趣味Web 小説 2006-05-09

部屋を片付ける

弟は「思い出の品」を持っていない。物に執着しないのだ。

少し見習うことにして、実家に帰って部屋を整理した。「家族の思い出」になっている物の他、ほとんど全て処分してしまった。自分で買った本なんてのは、時間が経ってみれば割とどうでもよくなってしまうものだな、と思った。高校時代に文芸部で発行した雑誌だけは後生大事に残してある。これが最後の大荷物か。

10年間くらい地道に溜め込んだ新聞のスクラップ帳を捨てるときは、さすがに躊躇した。夕方、まとめて整理した。小学校入学時にもらった机と本棚ふたつが空になったので、これも処分した。部屋の中で声が響くようになった。以前の引越しの際、幼少時より使ってきたおもちゃ箱を処分したことを思い出した。

就職してから5年目になる。実家の荷物の処分は、「もう戻らない」という意思を明確にしていくことでもある。弟の部屋に続いて私の部屋も空っぽになっていくのを、母は残念がっていた。たまにはメールに返信くらいした方がいいとは思うけれど、私は親不孝者なので返信しない。

母は病弱で、先日も旅行から帰ったあと、十日くらい寝込んだそうだ。母方の祖母は元気で、まだ畑仕事に精を出しているのだが……。

ちなみに遠く愛知県にある祖母の家には、嫁入り前に母が暮らしていた離れが、今も当時のままに残されている。いつでも戻ってこられるように、手入れされているのだという。しかし、部屋に母の私物は何もない。高校時代に使った英語や古文の辞書まで全て、母は嫁入り道具のついでに持ち出していたのだった。

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