趣味Web 小説 2003-11-13

ガールズサイトのデザイン事情

仮に、(大半の)読者に努力を強いないことを是とするならば、文字サイズを小さくすることにも理があるわけです。

当サイトは、運営開始後しばらくはアドバイスしかしていませんでした。他人にアドバイスするばかりで、自分のところはどう見られているんだろう? という疑問はいつもあって、2002年の上期には、結構たくさんのサイトに意見を伺いました。

当時、私の主戦場は各所のサイト批評掲示板でした(途中からログをとり始めましたが、初期のログはほとんど残っていません)。あらためて自分の発言を見直してみると、だいたいサイト批評掲示板で批評依頼を出すのは女子中高生が多かったので、逆にその系統のサイトを運営されている方に、とくに多くの意見を伺うことにしました。現在、サイト批評サイトリンク集で「女の子向け」と分類しているようなサイト群に批評依頼を出したわけです。

その結果は、概ね好意的、しかし幾つかの苦言あり、というものでした。以下、多かった注文を順に並べます。

  1. 文字が多い(幅を固定し1行の文字数を制限すべき/ページが縦に長い/etc.)
  2. 文字が大きい
  3. フレームを使ってはどうか(全頁に上位のナビゲーションを添えるべき/etc.)

幅固定の是非とリッチなナビゲーションの問題は、とりあえず措いておきましょう。ここでは文字サイズの件に注目します。

なぜ文字サイズを小さくするのか

女子中高生のサイトには、文字のやたらと小さなサイトが多くあります。それはなぜでしょうか?

私のサイトは、当時も今も、デフォルトで適用される製作者CSSにおいては、基本の文字サイズを100%としています。標準のサイズで表示する、ということです。私は小さな文字が好きなので、IEの文字サイズ指定は「最小」を常としていますが、ちょうどそれで(ユーザCSSなしでも私の環境では)お気に入りの12pxとなります。

2002年上期には、私はユーザCSSを用いておらず、IEのユーザ補助さえ、常用してはいませんでした。そのため、女子中高生のサイトに意見するとき、まず文字サイズの小さいことに閉口させられました。文字サイズ「最小」では、読めない字が珍しくなかったからです。

ちなみに、最近ではそういうことも減ってきました。文字サイズを固定しているサイトが増えてきたからです。文字サイズ固定なら、ユーザ補助を用いない場合、文字サイズ「最小」としても(少なくとも私にとって)読めないほど小さな文字にはなりません。17インチの画面で1600×1200程度の解像度なら、ドットがつぶれない10px程度までの文字は読めます。私の場合、画面上実寸の文字サイズよりもpx(というかドット数)が重要です。ただしアンチエイリアスなしの場合に限る。

私はそうした事情から、文字サイズを-2としたり、文字サイズ1などと指定することには批判的でした。小さい文字が好きな人は、IEの表示設定で「小」「最小」を選べばよく、作者が小さな文字を好きだからといって、文字サイズ「中」で文字が小さく見える必要はないのではないか、と。しかし、私の言葉は説得力を持っていませんでした。自分が意見される立場になって、初めて、そのことを実感したのでした。

(多くの)女子中高生は、小さな字を好みます。そして、意識して、字の小さなサイトを選び、ひいきにします。つまり、こういうことだったのです。自分は小さな字が好きだから、どのサイトも小さな字で読もう、とは考えないのです。最初から、字の小さなサイトを選ぶのでした。印象的な言葉があります。「字の大きなサイトに、共感できたことがないんです。センスも、生き方も違うんですよ、大きな字でも平気でいられる人とは。だから、私は字の小さなサイトを選ぶし、自分もそうするんです」メールで出した質問への、ていねいな回答の一部です。

つまり、彼女らにとっては、「標準より小さな文字サイズ」が意味を持っていたのです。表示設定で「小」「最小」を選べばいい、とか、そういった問題ではなかった。そして彼女らは、明らかに自分とセンスの近い客層を期待していました。小さな文字は、世界観を共有できない、望まない客をふるい落とすフィルターでもあったのでした。実際、彼女らのサイトの読者の9割以上は想定通りの読者であり、文字サイズ「中」で小さく表示される文字を好ましく思う人々だったに違いありません。

