趣味Web 小説 2006-10-21

文系・理系論のゲンナリ感

実際に世間で使われている「論理的」という言葉は、「命題」だとか「推論」だとかいう堅苦しい「論理学」から派生しきって、「論理的な文章」「論理的プレゼンテーション」のように「(ビジネスマンのための)わかりやすい」と言い換え可能な語句として使われているか「論理的思考力」というワンセットの単語になって、宇佐美先生が言うところの「具体例が挙げられる思考」であったり「抜けおちのない思考手順、および、それを遂行する力」ってな感じで利用されています。

つまりは、命題の内容の真偽を問わないアレではなく、言ってることがあってるのか、間違ってるのかが、わかりやすい主張ができるのが、いわゆる「論理的」ってことなんだろうと。

その通りだと思います。でも、ヘンな話ですよね、たいてい他人の主張を「論理的でない」と難詰する人が、その「論理的」という言葉に無頓着なんだから。基礎とプロセスを重視します、という立場を表明しながら、基礎を自明のものと考えて、じつはよくわかっていないという事実に気づかない。悪い冗談です、これは。

数字について得意ではない方、論理的に考えたりすることの苦手な方が文系だったりするのは事実なんじゃないかと思います。

社会科学系の先生の本にもきちんと実証的に書かれたものがたくさんある一方、自然科学系の先生の本だからといって実証的でないものは山ほどあります。

だいたい理系の学会で発表されている論文だって、用語がそれっぽいからみんな何となく騙されているだけで、じつは実験データと考察の間に飛躍の存在するケースは少なくないわけです。というか、実験データから確実にいえることなんてそうそうないわけでして……。

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学

面白すぎてウソっぽい話が満載のベストセラー「ゾウの時間 ネズミの時間」(1992年)にもこんな一節があります(120頁)。

それにしても2/3乗だといえばたちまち表面積と情報量とを関係づけて分かったような説明をし、3/4乗に比例するとなれば、たちまち代謝率と関係づけた説が出てくる。実に科学とは単純明快で、悪くいえば節操がない。ここが科学のおもしろく、力強いところである。

ここで注意しなければいけないことは、単純明快さを求めるあまり、意識するしないにかかわらず、事実を曲げてしまう危険性があることだ。脳重に関していえば、脳と表面積と情報量とを関係づけた説明があまりにあざやかだったので、2/3上というのが真の値と信じ込み、現実に得られたかなりバラついた計測値を、なんとかこの「真の値」に近づけようとして、データをかなり恣意的に取捨選択したふしがある。単純化・抽象化の持つ魅力と魔力には、くれぐれも注意したい。

社会科学系の場合、仮説の構築からデータ収集とその整理までは専門的な操作が必要なので「ふうん、そういうものかなあ」と思っても、一通りの材料がそろったところで考察に移る段になれば、素人でもけっこういいたいことをいえてしまう。考察の基礎となるのが社会常識だったりするからですね。

最近は学生の卒論なんかがたくさんウェブで公開されていますが、文系でも何かしらのデータ収集を行って、その上で主張をまとめているものが多い。どうして、そういった事実があまり知られていないのか、不思議です。

理系・文系なんて、高校時代、相対的に文系科目と理系科目のいずれが得意だったか、という話でしかないわけでしょう、たいていの場合。東大の文系なら二流大学の理系より理系科目が得意な人が多い。絶対的な能力をいったら、文系・理系なんて区分は無意味ですよ。

私は英語は苦手でしたが国語と社会科は代ゼミの模試で偏差値65~80でした。数学と理科は偏差値50~65で、そのくせ工学部へ進学。文系のお勉強に学費分の価値を見出せなかったから、という理由ですが、さて私は理系なのか文系なのか。

文系科目の方が得意なのに理系へ進んだ私にいわせてもらうなら、理系とか文系とか自分を規定して、便利な言い訳にしてる人が多過ぎるのです。「私は理系なので」そんなの説明になってないだろう、と。進学先のランクを落とせば文系の学部にだって進学できたような人がいう言葉じゃない。

血液型を言い訳に使う人(「書類の整理がいまひとつその……」「あたしO型なんです」「え?(だから何?)」とか)に出会ったときの疲労感と、理系・文系論のゲンナリ感は私の中では似てますね。

進学先は、好みで決めちゃえ。

これは同意。文系ならもっと偏差値高いところ行けるんだけどなー、とか考えなくていいと思う。偏差値40の理系大学もあるわけで、理系へ進学したければ理系へどうぞ。逆に文系へ行きたければそれもよいかと。

このコラムに限らず、ニッセイ基礎研究所のエコノミストの眼は毎回、何らかのデータを出してくるから面白い。ちなみに経済学部は文系に分類されます。

経営学部も文系。最近の活動が公開されていないのは残念ですが、学生さんの研究成果がたくさん公開されていますので、「文系だから論理とか数字とか苦手なんだよね」という言い訳が世間の誤解に乗っかったウソというか、実際には通用しないものであることが、よくわかると思う。

私からみて「どうしてそうなるの?」という研究はあります。ありますけど、学生さんらは決して「文系だから」なんて考えていない。ちゃんと論理的に考えようとしてる、主張を裏付ける何かを探そうとしてる、そう見えるわけですよ。それを見てもまだ、「文系だから」って言い訳を使う人、そりゃいるんでしょうけれども、ちょっとは後ろめたく思っていいんじゃないかと、そう思うのですね、私は。

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