この話題に関連して。
こんな妙な転職があったとは全然知らなかった。報道されなかったよなあ。そういやDNA鑑定が出た直後に村上龍が「なぜ第三国に依頼して説得力を高めないんだ」とえらく筋の通ったことを言ってたが。これはヤバイだろ。
産経新聞は2005年3月26日朝刊の社会面にて、遺骨を鑑定した帝京大学の吉井さんが警視庁へ引き抜かれた件について報じています。こういうことは、多い。→報道は不十分なのか(2005-08-18)
北朝鮮が提出した「横田めぐみさんの遺骨」が偽物であったと日本国政府が発表したのは2004年12月8日午後の官房長官会見の場でした。新聞報道は翌9日朝刊に始まっています。
横田めぐみさんのものとされる「遺骨」はDNA鑑定により、二週間余りで「別人」との結論が出された。
「北」が遺骨を焼いたため、鑑定は困難とみられていたが、現在は一億八千万人中の一人を判別するまで鑑定技術が向上している。捜査関係者は「北は日本の科学捜査を甘くみていたのでは」と話している。
めぐみさんの事件を捜査する新潟県警は十一月下旬に警察庁科学警察研究所(科警研)と帝京大に依頼。遺骨は高温で焼かれた上に細かく「やってみなければ鑑定できるかどうかも分からない」(警察庁幹部)という状態で、科警研での鑑定はDNA検出が困難で「鑑定不能」だった。
しかし、帝京大で最先端のDNA鑑定の結果、「遺骨」から二人の人物のDNAが検出された。関係者によると、横田さんの両親が大切に保存していためぐみさんの臍(へそ)の緒から抽出したDNAと異なることが、七日に判明した。
帝京大の鑑定技術は「国内最高水準」(新潟県警)。オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件など、事件捜査で鑑定を行っているほか、旧ソ連に抑留されて現地で亡くなった戦没者の遺骨鑑定も担当、遺族の特定につなげた。
帝京大での成功について、民間のDNA鑑定会社「DNAソリューション」の船越一弘社長は「DNAの抽出に使った検体の違いや、試薬の種類、抽出後の鑑定作業の違いが結果につながった」とみる。
鑑定は、DNAを包んでいるタンパク質を試薬で酵素分解してDNAだけを抽出、これを比較対象のDNAと特徴を比べて行う。
「研究レベルであれば、試薬は最新のものも含め何種類もあるだろう。二人の人物のものとまで鑑定できたのであれば、正常なDNAが抽出できたと思われる」と船越社長。抽出したDNAの一部が破損していても「破損程度によっては時間と労力をかけDNAの正常な特定部位を割り出し鑑定することも可能」という。
そして国会論戦の模様は以下の通り。
- 首藤委員
- そういう話は我々はもう新聞でも何でも読んでいるわけですけれども。
では、何で障害になっているのかというと、それはやはり日本と北朝鮮との関係ですよね。障害になっているのは二国間の関係なんですよ。その二国間の関係のどこが起点かというと、それは昨年に外務省が派遣団を送って、そこで横田めぐみさんの遺骨と称されるものが送られてきた、それを科学分析に回したらにせものだった。そういうことで十二月から一挙に緊張感を強めて、日本は小泉さんが約束した人道支援まで打ち切っちゃったわけですね。
では、そのもととなった、横田めぐみさんの遺骨がにせものだった、かくも不誠実な国だ、かくも私たちをばかにしている国だ、こういうふうに一方的に言っているわけですけれども、では、その科学的分析というのは、これはもう前回言わせていただきましたこのネイチャーで、いや、そんなことでは、火葬になった骨の断片からは、今の技術ではミトコンドリアのDNAは発見されないというのが科学的知見であり、発見されたとしても科学的にそれを確証できないという記事が出ました。
私は、世界を代表するような科学雑誌のネイチャーがそういうことを発表したのは驚いたんですけれども、さらにまた、それの継続でネイチャーは、日本政府をもう一度、日本政府のやっていることは科学を政治でゆがめているとエディトリアルで書いているわけですよ。
