趣味Web 小説 2006-01-18

ホリエモン逮捕と「光クラブ事件」

今朝の産経抄(産経新聞1面の匿名コラム)は珍しく興味を引きました。産経新聞はこれまで、堀江貴文さんを時代の寵児とみなし、このような人物がもてはやされるのは世の中がおかしくなっているからだ、と警告を発してきました。しかし今朝の産経抄は、堀江さんは60年前に彗星のごとく実業界に登場し、あっという間に散っていった人物に似ている、といいます。ようは、堀江さんもまた、道徳の欠如した青年実業家の一典型に過ぎないというわけです。

堀江さんが好きだった人の掌返しも気になるところですけれども、「一貫した堀江批判の姿勢」の中にも矛盾は潜んでいるものなんですよね。まあ、何人も記者がいるのだから、こういうことが起きてもおかしくはないのですが。

堀江貴文社長を論じるとき、しばしば比較されるのが、戦後の混乱期に「光クラブ事件」を引き起こした山崎晃嗣(あきつぐ)という人物だ。昭和二十三年、東大在学中にヤミ金融「光クラブ」を設立。商店主らに高利で金を貸し付け、事業を急拡大させて世間を驚かせた。

反社会的で無責任な若者たちをさす「アプレゲール」そのものの生き方は、三島由紀夫の『青の時代』や高木彬光の『白昼の死角』のモデルにもなる。

「私は法律は守るが、モラル、正義の実在は否定している。合法と非合法のスレスレの線を辿(たど)ってゆき、合法の極限をきわめたい」。山崎が残したこんな語録は、確かに堀江社長の日ごろの言動とよく似ている。

昨年の「文藝春秋」五月号で、柳田邦男さんはそれぞれの時代背景に注目していた。敗戦と、第二の敗戦といわれたバブル崩壊は、人々の価値観を揺さぶり、社会は慎みを失って、拝金主義を蔓延(まんえん)させた。そんな「大変動の中から生まれた時代の申し子」だという。

結局山崎は、物価統制令違反などの容疑で逮捕され、それがきっかけとなって事業が破綻(はたん)し、青酸カリを飲んで自殺する。経営するライブドアが、証券取引法違反容疑で東京地検特捜部強制捜査を受けた堀江社長は、この危機を乗り越えることができるのか。

保阪正康さんの『真説光クラブ事件』(角川書店)によれば、山崎は新聞や立て看板を使った派手な広告で顧客を集めた。一方の堀江社長は、自らが広告塔となり、にぎやかな話題を振りまいてきた。きのうの東京株式市場でライブドアグループの株は軒並みストップ安となり、時価総額は約千五百億円減少した。これまで堀江社長をもてはやしてきた一部メディアの「風説」は罪に問われないのか。

山崎さんが飛ぶ鳥を落とす勢いだった1948年、彼をモデルに田村泰次郎さんが小説『大学の門』を書き、同年、映画化されています。そのあらすじを読むと、堀江さんが生い立ちを語った“明るいおカネ第一主義”の伝道師 その1その2その3とはずいぶん違う印象を受けます。

そもそも堀江さんは『私は偽悪者』という本を書いた山崎さんとは異なり、名実ともに正しいことをしているつもりなのだし、単純に山崎≒堀江とはできません。しかし「堀江さんは『新しい』のか?」という問いは立てられそうです。そして少なくとも堀江さん自身には「新しい」という感覚はなく、素直によりよい世界を希求してきたように見えます。強制捜査が行われた16日のインタビューでも、俺も悪いことしようと思って、しているわけではないし。みんなが良くなればと思って、やっているだけだからと心境を吐露されていますが……。

ともあれ、たしかに共通点もあります。堀江さんと似た一面を持つ人物は昔からいて、その折々に社会から排除されてきた、それが事実なのだと思います。いつの時代も人々は健忘症の重症患者なので、「こんな人物が大手を振って歩いているのでは世も末だ」といった嘆き節が絶えることはないのでしょう。

青の時代 白昼の死角 真説 光クラブ事件 ―東大生はなぜヤミ金融屋になったのか―

参考

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