もちろん閲覧者が無知であることを助長するようなことになったら問題だとは思いますが、しかし「ページを見ていただく」という立場から考えるなら「様々なブラウズ環境にある閲覧者に対して、できるかぎりこちらの意図がストレートに伝わり、しかも相手にとって見やすい/閲覧可能であるページ作成を心がけるべきである」という点ははずせないと思います。もちろん100%対応などはハナから無理ですが(当サイトもunicode未対応ならつらいでしょうし、Netscape4.xは切り捨てています)、できるだけ多くの方に自分のサイトを「読んでいただく」というのであれば(少なくとも主張サイトはそうあるべきでしょう)「読者に努力を強いない」というのは一つの条件と思われます。

なぜなら、読者が最初から努力を強いられるなら、そのサイトはそもそも読まれません。となると、自分の啓蒙したいことすら伝えられないのです。

現実問題にこだわっていきましょう。彼女らが思いを伝えたい相手は、自分とセンスの近い読者です。そして彼女らはこう思っているのです、「文字が小さいサイトしか、読む気になれない」と。様々なブラウズ環境にある閲覧者に対応するために、主な読者層を逃してはバカバカしい限りでありましょう。2002年といえば、既にIEがシェア9割を誇っていました。そして、彼女らのサイトを訪問する人の大半は、女子中高生です。

現実問題として、彼女らは、わざわざ、文字を大きくする理由がありません。読んでほしい人に読まれるために、彼女らは文字を小さくする以外の選択肢を持ちません。そうして、弱者が切り捨てられていく。例えば、目が悪くて、どうしても小さな文字では読めない人が。

文字サイズを固定する理由

ケース1

女子中高生のサイトにおいて文字サイズを固定する利点のひとつは、文字サイズ「中」で文字が小さいことを期待する読者層と、文字サイズ「小」「最小」を利用する読者層の両方にアピールできることです。

ケース2

CSSコミュニティのサイトが文字サイズを固定したら喧々囂々の非難を浴びましょうが、じつはテキストサイト界隈では文字サイズ固定サイトが増えていて、それは多くの場合、好評です。だから、文字サイズを固定するサイトは増える一方です。ごく一部の人への配慮を切り捨てれば、大半の怠惰な閲覧者により多くの利益を与えることができる、というわけです。

テキストサイト界隈の読者は、文字サイズの調整を面倒くさがる代わりに、ある程度、文字サイズに寛容なのでしょう。私は、本文が16px固定など我慢できませんが、12pxでも16pxでも14pxでも(あるいは10~14pt程度)かまわない、という人なら、文字サイズの多少の個性はなんら不都合ありません。

ケース3

レイアウトの崩れを避けるための文字サイズ固定は、文字の画像化という手法が発明されてからというもの、ポピュラーなものであり続けています。マルチカラムレイアウトなどという、HTML文書の性質(=線形性)に逆らう邪法が大半の閲覧者に大いに歓迎されてからというもの、多くの製作者は、レイアウトの崩れという究極的には解決不能の問題から逃れられなくなりました。

文字サイズを固定せずとも、かなりのところまで耐えうるレイアウトは存在します。しかし、必ずしもそのようなレイアウトを採用することが、全閲覧者の幸福の最大量を増加しうるとはいえません。要は、何に重きを置くかという問題ではないかと思います。

閲覧者はユーザCSSの使用を常態化すべき

現実に大半の閲覧者がユーザCSSの使用を常態化することは、ありえないでしょう。しかし、それ以外に、すべての問題をすっきり解決する手はありません。

あらゆるサイトの見た目は閲覧者が決める、それが基本とならない限り、製作者の用意するデザインが主な読者層におもねって少数派を切り捨てる構図は決してなくなりません。現に切り捨てられている少数派は、現在でもユーザCSSで問題に対処する他ないのです。しかし、少数派が少数派であるがゆえに、マークアップのおかしな文書が世の中にあふれかえっています。HTML文書に視覚デザインを背負わせる、無謀な試みに心奪われた(そして何故それが無謀なのか気付かない)製作者、閲覧者が多過ぎます。

大半の閲覧者がユーザCSSを使用するならば、製作者は自ずとマークアップをちゃんとやらざるを得なくなります。テーブルレイアウトなど、もってのほかだということになるでしょう。そして、虚飾を排し本文を尊重する文書が、誰からも称揚されるようになるでしょう。閲覧者の大半が、現在いわれるところの「アクセシビリティの配慮」を必要とする存在となれば、製作者は当然、対応せざるを得なくなるわけです。アクセシビリティの問題が、一挙に解決します。

これが夢物語に過ぎないこと、その決定的な理由がリッチな視覚系ブラウザを問題なく使用できる多数派の閲覧者の怠惰と欲(=HTML文書に文書構造以外の何か、例えば視覚デザインを期待すること)にあることが、非常に残念です。

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