情報フロンティア研究会(第5回) 議事要旨
1. 日時 平成17年5月31日(火) 10時〜12時
2. 場所 総務省 1001会議室
3. 出席者(敬称略)
(1) 構成員
國領二郎(座長)、木村忠正(座長代理)、岡田仁志、勝屋久、栗原聡、小林徹、V.スリラム、津田宏、西村毅、藤沢久美、柳沼裕忠、矢野貴久子
(2) 総務省
清水政策統括官、松井審議官、武田情報通信政策課長、村手地方情報化推進室長、内藤情報通信政策課課長補佐
4. 議事概要
(1) 開会
(2) 議題
@ ICTによるサービス(ビジネスモデル)におけるフロンティア
※資料4に基づく勝屋構成員からの発表の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- 大企業にも変化が求められているが、新しい技術が大企業内部で芽生えてきたときに、スタートアップ企業は大企業に吸収されてしまう構造が起きるのか、それとも、大企業が解体してスタートアップ企業が緩く結合するような構造になっていくのか。
- 個人的見解だが、現実的に大手企業は既存事業の保持・拡大を重視することから、当初小模模のエマージングビジネスを大手企業が中心となり立ち上げるのは困難であり、ベンチャービジネスの方がより迅速にその役割を担うことが可能と考えられる。
- アメリカのベンチャーはB to Bのテクノロジー系が多いが、日本のベンチャーはB to Cのサービス系、ビジネスモデル系が多い。そのため、ベンチャーの成長過程についても、アメリカでは大規模なテクノロジーベンダーに吸収されるパターンが多いが、日本では楽天、ヤフーなどのように、バックエンドのサービス向上を目的とした買収などにより自ら規模を拡大していくパターンが多い。こうした日米におけるベンチャーの特性の違いは何に起因するのか。
- 日本のソフトウエア産業においてミドルウエアなどのテクノロジーベンチャー企業は少ない。一方米国では、昨年IBMが買収したソフトウエア会社6社のうち5社がアメリカのスタートアップ企業であり、この分野ではアメリカがかなり先行している。
- 日本では、ハードの多くが海外から導入しているものであり、ビジネスの在り方も欧米の手法を導入している例が多いことを考えると、日本でソフト(アイディア)そのものを一から考えることはあまりないと感じている。
- アメリカは比較的モジュール型で特定の製品、技術の立ち上げは容易であり、場合によっては会社を買収すれば済む。日本は比較的インテグラル型でモジュール型ほど簡単にはいかず、結局ベンチャーも自ら比較的インテグラル型のサービスを立ち上げないとビジネスが成立しない。
- 日本は約14兆円という世界第2位の規模を誇る大きい市場を持っており、ベンチャー企業はまず国内でシェアを当然取ることにフォーカスする。しかし、次に海外に進出しようとするときに、人材不足・市場特性の違いなどの課題でうまくいかないことが多い。
- 日本の技術系ベンチャーの多くは、下請け業務の合間に本来の開発をやっている状況だが、そうした構造はアメリカでも同様なのか。
- そういう企業もあるとは思うが、アメリカの典型的ICTベンチャーはテクノロジー・プロダクト・サービスオリエンテッドな場合が多い。しかも、最初からM&Aをターゲットにして大手企業の製品のギャップを穴埋めするような技術を狙っており、全体としてうまく機能していることが多い。
- 日本では、いいアイディアを有するベンチャーであっても、結局、資金繰り、営業面の人材不足、管理体制の不備などでうまくいかない場合が多く残念。
- そこでCEO及びCOO的の人材が重要となってくる。大手企業にはそうした人材が豊富だが、現状流動化は簡単ではなく、大手企業とベンチャーとの連携という観点でもベンチャービジネスのことが経験してないため、一般的に協業も難しい。またベンチャーのコミュニティーと関係をもつ人材も不足している。
