趣味Web 小説 2004-03-14

ダブルバインド

「ダブルバインド」でGoogleすると上から2番目に登場する記事になって5年余り。「せっかく読んだのに意味不明だった」という感想を目にすることが増えました。これは個人的な備忘録であって、言葉の説明を意図した記事ではなかったのですが、状況を鑑みて全面改訂しました。(2011-05-27)

1.「ダブルバインド」とは何か

「ダブルバインド」を逐語訳すれば「二重の拘束」となります。他人の言葉を単純に解釈してその通りにしたら、その真の意図に反してしまい、逆に怒られる。その後も真の意図が明確に言語化されることはなく、怒られた人は「一体どうすればいいの?」と途方に暮れてしまう。これがダブルバインドの状況です。

事例

例えば、あなたは未経験の部署に転属になった社員だとしましょう。「わからないことがあったら何でも質問してください」と上司がいうので、早く仕事を覚えようとして朝から晩まで質問攻めにしたら怒られてしまいました。上司の本意は「可能な限り自分で調べて、よく考えて、それでもわからなければ何でも質問してください」というもの。ずっと質問攻めにされたら自分の仕事が進まない。「それくらい察しろ。俺の迷惑も考えろ」というわけです。しかし、話はここで終わらない。

「まず自分で調べるべき」ならば、上司はマニュアルを用意して、「たいていのことはそれを読めばわかる」という風にでもしておく必要がありました。実際はそうなっていないとすれば、初めての職場に戸惑っている人が自分一人で調べられることなど、ほとんどありません。じつは「上司や同僚に質問して疑問を解消する」か「わからないなりに適当にごまかしていく」しかない状況だったのです。もちろん、部下のごまかしが破綻して勉強不足が露呈しても、やっぱりこの上司は怒ったでしょう。

結局、問題の根幹は、この上司が新しい部下の教育に必要な時間の見積もりを誤っていたことにあります。それなのに、部下がたくさん質問をすれば怒り、質問せずに失敗しても怒る。上司が自分の失敗から無意識に目を逸らし続ける限り、矛盾は怒りの種を撒き散らし続けます。

つまりダブルバインドとは、「他人の言葉の背景にある考え方を推察する能力の低さ」という聞き手側の問題だけが生み出すのではありません。「真意をきちんと説明しようとすると矛盾や問題に直面するので、無意識に言葉を単純化して、正解のない課題を押し付けてしまう」という話し手側の問題も大きいのです。たいていのダブルバインドは話し手側に大きな問題があり、聞き手側の努力では解決できません。

親と子、上司と部下、先輩と後輩など、権力関係のあるところにダブルバインドは生じやすい。とくに自分が権力を持つ側に立っていて、相手が自分の意図に沿わない行動を取ったときにこそ、ダブルバインドという言葉を思い出してください。

2.「ダブルスタンダード」との関係

「ダブルスタンダード」とは、複数の価値判断の基準を持ち、相手や状況に応じて使い分けること。必ずしも「利己的な動機から自分だけに都合よく基準を使い分ける」ことを意味しないので注意。ちなみに、基準は2つとは限らず、3つでも4つでもダブルスタンダードといいます。

さて、ダブルスタンダードとダブルバインドの関係ですが、「相手によって基準が変わる」タイプのダブスタは、個々人にとってダブルバインドとは無縁です。一人一人は、いわれた通りにすればいいからです。

他方、「状況によって基準が変わる」タイプのダブスタは、ダブルバインドの具体的な現れ方のひとつかもしれません。しかし事前に「状況Aでは基準Aを、状況Bでは基準Bを適用する」というように、起こりうる全ての状況について指示されていれば、ダブルバインドの状況にはなりません。

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