昨年、私は627冊(趣味の読書限定)を読了したみたいです。
私にはとくにお勧めしたい本はありませんが、「こういう種類の本」を読む人が増えたらいいな、という思いはあります。そこで、昨年に読んだ本から何冊かずつテーマ別にまとめてご紹介します。
いいことが書いてあっても、読む気になれなきゃ意味がない。納得できなきゃ手が出ない。(ダメな自分でもせめて1割程度は)実践できなきゃ役立たない。ココロ社さんの『クビにならない日本語』は、左記の基準を全てクリアした、2009年唯一の本。
北京オリンピックの野球で日本代表を率い、残念な結果に終った星野仙一さん。その星野さんが阪神タイガースを優勝に導いた思い出を語る本書『シンプル・リーダー論』に、試合中の采配の話は皆無に近い。星野さんの思考は、数年単位での選手の育成とチーム作りに集中しているのです。なるほど星野さんはカッとなりやすい性格なのかもしれない。けれども、そうした気性から、星野さんの監督・指導者としての資質を語るのは全くの間違いなのではないか。
弱い横綱、兄弟対決に貴乃花の温情で勝ったといわれた第66代横綱若乃花こと花田勝さん。弟にして天才の光司さんとともに生き、一緒に周囲の注目を浴びつつも、自分をきちんと見てくれる人の少なかった勝さん。三役力士を多数擁した黄金期の二子山部屋に所属した利得はあれど、横綱の座に到達したのは花田兄弟のみ。
勝さんが、自らの強さの理由を仔細に分析し、必要な鍛錬を怠らなかったこと、そして引退まで秘密を守りきった致命的弱点までを明かしたのが本書『独白』です。若乃花を「弱かった」と評するのはいい。しかし本書の主張を検討せず、大雑把な印象や、単純集計の通算成績をもとに語られる言葉は、信頼に値しない。
土地バブルを崩壊させ「平成の鬼平」とマスメディアに賞賛されたのも束の間、金融政策の失敗で日本経済を奈落の底に突き落とした戦犯として糾弾されるに至った第26代日本銀行総裁の三重野康さん。満州の大地を駆け巡った少年が、友に別れを告げて旧制一高(現:東京大学)へ進学、陸軍野戦砲兵学校を経て、焼け野原からの復活を期し日本銀行で奮闘した人生を振り返るのが本書『赤い夕陽のあとに』です。
「利上げは土地バブル潰しではない」と何度説明しても誰も聞いてくれない。その後の利下げも同じ。特定の事象を見て判断しているのではないといっているのに、経済学者までもが当人の説明を全く無視した説明を付ける。通貨の番人としての強い自負を持ち、国民生活を守ることだけを一心に悩み抜いて孤独な判断を重ねてきた三重野さんの姿が浮かぶ。巻末には総裁当時の会見録が収められており、本文の記述とよく一致します。
私は、三重野さんは金融政策を大いに誤ったと認識しています。けれども、その動機をまことしやかに説明する言説は、間違っていると思う。三重野さんは科学的な金融政策を目指していましたが、現代の経済学はいまだデータから自動的に正しい政策を導きうる水準に達しておらず、最後は説明不能の(実際、会見でも全く説明できていない)総合判断を下さざるをえませんでした。結果、ただ、誤ったのです。
「高田の優秀な遺伝子を残したい」発言を捉えて遺伝子主義者と決め付けられ、子宮頸癌と代理母出産の話題が出るたび若い頃の過ちを責められ続けた向井亜紀さん。人を決め付ける前に、まずは本人の言葉をきちんと読むべきだと思う。向井さんには何冊も著書があるけれども、お子さんの誕生というハッピーな話題で終る本書『会いたかった』が読後感に優れます。
マスゴミ、利権の亡者、時代遅れ、言いたい放題にいわれている、コンテンツ制作の当事者たちへのインタビュー集『CONTENT'S FUTURE』。みんな生きるために必死に戦っている。消費者が消費者の立場から意見をいうのは当たり前のことですが、人には人の事情があります。思い付きの提案だって無意味ではないと思う。しかし相手の主張をよく聞こうともせずに罵るのはよくない。相手の言葉を受け止めて咀嚼し、歩み寄れる場所を探る姿勢がほしい。
先の内閣総理大臣、麻生太郎さん。麻生さんが外務大臣時代に行った講演と、あちこちに寄稿した文章の集成が『自由と繁栄の弧』です。
世界金融危機や日本の長期停滞の原因は「悪い人」のせいなのだろうか?
戦後、日本の教育はダメになった(から改革しなければならない)のだろうか?
一時期の食料価格の高騰は、発展途上国の人々の生活を破壊したのだろうか?
自民党の敗北は小泉構造改革路線が国民の支持を失ったためなのだろうか?
予想された悲劇は、全て現実となる。わかりあいたい相手に、心は届かない。それでも、私(たち)は生きたいと願う。
以上24冊。ま、本を読んでも、とくにいいことはないですよ。それは、生きてても、とくにいいことがないのと同じです。読みたい本があれば、読めばいいと思います。