- 日本では全員の平均レベルを高めるアプローチが主流のため、基本的にはごく一部の人間が急に金稼ぎするというベンチャー主義が社会的に合うかという問題がある。また、日本の場合は失敗したら終わりと言われる可能性が高く、そうした風潮を変えない限り、ベンチャーが人気になるとは思えない。さらに、日本の場合、個人の貢献による資産は会社に帰属するという観念が強いが、個人の資産なのか会社の資産なのかを明確化しない限り、会社からベンチャー企業が生まれる可能性は少ないと思う。特にICTの場合、ソフトにおける日本発のスタンダードはほとんど存在しない状況であり、日本市場への進出からビジネスを始めようとしても成功の確率は少ないと思う。ユーザーから見て便利な商品・サービスが日本から次々と生まれるようにするためにも、政府によるベンチャーへの取組みが重要。
- アメリカでは、1980年代の不況期に失業者が立ち上げたベンチャーによってイノベーションに気づいた。日本では、実はそれほど深刻な失業はまだ経験しておらず、2007年問題に当たって、成熟した技術を有する団塊の世代が大企業から一気にアンバンドルされたときに、それを技術流出と捉えるのか、ベンチャーを生み出す素養として捉えるのかが戦略的に重要なポイント。そこでいかに国や大企業が若年層や成熟層とのTriple Winを築くかについて考えれば、将来に希望が持てるのではないか。日米のベンチャーの違いはつぶされる企業数で、アメリカでは努力次第で再生可能な企業をつぶした上で中間の企業に人材ごと異動させて成果を出すが、日本ではつぶす会社が少なく中途半端なバンドルにとどまることが多く、今後は企業の流動化によるベンチャーとのつなぎ合わせが重要となるのではないか。
- 数年前から起こっている企業発ベンチャーの流れは、今後どのようにすべきか。
- スピンオフや社内ベンチャーによる成功は、腹をくくってやらなければなかなか難しい。
- 本業を邪魔しないというスピンオフの条件を撤廃しない限り、社内ベンチャーは育たない。
- ビジネスモデル未確立のままお題目として立ち上げる社内ベンチャーの事例もあるが、それはいかがなものか。
- 親会社の顔色を窺いながらビジネスをするのではなく、お客様中心のビジネスに徹しなければおそらく成功しない。たとえ親会社の事業と抵触しても腹をくくっても徹底的にやる姿勢が重要。しかし、社内ベンチャーは所詮サラリーマンが行うものでありなかなか難しいと感じる。
- 日本と対照的に、韓国では国が技術を買い取るなど国策に近い形でベンチャー育成を実施している。また、韓国の大学ではベンチャー経営をやる際の制約が少ない。
- フィンランドでも、完全な国策としてVTT(フィンランド国立技術研究センター)、ヘルシンキ工科大、ノキアが連携して学生を育成している。日本でも、政府が関与しながらベンチャーを育成するようなシステムが必要だと思われる。
- ベンチャーを育成する上で、ある程度官が主導することは重要。例えば、個人情報保護法の関係でネットオークションに参加しにくくなりつつあるという問題もあるが、インターネット上で自分の力で金を稼ぐ経験はベンチャースピリットの第一歩であり、多くの人が起業したいという気持ちを持つために、個人の立場で商売する場を官としていかに整備・規制していくか、個人が参加しやすいポータルサイトはどうあるべきかについて考えてみるべきではないか。また、日本の中小企業をいかにベンチャーに変えていくかも一つの課題。既存の中小企業に若いICT技能を持つ人材をインターンシップで送り込むことによって、いかに中小企業を活性化していくかを考えてみる価値はあるのではないか。
- 政府への要望として、積極的に現場に出てベンチャー経営者との対話を継続して欲しい。
- 政府への要望として、第一に、起業の次の段階である拡大期における管理体制強化や資金繰りを支援するための情報を分かりやすく集中させて欲しい。第二に、個人資産の流動性が高まる仕組みにすべきであり、ベンチャーファンドへ出資すれば相続税が免除されるなどの税制措置を導入すれば、ベンチャーに資金が集まるのではないか。
- 現在、郵政民営化後の個人資産の運用を自由化する方向で動いているが、ICT分野への投資は今後の主軸の一つであり、ベンチャー、ベンチャーキャピタルへの投資、あるいはファンドとしての投資について企画を提案してもらえればありがたい。
- 郵政民営化後の個人資産の運用については金融庁でも議論しており、省庁縦割りではなく横割りでベンチャー支援を実施して欲しい。また、総務省という立場から考えると、地方自治においてベンチャーマーケットをいかに構築していくかというのは一つの課題。ICTベンチャーは地域インフラ整備を担う部分が大きく重要であり、各地域の証券市場や金融機関を通じて、住民たちが直接投資する共有の市場を官主導により整備して欲しい。これは地域レベルでの投資に対する意識、起業する意識向上のための実践的な教育にもつながる。
