情報フロンティア研究会(第6回) 議事要旨
1. 日時 平成17年6月14日(火) 10時〜12時
2. 場所 総務省 1001会議室
3. 出席者(敬称略)
(1) 構成員
國領二郎(座長)、木村忠正(座長代理)、岡田仁志、勝屋久、栗原聡、小林徹、齋藤義男、V.スリラム、西村毅、藤沢久美、柳沼裕忠、矢野貴久子
(2) 総務省
清水政策統括官、松井審議官、武田情報通信政策課長、村手地方情報化推進室長、内藤情報通信政策課課長補佐
4. 議事概要
(1) 開会
(2) 議題
情報フロンティア研究会報告書(案)について
※資料2に基づく事務局説明の後、質疑応答・意見交換が行われた。
- まず、ICTの進化により情報が氾濫している問題について、情報を選別して獲得する最良の方法は情報を発信することである。次に、企業の知識創発の仕組みについては、ブログ、SNSを超える何かが生まれてくると思われ、異業種や企業・個人が連携した新たなビジネスを産業創造に生かす必要がある。最後に、ベンチャー育成について、ICTを活用した企業連携のテストベッドが地域に求められる。この3つの観点から、「京都試作プラットフォーム」や「SOHOしずおか」などの事例も参考にしながら、最先端ICT技術を実際に検証する場を政府としていかに設定するかについての記述を報告書に盛り込んではどうか。なお、学校におけるICTインフラ整備についても、政府として重点的に取り組む必要がある。
- 本年、経産省を中心に各省庁連携して中小企業3法の再編を実施し、中小企業やベンチャー企業が主体となって大企業などと連携する新スキームを確立させており、活用を促進していくことが重要。また、学校のICT化については、関係省庁が一体となって地方自治体及び教育委員会に働きかけを進めており、問題意識を持って取り組んでいきたい。
- 本研究会で検討した技術を活用した消費者参加型のモデルやブログ・SNSを超える新しいメカニズムに関するリスクテイクで意欲的な実証実験について政府の支援策があれば、実際の構築に効果的ではないか。
- 既に動き出しているものに加速度をつけるためにテストベッドを構築するという発想を持たなければ、新しいベンチャー企業は生まれない。それを構築する場面は既存のポータルサイトでも良いし、地域再生プランとして経産省などと一緒にやっても良いと思われる。
- 23ページの「義務教育過程のほか、地域コミュニティ全体での取組みを強化」という提言はおそらく共通認識だが、例えばブログ・SNSを明示的に学校教育に導入するなど、もう一歩踏み込んだ提言が出来ないものか。また、PCネットワークの未整備、教師のICTリテラシー不足などの厳然とした事実に対しても踏み込めると良いのではないか。
- 前回骨太の提言にすべきであるという意見があったが、これは抽象度を上げることではない。本研究会ならではの具体的でインパクトが大きい提言を現実に投げ込むことができれば素晴らしい。
- 教育の現場も変わりつつあり、少なくとも高校生は情報の探索に電子辞書を利用している。したがって、情報探索やオントロジーの概念を明示的に中学・高校に持ち込むという提言は意味があると思われる。
- ICTリテラシーの教育を行う際には、当然であるが道具を与えるだけでは不十分で、道具の使いやすさを具体的に教えるとか、道具の可能性についての道標を教えれば活性化する可能性がある。そのためには、まず道具の面白さを理解し、生徒に理解させることが出来る十分な教員数が必要となる。
- 政府が主導しすぎると省庁間の壁が邪魔となってうまくいかない、例えば初等教育課程の生徒が全員ブログを持つようにするという提言をすることによって、学校内のセキュアなネットワークにおける実名のコミュニティを構築し、互いに交流を深めることによって創発が育まれるという文化を生徒に教育することが可能となるのではないか。また、教育におけるブログの活用によって学校が地域の中で最先端な場所となると同時に、日本のお稽古事文化に基づきブログのお稽古事産業が生まれるという意味でも大いに期待できる。国の取組みによって自然に民間が活性化する仕組みを構築できないものか。
- ICTの発展により、人は実世界に加えて情報世界に住むことになる。これは学校においても同様であり、教室に自分の席があるように、学校における情報世界での教室にも、各個人の席があってしかるべきであり、各生徒用のブログサイトなど情報発信できるツールが最初から存在するのは自然な展開だと思われる。
