

……と私は考えるので、id:oidashiya さんが最高裁判断を盾に悪辣な真似を始めたことを苦々しく思う。時効だから払わなくてもいいのかもしれないが、払うべきものには違いないのだ。刑事事件の公訴時効だって、時効を迎えたから犯人はもう反省しなくていいというものではない。真実が闇の中に消えていいというものではない。時効成立後であっても、犯人がわかれば警察は取調べをやるではないか。どうもそのあたりを勘違いされているのではないかと思う。

ネタにマジレスという奴なのかもしれないが、たいへん不愉快なネタであるということだけは申し上げておきたい。競売業者がこういう商売をしていることは承知しているつもりだったが、堂々と日記にその様子を書かれると怒りを感じずにはいられない。

言葉の選びよう[2004年4月28日]

なるほど、id:oidashiya さんのご意見は理解しました。

時効消滅を理由にして管理組合に対し、「消滅した債権すべてを放棄しろ」といっているわけではありません。あくまでもワタシが言いたいのは「特定承継人として時効消滅分までは元の所有者に代わり滞納債務を認め、これを支払うが、残りの部分は元の所有者に請求するべきではないか」ということです。

そういうことであれば、納得できます。私が id:oidashiya さんの立場・仕事とやり取りの意図を誤解していたことを認めます。誤解の大きな原因のひとつが私の不勉強にあることは明らかで、その件もお詫びします。すみませんでした。

しかし管理費等債権の時効について、管理会社に「時効消滅した分は払わない」と言ってみたを読むと、やはりむかっ腹が立ちます。私のいる世界では紳士的な対話によって双方の事情を積み上げていき、お互いに妥協点を探るのが一般的な交渉のやり方です。ガクを武器にしておじさんを痛めつけるようなやり取りの記録は、読むに堪えません。発言内容の是非以前の問題として、私はおじさんに味方したくなります。

そして。

ウチの会社のような特定承継人が係る債務を支払うのはあくまでも代払いですので、少なくともワタシはその代払いした部分を元の所有者に対し、法的に請求します。そのように買受人さえ出来ることが、何故管理組合もしくは管理会社が出来ないのでしょうか?

逆に、なぜできないのかを想像してほしいのです。私自身は管理の仕事をしている者ではありませんが、遠戚にはアパートのオーナーもおります。ドライに法的措置を取れない現場の事情があるのです。動かないものを動かすプロの id:oidashiya さんが、やって当然のことをしない(できない)管理業者に苛立つお気持ちはわかります。しかし原則論を貫けば、多くの場合、管理に失敗します。滞納者さえ一掃できれば、後はどうなってもよい……というわけにはいかないのです。

そのことは id:oidashiya さんも毎度の付き合いで承知されているはずです。であれば、もう少し言葉の選びようもあったでしょう。

甘い、そんなことでは追い出し屋は勤まらない、とおっしゃるかもしれません。もしそうであれば、せめて(現場の生のやり取りを記した)記事の前後に、管理側の事情に対する今少しの斟酌の言葉が補われていてしかるべきでは? はてなは不特定多数の一般読者を対象とした情報発信の場なのですから。私が自身の不勉強(による無体な批判)を棚に上げていうことなので説得力に欠けますが、無用の敵を作るのは戦略上よろしくないはずです。

補記

仕事って、売上きっちり回収してきてナンボですよ?と id:happu さんが仰るのは正論でありますが、売上が増えても経費がそれ以上に増えては意味がないこともご理解いただけるかと思います。アパート管理業は、ややもすると慈善事業になってしまいます。強硬な管理費徴収は住人の消費者意識を呼び覚まし、要求のエスカレートを招くのです。逆恨みも怖い。そんなことで商売ができるか! とお怒りになるかもしれませんが、筋を通せば角が立つのが世の中です。悪質な相手には対応を変えますが、追い出し屋と管理業者では強硬策と柔和策の分水嶺が異なります。

トータルで見たとき、徴収最優先の方針が成功をもたらすとは限らないのが、(私が多少の実状を知っている個人経営のアパート管理業においては)現状であろうと思うわけです。「仕事をサボってきた管理業者に灸を据える」という大義名分を掲げ、最高裁判決を盾に強引に押し切るような物の言い方には反感を覚えます。

交渉に関する見解にはワタシと徳保さんの間には大きな隔たりがあるみたいです。(中略)ワタシの交渉は、相手やその場の状況に応じ、硬軟変化を加え行っています。時には土下座営業並みの交渉を行い、時には圧迫面接の如き交渉を行う。

