情報フロンティア研究会(第4回) 議事要旨
1. 日時 平成17年5月17日(火) 10時〜12時
2. 場所 総務省 901会議室
3. 出席者(敬称略)
(1) 構成員
國領二郎(座長)、木村忠正(座長代理)、岡田仁志、勝屋久、栗原聡、小林徹、齋藤義男、津田宏、西村毅、藤沢久美、柳沼裕忠
(2) 総務省
松井審議官、武田情報通信政策課長、村手地方情報化推進室長、内藤情報通信政策課課長補佐
(3) 講師等
内藤潟hリコム代表取締役社長、金井NTT情報流通プラットフォーム研究所情報セキュリティプロジェクトマネージャー
4. 議事概要
(1) 開会
(2) 議題
@ ICTによるサービス(ビジネスモデル)におけるフロンティア
※資料4に基づく齋藤構成員からの発表、内藤潟hリコム代表取締役社長(資料配布なし)からの発表の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- ある大学院生が、コピーライト・セキュリティー・コンテンツホルダーの3つの締め方のタイミングに係るeコマースやコンテンツ流通における成功の方程式を国別に調査している。それによると、ユーザーは当初セキュリティーを最も考慮するが、セキュリティーが一定程度向上すると、セキュリティーを更に高めてもユーザーは増加しない。次に必要となるのが無料で流通するコンテンツであり、著作権を適度に厳しく管理しない時期が必要となる。ところが、そのまま放置しておくとコンテンツ流通が逆に減ってしまうので、適正な価格でうまく著作権料を課金する仕組みが必要となってくる。日本の場合、著作権料の課金方法に問題がある。現行の著作権管理制度のようなパッケージ商品ではなく、一定期間のダウンロードは無料とする、国ごとに料金を変えるなど、細かい課金が可能となれば、著作権者と管理者のバランスが図れるのではないか。
- 著作権や課金の問題は、タイミングややり方、インフラ整備に因るところが大きい。また、少額課金体制がいかに構築されるか、少額課金の単位は何かが問題となるが、額が小さいほど望ましいのではないか。
- 著作権保護については、技術的には様々なDRM(ドキュメント・ライト・マネジメント)がある。技術的に不可能なことはほとんどないが、ビジネス環境や社会的コンセンサスなどの複雑な問題に現行の著作権管理制度の問題などが絡み合ってすくみ状態。また、マイクロペイメントについては、数十円課金しても手数料の方が高くなるなど、現実的に難しい問題。
- 韓国では、Web上の少額課金を携帯電話で決済するのが主流になっている。携帯電話事業者が十円単位で代金回収を代行してくれるのであれば、十円単位で課金する程度のコンテンツをつくれる企業は多いので、新規参入が増加するのではないか。
- 多くの人は過去の経験から、ネット上には必ず無料で入手できる情報があると考え、ネット上の情報に金を払うことに抵抗がある。個人的にはマイクロペイメントがネット社会に根付くには時間がかかり、難しいと考えている。また、特にSNSではサービスの寡占化が進むと同時に、ブログ・SNSでは目的別に様々なサービスが立ち上がるのではないか。一見矛盾するかのような話だが、おそらく両方正しくて、それがどういう形で進んでいくかに興味がある。ブログとSNSの融合した汎用的なサービスが多くのシェアを確保しつつ、その中で目的別のコミュニティが立ち上がる形をとるのか。それとも、企業が考えるビジネスに特化したコミュニティをつくって、それが汎用的なSNS・ブログと連携・融合していく形をとるのか。
- 1つのサービスの中で複数の目的別のコミュニティを立ち上げるのは難しい。インターネットの歴史でも同様の事例がある。1つ目の事例はEC分野で、何でも買えるECサイトがある一方で、健康食品やゴルフ関係などの目的特化型のECサイトが上場されている。もう1つの事例は検索サービス分野で、海外ではヤフーやグーグルなどの何でも検索できるサービスがある一方で、求人情報や商品だけを検索できるサービスが台頭している。したがって、何でも型とカテゴリー特化型の両方が両立する環境ができていくと思う。
- 確かにネット上の少額支払いには抵抗があるが、逆に気軽にネット上で買い物をするようにもなった。ネット上では転売が容易なため、とりあえず買ってみて、気に入らなかったら売ればいいという風潮が出てきた。個人の所有物を資産として計上できるようになり、更に知恵も売るようになるため、コンテンツホルダーが重要となってくる。そうすると、世の中が大きく変わりうる。例えば、ブログとSNSが融合したときに果たして大学は必要なのか。ブログとSNSの融合によって既存のものがどう変わるかに興味がある。
