趣味Web 小説 2003-05-27

幼稚園の実習で教官を見返す方法

精神的にキツイです。正直、小学校・中学校免許の授業は受けてきたのですが、幼児教育は何も分からないまま、幼稚園配属となりました。知らないことが多いので、担当の先生に当然質問して、どう動くのかを聞くのですが…。
「日本語も分からないの?」
「そんなこと聞くなんて、勉強してないって言ってるようなものよ」
とか、そういうことを、質問したら必ずそういったことが最後に付いてくるのですわ…。先生、私らのことが嫌いなのですか? 自分で判断をしないで下さい、勝手に判断して大変なことになったら困る、私らになんでも聞くようにして。…そう最初に言われたので、質問してるんですけど。それなのに
「そんなことも分からないの?勉強不足ね」
って言われたら、どうしたら良いのか分かりませーん!!

ん~、これはけっこう基本的な問題だと思います。けれども、この手の問題は一度経験がないと正解がひらめかないものかもしれませんね。というわけで、僭越ながら私が回答を試みます。

ズバリ、正解は「どれほど嫌味をいわれ、叱られ、馬鹿にされても、決して質問を躊躇しない」です。

「さっきもいったでしょ」「何回同じこといわせるの」「日本語からやり直した方がいいわ」「ちょっとは頭を使いなさい」「私だって暇じゃないのよ」「アンタの面倒見てるだけが私の仕事じゃないの、わかる?」「よくそれで20数年も生きてこれたわね」「ほんと、役立たずなんだから」「そんなこともできないの」……どれだけいわれても、質問し続けてください。絶対の自信がつくまで、自分で勝手に判断してはいけません。

絶対の自信とは何か。「バカッなにやってるのよ! そんなことしたら***じゃないの! なんでそんなこともわからないの!」憤怒の表情で詰問する指導官に対して、うつむくことなく目を合わせてはっきりと自説を展開できることです。幼稚園の実習ではありませんが、指導官は話を聞いてくれない、という話をよく聞きます。しかしそれは、私が見る限り当然じゃないかと思われる場合がほとんどでした。うつむいて、自信のかけらもない消え入りそうな声で「……えっと、だって、それは」さっさと本題に入れ、と。それで本当に指導官の意見を粉砕する気があるのか、といいたい。

そのくせ、気のおけない仲間のところに帰ってきた途端に「何だよあいつはよー、人の意見を聞こうともせずに頭ごなしに怒鳴りつけやがって」とか言い出す。指導官の態度に反省すべき点があることは認めますが、お前も一回死んでこい、という話です。「俺、もう嫌だなー」「ま、ちょっと我慢すればあいつともおさらばだって。それまでテキトーにやり過ごそうぜー」なんてくだらないこといってるんじゃないよ、と。

なぜ、面と向かって反論できないのか。それは自信がないからです。勝ち目がないと思っているからです。何となく「本当は自分のほうが正しいんだけど、あいつが怖いからとりあえずあいつのやり方に従っておこう」だなんて考えている人が少なくありませんが、それはとんでもない勘違いです。自分を騙しているのです。本当は指導官の意見の方がスジが通っているのに、自分を騙して認めようとしていないだけなのです。「何かヘンだな」「それはおかしいと思う」という直感だけで反発しているから、底が浅いのです。ふらついているのです。勝てないのです。そう、うつむいているうちは勝てません。

だったらなぜ素直に「申し訳ありませんでした」といわないのか。せめて指導官の意見を真摯に受け止めようとしないのか。一生、負け犬でいたいならそれでもいい。しかし本気で、いつか指導官を乗り越えたい、自分も本物になりたいのなら、まず頭を下げることです。

多くの場合、効果的な反撃は相手の意見を努めて冷静に、愚直に分析するところからはじまります。分析する材料は貪欲に集めなければなりません。こけにされ、傷つけられ、踏みつけにされつつ、それでもわからないこと、疑問に思うことを質問するのです。「うるさい」「質問ばかりするな」そういわれても、「お願いします」「どうかお願いします」と頭を下げるのです。アホみたいな話ですが、これで勝てます。相手によっては、こうして頭を下げ続けるだけで勝てます。例えば「よくあるパターン:指導官の上司に気に入られる」が発動します。例えば「よくあるパターン:じつはけっこういいヤツかも」が発動します。

王道はもちろん、知識と経験を集約して、一点でいい、指導官と互角に渡りあう実力を養うことです。そして正面を向きあって意見をぶつけ合うことです。例えその場では負けたとしても、そのとき眼前には、新たなステージへの道が開けているはずです。

……とまあ、「何とか人生相談」みたいな調子のいいことを書いたわけですが、頭を下げ続けること、弱者連合でなれあわないこと、このあたりは重要です。つきあいは大切だからいくら愚痴をいいあってもよいのですが、心の底からなれあってしまうと、まずもってろくな結果になりません。テスト前に「全然勉強してないよー」とかいうのはいいのですが、本当に勉強しなかったらどうなるか、みなさんよくご存じのはずです。「あいつひどいよね~」とか泣き言をこぼすのはいいのですが、現場へ向かったら気持ちを切り替えなくてはなりません。

あんな人にはなりたくない、そう思うのはよいのですが、しかし学ぶべきことはそれでもたくさんあるはずです。どこかで気分をすっきりとさせて、現場では絶対に負けないこと。大嫌いな指導官に頭を下げられる強い心を育て、鍛えてください。

ところで、幼稚園における教育実習の期間は短いですから、頭を下げているだけでついに指導官に勝つことなく終わってしまうかもしれません。それではあんまりにも悔しいかもしれませんので、ひとつヒントを差し上げます。参考になるかもしれません。

まず、子どもの様子をじっと観察します。仕事をしながら、じっと観察します。暇のあるときは、なおのこと真剣に集中して観察します。「よそ見してるんじゃないよ」と叱られたら、「すみません」と謝っておけばよいでしょう。にこにこせずに、大まじめな顔でいれば、あまりひどく叱られることもないと思います。そうしてしばらく観察していると、子どもの個性が見えてきます。心配なことがどんどん出てきます。それを順次、指導官に問うていってください。「**ちゃんには**する癖がありますね。それでさっき**なことになっていたのですが、注意した方がよいのでしょうか」というように、何か具体的な事象に引っ掛けて。

そしてしばらくすると、いつもと違う行動に出る子どもが必ず現れます。これは、そのまま報告すればけっこうです。「**ちゃんが**しています。ここ数日は**していたのですが、こうした変化はよくあることなのですか」

たいてい、こうした報告は空振りになります。しかし、平常の状態を知ること、変化を捉えていくことは、必ず大なり小なりの危機の予防に結実していくのです。よほど実力のある指導官なら、実習生の報告するような内容など全部気付いているかもしれません。しかしそうした方は、「変化に気付く」実習生の実力を認めます。実力の足りない指導官なら、「変化に気付く」実習生に驚かされる場面が必ず出てきます。毎日子どもを見て「わかった気になっている」ので、見落としが無数に生じているからです。新鮮な目で子どもを見ることができる実習生は、慣れていないがゆえにビギナーズラックにあずかることができます。

ひょっとすると、皮肉っぽく「凄いわね!」といわれるだけであしらわれてしまうかもしれません。けれども、指導官は心中で舌をまいているでしょう。小さいながらも、これでひとつ勝てるのではないでしょうか。

まあそんなこんなで、どうかくじけずに実習を乗り切ってください。

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