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被害妄想
デマに関する一戦記
 被害妄想の件については少々忸怩たる思い出がある。何故か文芸部時代のライバルが僕をやり玉に根も葉もない中傷ビラをばらまいたことがあって、その罵倒文句の目玉が「山田は被害妄想」というものだった。
 この事件に関しては「大山会系佐田組」の「名誉毀損」の項で詳述したので、概要としてはこちらを読んでくれると助かる。
 さて、ここで記すのはその後のことである。
 僕は被害妄想というビラがまかれても、とりあえずばらまかれた分の回収はしたが、それ以外の行為は特にしなかった。相手をぶん殴っても、逆デマかけても良かったのだが、特に何もしなかった。理由は後述する。
 ただ手に入れたらすぐに相手に送り返してはやったがね。これに対し、彼は相当驚いたのか、「山田を守るためやったんだ」とか何とか弁明していたが、どうすりゃあれが僕を守ることになるのやら未だに説明がない。
 さて、こんな内輪の喧嘩話を読まされる一般読者こそいい迷惑だろうから、この故事を前提に建設的な話をしたい。
 この後、僕は直接的なことはしなかったが、やはり後味が悪いので若干の調査をしてまわった。調査といったって雑談の合間にさっと聞き出しただけであるが、それによるとどうも彼は気に入らないことがあるとすぐ相手に「被害妄想だ」と口走る性癖があったらしい。別に被害妄想とは何の関係のない行為が あったとしてもそういうらしいのだ。
 複数からの証言であったが、僕はこのことを知って報復するのはやめた。殴ったりするのは大人げないし、逆デマにいたっては相手と同じ愚を繰り返す必要はどこにもない。
 結局、彼とは現在絶縁状態である。
 一度、彼がホームページを開いたことがあって、僕は必ずチェックしていた。何を書かれるかは解らないからだ。それを聞いた別の友人は「お前、それこそ被害妄想だよ」といった。けれども結果的にはそうでもなかったようだ。
 彼のホームページにははっきりと、見る人が見れば僕と解る人物に対して、罵倒が掲載されていた。
 僕は現在、ホームページを持っている。やりかえしてもいいのだが、僕は優しいのでそんなことはしない。 

永遠妄想
監禁体験
 別に親を責める気はないが、結果的に見ると僕は虐待児だったんだろうなあ。
 いや、まあ別にPTSD起こすわけでも手首を寸断するわけでも親を半殺しにするわけでも小動物をジェノサイドするわけでもないよ。だから精神的外傷をくらう程ではなかったんだろうけど、虐待事件の記事を読むと、やられたことが結構似ているんだよな。
 勘違いしないで欲しいのは、別に今では恨んではいないし、親も最近の事件ほど身勝手な動機で殴っていたわけではないことは解る。両親は共に厳格な家庭で育ったもんで、子育てとはそういうものだと思ってるんだろうな。
 今回は、押入に閉じこめられた話をしよう。
 押入というのは勿論本来は物を収納するところであるが、我が家では刑務所の代用的なところであって、本物の刑務所で云えば反抗した囚人を放り込む懲罰房のようなところだと思えばいい。
 閉じこめられるとつっかえ棒を置いた上、色々な物を置くから、これがどうしても出られないんだな。一晩中泣き喚いても助けてくれない。大体つかれて眠っちゃうんだけれどもね。
 暗さは別に怖くなかった。初めは滅茶苦茶興奮しているし、それが収まって泣きやむ頃は無我の境地に達して眠っちゃうから。閉じこめられて困ったのはトイレでね、そこのところはあんまり詮索しないで欲しい。
 あとは泣き疲れの空腹だな。
 暗闇で出来ることは全くないのだが、子供は暗くなると眠る習性があるから退屈はしなかった。大体目覚めると押入が開いており、母親からこっぴどく叱られて「反省の誓い」をたてさせられて終わりだった。
 ところが一度、両親ともに僕を閉じこめたまま仕事に行ったことがあってね。
 閉じこめられた押入は陽の当たらないただでさえ薄暗い部屋。押入の隙間からぼんやりと光が見えるから夜でないのは解るんだけど、今が何時なのか状況がどうなっているのかは解らない。いや、参ったね。推理するに意識がはっきりしたままで8時間は真っ暗な中でいたのかな? これは色々なことを考えた。
 親は閉じこめる前に「反省しろ」っていうんだけど、考えることは「あんにゃろー、ぶっ殺してやる」ってことだけでね。この時もそういうことを考えていたんだけど、それにしては8時間は長いわな。何度か怒鳴ったりこじ開けようとしたけれどダメなんだな。十分すぎるほど寝たからもう眠れないし。
 ああ、これが永遠に続くかと何度も思ったね。そう考えると考えること自体がどうでもよくなるんだ。これは面白い体験でね。考えるということは普段は殆どしないから、いざぶっ続けで考え続けていると疲れるし、考えるのが嫌になる。だからといって他にやることはない。ただ無感動に膝を抱えるだけなんだね。
 だから母が慌てて解放してくれた時も大して感動はなかった。
 目が痛い、ということしか覚えていなかった。
 だからというわけじゃないけど、僕は閉所恐怖症でカラオケボックスは苦手だし潜水艦なんか乗らされたら発狂するでしょう。映画の「インタビュー ウイズ バンパイア」で不死の吸血鬼が壁の中に200年だか塗り込められると云うシーンがあるけど、あれなんか本当にゾッとするね。 

