趣味Web 小説 2005-07-31

Advice343 論客コミュニティ

ご依頼人と Web サイトのご紹介

管理人の飲茶さんは哲学・科学系のコラムサイトと株取引日記で人気を博しています。そんな飲茶さんが心機一転スタートさせたお役立ちサイト飲茶ファンドの大型コンテンツ第2弾が、論客コミュニティです。飲茶さんの説明を引用します。

2ch風の議論掲示板です。

専用サーバを借りて、1からプログラム(JSP)を書いていますので、議論を円滑に進められるようなアイデアを随時追加していくことが可能です。

現状、以下の機能が実現されています。

  • コテハン制
    →ユーザ登録による固定ハンドル者のみ書き込み可能
  • 論者評価システム
    →参加者による評価ボタンにより、論者の評価が可能。
    →将来的には、評価の低い論客には、書き込み不可などのペナルティを考えています。
  • スレッド監視システム
    →任意のスレッドを監視スレッドとして登録することにより、更新のあったスレッドを知ることができる。

目玉は、やはり論者評価システムだと考えています。

議論系の掲示板やMLには、ときたま、DQN(支離滅裂なことを言う人、罵倒する人、的外れな人、頑固な人etc)がやってきます。

今までは、DQNが来るたびに、誰かが相手をして、かなり精神的な負担を強いられたわけですが、匿名の評価システムにより、そういう人をうまく排除できるのではないかと考えています。

また、DQNを罵倒する人、DQNに間違いを認めさせようと迫るタイプの人も、その行動が、マイナス評価になるのが自明ですので、その行動を抑制できるのではないかと期待しています。

なるほどー。

ご相談の内容

使い勝手もそうですが、ネット上で議論を円滑に行うための工夫やアイデアがありましたら、アドバイスのほどよろしくお願いします。

(スキル的に実現不可能でも、イメージでも抽象論でもかまいません。徳保さんなら、どう考えるだろうかということに興味を持っています)

アドバイスいろいろ
1.

このご依頼、どうしようかと迷ったんですよね。じつは6月の頭にはアドバイスの新規受付を停止していたのに、多分、注意書きを見落としたんでしょうけれども、このご依頼があった。本来なら反則なので却下するところなんです。ただし「あらためて依頼しなおします」といわれたら「ハイどうぞ」なので、あまりこだわっても意味ないかな、と。却下する時機を既に逸していると思う(2ヶ月も待たせている)こともあり、アドバイスすることにしました。

とはいえ、このご依頼は私の手に余りますね。お言葉に甘えて、私見をつらつら書きます。

2.

2ch 風の掲示板、ということなんですが、似ているのは見た目やスレッド処理などの部分であって、基本思想は全然違うのですね。

ユーザ登録してログインしないと書き込めないんですね。それだけならともかく、書き込みフォームに名前欄がない。つまり、登録したコテハンを絶対に名乗らなければならないのです。これはふつうの掲示板よりよほど徹底したシステムといってよいでしょう。はてなユーザしか書込みできない設定のはてなダイアリーのコメント欄のような感じ。

ただしユーザ登録に必要なのはメールアドレスのみ。無料メールアドレスが簡単に通るので、捨てメアドでダミーアカウントを無数に作ること自体は可能です。ただし現在は書き込みユーザ数が少ないので、特定の人物に援護射撃ばかりしていると、簡単に多重アカウントがばれそうです。カッチリとした作りの掲示板だなあ、と思いました。

最新50件のみ表示、100件ずつ表示、などなど閲覧に便利な仕組みはきちんと用意されているという印象。スレッド監視システムも便利ですね。6スレッド以上登録するとスクロールバーが出てしまうインターフェースには疑問がありますが……。案外、overflow の指定を外しても問題ないんじゃないでしょうか(その代わり広告を上に持っていく)。まあ、どっちもどっちという感じもしますので、「これが正解」とはいいづらいのですけれども。

3.