- 今後は、自分がアプローチしたことのない情報にアプローチしやすくなるので、各種情報の利用率が上がっていくと思う。他方、ネット上の少額支払いの問題があるが、別の視点でとらえると、無料の情報がネット上にあっても、それを探す手間を考えたら有料でもいいという手間の解消方法もあると思う。
- 物とデータは区別する必要がある。デジタルデータはいくらでも複製が可能だが、物は複製できない。したがって、物は失敗して買っても転売できる可能性はあるが、データの場合はそうはいかない。その際、プラットフォームを利用してデジタルデータを提供して、それに対する少額課金が生じるという問題と、プラットフォームを提供している企業がいかに儲けるかという問題は明確に区別する必要がある。ブログ・SNS系のコミュニケーションサービスでは、コンテンツはユーザーが互いにやりとりするものであり、思ったほど儲からない。他方、人間は所有欲だけで満たされてしまうため、ビジネスとしては悩ましい。また、他に無料の情報があるのではないかという問題とは別に、エンターテインメント系コンテンツの場合には、一番希少な資源は時間になりつつある社会において、時間を併せて消費しなければならないという消費者側の心理があり、いかにブレークスルーを確立するかが問題。最後に、著作権に関して、音楽と同様に、どこかが一元的に著作権を管理して、著作物をダウンロードした瞬間に強制的に許諾したことにすれば、強制許諾に従って使用料を払えば済むので、そのスキームの方が良いのではないか。
- 現代の若者は自分の作品をいかに多くの人に見てもらうかに関心があり、それによって収入を得るという感覚はあまりないのではないか。したがって、強制許諾による課金を嫌ってトラフィックが減るのを好まず、無償でもいいから公開する希望の方が強いのではないか。他方、何らかの形で著作権料を徴収する必要もある。著作権には特許権と違って登録や審査がない。これはWIPOの問題であり日本だけで取り組むことはできないが、双方の問題の解決策として、無料型コミュニティと課金型コミュニティを選択できるようにしてはどうか。その場合の課金システムについては、携帯電話による課金は簡易だが、カバーできない部分はプリペイドカードなどで対応するといいのではないか。
- 自発的にコンテンツを公表したい人は、クリエイティブ・コモンズのライセンスで自由に公表すればいい。無償で公表するインセンティブを高めて普及を促進する方が健全。
- ユーザーとしては自分を知ってほしい、アクセスが増えるとうれしいというだけだが、それをいかに産業経済的活動に結びつけるかを考えると、情報の持っている特性とプラットホーム・コンテンツが問題となり、さらに、それがエンターテインメントの形となると時間との兼ね合いという要素が生じて難しい問題となる。
- 例えば携帯電話の占いサービスは内容でしかないが、何十万人の会員が毎月それに対して数百円払っている。人が代金を払うのは、必要性、要求性、利便性の3つに基づくのであり、支払いの対象が物である必要性は感じない。
- 欧米と異なり、日本ではプログラムやデジタルデータなどの価値に対する認識が低く、これらの情報を苦労して生み出したことへの価値に比べて、低い価格が設定されてしまう傾向がある。物理的な形の存在しない「情報」に対する価値を強制的にでも高める必要があるが、実際にはそれを押しつけることは難しい。また、無償でネット上に公開するオープンソースという動きもあるが、この流れが一般化してしまうと同様のコンテンツで課金することが難しくなってしまう。果たしてどのような方策が望ましいのかを考えると、ジレンマに陥ってしまう。
A 報告書とりまとめに向けて
※資料5に基づく事務局説明、木村座長代理発表(資料は席上配布のみ)の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- フロンティアを考えるときに、テレビ、ブログ、メール、携帯電話などのメディアを個人の1日24時間にいかに配置するかが重要となってくるのではないか。他方、情報を獲得したい人と情報を発信したい人では価値観が異なり、この異なる座標軸の中でメディアを考えると、その変化に応じて変わってくるものがあると思う。例えば製造業は物を重視しているように思われるが、むしろ物作りのプロセスの方が重要だったりする。そこで、ブログで物作りを公開することによって新しい物としての価値が提供され、製造力が向上したり魅力的な商品が生まれたりするなど、メディアに集約された知恵が働く仕掛けができれば、製造業におけるフロンティアが生まれるのではないか。