嫉妬妄想
恋愛と戦争はヤったもん勝ち
 ここでの嫉妬は色恋限定です。
 妬むことは数知れぬ僕だが、こと色恋がらみの嫉妬というのはない。
 だから自分の女が「誰かとデキているんじゃないか」と思ったことはないし、逆に他人の女を獲ってやろうという気も起こらない。
 これは僕の「ダチには深入りしても女にはしない」というスタンスを守っているせいだが、基本的に恋愛に関しては淡泊だ。おそらく生涯女に貢ぐことはないだろうと思う。今までもデート代を全額払ってもらったことはあるけど、逆はない(ただ未遂という汚点もないといえば嘘になる)。
 嫉妬というのは「泥沼化」とか「情念渦巻く」とかいう濃いイメージを惹起させるが、そういう行為と基本的に僕は無縁である。淡泊、という言葉は例の「失楽園」以降、ダメ男の代名詞として使われたが、まさしく僕はそんな感じでね、一線越えるまでは人並みに熱心だが、越えてしまうとその後はダメだね。
 そういう男とつきあっている女がどう出るかと云えば凡百のハーレークイン系を読めば解る。濃密な愛をささぐ男に逃げるのである。
 まあ昔、本当に昔の話だけれども女を友人に盗られたことはあるよ。
 前兆は確かにあったから、嫉妬妄想を発揮させれば阻止できたかも知れない。その後友人の女を盗ると云うことに関しては僕も恋愛家の周りを聞いて調べたけど、ほぼ100%、相当期間経ってからは仲直りしちゃうね。大体盗った方は罪悪感から接触を自粛するから、最終的には盗られた方が頭を下げて、友情継続を頼むらしい。あべこべである。
 つまりは恋愛は盗ったもの勝ちということらしい。
 僕も実は盗った方と和解を目論んだことがあるが、この事実を聞いてやめた。
 彼がこのページを読んでいるかどうかは知らないが、もう生涯口をきくことはないよ。女の方もそうだね。ただ随分前の話だからまさか今でも仲が続いてるとは思えないが、別れたとしてもケジメはとらせて貰う。
 僕は彼の人間的魅力には常々嫉妬を感じてはいたけれども。 

同居妄想
屋根裏の食事者
 別名を「幻の同居人」ともいう。家の中に誰か見知らぬ人が住んでいる、と妄想するもの。そんあ馬鹿なとお思いかも知れないが妄想というのはえてしてそんな物であり、ちょこっとはアナタの心にも巣くっている物なのですよ。
 江戸川乱歩という作家は殊にこの手の話が好きなようで「屋根裏の散歩者」や「人間椅子」なんてそうですね。
 うってかわって話は小学生の時に住んでいた家のことである。
 小学校四年生の時、僕にもようやく個室があてがわれ、夜は一人で寝ることになった。もっとも週に一度は親がチェックに来るようなプライバシーの全くない所ではあったが。
 僕の部屋は2階で、それまで学習机が置いてあった日も射さぬ雨漏りのする部屋から解放され、僕は意気軒昂としていた。
 そして初夜、僕はどうも屋根裏から変な音がするような気がした。
 コツコツコツ、と何かが歩いているような音がするのだ。しかも時々はガリガリとひっかくような音がする。僕は気のせいだと思うように務めたが、実際その音は聞こえるので仕方がない。
 気になって仕方がないので階下の親にその旨話すと「この臆病者めが、初日からそんなんでどうする!?」とぶん殴られる。仕方なく床にはいるがやはりカリカリゴリゴリと音がする。その日は何とか寝付けたが、翌日も、その次の夜音がした。
 親に云っても相手にしてくれず懇願して部屋に来て貰っても何も聞こえないという。親は日常生活に不便はないが、若干耳が悪いのだ。反面僕はポルターガイストのラップ音じゃないかと戦々恐々した。そうなると、天井の木目まで人の顔に見えたりして不気味なことおびただしい。しかもよく見ると天井の顔が微妙に変わったりしているのだ。
 そういうことを雑談で云ったりするから、親は僕の精神状態が危なくなったと判断したのか、急に病院を勧めたりするようになった。ムキに否定したが、そうすると余計キチガイ扱いしたくなるようだ。
 危うく僕は冤罪で精神病院送りになるところだったが、からくも助かった。
 家の建て替えで、住んでるところを壊したのだ。
 と、壊した屋根裏からネズミがたくさん出てきた。どうも彼らが天井をガリガリかじっていたらしい。天井はもう随分危ないところまで来ていて、場所によっては穴が開いてたという。
 僕が恐るべきはネズミの足音ではなく、天井崩落だったようだ。
 まったく、恐ろしいことはあるものである。 

偏執妄想
妄想王国
 正直に言うと、文章系ホームページなんぞやっている奴は、みんなある意味イカれていると思う。嘘だと思えば検索エンジンに「エッセイ」とかなんとか打ち込んでみればいい、出てくるHPを片っぱしから閲覧すれば相当数の変人が社会に生息していることが解るだろう。
 ま、それはともかく僕は当然「にゃごろう村」の実在など信じていない。当然だ。ただそれをコンセプトに「お遊び」の要素で施設を作ったりしているだけ。そう、シムシティーみたいな感覚でね。
 先日、ネットサーフィンしていたら「僕の王国に来て下さい」という掲示が出ていたので、「似た奴もいるなあ」と行ってみたのだが、ここで僕はあまりの偏執ぶりにぶっ飛んでしまった。
 ひとつ云っておくが、こういう「街」をベースにHPを作っている人は沢山いるし、僕のHPにもとある今は亡きページからの影響がある。それだけではだから僕も偏執呼ばわりはしない。
 そのページの凄いところは「住民」がいるのである。
 そのホームページは「王国」と銘打っているのだが、「戸籍簿」という欄に行くと住民の名前を全部表示しているのである。詳細は忘れたがこんな感じである。