このネイチャーは、御存じのとおり、何か趣味の人が見るのではなくて、世界を代表するような科学者、何十万人の大科学者がそれを見ているわけですよ。だから、もしそういうことで、ネイチャーの言っていることに日本も反論できなければ、これはもう本当に日本の科学の水準、そしてまた科学を日本が悪用しているんじゃないかという批判にこたえられないわけですよ。
これは既にもうネイチャーだけではなくて、韓国でも大変強烈な批判があって、韓国は日本と違って、例の有名な地下鉄の火災事件というのがあって、地下鉄で犯人がガソリンをまいたために百人を超える人が焼死体になっている。本当にたくさんのサンプルがあるわけですよ。そこでも、こんなに限られた空間で、こういう火葬とかシステム的に高温の熱を与えるんじゃなくて、火葬というのはばらばらな条件があって、靴を履いていれば温度が下がったりいろいろなことがある。それにもかかわらず、韓国では、その焼死体の中の焼けた骨からは一切DNAが発見されなかったということなんですよね。
それから、九・一一のアメリカのテロの中でも、あれも本当に限られた、しかも火葬とかいうんじゃなくて本当にいろいろな条件があって、もっと検査という点ではよりDNAが残りやすい状況にあったにもかかわらず、何と四割が確定できなかったというように言われているんですよ。
どうしてそれが日本で認められるのか。そんなだったら、日本の科学的水準が本当に怪しいものだ、しかも、それを政治がゆがめているという評価が定着していきますと、例えばBSEの問題に関しても、日本がこういう科学的な成果があるからアメリカじゃなくて日本はこちらへ行くんだと言っても、世界で通らないじゃないですか。
ですから、そうしたネイチャーの第二回のものが、エディトリアルが出て、世界じゅうから日本のこの検査に関しては大変な批判がある、これに対して日本政府はどういうふうに対応しようとしているんでしょうか。いかがでしょうか。- 町村国務大臣
- ネイチャーが立派な雑誌であるということは私も承知をしておりますが、一々の報道等には、それは必要があれば反論してもいいのですが、私どもは一々それについて言う必要はない、こう考えております。
御指摘の取材を受けた関係者に対しても、これは私ども、直接というよりは捜査当局の方から事実関係を確認したわけでございますけれども、その関係者は取材の中で、焼かれた骨によるDNA鑑定の困難性一般論を述べたにとどまっておりまして、当該鑑定結果が確定的ではないんだという旨を言及したことではないということをその方が言っておられると私どもは聞いております。
いずれにいたしましても、この当該報道が今回私どもがやったこの鑑定結果に何らの影響を及ぼすものではない、私どもはそう判断をいたしております。- 首藤委員
- 違いますよ、外務大臣、これは日本の、あるいは東アジアの安全が絡むかもしれない大きな問題なんですよ。いろいろ緊張関係があって、もっと大きな深刻な問題になったとき、あるいは日本が国際社会で拉致問題を解決するために訴えて、その起点がどこにあるか論争になったとき、日本の態度というものが、こんなに非科学的なことで日本が主張してきたということが明らかになれば、我が国は再度、私たちの名誉を失っていくわけですよ。ですから、このことは本当にそんな一雑誌の問題ではないんですよ。
私自身も、その雑誌の記事を書かれたシラノスキー記者にインタビューして詳しく聞きましたよ。そうすると、やはりこれは、それを分析された吉井講師自身が、これは驚いた、自分でもまさか出てくるとは思わなかったというぐらい、彼らにとってもたまたま出てきたことなんですね。
しかし、問題は、それがうそだとかいうんじゃなくて、明らかに、吉井講師自身が認めているように、骨というものはまるでスポンジのようにいろいろなDNAを吸収してしまう。そこで人が話していて、例えばつばが飛んでいったり、あるいはそういう何か生体の微妙な飛沫、汗とか空気の中の湿気とか、そういうものでもDNAというのは吸収されていくわけですね。
