趣味Web 小説 2005-08-16

実名制 SNS になり損ねた「ゆびとま」

広義の SNS として日本国内で最も成功したのはこの指とまれ(ゆびとま)だと思う。会員数、なんと305万人。出身校をベースにした自由参加型の会員制サービスで、メールフォームからメッセージを受信でき、各学校毎に用意された掲示板の閲覧と書込みもできる。出身校毎に会員一覧があり、自分が登録した出身校以外の会員一覧は閲覧もできない仕組み。私は1998年頃、友人に教えてもらい、すぐ登録したように思う。

mixi などと異なり、ゆびとまのほぼ全会員が実名で参加している。もともと知り合い同士をつなげるサービスなのだから、本名を隠す意味がない。稀に変名で登録する人がいると、「同窓会名簿にない人間がいる」と通報されて消えた。とはいえ嘘登録したって閲覧できる会員情報は名前と卒業年次だけ。メールはフォーム経由なので、個人情報収集の手段としては非効率だろう。件の変名氏も、きっと卒業生の誰かがこっそり加入しようとしたものだと思う。

mixi の招待制は、見知らぬ人の間に信頼関係を用意しようという発想。招待者以外の相手は顔も名前も知らないことが前提だから、逆に顔写真も名前も記号でしかない。だから、本名と顔写真を出しても安心なはずの SNS で、いい年した大人が幼稚なあだ名を呼び合って喜んでいる。気持ち悪い。

ゆびとまは現在、半ば死んだサービスとなっている。1998年頃が新規登録のピークで、その後ガタガタと新規加入者が激減した。今にして思えば、当然だった。私自身、登録したまではいいけれど、その後、やることが何もなかったのだ。そこに何か夢を見た先駆者たちが周囲の人をみな勧誘し終えた頃にはもう、ゆびとまの未来は見えなくなっていた。

掲示板は、使えなかった。ごくふつうのツリー式掲示板だったのがいけない。同窓の先輩・後輩全員に向かって話しかけたいことなんて、あるわけがない。私の出身校の掲示板は、7年間、誰も利用していない。1999年頃、ゆびとまに誘ってくれた友人らと私は別の掲示板を使っていた。今はもうない、掲示板に特化したサービス。学校毎に掲示板一覧のページが用意されており、そこで簡単な申請をすると「新しい掲示板」が作られる。「*年卒*組の掲示板」「*さんの友達専用」「**部OB掲示板」などが作られ、いずれもそこそこ書込みがあった。

メールフォームも、使えなかった。ゆびとまは登録後の使い道がないので、みな登録したらそれっきり情報を更新していない。メールアドレスなんてすぐに変わってしまう。まして1998年頃の登録者は学校からウェブに接続していた人が大半で、メールアドレスも学校のもの。高校卒業後に連絡を取り合えるように登録しているのに、高校を卒業したらメールが届かなくなるのだから馬鹿げていた。仕方ないので葉書で連絡したことを思い出す。

結局、知り合い同士をつなぐ手段として「使えない掲示板」と「不便なメールフォーム」しか用意できなかったところにゆびとまの敗因があった。会員以外見られない「ウェブ日記」と「個人従属の掲示板」があったなら、その後の展開がどれほど違っていたろう。

現在、ゆびとまは Echoo! として再出発を図っている。Echoo! は紹介制の SNS で、参加者はみなハンドルネームで呼び合う。本名とハンドルネームを同じにしている人は滅多にいない。コミュニティ機能や友達登録は当然として、記事ごとに公開範囲を制限できるなど高機能なブログ(エコログ)が用意されているのも特徴。ただし足跡機能はプレミアム会員(月額100円)にならないと利用できない。mixi のプレミアム会費は月額315円、この価格差に両サービスの力の差が現れている。

韓国最強の SNS といえばサイワールドだ。韓国人の4人に1人が登録し、その大半が実名+顔写真公開で活動している。サイワールドの勝因は実名制にあったといわれる。韓国のウェブも昔は匿名文化が主流だった。アメリカもそうだった。それが、韓国ではサイワールドの勝ち上がりによって、アメリカではブログの普及によって、実名文化がぐんぐんと伸びた。

ふつうの人には、ウェブで「もう一人の自分」を演出したいという欲求がない。そしてほとんどの人にとって、実名での人間関係は、ウェブでの人間関係より広くて深い。だから、素顔の自分を登録し、実名系の友人知人をネットワークに引き込んでいくサービスの方が、最終的には普及していく……と説明できる。韓国ではそうなった。

ウェブの匿名文化は、最初の一歩の原動力でしかないのではないか。最後に勝つ(大きなシェアを占める)力を持っているのは実名文化だ。町内会をネット会議で済ませるくらいに実名コミュニケーションを取り込んでいかないと、いつまでたってもウェブは「したいことがない」場であり続ける。電車を待つ暇つぶしに携帯電話からブログに記事を送る人がどれだけいる? 大多数の人は顔も名前も知っている相手に向けてメールを書くだろう。日本のウェブが非現実的な実名危険説に覆われ続ける限り、ウェブと生活の距離感において日本は米韓に大きく遅れていくだろう。

Echoo! が匿名推進でやっている理由はわかるけれども、最初の一歩を楽して、未来の大成功を放棄する戦略だと私は思う。まあ、そんな未来、日本にはやってこないのかもしれないが。ゆびとまがサイワールドになり損ねたことを、残念に思う。

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