- 現在、ベンチャー企業ではIPOに耐えられるだけの規定集を作ることのできるスタッフが不足しており、人材の流動化の必要性を感じる。
- ふるさと債のような形で地方債を発行すると応募が殺到する場合が多い。住民には地域に資金面で貢献したいという気持ちはあるが、地方には求心力を集めるような投資先がなく、ベンチャーの目利きができる人材もいない。信頼できる住民ファンドが設立されれば、投資を希望する人は大勢出てくる。また、地方のベンチャー企業に投資して、そのサービスで住民自身が潤うという良い循環が生まれるので、そうした観点に重点を置くべき。
- 地方には官がベンチャー企業に出資している例があるが、目利きやポリシーがない。地方自治体が出資するのであれば、ただのベンチャーキャピタルにならないように明確なビジョン掲げて、地域の特性に応じた地域の育成に通じるファンドづくりが必要ではないか。また、地域にベンチャーバレーを立ち上げる際に重要なのが、優秀な研究者を集めるための生活レベルを含めたインフラ整備。
- 電子自治体構築に当たり、民間出身のCIO補佐官がいる自治体は明らかに新しいことに挑戦して結果を出している。ベンチャーや地域産業の育成の分野でも、鍵となる人材の民間登用をより組織的に明確な方向性を持って進める必要があるのではないか。
- 現行では日本は終身雇用制度のもと一旦退職金が切れると非常に損をする制度となっており、大企業でも退職させやすい人材をCIO補佐官として提供する例もあるなど、終身雇用でバンドル化されている人材は、外部で能力を発揮しにくい。若い世代がもっとアンバンドルして、退職金制度の変更を促すことが必要なのではないか。
- これまでの議論を総括すると、まず、日本のベンチャーにB to C系は多いがテクノロジー系は少ない原因として、モジュール・インテグラルの構造的な問題がある。それは開放型のビジネスモデルや大きな資金が必要なベンチャーが生まれにくい問題ともつながっている。次に、資源の流動性について、最大の問題が人材であることは明確であり、ベンチャー企業をマネジメントするCOO人材をいかに輩出するかという問題のほか、失敗した場合の再雇用市場の整備の問題、退職金の問題、人材育成の問題などがある。さらに、ベンチャーのマーケティング販売チャネルが確立していないという問題がある。これは人材面の問題もあるが、大企業や政府の調達ポリシーにベンチャーからの購入が盛り込まれないと育成は難しい。最後に、地域単位でのベンチャー支援の問題がある。ネタの無さは開発が内製化されているという構造問題に因るところが大きいが、団塊の世代の人材面・資金面・技能面でのリソースの活用も日本でベンチャーを育てるには重要。また、個人的には、個人情報保護法がどういうインパクトを現実に持ち始めているかを見直すタイミングになりつつあると思われる。少なくともICTの分野においては、ベンチャーにしかできないことは相当多いが、大企業におけるコーポレートベンチャーには限界があるので、独立したベンチャーの推進に取り組む必要がある。
- 特に中高生に対して、ベンチャー企業を創設する素晴らしさ、厳しさを含め、日本における人生のオプションを示す教育の場を与えられたら良いと思う。
- 金融経済教育をどうするかも含めて、省庁全体で考えていくべき問題。
A 報告書とりまとめに向けて
※資料5に基づく事務局説明の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- 本研究会のゴールとして、来年度の総務省施策にメリハリをつける上で、大きな流れとしてここが大事というシグナルをいかに発信できるかが重要。
- 11ページのAIはいかがなものか。これまでのAIではなくて、もっと高度でプレーヤーがコミュニティーを知的に活用するための新しい技術を指す言葉、例えばコミュニティー・インテリジェンスといった言葉が好ましいと思われる。また、ブログやSNSに詳しい人材が活躍できる場を企業が提供すれば、コミュニティーを活用する人材が育成されていくのではないか。情報フロンティア社会では、自分の中に縦のつながりを維持しながらも横のつながりで新しいものを生み出すという2つのプロトコルを共有する必要があるかもしれない。