(28)エレナ=トンプソン 女・28歳・ローデン街居住・魔導師
(29)ロブドロナ     龍族・3546歳・ベルデハイム・鍛冶屋

 これが延々1200人分あった。傑作なのはこの人格が管理人の妄想体系の中で活動していることだ。例えば裁判所には傍聴記録というのがあるのだが、そこはこんな感じである。

ドーリャ地裁 判決
判事   (715)マルコス=ベトリャーニャ
検事 (264)アナハン=サイキック
弁護士(395)ベレリーダ
被告人  (954)サンゴモン=トーチャ7世
被害者(579)ケレダマラ=チャン=ベドウイン

 名前をでっち上げるのも大変だ。この管理人の頭はどうなってるんだ。
 すごいのは、名前をクリックするとその人間の略歴のページにいけるのだ。この事件の被告人は死刑に処せられ、死刑記録も別のページに載っていた。こんな妄想体系は僕でも作れない。
 ところで一番傑作なのは相当時間をかけたこのページ。王国がはじまって、もう半年になるのにカウンターは300、ちょうどキリ番踏んだのだが僕だが恐ろしくて連絡もしなかった。
 だって知らないところで「(1348)タイサ=ヤマダ 反逆罪につき死刑」なんて書かれるの、嫌だからね。
 しかしサイコだなあ。 

好訴妄想
復讐戦の後遺症
 中学二年生の頃、どういうわけか一人の友人に殴られてばかりいた。
 まあ、こう書くと妙に深刻な問題のように見えるが、僕に云わせればあの頃のことは別になんともない。強がりでも過去のことと割り切ったわけでもなく、仲間としてつるんで馬鹿やってたから。少なくともひっぱたくのは彼だけだし、それで他の仲間が連鎖するわけでもない。うまく説明するのはなかなか難しいが、友人同士のつっこみの強いものと思えばいい。
 そんな彼との関係だったがどうも中二の終わり頃から様子がおかしくなってきた。こっちが内出血を作るくらいの力で攻撃を加えてくるのだ。いくら当時の僕が平和穏健路線をとっていたとはいえ、これはやりすぎだ。彼は僕を極限までなめていたのだ。しかも他の友人が追随の動きを見せ始めた。
 ここで耐えてはいじめられっこの出来上がりである。
 僕は報復を加えることにした。まず彼とは腕力の点で勝てないので、腕っ節の強い孤立傾向のある友人Kと手を組んだ。そして彼と何人かの仲間で徹底的にいじめたね。僕を軽く見ていた連中は考えを改めたろうよ。
 とにかく三年のクラス替えで彼は僕とは違うクラスになったが、僕のクラスには入れなくなるほどいじめたね。僕は精神面担当だったけど、実に小気味のいい復讐劇だった。人を甘く見ているとどうなるか、いい経験になっただろう。
 さて、その彼はある時、僕が一人になったと見て取って喧嘩を売ってきた。なるほど僕一人では勝てない。喧嘩の報を聞いて野次馬が集まってくる。彼の誤算は野次馬の中にKが来てしまったことだ。
 僕はすかさず喧嘩の矛先をKに向けた。彼は見事にはまり、Kを殴りつけた。この時僕は自分が軍師孔明になった気がした。Kはすかさず正当防衛権を行使し、彼を殴りつけると組み敷き、ヘッドロックをかけた。
 僕をあれほど殴った男はうめき声を上げ「お、おまえ警察に訴えてやるぞ、傷害罪だー」と泣き叫んだ。僕はいい気味だと思い「お前のやった事は何だ?」と答えた。
 Kはその後も彼を殴り、その度に「警察を呼んでくれー」と叫び続けた。
 高校になって、Kはいなくなったが、彼も心底懲りたのか僕を脅かすことはなくなった。ただときたま好訴的な思考を残してしまったのは事実である。 

罪業妄想
世のため人のための妄想
 僕は自分が被害妄想とは特に思わないが(キチガイは自分をキチガイだとは思わない、という格言があるがねえ)罪業妄想の気はちょっとあるかな、と思う。まあ、この妄想という奴、小さなものは誰でも持っているからね。疑うものは「心の底をのぞいたら」(なだいなだ著・ちくま文庫)でも読むべし。
 さてこの罪業妄想とは加害妄想と考えるとわかりやすい。
 例えば夜中にでもその日一日の自分の行動を思い返して「ああ、あんなこといっちまったよ。あいつ怒ってんなあ、謝ろう」と思ってそうしてみると相手はきょとんとした顔で「いや、いくらなんでもそんなことでは怒らないよ」と云ってくれる。初めは優しさ故かと思ったが、どうも本当にそうらしい。
 まあ「考えすぎ」が妄想の端緒だとすれば、これも立派な妄想なのだが、僕自身これはあまり不便だとは思っていない。ま、「あいつを傷つけた。もう俺はあいつに逢えない」と思いこむようなモノホンのビョーキになってしまえば問題だが、「あいつを怒らせたかもな」くらいの気持ちで謹慎している分には有益なのだ。
 あ、ちなみにこれと被害妄想の違いは明確だ。僕は「あいつを怒らせたかも」とは思うが、それで復讐が怖い、とか悪口を言われたらどうしよう、とは思わなかった。これは今考えると不思議なことである。ひとつには僕の発言地位が比較的高かったと云うことはあるが、別段学生時代は怖いこともなかった。
 だから、そう特に高校時代は随分、この観念には悩まされた。妄想とはいえ思い当たる点はあるわけだから、多少は相手に嫌な思いをさせていたわけだ。これはホントに反省に値する。
 僕はそういうわけで高校時代は罪業妄想により身を正しくしたつもりなのだが、高校を出てみると当時の親友格が「山田は怖いからずっと怯えてた」等と云う。
 ちゃんと気をつけていたのにこの結果。これにはめげるよ。 