そこで、例えば、違うというならば、ほかの人のDNA、ミトコンドリアが出るというならば、例えばそこの研究室にいるすべての女性のDNAをチェックしたか、そういうことが本当は必要となるわけですが、この問題がどういうふうにされたかは大変疑問なまま、あたかも科学的な証拠だとして外交の関係を断絶するぐらい大きなことをやり、それが六カ国協議の障害になっているんですね。この責任というのは、やはり政府の責任というのは余りにも大きいと思うんですね。
問題なのは、ではもう一回骨を出してくださいと言ったら、それは実験の過程で粉砕しちゃってなくなっちゃいましたと。証拠がなくなったら、これは反論しようがないじゃないですか。いかに北朝鮮のいわゆる備忘録がインチキだとかいったって、こちらも立証できなければいけない。
そこでお願いしたいのは、分析ですけれども、クローン化していくわけですね。ただその骨からDNAを取り出すんじゃなくて、それを、そのミトコンドリアのDNAをクローン化していく、いわゆるネステッドPCRという方式で吉井講師が独自にやられるわけですけれども、当然のことながら、その結果として出たものは何かの形で残っているんです。
骨自体は、粉砕しそれを溶液に浸して溶かしてしまったかもしれない。しかし、その結果を遺伝子に写したプライマーや、あるいは、もし細菌とかそういうものに写したら、それはそこのコロニーには当然のことながら残っているわけですね。それは果たして残っているのか。もし残っていなかったら、私は、それは証拠を隠滅したことになる、そうじゃないでしょうか。警察の御意見をお聞きしたいと思いますが。- 瀬川政府参考人
- お答えいたします。
本件鑑定は、まず申し上げますと、横田めぐみさんの遺骨であるとして北朝鮮側から提供があったものにつきまして、刑事訴訟法の規定に基づきまして、厳格な手続によりまして、国内最高水準の研究機関であります帝京大学及び科学警察研究所でDNA鑑定を実施したものでございます。
今御質問の中で、いわゆるコンタミネーション、汚染の可能性ということも御指摘をされましたけれども、そういった問題については、鑑定人において十分考慮され、骨片をまず十分に洗浄した上で鑑定を行ったものと聞いております。その表面を洗浄した液からはDNAは全く検出されていないということでございまして、骨表面の汚染物質によるDNA鑑定の結果ではないということが鑑定書の中においても明らかになっているところでございます。
それから、お尋ねの鑑定に供したDNAの増幅物は保存されているのかということでございますが、具体的な鑑定の内容につきましては捜査上の問題でございますので差し控えさせていただきますけれども、一般論として申し上げれば、こういった鑑定に際しましては、鑑定の客観性を確保するために、可能な範囲で再鑑定のための考慮というものが払われているものであるということは申し上げておきたいというふうに思います。
ただ、本件の鑑定は、事の重大性、重要性を十分考慮しまして、鑑定人において二度にわたって行われました。二度とも同様の結果が出たものであるということを申し上げておきたいというふうに思います。- 首藤委員
- いや、局長、それはおかしいですよ。刑事訴訟法でこういうような手続で、例えば人の罪科が決まり、警察は柏に巨大な科学警察研究所、科警研を持っていて、にもかかわらず一私学の一講師がやっている研究機関が日本の最高水準というんだったら、それなら科警研は廃止したらいいじゃないですか。膨大な人間がいて。そんなことで有罪、無罪の証拠が出たら、科学警察じゃないし、近代警察じゃないですよ、それは。
それは、当然のことながらクロスチェックをして、もしこういうような国際的な問題だったら、国際機関にも頼んでやって、それから例えば先ほど言っていたネステッドPCRの結果、サンプルが残っているならそれを今提示されたらどうですか。我が国も吉井講師以外にもいろいろな法医学の専門家がたくさんいて、その方たちが見て、ああ、それは間違いない、これは確かにそういうことがあって、コンタミネーションじゃないということがわかれば、それはそれでまた一つの外交をバックアップする事実になっていくわけです。ですから、どうしてそういうことをされないかですよ。
