趣味Web 小説 2004-10-25

子は親の背を見て育つ

それにしても、最近はホント、一部の生徒を除いて受験戦争は遠い世界になりましたよね。高校全入の時代ということもありますけれども、みんなが背伸びしていた頃は、ちょっと無理して頑張るくらいでちょうどよかったけれども、今はむしろ、ほどほどのところに入った方がよかったりします。ずっと勉強を頑張り続けられる子なら話は別ですが、たいていは部活とか恋愛とかバイトとかに明け暮れるわけで、そうなると、実力以上のところへ入学すると後がつらい。

他の同級生は、死ぬ気で受験勉強してきたような子じゃないわけで、いわゆる「頭の出来が違う」状態。勉強が好きならともかく、嫌々で勉強して、あれもこれも諦めて頑張っても平均点に満たない成績となると、高校生活が暗黒になってしまいます。

私はかつて塾で高校受験の生徒を教えていましたけれども、妙に受験に成功してしまった生徒の消息を聞くと、しばしば胸の痛む思いをさせられたものでした。みんなが受験に追われていた時代と、みんながほどほどに頑張っている現在とでは、受験校の選び方や、受験勉強への取り組み方も変化してきています。何だかんだいって、大学進学率は6割に満たないわけで、その中でも偏差値50以上の大学に入ったような人の常識が、世の中の常識だと思ってはいけない。

とにかく頑張って頑張って、少しでもレベルの高い高校に入るのが正解だなんて思っていると、高校に入った途端にドロップアウトして退学、なんて落とし穴が待ち受けているわけです。

塾通いの比率が下がっていないとか、そういう数字も、読み解き方が問題なんですね。塾でしか勉強しない、学校でさえ勉強しない、という子も少なくないのです。塾がプラスアルファの存在から、勉強のメインステージに移行している。自学自習なんて全然やっていない子がたくさんいる。その理由はよくわかりません。私の頃だって、子供の勉強の面倒なんて見ない親ばっかりだったんだから。世の中の常識というか、社会の価値観が、徐々に変化したのだと思います。

必ずしも「頭のいい子」の成績が素晴らしいとは限らなくて、こつこつ頑張る子は、かなり強い。でも、放っておくとサボる子にも、意外と勉強のできる子がいる。なぜそんな奇跡が起きるのかというと、親が違うのですね。中学生の勉強くらいなら、頑張れば親だってついていけるわけです。子供が勉強をやる気をなくす典型的なシーンのひとつは、子供が親に勉強のことを尋ねたとき、親が不勉強で全然答えられないというもの。

子供は、自分の成績が大したことないのを知っています。その自分より親の方が馬鹿なんだから、ガッカリします。こういう不勉強な親が「勉強しなさい」といっても、あまり心に響かない。何人もの親御さんと面談もしたので、これも断言していいと思うのですが、不勉強な親ほど、教育を他人任せにしたがる傾向があります。当然といえば当然ですね、自分では子供の質問に何も答えられないのだから。忙しいとか何とか理由をつけてはいますけれども、ようは親も勉強したくない。その性格が子にも遺伝しているか、影響している。それだけのことだろう、といいたくなるような事例が、たくさんありました。

当サイトの読者に小中学生の親御さんがどれだけいらっしゃるかわかりませんけれども、子供に「勉強しなさい」と何度いっても、まず無駄です。そうじゃなくて、毎日1時間でもいいから、子供と一緒に勉強してください。そして、もし可能なら、子供より常に自分の方が賢くあるように、努力してください。大人は馬鹿でいいんだ、なんてことは決して口にしないでほしい。それがどれほど子供の学習意欲を損なうか、よく考えてほしい。

とくに専業主婦(主夫)の方、子供が学校に行っている時間の半分でいいから、お勉強されることを勧めます。そして子供を英会話教室に通わせるお金があるなら、自分が通って勉強して、子供には自分で教える方がよい。

子供が宿題をやらないんです、という相談がありました。「なるほど、それでお母さんは、どんな対策を?」「よく言い聞かせて、それでもサボってばかりなので、時には叱っています」「そうですか、でも、たまには宿題をやることもあるんじゃありませんか?」「まあ、最後にはしぶしぶといった感じでやっているみたいです」「お子さんが宿題をしている間、お母さんは何をなさっているんですか?」「え? 私ですか?」「そうです」「テレビを見ています」「どんな番組です?」「バラエティー番組です」「楽しいテレビ番組ですね?」「はい」「……」

無理いうな、という意見はあると思う。でも、自分は昔サボってきたからこんな人生だけど、子供にはもっといい人生を送ってほしい、なんて身勝手な発想で、子供だけに勉強をさせようというのが、そもそも間違っているのです。あなたが勉強したくなかったように、あなたの子供だって勉強なんかしたくないんだ。サボってきた自分を反省せず、いつまでも自分だけは勉強する気が無いのなら、子供だって自発的に勉強をするはずがない。

いわゆる「頭のいい子」ではなく、「放っておいてもこつこつ頑張る子」でもないのに、成績のいい子がいます。その親は、子供と一緒に勉強をしています。そして、そういう親は、子供をテストの点数だけ見て頭ごなしに叱ったり、怒ったりしない。当然でしょう、子供がどんなに頑張ってきたか、どれほど難しい問題に挑戦しているのか、その親が一番わかっているからです。

テレビドラマ「僕と彼女と彼女の生きる道」に、母親が家を出た途端に凛ちゃん(小1でしたっけ?)の忘れ物が増え、成績が急降下するという描写がありました。父親は子供を叱りつけますが、それで問題が解決するなら、みんな苦労しません。ドラマでは家庭教師に毎日来てもらうことで手当てとしていましたが、「勉強ができなくて困るのは本人なのだから、勉強なんて自主的にやらなきゃダメだ」なんて理想論は、とりあえず忘れた方がいいと思います。

子供の成績が思わしくない、といったことでお困りの方は、ご参考まで。

もう受験が目の前だ、というケースでは、いまさら手遅れという感じもしますが、例えば得意科目だけなら、子供と一緒に勉強できるかもしれません。あるいは逆に、子供に教えてもらうという形で勉強をサポートすることも不可能ではありません。他人に教える、という行為は、相手の能力がある程度自分に近い場合、最も勉強がはかどる形式のひとつですから。定期テストの直前に友達同士で問題を出し合う光景がよく見られますが、あれは理に適っています。

もしこれで本当に成績が上がったら、何かおごってください(冗談です)。

補記:子供が反抗期の場合、私の提案にまるで現実味がないことは理解しています。

Information

注意書き