使い勝手という点で、私が最も気になったのは、投票の面倒くささでした。たしかに幅広い環境に対応しつつ云々ということになると、現在のような仕組みにならざるをえないのかもしれません。けれども、この際、JavaScript 必須にしてしまってもいいと思うんですよね。

私が何を考えているのかというと、「Ajax を使えないか?」と。JavaScript の組み込みクラスである XMLHttpRequest を利用した非同期通信を利用して、画面遷移を伴わずに投票できたらいいと思う。

もう少し具体的に書きますと、現在、CGI から直接 HTML 出力している投票結果を、JavaScript の出力結果に変えるわけです。そして、JavaScript が読み込む変数の値を XMLHttpRequest を利用した非同期通信により取得することにするのです。

イメージを書きますと、投票ボタンを押すと、確認ステップとして小さなポップアップダイアログが出現し、そこで OK とすると、サーバにデータが送られます。そしてその結果を反映した新しい数値を読み込み、投票結果に反映するという仕組み。この通信に JavaScript を利用すれば、画面遷移が不要になるのでは? やり取りするデータ量は非常に小さいので、Google Suggest 並の高速な投票結果反映が可能なのではないかと愚考しております。

正直いって私はこの道に暗いので、イメージだけで書いていることはご容赦願いたい。ただ、とにかく現在の投票システムはつらい。画面を2回も読み込みなおさなきゃいけない。しかも投票終了時の画面は、またページの1番上に戻ってしまっている。これでは、書き込みを読んで気軽に投票、というわけにはいかない。「よーし投票するぞ!」という気合が必要です。それは飲茶さんの狙いと違うだろうと思うのです。

投票数より書き込み数の方が多いという現状がありますが、それは端的に、投票するより書込みする方が簡単・気楽だという状況を示しています。それでいいのでしょうか?

4.

少人数でやっている間は、多重アカウントが問題になることはないと思います。けれども、仮に論客コミュニティが順調に発展していくとすると、それは必ず問題となります。同一スレ内であからさまな自作自演をやればバレるのでしょうが、スレごとにアカウントを使い分ける人は当然に出てくるでしょう。つまり、コテハンではあるけれども、総体的な人格は隠蔽していく、各スレごとに人格を作る、ということになっていく。

多重アカウントの何が問題かというと、結局、捨てハンを許すことになるんですね。あるアカウントで論破されたら、名前ごと過去を葬り去って、新しい名前で登場する。あるいは、あっちのスレとこっちのスレで矛盾したことを平気で書けるようになる。それは別にいいのだけれども、そんな自分の実態を隠して、横断的にひとつのアカウントで発言している人に対して揚げ足取り的な発言を繰り返すことだってできてしまうのはいかがなものか? と疑念を抱く人もいると思う。

では何か対処法があるのかというと、究極的には、ないんですよね。

それに、もし完全に個人を特定して、1人1アカウントという仕組みが作れたとしてもですよ(例えば、パソコンに何らかのソフトウェアを入れてもらい、パソコン単位で固体識別するようにすれば、特殊な発言者以外はほぼ1人1アカウントとすることが可能です/もちろん、これが現実な提案だとは思いませんが、技術論としてはそういう解もありうるという話)、それだけで問題が解決するというものではないんですよね。

よくいわれることですけれども、日本人はふつう、議論したがらない、と。「天に唾する」危険をみな身にしみているので、対等な立場の相手を批判することを避ける。政治家、役人、上司など、「その場」に反論する人のいない相手を叩くにとどめるわけです。あるいは、たいていの人は、時と場を変えると矛盾したことをいってしまうわけです。自分の言葉を相対的に解釈されると、自縄自縛になって何もいえなくなってしまうことが多い。

だから、その場限りの人格でないと、議論に対して及び腰にならざるをえない。そういう面がある。2ch の ID 制というのは、けっこううまくできていると思うのです。何日も同じメンバーで盛り上がる話題なんてそうそうないわけだし、1人の発言者が過去に責任を持つ範囲が0時から24時まででリセットされるという仕組みで、うまく回っていく。現在の論客コミュニティのペースでは、もちろんそれでは短すぎます。だから例えば、1週間で cookie が切れる、というのはどうか。

