趣味Web 小説 2003-06-11

テニアン島

今年は火星が大接近するそうで、火星儀が例年になくよく売れているという。

そういえば昨年は部分日食があった。部分日食というのは東京の話で、じつはマリアナ諸島までいくと金環日食を見ることができた。地球を固定して考えた場合、月は楕円軌道を描いている。月が地球から離れ太陽より小さく見えるときに日食が生じると、金環日食となる。

マリアナ諸島にはテニアン島がある。年配の方には郷愁を感じる方もいらっしゃることだろうと思う。日本は第一次大戦の戦勝国である。テニアン島は敗戦国ドイツより割譲され、多勢の日本人が暮らした。中山義秀の小説「テニヤンの末日」は昭和23年(1948年)9月に発表された。平和だったテニヤン島においても、駐屯部隊の末路は悲惨だった。現在この作品は新潮オンデマンドサービスで3200円にて購入できる。

中山義秀は昭和8年まで私の母校で教鞭と取っていた人物である。文学に傾倒して教師としての評判は芳しからず、病身の妻を抱えていながらついに職を追われることとなった。そして妻の敏は亡くなってしまい、生活はいよいよ困窮した。昭和13年になって「厚物咲」で芥川賞を受賞、翌年の「碑」で名声を高めた。以後、終世を文士として暮らした。新潮社は中山と縁が深く、死後に全集も刊行している。現在、オンデマンド出版を手がけているのもそうした縁あってのことかもしれない。しかし、おそらく現在もっとも手に入りやすいのは講談社文芸文庫「土佐兵の勇敢な話」ではなかろうかと思う。

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