趣味Web 小説 2005-03-26

フォスターペアレントの思い出

PandoraSystem黒と金色のデザインバランスが素晴らしいと紹介している森永カフェ・ド・ショコラの公式サイトを覗いてみたら、フォスタープラン支援事業というページがありました。

私が小学生の頃、両親はフォスタープランに出会い、ネパールのスカラル・タマン君の就学を支援することになりました。フォスタープランの興味深いところは、直接に進学費用をお金で渡すわけではない点にあります。我が家の支援金はタマン君の暮らす集落の畜産事業の資金となり、地域の経済状況改善と引換えにタマン君の進学をご両親に約束させる、という計画でした。この計画の妥当性を、私の両親は信じたのでした。

結果的には、家畜が育つ頃に首都カトマンズで騒乱が起きるなどしてネパール経済は低迷し、予定通りの収益を上げることはできませんでした。小学校には何とか通うことができたタマン君ですが、希望していた中学への進学がどうなったのかは、わかりません。

タマン君、なんて書いていますが、実は私より年上で、お兄さんなのです。ひょろっとして背が高く、お母さん思いの少年ということでした。兄弟姉妹が何人もいたのに彼が選ばれたのは、幼少時より利発で、一家の期待を背負って立つ存在だったからでしょう。

少々の日用品は送ってよいということだったので、色鉛筆やクレヨン、ノートなどを送りました。紙が貴重品で、文字は砂に書いて練習している、という話も聞きました。だから、鉛筆など筆記具を送るときには紙も必ず一緒に送ったものです。手紙が返ってくるのは年2回程度。最初は字が書けないので、現地スタッフの聞き書きが送られてきました。1年後には直筆の絵手紙が送られてきました。最初は小学1年生が祖父母に出す年賀状くらいの内容。それが次第に、夏休みの日記くらいになり、理科の観察ノートくらいになり、最後にはブログの記事くらいになりました。

いつも温かいご支援をいただきまして、ありがとうございます。**様、**様、徳保隆夫様、**様(私の家族4人の名前が並べられている)、毎朝、毎日、毎夕、毎晩感謝しております。家族が幸せな生活を送ることができ、私が学校に通い社会で役立つ人間になることができるのは、皆様のおかげです(以下略)

両親が月収25~30万円、年収400~500万円の家計から出す年数万円の支援が、ただ遊んでいるだけの私を「心からの感謝」の対象としてしまう世界の現実に、胸が押しつぶされる思いがしました。ただただ悲しかったのです。自分に、人に感謝される何の資格があるだろう? けれど、そんな苦悩も一晩泣いたら忘却の彼方。

補記

若年の頃より途上国支援に積極的に関わってきた作家の曽野綾子さんが3月18日の新聞連載「透明な歳月の光」第151回に、いつもの持論を展開されていて、私はいつものように首肯するのでありました。

三月十三日付の全国紙に、静岡の六十三歳の主婦の投書が掲載されていた。

自民党の新憲法起草委員会がまとめたという前文に、「水清く緑濃く四季巡り五穀豊かに、命に満ちて幸多い国である」とあり、「美辞麗句に驚いた」。「その通りとうなずく国民がどれほどいるだろうか」というのである。

私は国民の一人に入れてもらえないのかもしれないが、自民党案の通りに感じている。それは日本の幸運の結果だ。それプラス日本にはすみずみまでに、植林や農業に精を出すすばらしい人たちがいる。その人たちがよく経営された国を作ってくださった。私が現在働いている財団を通して、日本の民主主義を体験してもらうためにサマワから招聘した宗教指導者や女性教師たちは、伊勢神宮の境内に立って息をのんだ。

「聖戦」と呼ぶ自殺テロで死ねば、テロリストたちは天国で流れる清らかな水と緑あふれる茂みのそばで憩うことができると教えられているという。しかし日本では、殺人を伴うテロをしなくても、誰もが流れる清流と緑の山を見られることを、私達が何も説明しなくても彼らはこの目で見たのである。

私は今の日本が決して完全だといっているのではない。政治家も身を正すべきだ。しかし日本は私が行ったことのある百二十カ国ほどの中で、国民に基本的生活の安全を与えている数少ない国家の一つである。

投書には「食糧まで他国に依存し、山奥は荒れるに任せ、飢えた動物が里へ降りてくると即殺され、学校、家庭、社会に虐待や自殺、犯罪が横行している。自衛隊を軍隊でないとか、イラクは危険でないとか言いくるめた自民党のいつものやり方を憲法にまで使うとは、許せないことだ」ともある。

食糧やエネルギーを他国に依存するのは危険なことだという意見には私も同感だ。しかしアフリカの貧しい国には、里で殺して食べられる動物もいない。アフリカだけでなく、コロンビアやチェチェンなどに見られる難民。学校に行けず、働いている子供たちはどこにでもいくらでもいる。サハラ以南のアフリカは、飢餓線上にいて医療も得られない人々だらけだ。コンゴ、ウガンダ、スーダンの虐殺や暴行は、今日も行われている。マラリア、結核、エイズは放置されているといってよい。思想、学問、職業選択の自由は事実上ないに等しい貧困である。それらの国々に比べたら、日本は天国だ。それともそうした国々のことは比較することさえしなくていい、とこの人は切り捨てているのだろうか。

自民党案の前文は旧制高校の校歌風の古めかしい表現だから現代の人の心を打たないのだろう。しかし事実を無視して、ことのついでに自国を悪くいえばいいという姿勢を、私はとらない。

曽野綾子さんの主張は、ネットでは断片的に伝えられて無用の反発を招いていることが多いように思う。この記事にひとつ補足しておくと、曽野さんはイラク戦争に一貫して反対しており、先の選挙も「成功」とは考えていないし、民主主義の普遍性にも繰返し疑いを表明されている方です。

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