- これまでの議論で共通したトーンが脈々と流れており、本研究会としてそれをいかに言語化してどのようなメッセージを出すかを考える必要がある。共通したテーマは少なくとも2つあり、1つは情報システムそのものの作り方について、もう1つはその上に形成される社会モデルについて。この2つのテーマをいかに全体として統合させるかが課題。例えば、P2Pの仕組みにテキストが載っている間はいいが、ブログ上にビデオが載るなど情報量が爆発的に増えたときのネットワークはいかに構築すればいいか。現実にはISPはブログのホスティングに苦労している。社会モデルはP2Pになっているが、インフラは集中型のため、その矛盾でビジネスが行き詰まってどうしようもない状態になりつつある。
- 今後ブログやSNSは企業が消費者とコミュニケーションを図る手段として戦略的に使われるようになるだろう。その際、既存のブログ・SNSと個々の企業の活動とのつなぎの部分が弱いので、企業と連結した拡張版ブログウエアがある有効なのではないか。そして、情報を求める企業がトラフィック増大の対応として何らかの投資をする仕組みがあってもよいのではないか。行政と住民の連携も同様の観点からとらえることが可能。
- 報告書には、個人が幸せになるような提言と、民間の企業が儲かるような提言を盛り込みたい。ただし、そのつなぎが見えないため、それらを支える官のインフラという視点も必要。例えば、ブログの裾野は広がっているが、それ自身は企業に直接収益をもたらすまでには至っていない。ブログを活用したエンタープライズビジネスもこれから。ただ、ブログは標準化、構造化されているという固い側面とブログ自体の持つ生業がもたらす柔らかい側面を合わせ持ち、企業内の知識の継承に役立つ。ブログを盛り上げるため、個人・企業・官のそれぞれの視点で整理していきたい。
- CSRの流れやネット上におけるボランタリーな精神のポジティブフィードバックが起きれば、理想的な人間像が醸成される。そのためのインフラ整備を国としていかに支援していくかが重要。個人はよい製品・サービスを提供すれば、価格が高くても買いたいと思うものであり、多少時間がかかるかもしれないがネット上のビジネスは十分成り立つ。良い社会づくりをイメージしながら、多くの個人がネット環境に触れることのできる仕組みをいかに構築していくかについて提言に盛り込んで欲しい。
- ギャップを埋めるとためには、今の日本に必要な倫理観と社会の豊かさという軸を入れることが重要。
- 資料6の3ページに「企業活動の変革(社会(コミュニティ)投資ファンドの推進)」ととあるが、例えば、アメリカの大手製薬会社が運営しているポータルサイトに患者がボランタリーにアクセスすることで、様々なデータが体系立てて整理されており、そのコミュニティに基づきある個人を特定して治験を依頼するというプロセスになっており、コスト削減にもつながっている。これはコミュニティと企業が結びついた一例といえるが、こうした仕組みを総務省が後押しして育成していくと良いのではないか。
- テレビは事件を批判的にとらえることが多いが、報道されない別の側面も必ず存在する。メディアのパワーバランスは重要であり、ブログがメディアのインパクトを狙った報道とは別の側面をサポートして、近隣地域には適切な情報が適切な形で公開されることで、ブログの価値を表現していくと良いのではないか。ネットやブログは無機質に捉えられることが多いが、実は人情味のある良い仕組みであるということを示すことが重要ではないか。それは公正性や道徳性につながっていくと思うし、こうした社会的な価値まで含めてフロンティアといえるのではないか。
- 確かに、今後は個人が組織横断的に様々な活動をしていく。それ自体は良いことだと思うが、それに伴い個人も変わっていく必要があることは報告書に明記すべき。企業情報が無意識のうちに個人のブログでリークされた例があるように、公表しても良い情報の選別、情報の提示先の選別を個人が行う必要がある。また、セマンティックWebなどの技術もある程度サポートするということも指摘しておく必要がある。良い側面だけに焦点を当てるのではなく、負の側面にも触れるべき。
- 次回は報告書の素案に基づき議論したい。本研究会は提言が重要。
- 本研究会は大局的な見地から骨太の提言をまとめるという方向に持っていきたい。
- 本研究会で議論した結果を世の中に何らかの形で反映させたいので、細々した提言ではなく、来年度の国の政策に向けた骨太な提言などを構成員から提案して欲しい。基本的なトーンは全体の議論を通して表面化しているので、これをうまく取りまとめていきたい。
以上