趣味Web 小説 2004-10-15

文化的背景のある誤解は、いつか正解のひとつに昇格する

WWW に情報を公開するということについてきちんと教えるなら、HTML とは何か、という話は避けがたい。だから逆に、生徒の製作したサイトにおける HTML の使われ方をみれば、ある程度は授業の質も予想がつく。

わざわざ大学まで行って、高い授業料を払っていったい何を勉強しているんだ、と思われる方も多かろうと思う。先生のブログを読む限りでは、実際、ほとんど何も教えていないようだ。

  1. 先生が課題を出す
  2. 学生が自分で学び考えた結果を提出課題などにより発表する
  3. 先生が場当たり的な講評をつける

という形式の授業であった、と予想される(注:6月には製作技術の実習が行われた)。結果は惨憺たるものだ。それでも学生はいい気分になって、「ほーむぺーじ? 簡単、楽勝だよ」ってことになっているはずで、罪作りなものだと思う。

……と、ここまでは肯かれる方が多いだろうけれども、実際に学生に教えてみると、これがなかなか大変だということは、あまり知られていない。私が教官だったとしたら、どうするだろう? 最初の年は、いろいろ教え込もうとして奮闘するのかもしれないが、2年、3年と経つうちに、だんだん放任主義になっていくのではないか。

「トラックバック」(逆リンク→相互リンク)はブログの最大の特長のひとつであり、もっとも「ネットワーク」的な働き・仕組み・機能・環境です。

トラックバックを試してくださいと指示して、こんな説明を何の留保もなしにやってしまうくらいに「ふつうの感覚」を持っていないと、精神的にきついものがあるだろう。「ほーむぺーじ」という言葉にむずむずするような人は、よほど図太い性格でないと潰れてしまうのではないか。

やはり、世の中に広まった誤解には、たいてい何らかの文化的背景がある。ブログが更新スタイルではなく、

といった、形式的な項目で他と判別されるようになったことも、同様だ。これは単なる偶然ではない。トラックバック機能なんて、ブログを普及させた blogger さえ長らく対応してこなかった。もともとは MovableType の独自機能だったのだ。半可通が適当なことをいうものではない、と思う。しかし先生が自信満々で「トラックバック」(逆リンク→相互リンク)はブログの最大の特長のひとつというのは、故なきことではない。

本当にブログが更新スタイルによって規定されるものとして輸入されてきたのなら、さるさる日記がバージョンアップすることはなかった。memorize も買収されなかったろう。そしてココログをはじめとする各種ブログサービスが開発されることもなかった。

少なくとも日本において、ブログとは MT であった。日本の個人サイト文化に革命を起こし、レンタルサービスに巨大な新ジャンルが誕生した原動力は、MT の示したウェブログとはこういうものだという形式的な部分の魅力にあった。

私は今、mesh がいかに正しかったか、ということを考えずにはいられない。ウェブログ・ハンドブックでレベッカ・ブラッドが力説するブログの原点、本来のあり方は、たしかに日本のウェブ日記・テキストサイト文化に包含されていた。レベッカ・ブラッドら、米国の古参ブロガーの定義を尊重するならば、日本にも昔からブログは存在した。けれども、米国で blogger が古い定義を破壊し、MT がブログを体現する存在となったことに、もっと人々は注目すべきではなかったか。

たかが形式、それが世界を変えた。国産ブログツールが基本的に MT が「規定」した「ブログの要件」を再現し、レンタル日記市場を完全に塗り替えた現実を見てもなお、「ブログの本質は更新スタイルにある」とだけ主張し続けるのは虚しい。「ブログ」は既に MT によって再定義されている。「ブログ」には2つの語義がある、と考えた方がよい。2002年当時、たしかに日本には、現在のブームを引き起こした「ブログ文化」はなかった。

たかがツール、たかが形式、どうでもいい機能、それが馬鹿にならない。たかが img 要素が HTML を普及させてしまった故事を思い出すまでもない。「ブログの本当の意味」にこだわる方々は、HTML にこだわる人々の苦しみを、これから嫌というほど思い知らされていくだろう。いつまでたっても、本来の意味なんて普及していかないのである。だから諦めろ、といいたいのではない。それは、私が HTML について何度も説明していることからお分かりいただけると思う。

ただ、夢のような話をしているばかりでは、つらい。

余談

様々な制約を考えると、HTML をこの手の授業で本格的に取り上げるのはどうかと思う。HTML だけ教えても Web サイトは作れない。そこで私はオンライン・ハイパーテキストのためのスタイルガイドを参考にする。一方、多摩美の先生はホームページのコンセプトワークを参考にされたのではないか。

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