情報フロンティア研究会(第2回) 議事要旨
1. 日時 平成17年3月29日(火) 13時〜15時
2. 場所 総務省 1101会議室
3. 出席者(敬称略)
(1) 構成員
國領二郎(座長)、木村忠正(座長代理)、岡田仁志、栗原聡、小林徹、齋藤義男、V.スリラム、津田宏、西村毅、藤沢久美、柳沼裕忠、矢野貴久子
(2) 総務省
鈴木政策統括官、松井審議官、武田情報通信政策課長、内藤情報通信政策課課長補佐
4. 議事概要
(1) 開会
(2) 議題
○ ICTの利活用におけるフロンティア
@官民の情報システムの最適化の現状と課題
A海外から見た日本のICTユーザ産業の課題
※資料3に基づく事務局説明、資料4に基づく西村構成員からの発表、資料5に基づくスリラム構成員からの発表の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- SOAは、日本の垂直統合型社会をグローバルな視点から水平分業に変換する壮大なチャレンジ。日本ではSOAが認識し始められている段階であり、いずれは導入の波が来ると思う。テクノロジービジネスにおいて次々に発表されている様々なSOA準拠のアーキテクチャという視点と、客を囲い込むほど利益が出るという日本の垂直統合的なビジネスの体質という2つの相反する現象を、いかにバランスよくブレイクスルーにつなげるかが、日本のICTの社会構造における課題ではないか。
- 客を囲い込んでも、必ずしも利益にならない。その解決策が、作らないアプローチやSOA。それほど質の高くないものをあちこちで作っているのは、いわゆる「車輪の再発明」であり、どこかで排除しなければならず、SOAという切り口が非常に役立つと思う。ただし、Webサービスとそれに対応したミドルウェア製品をSOA準拠製品として販売すること自体は構わないが、SOAは基本的にはアーキテクチャであり、ユーザ側の取組を期待したい。総務省も政策的な面でリードしてもらえるとありがたい。
- 発注側に分散型・連邦型のシステムを導入する勇気があるかが問題。要するに、発注側が全てのリスクをコントロールし、事前に要件を定義するというプロセスに対する能力を持っているかという問題がある。ただし、SOAに準拠したシステムによってコスト削減が実現している例もあるので、効率的な社内システムとしての導入という活用策はあり得る。
- リスクを取らない体質や海外に委託する際の発注の曖昧さも、本質は同一。
- 電子マネーは汎用性が必要だが、作り手は、電子マネーが使えるエリアをバーチャル、リアルともある程度囲い込もうとする。しかし、電子マネー同士で交換できないと結局共倒れになってしまう。そこで、プラットフォームのみを共通化して上位レイヤーで競争することが必要となる。例えば、韓国ではキャリア3社が赤外線型の携帯決済で相互に囲い込みをやった結果共倒れしたが、その後情報通信部がセンター通信型である程度音頭を取ってプラットフォームを共通化し、アプリケーションで競争させて大成功した。今ではブロードバンドにおける決済の約70%が携帯決済になっている。新しいシステムを構築する際には、ある程度の共通化が必要であり、民間がコンソーシアムを形成して取り組む場合もあるし、国の役割が必要となる場合もあると思う。
- 統一できれば一番望ましいが、既に動き始めていて統一が難しい場合もある。少なくともインターオペラビリティを確保しておかないと、全体がだめになってしまう懸念がある。
- UDDIという技術を使っても使わなくても実装上は大した問題ではない。本質的に問題となるのは、人間が介在せずにダイナミックにサービスを自動的に変えるか、変えないかということである。つまり、UDDIを使えば、自動的に次々にサービスを切り替えることが可能だが、果たしてそれは我々の望んでいるサービスかどうかという問題がある。全て自動化するのか、人間が判断するのか、それとも自動の仕組みはあるが、事実上、人間が判断してからでないと切り替えができないようにするのか、様々な選択肢が必要。したがって、UDDIという技術の活用には、かなり成熟した利用技術が必要となる。
- こうした考え方を一般化した形で表現できることが望ましい。
- SOAを進めていくと、日本のシステムベンダーは、ハードの基幹部分を担当する会社と、ニッチで顧客対応をする会社に分かれていくという印象を受けたが、今の日本ではこの2つの統合型が主流であるとすると、統合型のベンダーが変われない問題点はどこにあるのか。ユーザとしては、収益重視やグローバル化の中で、国内ベンダーが対応できないならば海外に委託すれば済む問題だが、国内ベンダーが置き去りにされてしまう懸念がある。
- 現在、多くの企業にとって、レガシーシステムや膨大なデータをいかに統合するかが大きな問題となっている。他方で、SOAの流れを重要視しており、特に標準化が非常に重要だと思う。SOAやWebサービスについては、WSDL、UDDI、SOAPといったレベルであれば、W3CやOASISでかなり標準化が進んでいるが、実際はそのレベルの標準化でできることは余り無い。現実的なビジネスロジックを導入するためには、上位層における標準化が必要だが、様々な規格が乱立している状況。標準化は重要であり、総務省などがガイドラインを策定してくれるとありがたい。今後1年の決断が重要となるのではないか。
- 確かに標準化の問題は深刻だが、Webサービスの場合、Webサービスとの連携によりミドルウェア製品が吸収してくれる部分が多いので、従来と比べても実際にエンドユーザが意識しなければならない部分は少なくなってきている。実装後に標準化が違う方向に傾いたとしても、ミドルウェア製品を最新バージョンに替えることによって、対応できる比率がかなり高くなると思う。