……というアドバイスもありえます。

現状、ログインしたアカウント名そのままでしか発言できない仕組みになっていて、これはコテハンを強制する仕組みとしてはかなり強力なものです。このバランスがいいか悪いかというのは、結局のところ、どんな客層を狙うかにかかっているのです。

相当程度、匿名性を確保したい、過去の発言や社会的立場にとらわれず議論できる環境がほしい、そういった考えの持ち主を巻き込みたいのなら、現状のシステムはルールが厳しすぎます。「名前を変えて投稿する」といった機能が待望されると思う。けれども、逆にそういった発想に否を唱える方も少なくないはずです。ずるい連中を排除して、「まともな相手」とだけ議論したいという方々。しかしこっちからも「多重アカウントを制限しろ」という要望が出てくるでしょう。

つまり、どうしたって文句は出る。だから、どんなシステムにするかということは、どんな客層を狙うのかという問題に直結しているのです。「要望があるからこうしよう」というのでは迷走します。そうではなくて、「こういうシステムに満足する人を集めるのだ!」と、そう考えた方がいいのではないか。

5.

登録制という時点で、論客コミュニティの先行きは怪しいというか、「さてどうなんでしょうか」という感じではあるわけです。

飲茶さんが狙っているように、「社会の空気」に投票数という形を与えることで荒らしを撃退する、といった目に見える成果を得るためには、100人以上の常連参加者が必要かと思います。これは書き込み者ではなくて、ログインして閲覧している人数として。でも、それは簡単じゃないと思いますね。そうすると、単純に会員制の公開型掲示板、ある意味、ログを公開しているメーリングリストのような、そんな感じにしかならないのではないかという気がします。

私がこの掲示板システムの有意義な発展の方向性として連想するのは、例えば一時期、ガールズサイトを中心に大ヒットした「もっと書き込み隊」という掲示板です。これは書き込み数で「昇進」するという仕組みだったんですけれども、すると当然、くだらないレスを無数につけることで昇進を狙う不届き者が出てくるわけです。会員制+投票システムにより、よりえげつない形で、女の子たちに受ける掲示板になるかもしれないな、と。

もちろん、見た目は何とかしないといけない。角丸のかわいいのにするとか、あるいはスレッドや投稿フォームなどの扱いも、ふつうの掲示板に似せた感じに作り変える必要がある。ほしいのは会員制+投票システムだけですから。うーん、でもダメかな。単純に投稿数の方がいいのかも……。忘れてください。

いずれにせよ、論客コミュニティが独自にグングン発展していくかというと、私はいささか懐疑的なのです。飲茶さんの本サイト、哲学的な何か、あと科学とかの常連読者の内、書きたがり、語りたがりがみんな登録した段階で、成長はほぼストップでしょう。ふつうなら、そこまでです。その先があるとすれば、それはふつうじゃない何か、が材料として放り込まれた場合に限られると思います。

登録制を支えるのは管理人への信頼感、あるいは利用者が多いことからくる安心感なので、後者が期待できない現在、前者で勝負するしかない。だから、この先の発展は見込めない、と私は思います。

で、今後の展望として私が考えるのは、やっぱりレンタルですね。投票システムを作り直したら、ちょっと自分のところにも設置してみたいな、という人はけっこういるんじゃないかという気がするのです。もっとも、当面は無名なので、すぐに人気沸騰とはいかないでしょうけれども。それに、そもそもあのおとなしい広告でサーバ代その他の維持費がペイしているのかどうか、私にはよくわかりません。持ち出しになっているなら、レンタルの提案は忘れてください(またか)。

6.

