趣味Web 小説 2008-07-14

常用漢字表改訂 雑感

常用漢字表の改訂について延々と審議中。どういうわけか2008年以降の議事録が未掲載なのだけれども、1~19回の喧々諤々を読むだけでもお腹いっぱい。

結局、何を話し合っているのかというと、行政と国民のコミュニケーションは基本的に言語で行われるわけだが、義務教育の範囲外の言葉を弄して行政が国民を騙すようなことがあってはいけない、と。だから公文書で使える漢字や表現には一定の制限が必要である。

ところが現状、例えば大阪の「阪」が常用漢字にない。これでは大阪府は府民に自らの名を名乗ることもできないではないか。仕方ないから、これは例外ということになっている。

現在の常用漢字だけでは実用にならないのが実際であり、なんとなく雰囲気で制限を適当に踏み越えて危ういコミュニケーションが行われているのだけれども、改善されるべき状況なのかもしれない。

さりとて、全国の地名、固有名詞、古めかしい表現などにしか使われない漢字、などを節操なく取り入れることもできない。なぜなら、一般的な小中学生に対して教育保証できる漢字数は有限だからだ。現在の教育漢字(小学校で学ぶ漢字)は僅か1006字だが、これほど数を絞り込んでも学習到達度は悲惨という他ない。

というわけで、何度も何度も堂々巡りを繰り返しつつ、「いまさらそういうことをいいますか?」「でもやっぱり納得できないんです」的なぐんにゃり感を漂わせつつ、ちょくちょく新メンバーが登場するたび同じような質問が飛び出す非効率に耐えつつ、結局のところ委員の独断と偏見に基づき、新案が固まりつつある。

面白いのは、どんな字にも関係する業界というものがあって、1字でも削るとなると大反対の声。「斤」を削ろうとしたらパン大好き人間たちの突き上げを食らう。パン食の習慣を持つ人は増加中であり、「斤」は重要な生活語である云々。銑鉄の「銑」、紡錘の「錘」など、産業界の反対は封殺できても、国民の声はね。

いったん追加候補に入れた字を、検討の末に却下予定としただけでグワングワン荒れ狂う。「俺」とかね。私文書で使う分には勝手なんだから、使いたい人は勝手に使えばいいだろうに、常用漢字に入れろ、つまり義務教育で教えろ、と。いま「俺」を義務教育で学ばなかったせいで困ってる人がいるんか。

みんなそうやって勝手なことをいうなら、小中学生は原則として土曜日も登校させることにして、あなた方がボランティアで漢字を教えたらいい。どこかに無理がくるんだよ。「自分の常識をみんなの常識にしたい」って気持ちはよーくわかるんだけどね。世の中、他人に血を流せというばかりじゃあ、ねぇ?

かつて漢字テストは大得意だった私も、今ではそれほどでもなかったりする。補習塾で出会った国語力悲惨な生徒たちは今頃、どうなっているのだろうか。想像するだに恐ろしい。中学国語の漢字教育は完全に崩壊してますからね。全部宿題扱い。トップクラスの生徒以外、完全サボり。テストでも漢字は「捨て」問題。

これくらいは義務教育で教えていいんじゃない? って、国語のお得意な大人たちは好き勝手いうわけだけど、委員会の面々は、よく抵抗してますよ。なんとか2000字程度という枠内に収めようとしてる。統計的手法で可能な限り客観的な裏づけをして字を選ぼうと努力してる。お疲れ様です。

どうせ誰も満足なんてできやしないんだ。絶望的な戦いである。

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