趣味Web 小説 2003-06-10

路面電車の日

定期券を忘れて寮を出たので、西武池袋線某駅の改札口で呆然としてしまった。池袋まで300円もかからないわけだけれど、往復で500円を越えるのは痛い。会社は池袋ではなくて高田馬場にある。だから池袋から高田馬場まで山手線2駅分のお金も貰っているのだけれど、そちらはいつも歩いている。乗り換えに時間がかかるのと、高田馬場駅から会社が遠いということもあって、歩いた方が早いのだ。新入社員の頃は何も知らなくて、毎日お金を無駄にしていたものだった。先輩社員がみなJRへの乗り換えが便利な先頭付近の車両を利用していないことに気付くまで、2ヶ月近くかかったものだった。

私と同じ電車を利用しているベテラン女性社員の方がいる。背の低い50代の方で、片足の具合が悪いらしく、いつもびっこを引いている。えっちらおっちらと体を揺らしながら一歩一歩進む。私は早足だから、池袋駅を出るとすぐにこの先輩をすいっと抜き去る。「おはようございます!」……ところが、なぜか会社につくのは先輩の方が先なのだ。私が会社につくと、先輩もう、作業着に着替えているのである。いつもいつも。私も頑張ったのだが、1年経っても、この差はどうしても縮まらなかった。私は焦りを感じた。そして、ついに反則を犯すことにした。走ることにしたのだった。

ジョギングペースで快調にとばす。道の左手に会社の門が見えてきた。目の前に迫る。ゴール! 勝った、と思った。……ところが、本館に入り更衣室のある地下へとおりる階段で、先輩の背中に出くわしてしまった。そんなバカな。先輩は、相変わらずよたよたとした動きでゆっくりと歩を勧めていた。

翌朝、私は駆けた。タイムをはかるつもりで疾走した。途中でばてた。疲れて、少しトボトボ歩いた。ダメだ、勝てない。いや、ここで負けてたまるか。そしてまた駆け出した。ぜーぜーいいながら会社の近くまできた。踏切警報機が鳴る。通れるか? 無理だ、間に合わない。ガタピシいいつつ電車がやってきた。そして、踏切の隣にある停留所のホームで止まった。そして、先輩を降ろした。あー。あー。「やあ、今朝は急いでいるんですか」「ええ、まあ(ぜーぜー)」

というのがまあ、先週の話。今日、6月10日は路面電車の日だそうです。1995年の路面電車サミットで決まったそうな。日本限定。「路→ロ→ロク→6/電→デン→テン→10」んー。

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