醜形妄想
実は一重瞼がコンプレックス
 醜形妄想とは、自分の容姿や体格が一般人のそれより逸脱した醜い物という妄想のことである。代表的なものではちっとも太っていない女が「ダイエットしなきゃー」と喚いているそれで、殆ど強迫観念の世界である。そういう人は勝手にしなさいの一言でよし。確かに電車の中なんかでは太っている人間より痩せている人間の方が好ましいからね。
 今回、話したいのは容姿についてである。
 天下太平をむさぼる平成の世、老若男女を問わず「美」を追い求めており、美容整形の世界ではこの不景気なのに春を満喫している。さっきの例にあげた肥満問題よろしく些細なことで顔にメスを入れるのが大流行だ。
 少々、読者によっては実感がわかないかも知れないけど、日本を代表する大繁華街に近い我がノータリン大学では主にギャル系を中心に整形大流行である。前期と後期で名は同じでも顔が違うなんてザラ、特にコンプレックスになりうるような顔の変形は概して治してしまうからすばらしい(中高でもこれが流行ればいじめ問題は半減すると思う)。
 僕の整形に対するスタンスはこれまた「勝手にしなさい」である。対社会的についてはね。街を歩く人はそりゃ美男美女の方が見ていて良いからね。街中整形ならこれは困るが、世の中にはナルシストという奴がいて、そんなことにはならないだろうから安心だ。
 よく無闇に整形を「アイデンティティー」なんて言葉を持ち出して批判する奴がいるけど、これは大体ビンボーなブスの与太言なので気にしなくていい。こういう人は驚いたもので顔相がウリであるテレビタレントの整形に対してもイチャモンをつける。僕は直接自分に関係がなければ事故ろうとなにしようと関係がないので、まあ美しくなるには越したことないんじゃない? と思う。
 整形批判の合唱を聴いていて思うのは、世の中には本当に醜い人っているよなあ、と思う。いや、病気の話ではない。電車に乗っていると、たまに「どうして?」と思う酷い顔の人がいる。
 おそらくこのご時世いじめられて過ごしたんだろうなあと思う。
 実際僕が接してきた何人かのそういう人は皆いじめられていた。そうすると表情が更に暗くなるから新天地に行ってもまたいじめられるんだよな。無責任な教育家達は「そんなことはない」というけれど、醜い人たちはいじめられるもんだよ。
 醜形妄想に捕らわれている人たちは批判しようとどうでもいいけれど、整形して人生が明るくなる人もいるということについては、留意してもいいと思う。 

体感妄想
肩が痛い
 花子さん、という現象がある。
 今では映画化もされて好評なようだが、僕の小学生時代(80年代後半)はもっと陰惨なろくでもない存在であった。召還方法は学校や時期によって諸説あるが僕の学校のメインは、「屋上に最も近い女子トイレ/手前から4番目の扉/444回ノック」して召還するらしい。
 私、仲間とやりました。
 女子トイレにはね、掃除当番だけ入れるのだよ。掃除の時間にね。
 先に話したオカルト女の提唱で男子も交えてやりましたよ。気が進まなかったけど「臆病者」と云われたくなかったからね。結果的には何もなかったよ、女子は「確かに聞こえた!」とか喚いたけど僕らは「やっぱデマじゃん」と肩をすくめてトイレを出た。
 ところがその日の放課後だよ。
 僕は通学路が人とは違ったので(学年で5人しか同じ人はいなかった)一人で帰っていたのだが、いきなり誰かが肩をつかむのである。僕は例のオカルト少女だと思い(女の癖に少々粗暴だった)「なんだよー」と振り返る。
 と、誰もいない。
 石を投げられたわけではない。ちょっと未知の読者は想像しがたいだろうが、その道は国道で脇は切り立った崖、人が通れるところではないのだ。僕は肩を揉んで、先を進んだ。
 自宅前、まただれかが僕の肩を叩いた。誰もいない。
 僕は奇声を発して家に逃げ込んだ。そして手を床の間に合わせとにかく祈りまくった。床の間には当時掛け軸一枚なかったのだが、仏壇も神棚も我が家に
はないので、とりあえず床の間が聖性の象徴だったのだ。
 この件はそれだけである。
 ただの敏感な子供の妄想だろ、と云われればそうだろうと思う。だが、この文を書き始めて以来、妙に右肩が痛いことも、これはこれで事実である。 

妊娠妄想
妄想上の生き物は、今年3歳になる
 これはとある友人づてに聞いた話である。
 彼は彼の家にて友人数名と馬鹿騒ぎをしていた。
 と、ある噂通の彼の友人が「二人きりで話がしたい」と云ってきた。はてこいつにホモの気などあったかな、などと思いつつ彼は諒とし彼を自室に招き入れた。
 友人の言葉は単刀直入に彼の心臓を刺した。

