ミヒャエル・シューマッハーは幼児期をキャンピングカー生活の中で過ごした。父が腕っこきのレンガ職人で、各地の工場へと呼ばれては所在を移動する生活だったのだ。
ミヒャエルがカートに乗り始めたのは4歳のときだった。ミヒャエルは筋がよかった。才能をグングン開花させていく姿は、誰の目にも眩しく見えた……。そして父はレンガ職人の誇りを胸にしまいこみ、カート場の管理人へと転職した。一家は、ケルペン(ケルン郊外の街)に定住した。
孟母三遷というが、親の努力のほとんどは平凡な結果にしかつながらない。だが、それでも親は子どもに何かを期待し、自分の夢や誇りさえもどこかへしまいこむ。そうして凡庸の波間へと消えていった多くの才能の死屍累々の上に、皇帝ミヒャエル・シューマッハーは君臨している。