- 日本の統合型ベンダーが変われないのは、技術的な問題と組織的な問題があると思う。標準化は必ずしも求められないのかもしれない。標準化が必要だとしても、それを総務省に求めるのか、市場に求めるのかという問題もある。
- 中央集権的国家であるブラジルや韓国では、トップダウンで中央政府・地方政府の連携も含めた電子政府化を推進している。しかし、日本やアメリカではトップダウンのアプローチは難しいため、WebサービスやSOAによりインターフェース、インターオペラビリティを確保するというコンセプトが誕生している。東京都が今年から市区町村と共同でASP事業を立ち上げ、電子調達と電子申請のシステムを共用化しているが、このASP的なボトムアップ型と、アングロサクソン的なモジュール型をうまく取り入れるところに日本の進むべき道があるのではないか。他方で、どこを変える必要があって、垂直統合的な要素を持つ会社がどこにプライオリティを置くかというのも、日本なりの解決策の見つけ方であり、そこに道筋を見いだすことに中央省庁の役割があるのかもしれない。
- 興味深いのは、インターネットをここまで発展させた標準規格であるTCP/IPという情報通信方式がそもそも研究レベルでボトムアップに発展し始め、発展があるレベルを超えて急激に広く普及して来ると今度はトップダウン的に、つまり世界的にこの通信規格を使う流れが促進されるようになったという事実であり、最初からトップダウンに規格化されたものではないということである。このような流れは国民性や地域性によっても多少の違いがあるかもしれないが、トップダウン的に進める政策とボトムアップ的な流れを促進させる部分との適切な調整が重要だと思う。このボトムアップに生まれた流れがある程度大きくなると、今度はトップダウン的な流れとなる一連の構造を制御するのは難しいが、過度に介入することなく全体の流れを適切に制御することが政府の役割だと思う。
- トップダウンかボトムアップかというレベルで考えたときに、SOAの考え方であれば、レガシーシステムをオブジェクト化することによって、ボトムアップ的な日本でもうまく移行するシナリオを描くことが可能。
- これまでは現行システムを望ましいシステムに移行するシナリオがなかなか描けなかった。SOAによって漸く一応のシナリオが描けるようになっただけでも、個人的にはありがたい。
- 日本における電子申請の一例として、行政書士会が構築した国土交通省の一般貨物自動車運送事業者報告書の申請システムがある。これは簡単に作られたものだが非常に便利で、損益計算書などの複数の書類をまとめて提出できる仕組みとなっている。この仕組みが可能となったのは、国土交通省がこの申請システムのインターフェースを公開しているからである。しかし、現状では、日本の電子申請システムのインターフェースのほとんどは公開されていない。したがって、少なくとも特に公共的なシステムについてはインターフェースを公開するというルールを策定すれば、誰もがこうしたシステムを構築できるようになり、便利なシステムが次々に誕生し、それに対応したアプリケーションが生まれるのではないか。
- この当たりの具体的な解決策のイメージをはっきりさせていきたいところ。
- システム規模が巨大で中身がよく分からない日本の発注側は、受注側のメーカーに全て責任を負ってもらうために曖昧な発注をしてしまう。その結果、手戻りが発生して費用が膨らんだり、カスタマイズが多くなったりする。SOAの概念は、その解決策としての一つの考え方だと思う。下位レイヤーはある程度共通化して、上位のサービスやアプリケーションのレイヤーで創意工夫するという形が望ましい。システムの巨大さや、分かりにくい切り口は参入障壁であり、そうした衝撃を取り除いていくことが通信業界を含めた情報処理産業が生き延びるための必要な要素だと思う。
- 共通化する部分と相互運用性を確保する部分とを切り分けて、うまいミックスを考える必要がある。
- 共通化できるかできないかは、技術的な問題ではなく、業務的な問題あるいはビジネスの問題であり、経営者がこうしたパラダイムを理解しているかが重要。そういう意味で、経営者に対していかにメリットを伝えるかが重要になってくると思う。
- Webサービスをどのようにビジネスに生かしていくかというノウハウがないために導入していない状況。システム構築において、パッケージ化によってコストダウンが図れれば非常に望ましい。その実現のためには、経営者自身がシステムを理解して、収益を上げるためのシステム構築をきちんと判断しないといけない。
- 新しい仕組みを早く普及させるためには、いかに決定権を持つ人に知らせて、実行体制を構築するかが重要となるが、経営者と情報システム部門間にミスマッチ感覚があり、おそらくそれが我が国ICTのボトルネックとなっている。経営者向けのシステムパッケージと、経営者レベルの人材育成がないと、SOAもオフショア開発も、結局はコスト削減の道具としか捉えられず、企業価値向上のシナリオが描けない。経営とICTを密接に結びつけることは意味があるということを発信する力がまだ足りない。
- 自治体や民間において、こうした話に響いて組織的に予算化も含めて動こうとしているところが少しずつ出てきて、実績が広がりつつある。今後、日本社会でこうした動きが雪崩的に起きることを期待している。
- 東京都では、10 年程前から管理職研修をやっており、そこが母体となってIT推進室が5年程前に出来て、今回の市区町村と連携したASP事業につながった。今回の発注では、市区町村ごとにカスタマイズでき、書類も変更できるなどの柔軟性を持った仕組みを構築している。G to Bをできるだけ早く推進し、それを民間がうまく取り入れていくことで大きく変わっていくというのが、日本における望ましいシナリオの一つではないか。
以上