交渉というのは、お互いの妥協点を探りつつ、如何に自己に有利な展開を見出していくか――それが交渉のあるべき姿だと思います。

私が件の交渉を行うとすれば、概ね以下のような話し方になりましょう。大部分 id:oidashiya さんの発言を引用しておりますが、印象はかなり違うかと思います。

いつもお世話になっております、Aマンション○○号室の所有者会社です。ウチ、競売でこれを落札したんですけど、管理費結構たまっているようですね。いただいた請求書を拝見しますと、トータルで200万以上ですか。物件をきれいにしたいのはやまやまなんですがね、昨今、こちらも商売が厳しいものですから、これを全部ですね、元の所有者に代わってお支払いするということはできないんです。先日の最高裁判決にもありましたように、時効になっている分については、勘弁していただきたいんですね。一通り調べてみたのですが、内容証明の督促等は時効の停止事由にはなりそうなのですが、時効の中断にはなりそうもないんです。そのあたりご確認いただいて、もう一度、時効消滅分を差し引いたもので債権を確定させて下さい。5年分ですね。そこまではお支払いしますので。では、そういうことでよろしくお願いします。

今回、うまく話せば管理業者に恩を売ることさえできたかもしれないのです。果たしてゴリ押し風に行くべき場面だったのかどうか、私は疑問に思います。

id:oidashiya さんとのやりとり・その3[2004年4月29日]

今回はワタシの判断で交渉を行いましたが、その交渉方法とワタシの話し振りとBlogでの記載ぶりが徳保さんにとってみたら気に食わないみたいですが、ワタシは交渉に関してはプロですので、この状況の判断が間違っているとは微塵も思いません。

最初から書いている通り、世界が違うのだから、強い調子の交渉が正しい場面があるのでしょう。それは認めています。ただ、私は背景・真意の説明がない最初の記事を読んで、非常に不愉快でした。特定承継人が滞納債務を全て引き継ぐものと勘違いしていたので、これはひどいなー、と思った。だから悪用とか悪辣といった表現をしたわけです。

翌日の説明を読み、id:oidashiya さんが悪いことをしていたわけではないと理解しました。そこで、勘違いしていた部分について、お詫びしたわけです。

けれども、交渉場面を読んで腹が立つことには変わりありません。やっぱりおじさんに同情したくなるんです。そこで、その理由を書きました。

大体、「昨今、こちらも商売が厳しいものですから、これを全部ですね、元の所有者に代わってお支払いするということはできないんです」って、そんなこと相手側に言うべきことではありませんし、言っても意味がないことです。

こちらとしてもウチの会社に金があるないで時効の援用を求めているからではないからです。今回は時効援用を受けられそうだから、そう主張しているまでであって、援用を受けられないのなら買受人の立場としては管理費等滞納金を代払いするまでのことです。

いや、ですから、時効とは関係なく滞納分は全部払ってほしいわけでしょう、管理業者は。でも時効援用を受けられるならその権利を主張するのが id:oidashiya さんの立場です。商売上、それは当然だと思います。けれども、相手の立場に何ら配慮しない物言いは、読んでいて不愉快なんです。

交渉のプロを自認する id:oidashiya さんが言っても意味がないとおっしゃるのだから、実際の交渉ではそうなのでしょう。ただ、この世界に疎い私などが交渉記録を読む分には、かなり印象が違います。以下に補記した通り、私と id:oidashiya さんとでは意見の対立があります。しかし、文章から受ける印象がもう少し違っていれば、展開も違っていたろうと思うわけです。

ところで、「管理会社に恩を売る」という発想がよく分かりません。について。元の所有者からは管理費を徴収できなかったわけです。だからうまく話せば、5年分もいただけるならありがたい、と相手に思わせることができたかもしれない……という話です。素人考えなので、実際にうまくいくかどうかわかりませんが。

補記

今回のケースに限らず、数多くのマンションで滞納金の問題が発生しています。この現実を見据えると、これに対する自衛というのを行わなければならない、というのは至極もっともなことではないでしょうか。

今回の文章は、特定承継人の権利を行使するべく、時効の援用を行った場合の効用を書くとともに、元々の所有者の滞納金を黙って看過していたプロにあるまじき管理会社とそれについて何の疑問も持たない管理組合に対する問題提起として記したという次第です。

アパートの大家業とマンションの管理で諸条件が全然違うのかというと、そうでもないと思います。実家は長らくマンションにあって、二十歳になるまで私はそこで育ちましたが、マンションで起きるトラブルはアパートでのそれと似ていまた。(ちなみにアパートの家賃の明細には管理費の項目があって、一人の滞納がみんなの迷惑になるという構図は同じです)

