趣味Web 小説 2005-08-18

アスベスト報道は不十分なのか

ひとつ気になるのは、今更になってマスコミが問題視して取り上げる報道の遅さである。アスベストの危険性は数十年も前から建設業界では広く知られており、一般にもそれなりに知られていたが、まさか未だにそれが使用されていると知らなかった人は多いのではないだろうか。

(よく見かける意見のひとつなので)とくにこの記事がどうこうというわけではないのだけれど。

石綿については社団法人 日本石綿協会が詳しい。主要な論点は石綿Q&Aにまとまっています。とくに重要なのは第7章 石綿代替品のやりとり。

石綿を単体で代替できる物質は、大勢の研究者が数十年間頑張ってきたにもかかわらず発見・開発されませんでした。仕方ないので個別の製品に対して場当たり的に知見を蓄積して対処されてきたわけですけれども、結局のところガラス繊維やセラミックファイバーといった代替品もまた、発がん性が懸念されている状況なのです。

私が小学生だった1980年代は石綿追放の機運が大いに高まり、よく報道もされた時代でした。理科の実験に使われる石綿金網も慌ててセラミック金網に買い換えられ、先生方は「こういうのは捨てるのに困るんだよな」といって何重にもくるんで段ボール箱にいれ、倉庫の奥へしまいこんだのでした。

あの狂騒が石綿を完全に追放しないまま沈静化していったのは何故か? その理由は、端的にいって自動車事故がどれほどたくさん発生しても自動車社会を放棄できないことと同じです。包丁で殺人が起きても、家の中から刃物を追放するわけにはいかない。石綿代替品の発がん性が不明瞭であり、また石綿というのは触っただけで人が死ぬような物質ではないということも重要です。

全文を引用します。

石綿粉じんはどの位の大きさが有害ですか?

吸入性石綿粉じんは一般的に幅が3μm未満、アスペクト比(長さと幅の比)が3以上のものをいい、これ以外のものは呼吸によって肺に到達しないとされています。従って、石綿繊維は吸入によって有害だとされているものは上記に加え、長さ5μm以上のものです。

吸入性の繊維状物質の発ガン性は、繊維のサイズと生体内での耐久性に関連するといわれ、繊維の幅が0.25μm付近で長さが8μm以上のものが腫瘍発生率が高く、肺ガンは幅が0.15μm以上で長さ10μm以上、中皮腫は幅0.1μm付近で長さ5-10μmで発生しやすいという傾向が認められています。

石綿を固型化したものは問題ありませんか?

石綿が人への影響をもたらすのは、吸入によって取り込まれる一定のサイズの石綿繊維です。従って、空気中に飛散することがない状態では人体への影響はありません。

石綿を何らかの形で大気と遮断することができる場合は飛散しませんから、特に問題とならない訳です。石綿製品では一般的にプラスチック、ゴム、セメント等で石綿を固定してあるため、切断等の加工をしない限り、影響を及ぼすことはありません。

石綿を誤って飲み込んだ場合の措置はどうしたらよいですか?

石綿は呼吸等によって吸入した場合、人への影響があることが分かっています。

また、石綿は天然に産するもので、自然水にも多くの繊維が含まれており、その水を摂取することによって弊害があるという報告はありません。

また、誤って飲んだ場合にも影響はないと考えます。しかし、多量に飲み込んだ場合には一般事項に従って措置を行う必要があります。その措置として、口の中のものを吐き出させ、うがいをさせることです。また、必要に応じ医師の措置を受けることが望ましいと思います。

石綿を土中に埋めても問題ありませんか?

有害性については問題となりませんが、廃棄物を処理するという意味からは、問題となります。

石綿含有廃棄物を埋立て処分する場合は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(略称:廃棄物処理法)」に従って埋め立てることが肝要です。

石綿を水中に捨てても問題ありませんか?

石綿は呼吸等によって吸入した場合、人への影響があることが分かっています。また、石綿は天然に産するもので、自然水にも多くの種類の繊維が含まれており、その水を摂取することによって特定の疾病が増えるという報告はありません。

従って、有害性については問題となりませんが、廃棄物を処理するという意味からは、問題となります。

「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(略称:廃棄物処理法)」では、河川等に投棄することを禁止していますから、絶対にやってはならないことです。

少量の石綿を含む水を流しても問題ありませんか?

石綿は天然に産するもので、自然水にも多くの種類の繊維が含まれております。従って、石綿が付着した物を洗ったりして少量の石綿が混入している水は環境に影響を与えることにはなりません。

しかし、水質汚濁防止法等によって、浮遊物質(SS)の規制があるので、規制値をクリアーしたものでなければなりません。

微小な粉塵の飛散と肺への吸入さえ防ぐことができれば問題とならないことがわかります。石綿を使用した製品(配管、機器のガスケットや配電盤に使われる電気の絶縁板、化学プラントのシール材、工業用のひも、布など)が日常生活の中に入っていても大丈夫なのは、そのためです。

……と、こうしてみてくると、問題は劣化ウラン弾などと似通っていることがわかります。なぜ危険なのか、どのように危険なのか、そのあたりを冷静に見極めて、現実的な対策を探らねばなりません。悲劇だけに注目して、「今すぐ石綿を全廃せよ」というわけにはいかなかった、その背景を知るべきです。でも、どういったわけか、この手の話は日本国民にウケないんですね。「金持ちは貧乏人を騙す。御用新聞のいうことなんか信じない」と耳をふさいでしまう。だから、大企業を気が済むまで批判すると、だんだん報道はフェードアウトしていく。マスコミも商売ですから、ウケない記事をいつまでも書いていられない。

では、かくいう私はどこから初期情報を得たか。答えは新聞です。以前も書いたことだけれど、新聞を安直に非難している方々は、きっと(紙に印刷された有料の)新聞を読んでいないのだと思う。「なぜ石綿の追放に時間がかかったのか」という疑問の答えを新聞記事は伝えていたし、そしてまた、かなり以前より工場周辺の危険もほぼ解消されていることを書いていました。小さな見出しの囲み記事ではあったけれど、きちんと書いていた。私は新聞記者の良心をそこに見ました。

石綿が再び話題の言葉となっているのは30~40年の潜伏期間を経て中皮腫による死者が続出しているためで、今、石綿を使っている各種製品やその製造工場が危険だという話ではない。それなのに、「クボタの工場のそばにいる人はみんな引っ越さなきゃいけないね」という人がいます。これはマスコミの責任ではなくて、国民の問題だと思う。マスコミの悪口をいう前に、本当に報道が不十分なのか、よく調べてほしい。

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