私は、吉井講師に会う必要はもちろんあると思いますけれども、それはまたこれからの話題として、その吉井講師が何と警視庁の科捜研の研究科長になっちゃった。これ、職員ですよ。科学警察の研究所へ出向されるとか、そういうことならともかく、一民間人のおよそ警察的な訓練を受けていない人が警視庁の科学捜査の、捜研の、それの職員になってしまう。それは、多くは今既に言われているように、証人隠しじゃないですか。
こんなことをやっていては日本がやはり世界から認められるわけないですよ。こんなこと、分析結果、私は北朝鮮の今までやったことも言っていることもでたらめだと思いますよ。しかし、相手がでたらめだからといってこちらがでたらめをやっていいということは何もないんですよ。やはりきちっとやっていかなければいけないんだと思うんですよ。
そうした問題に関して大臣にお聞きしたいんですよ。ですから、客観的に言うと、これは韓国でもアメリカでも、このネイチャー誌を見た人からもうぼろくそに言われています。それならば、なぜこんなインチキなものをやったか。二つしかないんですよ。
一つは、もういいから、北朝鮮との間はもう完全に国交を断絶するつもりでばんとぶつけてやる、もう言い言葉に返す言葉でぶつけてやると。あるいは、横田めぐみさんが本当にどこかで生きていると確証を持っていて、だから遺骨なんというのは全部うそなんだということを考えておられるのか。どっちのケースでしょうか。外務大臣、いかがでしょうか。- 町村国務大臣
- 委員から我が方の科学的な鑑定のその信憑性をまことに疑わしめるような、そういう御発言があったのは、私は大変残念なことだと思います。私どもは、何の予断も持たずに、あらかじめどういう結論を引き出そうということで警察の鑑定を受けたわけではございません。あくまでも鑑定は鑑定として、客観的、第三者的なものに答えを出してもらおうということで警察の方がなさったわけであります。
それについてまことに今の委員の発言は、何かあたかも結論を持ってそういう結果をもうどんどん書いたと言わんばかりの御発言は、ぜひこれは、私どもがこの問題に真剣に取り組んでいるということに対する半ば侮辱ともとれるような御発言でありますから、ひとつ私は、その辺はよく慎重に言葉を選んで御発言をいただきたいとお願いをいたします。- 首藤委員
- いや、外務大臣、今おっしゃった言葉はそっくりお返ししますよ。私は、こういうことを言えば、私のところにはたくさんの抗議メールが来て、いろいろな電話がかかってきて、大変な思いをしているんですよ。しかし、私は、日本の名誉のために、国会議員として真実を明らかにしなければいけないと。
私は、別に政府を批判しているんじゃないんですよ。真実はどこにあるのか。真実を確証できるならば、証拠があるなら、もう一度確証したらどうですか、そういうことを言っているわけですよ。それは、ですから外務大臣、まさに同じ言葉をお返ししたいと思います。
残念ながら時間になりましたけれども、私は、この問題を明らかにしなければ必ず国際社会の場で日本が再度たたかれることになる、したがってやはりこの問題はしっかりして先へ進んでいきたい、そういうことを切に切にお願いして、質問を終わります。
どうもありがとうございました。
首藤信彦さんは2005年9月の衆議院議員選挙で落選しました。私は首藤さんの日頃の主張には感心しないことが多い。けれども与党に真実をきちんと明らかにする意欲が欠けている問題について、野党の追及は必要だとあらためて思う。
遺骨は偽物と発表して以来、「なぜ経済制裁しないのか」と世論が盛り上がっています。しかし政府は、次第に包囲網を狭めつつも、現在に至るまで強力な制裁を発動していません。それは何故か? という問いに対する、ひとつの答えがここにあるのだと思う。