「**がお前にレイプされたと喚いている」

 **とはさる共通の知人たる女であり、昔から妄想質の激しい人ではあった。前々からおかしなことを口走ってはいたが、そこまで病状が進行していたとは彼自身思わなかったという。
 「で、お前、勿論やってないよな」
 「あったりめえだろ」彼は否定した「奴のイカれた評判は知っているだろう。あの狂人、昔から馬鹿なことをほざいてやがったが、そこまで妄想が亢進していたとはな。それにしてもとんだ思い上がりだ」
 そう歯がみしても仕方がない。なにせ敵は既に卒業しているのだ。何を喚いても教師を通した調停など出来ない。友人は具体的に彼が何をしたことにされているのか説明してくれた。
 僕は彼から彼がやったとされる一部始終を聞いたが、とてもこのHPに書く自信はない。それほど彼女は下品な妄想を真実の如く口走っていたことになる。

 彼は早速翌日から何人かの友人に接触した。誰も本気にはしなかったが、彼女がそう吹聴しているところは聞いたという。しかもその妄想も段々レベルがあがり、最後には妊娠したところにまで上がっていった。彼は当時まだガキだったので、こんな不名誉なヨタを流した彼女を殺そうと決意した。
 まあ殺していれば彼は僕の前にいないわけで、結局は友人の助力もあり女に逢わずに済ませられたのだが、偵察の報告によるといつまでたっても妊娠したはずの腹は膨らまなかったそうだ(当然だ)。
 彼女にはその後逢っていない。人づてに結婚するとかしないとか聞いた。
 彼は僕にこの話をした後、「彼女の妄想が真実なら、僕には3歳の子供がいることになる。ところが彼女は産婦人科の請求書も認知の要求もしてこない。彼女の旦那(奇特な奴がいるもんだ、と彼は笑った)にこの話をしたら、あの女は何て云うかな?」
 彼はそういって意地悪く笑った。

付記;僕自身も若干不安定な人とつき合ってきたが、これは決して彼女たちのことを記したわけではない。これは名誉にかけて明言しておく。多少迷惑を受けて、本気で怒ったこともあるけれど、今は誰一人恨んではいない。本編は珍しく友人の体験を記したが、誤解を生まぬよう付記しておく。 

注察妄想
裁判所における服装問題
 僕の春秋期の標準ファッションはボタンダウンとチョッキとジャケットだ。ジャケットは原則テーラーつきのものを着ている。下はチノパンがメイン。ま、典型的マジメ君ルックであり、特に勘違いした母親が「いじめられないように」買った眼鏡はむしろ、いじめられっこのかけるそれであり、真面目すぎてキレちゃったテンパリくんのように見える。
 さてこういう服装で困るのは裁判の傍聴に行くときである。
 かつては革ジャンやらジーンズやらで押し掛けていたのだが、これは被告人である暴力事犯のお仲間のように見えるらしく、他の傍聴人から(あいつ一体どこのもんよ)と囁かれてしまう。これでは困るので、マジメファッションで行くことにしたのだ。
 これがどう困るかというと、非常に分類不能な人間になってしまうのだ。
 被告人にしては服が上品すぎる。職員にしては服装がラフだ。一番近いのは弁護士だが若すぎるし、第一悠長に過ぎる。裁判所の廊下を歩いているとね、裁判を待つ被告人の家族やら弁護士。向かいの執務室で破産宣告を待つ奴。なんかレクチャーしている光景、色々こっちを見るんだよな。
 またこっちは傍聴に着たわけで、色々な法廷の事件評を見て回るから、自然と何度もうろうろする。これ、非常に不審人物に見えるらしく、警備員に何度か声をかけられた。
 また法廷の中もそれは同じで、一人も傍聴人のいない法廷だと、書記官やら検事やらがちらちらとこっちを見るのね。まあ、傍聴人がいるのといないのとでじゃ気分が違うのは解るけど、嫌だね。それにみんな選ばれたエリートな訳で、開廷までにお互い雑談か何かしていると「僕はここにいていいのか?」と思えてくる。
 またどういう訳か、そういう服を着ていると廷吏が「傍聴人の方ですか?」等と訊いてくるのである。ひどいのは一度「**さんですか?」と聞かれたことがある。**とは保釈中の被告人で飲酒事故を起こしたドライバーだった。ま、確かに年齢は似たようなものだったが。
 そういうわけで裁判所に行く服は選んだ方がいい。
 いい服だと暇な裁判関係者が「一体、こいつは何モンだよ」と見られ、詰問されるし、だらしない格好では傍聴人が「あいつはどこのモンだ」と来る。僕はこれが自分の気のせい、妄想であればいいと思うのだが、相手の側に立ってみると、やはり不審人物だ。ふつう縁もゆかりもない被告の裁判を見にいったりはしないものだ。 