最後にやむちゃんねる掲示板について。

よくウェブサイトに対するアドバイスとして、似たようなコンテンツを思いつきでどんどん作るんじゃない! ということがいわれるわけです。まあその、「実際のところ、どうなんだ」というといささか怪しいアドバイスなのですが、場合によってはクリティカルヒットします。

「場合」ってどんな「場合」? それは、膨れ上がったコンテンツが管理人自身の調整能力を超えてしまっているケースです。会社のリストラのようなもので、たくさんあるコンテンツの間にシナジー効果がなくなっていると、これはやはりまずいのですね。苦労ばっかり増えて、効果が十分に出てこない。こういう場合は、目先の売上減を覚悟してでも、思い切った再構築をした方がいいのです。

飲茶さんは現在、「やむちゃんねる」「論客コミュニティ」「株かぶコミュニティ」と3つも 2ch 型のスレッドフロート掲示板を抱えているわけですが、常識的には、これはダメですね。ユーザ登録のデータベースが共通しているなら、まだいいんです。いつでも統合できるんだから。でも現在、そうなっていないわけです。こういうのはいけません。最初から、株日記の読者さんはやむちゃんねるの「株板」へ、哲学サイトの読者さんは「哲学板」へ誘導する、というのが正解でしょう。ひとつの板に50や100のスレッドがあってもどうってことない、という事実を 2ch は示しているわけで、哲学だけで掲示板を作り、過疎板をいくつも立てる意味はなかったと思います。株も同様。

知人(完全に没交渉なので、ただ知っているだけの人です)が管理している掲示板にもにゃというのがありますが、これも板数をひとつに絞って正解というケース。何のことはない、それでいいと思うんですよね。

まとまりませんが、アドバイスは以上です。

余談

山田BBSの総長さんも知人じゃないかと思って調べてみたんだけど、結局、単に知人とハンドルネームが同じなだけかも、という結論に。山田BBS開始前にその知人のサイトが消えているので、同一人物でもおかしくはないよな、と思っているんですけど。

それから、株の話もひとつ。私の勤務先の株価が約3年で3倍になったのだけれども、つくづく自分に株は無理だな、と思いました。だって、社員がみな「もっと株価下がるよ、どんどん下がるよ。そのうち紙くずになるよ」といっていた時期に、株価が上がり始めているのです。以降、社員の台詞はずっと「これはまぐれ。あるいは、今がピーク。明日には下がるに決まってる」というネガティブなものばかり。それがいつの間にかグングン上がって現在の価格に。

こんな株、買えたもんじゃないよな、と思う。そういうのを思い切って買える人でなければ儲からないのが株の世界なら、私には一生無縁でしょうね。インサイダー情報を駆使しても、入社以来、一貫して「我が社の株価は下がる」という結論しか出てこないんだもの。

そりゃたしかに、日経の飛ばし記事で株価が急騰したこともあるけれど、「いまさら買っても、もうダメだよね。明日には反落するもんね」と社員は口々にいう。まさかそのままグングン上がっていくなんて、露ほども思っていない。株価がこんなに上がっても、社内で誰かが儲けたという話をひとつも聞かない。自社株会も景気のいい話はぜんぜんないし、そういうものなんだな、と。まあ、自社株会は値が高いときも関係なく株を買うので、バブルの負債が今も残っているんでしょうね。

そういえば、私が入社したときに、祖父が記念に株を買おうかな、なんていっていたけれど、どうなっているだろう。長期保有癖があるから、入社当時に買っていれば、今頃2倍の価格になってウハウハなんだけど。案外、買っていないんだろうな。

ちなみに祖父の株道楽がどれだけ貯金を減らすのに役立ったかを父は知っているので、私の両親はあらゆる投機話に全く関心を示さない。おかげでバブル直前に土地を手放し、バブル崩壊後に家を手放すというもったいないことをしたのだけれど、逆にバブルの頃に何も買い物をしなかったのはよかった。「これからどんどん不動産の価格は上がっていくんだから、今の狭い家から早めに引っ越した方がいいんじゃないか」と不安に脅えてはいたのだけれど、運よく抽選に落ち続けた。

つまり私の両親は賢かったわけじゃなくて、ただ運がよかっただけなんだけれども、とくに気に入った物件にしか手を出さない(2年に1回くらいしか抽選に参加しない)慎重派だったのがよかったのかもしれない。

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