- ブログ版学級新聞を作成する、掲示板におけるモラルを教育するなど、ブログだけでも教育価値は高いと思われる。
- 実名ベースにすれば、おそらくセキュリティー、個人情報保護、インフラの問題などは後からついてくる。教育現場における実名ベースのネットワーク利用は非常に良いテーマなのではないか。
- 一般の人はインターネットには匿名性があると信じているが、実際は匿名ではない。匿名でなければ、ネットワーク上における書き込みについて責任を持つようになり、ネットワークとの付き合い方を真剣に考えるようになる。
- ICT分野で学校に多くを期待するのは望ましくないのではないか。学校で最先端のことを実施しても、必ずしも産業に結びつかない。知が価値に変わることに情報フロンティアの意味があり、教育に特化するよりも、生徒の属する様々なコミュニティがブログを作ることによって価値を生み、その価値をうまく社会に還元していく機会を設ける方が望ましい。また、個人・企業などの対象やシチュエーションに応じて政府による支援の方向性やフロンティアを目指すために必要なものは異なるため、それらを明確にした上で情報フロンティアの望ましいバリューチェーンを生み出すモデルを提言すると分かりやすいのではないか。
- 子供の頃から自然にネットワーク上の情報発信に慣れ親しんでおくためには、学校教育によって社会規範を身に付ける過程で、最低限の情報世界市民(これからはユビキタス市民)としての素養(社会規範)も学ぶ必要がある。
- これからは個や民が価値を生み出していく時代だが、他方でICTによって既存のものが原点に戻る気がしている。例えば、かつて学校は知識を供給するだけでなく、コミュニケーションや人間力などの暗黙知を供給する場だった。ICTによってあらゆるところから知識を得られるようになると、特に初等教育は、暗黙知的な人間として生きていくための知恵を伝える場に変わっていくと思われる。暗黙知を効率的に学ぶツールとしてICTを学校に取り入れることは重要なのではないか。
- 我々は事実として未だに学校に大きく依存しており、国に負担をかけたくないからといって学校の外側で全て解決しようとするのは難しいと思われる。
- そういう意味では、官民ともに必要だというのが共通認識ではないか。短期的には、ベンチャー企業向けに技術検証や動作確認ができる場があれば実用化が容易となる。他方、長期的には、ベンチャー企業の誕生を育むため、学校教育におけるICT環境の整備は重要。社会のエコシステムという発想があったが、学校教育環境の整備を国に頼りすぎず、古いパソコンを学校に寄贈するなど、民間においても協力する仕組みを考える必要がある。
- 学校も地域の一つであり、学校で立ち上げるサイトが地域の中で孤立する特別な存在ではない。学校としても、学校のICT化を地域コミュニティと一体となって進められる方策を考える必要がある。
- 現行では地方自治体のホームページの作り手がばらばらで情報が散乱しており全然活用されていない。そこで、国が情報の在り方や情報検索の仕方に関する大まかな枠組みを整備すれば、教育、産業、女性といった情報に関する窓口が明確になって分かりやすいのではないか。
- まさに情報洪水が現実となっている証拠であり、もはやトップダウン的な仕組みは限界を迎えつつある。やはり、検索的手法から探索・発見的手法への移行が望まれる。
- ハードウェアとそれを活用して得られる情報のアンバンドル化がICT活用の究極的な姿だと考えるが、個人の情報がアンバンドルしただけでは十分でなく、その情報価値デザイナー、あるいはディレクターが必要。もっとも、人材育成プログラムの設置はなかなか難しいため、大学がその役割を担うと良いのではないか。
- ディレクター足りうるハウツーが必要だが、ある程度は理論的に構築できると思われる。
- ICTを活用したビジネスは高いクオリティーのある情報で商売しなければ必ずしもうまくいかない。IPOして資金を調達できるケースは多数あるが、真似しやすい領域における公開企業が多く、今後いかにICTベンチャー企業を育成するかは重要な課題。