- 本研究会が他の研究会とどういう位置関係にあるかも課題。
- インターネットの発達によって、今まで考えられなかったようなコミュニケーションが可能となり、個人の中に様々なモードが入ってくるようになると、インフラとして個人が表面化するようになり、ベンチャーに対する考え方などが大きく変化していく。ブログのトラックバックなど個人の情報発信に多くの反応が寄せられるようになると、個人の中でパラダイムシフトが起こる。官民一体となって、そのメリットを発信していくと良いのではないか。
- これからはグローバル化が更に進展するので、外国人とのコラボレーション・コミュニケーションの課題も入れておく必要がある。日本人だけだと凝り固まって新しい発想も出にくい。その実現のためは企業だけでなく個人も努力しなければならない。
- モジュールとインテグラルに加えて、ダイバーシティーの問題であり、多様性をより積極的にポジティブに受け入れていく文化が必要。
- 報告書案には、ICTの発達により環境の境界条件が変化してきたことについては具体的に述べられているが、社会の境界条件も同様に変化してきており、それが組み合わされたところに情報フロンティアが生まれているように思われるが、社会の境界変化を具体的に記述できないか。例えば、社会を形成するテクノロジーとしていかにICTを活用したらいいかという意識が、個人に広がることの重要性や、ダイナミックなコミュニティーというよりはパブリックなスペースを形成するためのICTの活用などが盛り込まれれば、フロンティア的ではないか。
- 今までは人間が意図的に情報に働きかけていたが、ユビキタス環境ではICT側が能動的・積極的に人間に働きかけるようになり、今まで埋没していた個人が見えるように誘導してくれるようになる。自分にフィードバックが返ってきて、自分のやっていることが具体的に反映されることを認識できるサイクルを生活面の実体験として感覚的に認識できるようになれば良いと思われる。
- 日本社会はサイバースペースに対して否定的な意識が強く、匿名空間としての認識が強いため、その克服が社会的に必要。自ら情報社会を構築し、そこで付加価値を生み出していく素地は日本社会にも生じてきているので、そこをうまく報告書として表現できるとインパクトがあるものになるのではないか。
- 本研究会では骨太の部分に集中する提言を盛り込みたい。これは個人の力をいかにエンパワーメントしていくかという話であり、何か分かりやすいキャッチフレーズ・キーワードがあれば価値のある報告書になると思われる。
- 金融庁が「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズを作っただけで、民間が勝手にそのキャッチフレーズでビジネスを始めている。ICTのマーケットを作るに当たっても、民間が創発されるようなキャッチフレーズがあると好ましい。確かに個人もエンパワーメントして、社会創造につなげていくのが一つの流れだと感じる。
- 一般の方が理解しやすい形で伝えることも重要。現在、個人が発信している情報同士が共鳴するような現象が明らかに起こっていると思われる。社会現象として実際何が起こっているのかについて、身近に感じられるような表現で考えてみたい。
- 個人による情報発信は、個が見えてしまい制御がきかなくなる。また、インターネットは年齢的に利用している層に偏りがあり、インフラとして考えたときには広く遍く普及することが重要。
- 2007年問題をいかにうまくプラスにするかが重要となってくる。
- 2007年問題も、意識を変えれば問題ではなくてチャンスとなる。また、電子マネーは個人の履歴を残す仕組みであり、履歴を見せることによって購買のパワーバランスが変わったり、個人に様々な価値をもたらしたりするなど、需要側の仕組みを通じて社会が変わりうる。
- 個人情報保護には強い問題意識を持っており、あまり熟成されていない個人情報保護の考え方や行き過ぎたプライバシー保護が、企業のビジネスを阻害したり、国家全体の利益を損ねたりする可能性が極めて高くなってきていると思われる。どこかできちんと議論しないと、マイナスの方向に向かうだけだという強い危機感を持っている。
以上