追跡妄想
僕の妄想とサイコの妄想
 大学というのは一般に高校以前と比べて頭のイッちゃっているサイコ野郎&テンパリちゃんがたくさんいると云うが、これは正解である。僕の知る限りにもそういう手合いは数名いるが、これから語るはその一人との物語である。
 その男は外観からして異常だった。ボサボサの頭、大学生はまず着ないダサダサの服をだらしなく着こなし、いつも唇をつきだしている。でっぷりと出た腹やその体つきから筋肉など最小限しかないことが解る。眼鏡には大抵フケで汚れており、異様な顔を一層キレてみせている。
 そんな風体の男が講義中意味のわからんことをぶつぶつ呟き、突然踊りだし、プリントは一切後ろに回さず、突然訳もなく手を挙げ出すのである。他に一番迷惑なのは突如として「ぶぶぶぶぶ」と低く唸りながら首を振るところである。最近はあまり唸らなくなったが、首振りとわけのわからんポーズは健在である。僕は彼が教授にワケの分からない質問を浴びせ、怒らせるのを何度か目撃している。
 何故、そんな男が大学にいるかと云えば我が大学が薬物中毒でも入れる底辺大学だからである(事実ヤク中が捕まったりしている)。
 さてそんな男がある日、僕の地元で散見されるようになった。僕の家は大学から離れており、絶対に奴がいるような所ではない。そもそも我が大学の学生がこの街に住んでいること自体が信じ難かった。よく似た別人かと思ったが、電車内でスポーツ新聞を音読しているところを見て、確信した。奴だ。
 何故、彼がそこにいるのかは解らなかった。というのも夜中、家に帰ろうと地元駅を降りると、彼が反対側のホームに立っているのがよく見えたのである。こんな深夜にそっち側に立つ奴など殆どいない。
 まさかストーカーかよ、そう思った。
 奴とは偶然により何度か口をきかざるを得ないときがあった。僕の知る限り、彼と口をきいた我が大学生は僕だけである。
 その恐怖が最高潮に達したのは遠距離交際の彼女とのデートの最中だった。彼女と僕はさるデパートのゲーセンでビートマニアを2人プレイしていた。と、画面の後ろに嫌な奴の顔があることに僕は気がついた。
 振り返る、奴がいるじゃないか!
 彼はゲームセンターで僕と彼女の操る曲にあわせて(?)踊っていた。彼女は「なあに、あの人」といぶかしんだ。僕は慌てて「しらん、どこぞの気違いだろう」と流そうとした。と、その気違いなんと僕の大学名を連呼し始めた。
「*大、*大、法学部。*大」
 僕は彼女の手を取ってその場を離れた。もし追いかけてきたら半殺しにするつもりだった。
 彼は、その後も僕の街でよく現れた。昔なじみとある女性と電車に乗る。彼女が「ねえ、なんか玩具のピストル持ってる奴がいるよ」と囁く。目を開けると奴が「ピシューピシュー」といいながら乱射している。
 誓って云う。本欄は完全な真実である。
 どうも彼はこの街に住んでいるらしく、追いかけられているというのは僕の妄想だった。それでも彼の住んでいる世界に比べれば、僕の妄想など太平洋とコップの水の差ほどもあるだろう。 

盗害妄想
IT'S ON YOU
 いわれもなく泥棒呼ばわりをされたことがある。
 一時期演劇部に属していたことがあるのだが、突然同級生が「貸したCDを返してくれよ」という、彼には貸し借りの前歴はあるがそんなCD聞いたこともない。その旨伝えておいたが彼は納得しない。その後も彼は何度も僕に対し「返せ」と詰め寄ったが、知らないものは知らない。初めは温厚に云っていた僕も段々腹が立ってきて「ふざけるな、つまらねえ因縁ふっかけんじゃねえ」とキレた。彼はさすがに吃驚したように退いた。
 その数日後、僕は別の友人から耳寄りな通告を得た。
 「お前、**と喧嘩してるん?」と訊くので「いや、喧嘩と云うほどのことはしてないぜ」と答えるとなんと「そんなら早くCD返してやれよ」と云う。「それどういう意味よ?」と強く訊くと、友人は「あいつ、お前にCDを盗まれたって言いふらしてたぜ」とショッキングな事実を打ち明けた。
 なるほど、その後他の友人に訊いても似たような話が聞こえた。
 僕は完全に頭に来て「あの野郎、一発お見舞いしてやる」と部室に行くと、なんとお目当てのCDがあるではないか「これはどうした?」と息を切らせて云うと、彼は悪びれもせず「ああ、部のCDプレイヤーの中に入っていたよ」と云う。
 僕はまったくキレてしまい、部活で折りにつけ彼をいじめたね。
 その反撃はくしくも僕を「盗害妄想」にしたてるという形で現れた。彼が僕の家に来る度に家からCDがなくなっていくのだ。それも割と高いものばかり。初めは「誰かに貸してたかなあ」と記憶巣をにらむもそんな答えは出てこない。
 どうしたものか、と思案してもCDは出てこない。片っ端から関連の友人に訊いてみても「借りていないよ」と来る。自棄になって部屋の大掃除をしてもやはり出てこない。殆ど諦めてしまった。

 そしてCDのことなんてすっかり忘れていた数年後、ひょんなことから彼の家に遊びに行く機会が出来た。彼とは演劇部の彼である。高校の間ずっと一緒にいたにも関わらず、家を訪問するのは卒業後が初めてだった。
 彼の部屋に入って山と積まれたCDを見る。
「あ、借りていたCDを返すよ」
 彼はそういって二枚の僕のCDを渡してきた。
 嘘つき、そう思った、
 容疑者だった彼には特に何度も貸していないか訊いた。「何も借りていない」の一点張りの答えだった。大方部屋への隠匿を忘れていたんだろう。
 僕の盗害妄想でなければ彼はあと二枚、僕のCDを持っているはずである。 