- これまで生み出したい価値に関する議論と手段に関する議論があった。コンセンサスがあるのは、情報洪水という問題を解決するため、膨大な情報の検索、探索、窓口が機能として重要であるということ。また、個人参加や企業連携による価値を形成するに当たって重要になるのがディレクションであり、その実現には教育の場が大きな機能を果たすということ。その際、ブログの活用がリテラシーの向上、セキュリティーの確保に効果的であり、それをターゲットに個人情報保護の技術を構築していくと良いのではないか。国の関与が行き過ぎるのは望ましくないという意見もあったが、民間の創発を促すための一定の支援は必要ではないか。例えば、国民全員がブログを持てる環境を整備するなどの施策を提案してはどうか。
- 企業が小中高に講座を持つというのはどうか。
- 成長率、利益率を含め企業を変える意識が強い企業は、海外のベンダーと積極的に提携している。したがって、海外へのアウトソーシングに対する経営者の意識が最も問題となる。仕様書の問題やモジュール化・SOAの問題についても、まず経営側が問題を構造化して定義を行うことによってより具体的な提案をしなければうまくいかないと思われる。技術ではなく、技術と業務のインターフェースをいかに整理するかという問題。
- 日本企業は変わっていく必要があり、既存のやり方、ビジネスモデル、ビジネスプロセスを見直しベストプラクティスを見つけてフィットアンドギャップ分析を行い、それに合わせることが可能であれば、SOAの手法によりハイレベルな構造化を行うというのが一つの方向性。ただし、徹底的にベストプラクティスを受け入れるのはコアコンピテンシー以外の分野であり、コアコンピテンシーでは独自性を保つ。こうした考え方を実践しているのはごく一部の企業に限られており、今後どう変わっていくかがポイント。結局はデシジョンメーカーが覚悟を決めて変わろうとしているか否かの違い。
- 経営者がある程度ICT領域を理解しない限り変えられない。逆にシステム分野の専門家はある程度ビジネスを理解しなければいけない。そのためのハウツーを考える必要がある。
- ICTは混乱を引き起こす動因であるとともに、混乱を解決できる道具でもあるという二面性を持っているが、実際にICTが人のつながり方や社会組織の構成の仕方を変える力を有することは確かである。情報社会において個人が様々な側面を持った複数系の個人になってくると、人格的信頼に基づく「私」という確たる存在でなく、ネットワーク上で脱認証化された匿名の存在であっても、そこにシステム信頼を構築する文化がなければ、我々が描くようなネットワーク社会へは進化しない。したがって、「フロンティア的ビジネスモデルの展開」という提言において、電子的なつながりにおける新たなシステム信頼という切り口からビジネスモデルの展開に様々な要素を盛り込めるのではないか。
- ICT技術に関する議論の根本にあるのは意識の問題であり、ICTを活用していかに意識を進化させていくべきかが最終的に問われるのではないか。その意識の進化には究極的には場が必要であり、ICTを活用していかに場を設定するかを考えなければならない。そのためには、技術的課題だけでなく社会的課題・制度的課題を洗い直す作業が必要。
- これまで「個の復権」や「郷の復権」が唱えられ、個や郷を支える場が設定されてきたが、本報告書は個と個の連携の場としてブログ・SNSを捉えている点が興味深い。個の連携が自律的に偶然うまくいっているのに比べて、郷の連携については、画期的な取組みを行っている地域はあるものの、それをつなぐ方策が見えておらず、そこをうまく記述できれば報告書の売りになるのではないか。
- ICTの世界では全てが平等であり、誰でも目立つことが可能だ。しかし、それが故にこれまでにはなかったような問題も発生するし、また平等な世界であるが故に今まで解決できなかったような問題が解決されることもある。ネット上では物理的な距離という概念が存在しないため、地域同士の連携も容易になる。そして実世界と情報世界を連結するためには技術面に加えて教育が重要であり、教育は個の自主性だけでは解決されない。
- 社会学におけるコミュニティは人格的信頼に基づく顕名性を有する社会であり、アソシエーションは任意に特定の目的のために活動する社会。その意味では、日本社会におけるネットワーク上のつながりはアソシエーションに近い。生産者と消費者が対等化したり、持続的な信頼関係を築いたり、ネットワークを介したC2C取引が拡大したりするためには、個自体が、ある意味ではコミュニティを形成することにより新たな信頼感を生み出すような社会基盤が必要。
