趣味Web 小説 2004-02-25

ホームページビルダーを正しく使う方法

どうしても WYSIWYG 型の HTML 文書作成支援ソフトを使いたいという方には、これまで IBM のホームページビルダーを勧めてきました。fuming さんの評価では C ランクとなっていますが、記事をよく読めば、きちんと設定して使えば OK と書かれています。そう、その通り。私も長らく愛用していましたけれども、HTML によるマークアップについては、正しく使えばかなり信頼できます。

問題は、正しい使い方を説明するサイトがないということ……だと思っていたのですが、fuming さんが作成なさっていました。

最新版はホームページビルダー 8 ですが、機能が追加されただけで基本部分に進歩がないので、今でも参考になります。

DW にせよ HPB にせよ、文法的に誤りのない(少ない)文書を作る機能はありますが、テキストに妥当なマークアップを施す機能はありません。逆にいって、そんな機能が実現できるなら、そもそも文書をマークアップする必要などないわけです。文法的な誤りは確かにない方がよいのですが、それは所詮、入り口に過ぎません。重要なのはその先である、と付言しておきます。

余談(私は何回でも同じことを書く)

fuming さんは、「最初に正しいやり方を学べば遠回りせずにすむ」と考えていらっしゃるわけですが、私は賛同しかねます。fuming さんの解説を読む初心者のほとんどは、(正しい解説を読んだにもかかわらず)やはり遠回りすることになりましょう。問題の根源は誤った解説の氾濫ではないからです。そもそも何故 HTML や CSS について正しく教える人が少ないのか、考えなければなりません。

fuming さんの記事はたいへん有用なものですけれども、記事の背後にある思想には注意すべきだと思います。仮に「(一切の)遠回りはいけない」のだとすれば、「遠回りの原因」は「ダメなソフト」や「間違った解説」にある、という fuming さんの解説もダメな解説です。ソフトと解説を改善しても、相変わらず大多数の初心者が遠回りする(あるいは永遠に誤解し続ける)現実があるからです。外堀を埋めるだけでは、大阪城は落ちません。

正しい解説をしても、初心者は勝手に誤解します。文法違反を犯さないソフトを与えても、「単に文法違反がないだけ」の文書を作ります。誤解をいちいち指摘するのも不毛で、すぐ耳を両手でふさいで何も聞かなくなります。みんながそうだとはいいません。しかし、ほとんどの人がそうだ、とはいえます。

ソフトが悪い、解説が悪い、というのもよいでしょう。しかしその発言は確実に「そうか、ソフトと解説が正しくなれば問題が解決するんだな」という誤解を生みます。私は、一概にそれが悪いとはいいませんが、ただ、誤解を生んでいるということについて、責任を感じるべきです。戦略的、政治的には、例えば間違った HTML の解説さえ、一概に否定しきれないと私は考えます。「その場において、一体何を優先すべきか」という問題は、理想論だけで片付きません。どんなに苦労してでも……なんて奇麗事は、現実の制約の前にはしばしば無力です。

小学生に光の性質を説明するとき、なぜガラスは通過するのに金属板は通過できないのか、その理由をきちんと(例えば高校物理のレベルで)説明することはない。単に「ガラスは光が通過する」「プラスチックもちょっとだけ通過する」「鉄板は通過しない」といった世知を詰め込むだけです。物事の理解にはしばしば階梯が必要なのであって、「光の通過(透過)」とはそもそもどのような現象なのか、という話をいきなりしたってダメなんです。

マークアップという概念も同じで、ある種の素養が無い人には、最初から正しく理解することは無理だといっていい。正しい説明を心がけるのは結構なことだけれども、商売で人に教える場合、そのために9割の受講者が「わけわからん」というのでは食っていけません。ずるいやり方になりますが、ある種の誤解を誘いかねない説明をせざるを得ない場面があるわけです。というか、誤解を恐れずに書くならば、最初はまるで間違った解説をしたっていいんです。正しい解説をしたって、ほとんどの人はそういう誤解をするのだから。そして実際、私も、他のほとんどの方も、それを通り抜けて、正しいやり方に「目覚めた」わけでしょう。

後から思えば、遠回りだったかもしれない。では、最初から正しいやり方を身につけることができただろうか? 仮に自分はそうだったとして、他の人もそうなのだろうか? それを考えてみなければいけません。間違ったやり方を覚えてしまって、正しい説明をまったく受け付けない方はたくさんいます。しかしその方々は、果たして最初の説明さえ正しければそうならなかったのでしょうか? 私は、そう思いません。その方々は、もともと正しい説明を理解する素養が無かった、そして今もそうなのではないか。

共産主義者は「資本主義の矛盾を突いて革命を起こすのだ」といいましたが、HTML の正しい使い方に「目覚める」きっかけがあるとすれば、ダメな手法に行き詰ったときしかない。そうなるまで、ふつうの人は正しいやり方を理解できないわけです。

間違った解説を正しい解説と勘違いしながら教えている人は、たしかに批判されていい。ただ、わかっていながらそれをやるのは、一概にダメとはいえないのではないか。いや、現状では、前者があまりに多すぎるから、わかっている人は全員が正しい解説をしてようやくバランスが取れる……のかもしれない。ただまあ、いずれにせよ、仮に fuming さんが「最初から正しい解説に接していたら、みんな遠回りせずにすんだのに」と本気で思っていらっしゃるのだとすれば、ちょっと認識が甘いのではないかと思う。

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