経済学者の飯田泰之さんが行ったエコノミストの岡田靖さん、評論家の赤木智弘さん、活動家の湯浅誠さんとの対談3本を中核とし、芹沢一也さん、荻上チキさんとの対談・鼎談を前後に配して序論とまとめとした「思考技術としての経済学」入門です。
「入門」といっても、対称読者は論壇に造詣が深い(しかし経済学には疎い)方々としていますので要注意。とくに説明なしにケインズ、ハイエク、フリードマンといった人名が登場、彼らの主張について読者が多少の知識・イメージを持っていることを前提に話が進みます。ですから「ケインズって誰?」という方には勧めません。
対談録ならではの読みやすさ、面白さでスイスイ読めるのが本書の美点です。ただ、前書きと後書き以外全て対談録のみとなっており、各章のポイントまとめや議論の図解などはありません。ややもすると瑣末な部分ばかり印象に残って根幹の論旨が頭から零れ落ちてしまいがちなので、ていねいに読んでください。
本書は「経済成長の必要性を説く」ことを一応のテーマとしていますが、それ以外の様々な話題に多くのページが割かれています。そのため取り留めのない本のようにも見えますが、飯田さんのスタンスには一貫性があり、それが本書の真のテーマを示していると私は思いました。
【経済学は問題・状況を分析し論者に判断材料を提供する学問なので、政策を決める価値判断とは分離できる。したがって、飯田さん個人とは価値観を異にする赤木さんや湯浅さんにも「思考技術としての経済学」は有用だ。】
論壇に登場する経済学者がみな分析と価値判断をセットで提示するため、論壇で目立つ経済学者の価値判断への反発が経済学自体への忌避感となる現状に一石を投じ、経済学のツールとしての有用性を啓蒙する意欲的な1冊。……が、ここでも多くの読者の関心を集めるのは飯田さん個人の価値判断。難しいですね。