- コンテンツや物に対する信頼の裏づけをしてくれるという意味では、カリスマ消費者やプロシューマーの重要性が高まるのではないか。カリスマ消費者やプロシューマーといった個のパワーを地方自治体サイトやビジネスを立ち上げる際のテストベッドに活用する仕組みを考えてみてはどうか。
- 例えば認証の仕組みについても、個人と個人が相互認証することにより信用力を担保するPGP的な構造と、法務省を頂点としたヒエラルキー構造があり、それらの選択問題がある。本研究会としては、PGP的な構造をブログの世界でも運用できる可能性を確かめてみたいということ。
- 法的根拠が不要な部分については、我々はむしろPGP的な個人間の信用連鎖を信用する。だから企業活動や政府活動の中で法的根拠をベースにしている世界と、全然それが要らない世界のうち、後者についてはPGP的なプロシューマーやカリスマ消費者による宣伝は有効だと思われる。
- 総務省としては、「京都試作プラットフォーム」などによる新連携において、ICTが重要な役割を果たしたことをアピールすべき。企業連携におけるICTの役割を意識してもらうためには、ICTによって活性化した部分について何らかの補助をするなど、素晴らしい取組みを目立たせる工夫が必要。また、起業家や情報デザイナーは志のある人でなければなれないが、さらに必要なのは勇気。そういう意味では、ICTを活用して成功事例を情報発信できないものか。
- 地方自治体サイトを例にすると、自治体ごとにサイトのテーマを設定する必要があり、プロデューサーがそのテーマに沿って予算と時間と人材を管理して作成していくことが重要。編集の仕方やナビゲーションの見せ方などの必要最低限のハウツーは統一して、あとは自由にコンテンツを作成するというルール責任者が共有することが必要。
- 身近な地域でICT技術の恩恵を感じられる社会を形成するのがユビキタスの根本であり、総務省では新しい高付加価値な地域サービスを生み出すために必要なプラットフォームづくりに向けた取組みを推進している。しかし、それを実用化するためには更なるインパクトが必要であり、テストベッドを活用してプラットフォームを実現させるなど国としてもう一歩踏み込んだ取組みを行えば、ステップアップが図れるのではないか。また、地方自治体は多業種にわたった統合的な主体であるが、ICT分野をいかに活用して業務を効率化するかという視点が未成熟。地方自治体には業務に近い上流行程を管理する人材やICT技術も業務も分かる人材がいないため、CIO教育もそうした観点から実施できれば良いと思われる。
- 多くの実証実験案件において、地方自治体は補助金を取ること自体が目的となってしまい、当初の目的を果たしていない。その解決策として、ポリシーメーカーが実証実験の現場に明確に参加すること、人材と予算を少数のプロジェクトに集中させて骨太の実証実験にすることが挙げられるのではないか。
- 個人の発信力、ICTの創造力をブログから算出したり、ブログから公開した企業の調達件数を把握したりするなど、個人のICT力に係るベンチマークを作成・公開してはどうか。
- 個人がブログで発信した情報がどのように拡散していくのか、トラックバックがどのように増えていくのか、トピックがどのように変遷していくのかに関する研究も既に開始されている。まだ、そのための開発ツールやブログの影響度を解析する尺度などについても様々な手法が提案されている。
- 20ページについて、大企業がベンチャー企業を買収するというイグジットの仕方がテクノロジーベンチャーの発掘につながるため、ベンチャービジネスを支援するために大企業をサポートするというメッセージが必要。あるいは、政府調達におけるベンチャー企業の商品の積極的な採用も重要。また、22ページについて、企業における個人の姿と、地域コミュニティ・個人における個人の姿は完全に異なっており、それぞれB2BとB2Cの側面のアプリケーションを結ぶインフラとしてu-Japan インフラがある。それぞれで回転するルーチンがつながって、そうした個人がu-Japan を発展させていくイメージを具体的に散りばめると、提言に深みが増すと思われる。最後に、23ページについて、最初にICTリテラシーに関する提言が記載されているのは重要なポイント。
※報告書については、座長一任によりとりまとめ、報道発表を行うことで構成員了承
以上