最初にひとつお断りしておく。私に動機ときっかけを与えたのが mala さんの記事だったので、あたかも mala さんに対して意見するような形式で記事を書く。しかし当然のことながら、mala さん個人に意見したければメールを出せばよいのである。こうして公開の備忘録にて自説を書いているのは、別に mala さん自身がこれを読んでも読まなくても、それはどうでもよいからだ。
交通事故のニュースにコメントなどするとき、その記事が当事者に読まれなければ意味がない、と考える者はほとんど皆無だろう。そのようなものである。
前回の記事は、思いっきり分かりやすく書いたつもりだったのだが……。別ルートで同じ結論を導くことにする。
最速インターフェース研究会管理人の mala さんのような geek に目立つ勘違いが、ひとつある。
将来、みんなが geek になっていく、geek がコモディティ化していくはずだ……そう思っているのだ。
今、ウェブの先端ユーザの間に geek を自称・他称する流行が(一部に)あるが、IT用語辞典によれば、そもそも geek とはナードからさらに度が進み、社会への適応性を失った人のこと
をいう。geek が喜ぶものが一般人に普及することこそ、例外だと思った方がよい。
それは会社の同僚の様子を見れば分かる。geek だらけの職場にいる方は、ボランティアで老人たちに教えたり、市民講座のアシスタントをしておじさんおばさんの様子をよく観察してみるといい。すぐには気付かないかもしれないが、だんだんに分かってくる。ソーシャルブックマークサービスを周囲に勧めて大いに感謝されるような環境に暮らしていると、それがあたかも当たり前のことのように錯覚するのだろうが、大いなる勘違いだ。
蝸牛の歩みで進歩する(ときには退歩さえする)のが大多数のユーザである。時間軸のずれた人たちをそのまま放置するような姿勢が許せない
などと書く mala さんこそ世間から浮いている。
まあ、私の多少なりとも造詣の深い分野に即していわせていただくなら、br 要素をふたつ重ねて段落の区切りとするなど、レガシーな HTML 理解のまま2005年を終えようとしている mala さんが、時間軸云々などというのは傍ら痛い。しかし私に HTML への理解不足を指摘されたところで、mala さんは困るだろう。HTML の思想に魅せられた人々は、よかれと思って「正しい理解」の普及に努めたが、手痛い敗北の歴史を重ねてきた。SBM や RSS や Ajax に淫している人々も、同じことだ。
例えば2chのJavaScript質問スレなど、いまだに「ポップアップウィンドウを制御するにはどうしたらいいんですか?」というようなレベルである。今実際行って確かめてみたら本当にそうだから救いようがない。困る。
と mala さんはいう。困るのは geek だけだ。庶民は困っていない。
今後も JavaScript の最も大きな需要は、ポップアップウィンドウを出すとか、右クリックを禁止するとか、前のページに戻るとか、そういったくだらないことだろう。「何で君らはいつまでもそういうレベルなんだね?」と geek は嘆いてみせるが、大きなお世話としかいいようがない。愚民を啓蒙したい使命感は理解できるが、自分だってその手の「賢い人々」にうんざりさせられてきた体験があるだろう。なぜ、そのことを思い出さないのか。
mala さん自身はとくに geek を名乗っていないが、私があえて mala さんを geek と呼んだ意図はここにある。「そうか、geek なら仕方がない」と。