Yas さんの記事で紹介されている人工妊娠中絶数の推移が気になりました。少子化情報ホームページからデータを引くと、ビンゴ!
日本の合計特殊出生率は、1950年代に劇的に減少し、以降、安定して漸減しています。私が疑問に思っていたのは、果たして昔の日本人はたくさん子どもをほしいと思っていたのか? ということでした。結論からいえば、答えは No です。1950年代の出生率低下は妊娠中絶手術によるものでした(ちなみに1966年は丙午)。その後、80年代まで低い出生率を維持しつつ中絶数(出生比)が減少していくのは避妊知識の普及によるものでしょう。(050819.xls)
日本の人工妊娠中絶数は世界各国と比較して大きいのか小さいのか。即断はできませんが、各国の状況を見るに、近年出生比が30%を下回っている日本の中絶数がとくに多いとはいえません。旧ソ連圏では生まれてくる子どもよりも中絶される子どもの方が多い国が目立ちます。
少子化情報ホームページから辿ることができる膨大な資料群は、日本国政府が長年にわたり少子化対策について研究を進めてきた事実を示しています。そして上図に示す主要先進国の合計特殊出生率の推移から、少子化対策の難しさがわかります。
90年代、北欧の手厚い子育て支援政策が成功例として盛んに喧伝されました。しかし北欧の現状はどうか。スウェーデンでは10年間出生率が上昇しましたが、その後再び減少に転じ、結局、元より悪くなっています。ノルウェーでは反落こそ免れたものの出生率は2未満ですから、人口減少の危機は解決されていない。
少子化問題は、「教室にクーラーがほしい」問題と同じ構造を持っています。「こんなに暑くちゃ勉強できないよ」「先輩方はみな勉強してきたんだよ」「関係ないね、ぼくはクーラーのない教室では勉強できない」そしてクーラーが導入されるが、生徒は勉強熱心にはならない。子育て支援政策に大きな需要がある事実は、その実現が少子化を解決することを保証しません。欧州各国の挑戦は子育て支援の費用対効果に疑問を投げかける結果を導きました。
じつは日本における夫婦あたりの完結出生児数は、少なくともこの20年間、全く変化していません。20年前の日本の出生率は現在の北欧諸国と同等ですから、日本の少子化問題とは、未婚・晩婚問題といえます。少子化対策が主要な政策論点とならないのは、恋愛・結婚への国家権力介入に需要がなく、人気のある子育て支援策は費用対効果に疑問符がつくためです。予算に限りがある以上、老人、病人、貧窮者らの支援を抑制するだけの根拠がなければ、大きな予算は確保できません。
以下は大雑把な状況整理です。資料は少子化統計情報など。
日本で未婚化・晩婚化が進む要因は明らかでない。未婚・晩婚の理由は調査されていますが、昔からその内容には大きな変化がない。近年、ドイツ、イタリアの出生率は上昇に転じていますが、福祉政策に大きな変化はありません。
日本人は急激に増え過ぎました。戦後の人口倍増は急速な経済発展の原動力ですが、伝統的価値観の崩壊と世代間の断絶を生んだ根本原因でもあります。人口の減少は短期的には大きな痛みを伴いますが、長期的には適正な社会規模を目指す自然な営みなのかもしれません。
この4冊はお勧めできます。
こちらの4冊はよく売れていますが、いずれも「教室にクーラーがほしい」問題を念頭において読むべきです。
日本に遅れること約30年、2030年頃に少子・高齢化の大波に襲われるアメリカ合衆国の様相を解説。