発明妄想
中坊の科学戦
 中学の頃、「暗黒科学者」を自称している友人がいた。当時、科学部に在籍していた彼は、他人がおおよそやらない危険な実験ばかりしていたところからそう呼ばれ、語感の良さに自称しだしたのである。
 危険な実験とは例えば王水(濃硫酸よりやばいもの)を作ろうとしたり、十円玉を塩酸につけて変色させたり(通貨変造罪だぞ)、小箱をアルミホイルで包んでそこに微電流を流す「びっくり箱」を開発したり、そういう悪さである。
 まあ、そういう具合に彼の開発した珍兵器は色々あるのだが、最大のものはアルコールガンだろう。これは一時期僕のいた中学を激震させ、一時はクラス対科学部の戦争を惹起させたくらいである。
 その前にアルコールガンについて説明しよう。
 形態は燃料の切れたチャッカマンの先端にフィルムケースを溶接したものである。中学生の作る物だから、形状はださい。そしてフィルムケースには微量のアルコールを垂らして蓋をするのである。アルコールは即気化してケースに充満する。
 そこでチャッカマンのスイッチを押すとどうなるか、まず火花が飛び、それは気化したアルコールに引火する。小爆発が起こり、フィルムケースは衝撃で飛んでいくそういう代物である。
 弾丸である蓋は当たっても大したことないが、一瞬飛び出す銃火といいその炸裂音といい、なかなか中坊のくせに本格的な物である。
 暗黒科学者氏は大いにこの新兵器で科学部外の純真な生徒を脅かし、大いにその不評を買った。文化祭間際には一般生徒と抗争をやらかし、結果禁止処分を学校から受けたほどである。
 ところが彼は暗黒科学者としての矜持にかけてまた新兵器を開発した。
 「火の出る鞭」というものである。
 笑ってはいけない、彼は本気だったのだ。勿論そんなものが出来るわけないから、彼の弁を記すしかないが、とにかく市販の鞭(?)の中にガソリンを流し込み、相手の体にしみこませ、火をつける物だという。
 すばらしい兵器である。
 彼は一時期それで僕をぶつと脅したが、大変怖い感情だった。
 もちろん、別の意味で。 

被毒妄想
中坊の科学戦2
 中学の時、僕にはそれはそれはとても変わった友人がいた。
 彼は顔よし(モデル級)、育ちよし(国際線機長の息子)、頭よし(現東大生)という最良の環境の下に育った奴なのだが、他人を思いやるという気持ちが完全に欠落していた。
 そういうわけで彼は生徒のみならず教師からも徹底的に忌み嫌われ、(彼も彼を憎む者を徹底的に憎み返していた)喧嘩ばかりしていた。僕自身はとある偶然から友人の一人となり、よく一緒に馬鹿なことをしていたので、彼が転校を余儀なくされるほど他人から恨みを買っていたとはとても信じられなかった。
 彼はすこぶる嫌われてはいたが、いじめられはしなかった。父親が自衛隊のOBで血統から云っても体格はよく格闘技の素養もあったからだ。剣道の腕は学校一だった。

 さて、そんな彼が僕らの下へ水筒片手にやってきたのは暑い夏のことだった。「ちょっと、飲んでみろよ。味が変なんだ」そう彼は言った。順番に回し飲みをする。確かにスポーツドリンクにしては苦かった。友人の一人はトイレまで走って吐き出したくらいだ。
 僕はしかめっ面で「なんていうジュースだ?」と訊いた。彼はあるスポーツドリンクの名前を云った。何度も飲んだがどう考えても違う味だった。
 「暑さで悪くなったんじゃない?」と仲間が云うと彼は真顔で「いや、何か毒でも入れられた気がするね」と返した。
 これには全員唖然として口々に「そりゃねーよー」と云った。
 彼は確かに恨みを買っているが、中学生がそこまでやるだろうか。彼は少々猜疑心の強いところがあった為、仲間は彼の主張を「考えすぎ」という名の妄想だと決めつけた。
 ところが、翌日事態は一変した。彼が母親にその旨報告し、母が理科の教師に調査を依頼したのだ。結果、通常では考えられないアルカリ性が出たのだ。しかも同日、他クラスの理科実験では水酸化ナトリウムを使っていたのだ。
 その報は学年中に一人の男(現在医大生)の顔を思い浮かばせた。
 一番彼を恨んでおり、頭は馬鹿にいいが情緒精神が異常に不安定な男。男は事実それまで危険な行動をとり続け、彼とは犬猿の仲だった。よく「ぶっ殺す」と叫んでいた者だった。
 勿論、証拠はない。だからこの事件は処分らしいものもなく立消えになった。「あいつの妄想に決まっている」そう彼の仇敵は云った。「いつか殺してやるからな」と容疑者と目されし男はショックを受けている彼に云った。
 僕は当分、ジュースを学校に持っていけなくなった。 

貧困妄想
カルチャー・ショック
 我が家は大日本民主帝國の誇る中産階級の一家である。父は平凡なマジメ会社員、まあ当然だがずっと働いている。学校もこうしてちゃんと出ているし、衣食住に困ったことはまあない。テレビも冷蔵庫も電話もパソコンも電化製品は一般家庭にないものはない。
 つまり貧困妄想にかかることはない、はずなのだ。
 ところが僕は猛烈にそれにかかってしまったことがある。