マンションには20〜50世帯に1世帯の割合で頑として管理費を払わない方がいましたから、組合全体では常に4〜10世帯ほどの問題世帯を抱えていたことになります。しかし、行くところまで行ったのは1事例だけでした。町内会も含め、きちっと管理費を徴収するため万難を排して臨むという姿勢の管理組合にはお目にかかったことがありません。毎年、組合の役員が交代しますが、何度代替わりしても同じでした。「万難」を無視できないのです。

id:oidashiya さんのご意見は正論ですが、仮にそれで必ず成功するのなら、そのような管理業者がこれからだんだん増えていくだろうと思います。儲かる会社が生き残るのが資本主義社会ですから。逆に現在、強硬策を取らない業者が淘汰されずにいることには、ちゃんと理由があるはずです。滞納者に怒りを感じない管理組合はないでしょう。ではなぜ強硬策を取る業者に依頼しないのか。あんまり簡単に、この疑問を切り捨てないでほしいのです。

とはいえ、これ以上は平行線かもしれませんね。

追記:2004年4月30日

2つの疑問が出されていますが、いずれも既に説明しているつもりです。以下、再度説明します。

争点の軸がずれた理由

当初は特定承継人が滞納債務を全て引き継ぐものと勘違いしていたので、最高裁判断を盾に時効になった分を払わないという id:oidashiya さんの発言を非難しましたが、この件は当方の勉強不足を認め、お詫びしました。「管理費等を支払わない=悪質である」という主張は変わりません。しかし、id:oidashiya さんに対する批判としては筋違いだったということです。

「管理会社は悪くない」というのは、第2の争点です。前述の勘違いを正しても、私は id:oidashiya さんの交渉記録と主張には賛同できないままでした。それは何故か、という話をしているわけです。

強硬策を取る管理業者が少ないとすれば、需要がないからです。あるいは、強硬策に必要な経費を負担する管理組合がないからです。私の経験から、強硬策を避けたがる管理組合の現状を指摘しました。盗人にも三分の理といいますが、管理業者にも言い分があります。

「ワタシの書きようが無用の敵を作る」という発言の趣旨

相手の立場を斟酌せずに強く出る態度は、内容以前の問題として反感を買います。実際の交渉でそのような態度が必要で、それをそのまま記録することにも意味があるという立場は理解します。しかし、一般向けの記事として書く場合には、注釈をつけるなりして相手の立場への配慮を示した方が反感を買いにくいはずです。仕事をサボっている管理業者に同情の余地は一切ないなどと冷たいことをいうと、冷たいというだけで反感を買うでしょう。

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  8. 書きようのまずさのある文章はどちらだ?
  9. 本稿

id:oidashiya さんとのやりとり・その4[2004年4月30日]

きちんと仕事する管理業者が待望されており、それが商売として成り立つのなら、これは大きなビジネスチャンスです。1代で全国規模の会社を作れますよ。また id:oidashiya さんはウチの会社は当該マンションの区分所有者ですと仰る。たしかに私の知る管理組合にだって、強硬派が一人もいないわけではありません。ただ……もうやめます、この話は。既に述べた以上の材料はこちらにありません。

そして第一、「時効援用」の件に関しても、こちらの立場を考えず、管理会社のおじさんの主張にばかり肩入れしているではないですか。とのことですが、実際の交渉でそのような態度が必要で、それをそのまま記録することにも意味があるという立場は理解します。と私は書いているでしょう。最初から競売業者がこういう商売をしていることは承知しているつもりだったとも述べております。

私は id:oidashiya さんの主張を全否定していません。私は id:oidashiya さんの主張は正論だと認めてきたつもりです。だからネットに公開する手段としての「ワタシの文章」がただただ気に食わない、という旨というのは当たっています。「あなたの意見は正しいと思うが、そんな言い方はないだろう」という批判(第2の論点への移行後)は、よく見られるものでしょう。

ようするに、私が「一歩譲ってはどうか」と意見したのに対して id:oidashiya さんが「正論をいっているのだから一歩も譲らない」と返答している状況なんだと思います。私にはもうこれ以上の説得材料がないし、逆に id:oidashiya さんの発言も同じ内容の繰り返しになっているようにお見受けします。これ以上は平行線でしょう。

補記:「追い出し屋」という職業名について

id:happu さんが id:oidashiya さんを業界の先輩と呼んでいらしたので、意味の広い「不動産営業」よりも「追い出し屋」の方が正確な表現だろうと考えたのです。そちらの業界では普通に使われる言葉なのかと思ってそう呼んだわけですが、id:oidashiya さんご自身がいい意味の言葉ではないと仰るので困りました。無知をお詫びします。ちなみに私はメーカー勤務ですが、こちらには「屑屋」と呼ばれる職があります。これは決して悪い意味の言葉ではありません。