 中学校の進学だ。

 僕の家は低所得者の多く住む学区に割り振られていたので小学校の頃は本当に修学旅行のお金も危ういようなのが何人もいた。親の職業もパチプロだとかヤクザとかそんなのが随分いた。だから中産階級であることは恥ずべきことではなく、内心あいつらとは違うぞと寧ろ優越感を抱けたものだった。
 ところが中学はどうしたわけか大富豪の集まる学校に来てしまったのである。
小学校時代の友人の親は大工とか運転手とか文房具の店員とかだったのに対し(決してこれらの職業を馬鹿にしているのではない、念の為)、中学では一部上場企業の重役だとか会社社長、パイロット、医者、銀行の海外支店長なんてのがゾロゾロいる。
 驚いたことに男子でピアノが弾けるなんて珍しくもない。習い事も中学生にして学術文化活動を懸命にやっている。小学校の頃はリトルリーグ以外やっている奴なんて全く知らなかった。
 そんな突然の環境変化についていく法が無理というものだ。
 しかも当時は我が家の教育方針として「子供に現金は持たせない」という物があり、必要物は買ってくれたが現金は一切持てなかった。ゲームも漫画も、友人の持っているものは何も持っていなかった。親に訴えても「他人は他人」と相手にもしてくれない。
 段々と僕が「ひょっとしたら我が家は貧困家庭ではないだろうか?」と思うようになった気持ち、解るだろうか? そして「いつか金持ちになってやる」と強く誓ったという思いも。
 ただねえ、困ったことに我が家は確かに貧乏ではなかったけど、僕を予備校にやるほど金持ちでもなかったみたいね。
 やっぱ金持ちは世襲だな。才能の遺伝と、儲けた金で高級教育を与えてやる特権。このループサイクルを打破できる者こそ、本物の天才だと思うんだが、ちょっと僕には無理みたいだな。 

血統妄想
崇峻天皇と宇宙人
 中学生の頃、下校すべく駅前を歩いていたらキチガイがいた。
 いや、キチガイなどといってはいけない。なんせ本人の主張に寄れば「天皇の御落胤」だというのだ。ああ、そんな高貴な血統を持つであろう方があんなボロを着て、髪振り乱して絶叫調に演説しているとはおいたわしや、これぞ真の貴種流離歎・・・などというほど僕は楽観的ではない。
 天皇の落胤を自称する人間は珍しくないらしいが、この男の云うことには妙に奮っているところがあった。普通なら架空の皇統をでっち上げたり、南朝の皇統を引っぱり出したりしそうなもんだが、この男の論理は凄かった。
 崇峻天皇の皇子だというのだ。
 はあ、崇峻天皇ねえ。随分古く出たもんだ。蘇我馬子に逆らって、臣下の手によって殺害された唯一の天皇。その悲劇の帝の子孫を称するたあ、なかなか面白い。だが彼の主張の神髄はここにはない。
 それで彼の演説、内容はろくに覚えていないが「現皇室はUFOとの密約によって成立し、雅子妃はその監察官」だというのだ。まだこの頃は「トンデモ本」などの概念がなかったが、これも立派な「と」であろう。
 なんせ当人は本気で信じているのだ。歴史的に皇室はUFOと結託しており、日本国は実質的に植民地になっていると。そして歴史上、唯一UFOの侵略に逆らって殺されたのが崇峻天皇であると。故にUFOの尖兵となった今上天皇を廃して自分を皇位につけよ、と。
 まったく立派な考えである。あ、今のは勿論皮肉なんで民族派関係者は刺客を差し向けないように。この男とそのビリーバー(やっぱり周囲にはいたのだ)は白昼の駅前で、そういうことを絶叫していた。
 中学時代の僕は信じはしなかったが、頭の隅にはインプットされてしまった。だから今でも崇峻天皇と聞くと「宇宙人と戦った悲劇の天皇」というイメージが浮かんでくる。
 あの男、元気かな? 

恋愛妄想
無知なることは幸いかな
 知らない方がいいことって結構ある。
 高校文芸部時代、ファンレターなどを貰って人気が出てきた頃から、我が家に妙な電話がかかってくるようになった。何をするわけでもない。ただ出ると切れるのである。時間帯も午後6時から8時の間で、非常識な時刻や昼間にはまずかかってこなかった。
 気味が悪いと云えば悪いが、ぼくはこれを一方的に好意的に判断していた。ストーカーが流行語になった当時だというのに呑気な話である。根拠としてはこの電話、文芸誌発行後に頻発していたからだ。
 電話番号なら学内に配られるPTA会員名簿を見ればすぐに解っただろう。未熟だった当時、僕は自分の小説に絶対的な自信を持っていたので、自筆署名をつけたりしていたのだ。それでなくても巻末の部員名簿を見れば誰が僕なのかは一目瞭然だった。
 そういうわけで僕相手の電話であることは確実視していた。家族は殆ど電話は使わなかったし、突然誰かが電話をかけてくるような開放的な職種についている訳でもなかった。
 僕が怯えなかった理由は、当時匿名のファンレターやアンケートがよく来ていたからだろう。これが脅迫状や悪口が着ていれば大分違うだろうが、読者はまあいい人ばかりでそういうことは一切なかった。
 だから僕は文芸誌が出て電話が鳴る度、優しい気分で電話を取り、切られた。 ところが、このネタバレは意外なところから来た。
 僕の文芸部の同期が毎回のような悪戯電話を友人に自白したのだ。2年半もよくやったものだ。どこか頭のネジがゆるんでいるに違いないが、その後、彼は超一流大学に入ったからノイローゼの類だったのだろう。別に恨みを買った覚えもないし、以前も以後も普通に接していたのだ(実害はなかったしね)。
 まあ、僕としては何にも知らずに「どこかのファンが」と妄想抱いている方がよかったのかもしれないけど(彼が自白したのは卒業間際だったからね)、ま、分を知ることは大事だと思ったね。 

フォレスト電波塔 妄想エッセイ

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