趣味Web 小説 2010-01-14

不幸を招く信念

1.

リンク先とはあまり関係ないことを書きます。

自分ひとりでは完結しないテーマについて考えているのに、他者の価値観について想像力を働かせること主張すると、「不純」と捉える人がいる。どうしてこんな、社会の幸福の総量を減らすような考え方が広まってしまっているのだろう。同様に、社会に有益とは思えないのに広まってしまっている観念は多々あります。

2.

昔、個別指導塾でアルバイトを始めて間もない頃のこと。新しい塾長がやってきて「これまで、この教室は結果が出ていない。補習塾こそ、点数の取れるような授業をしなければなりません」といって具体的な授業の進め方をガラッと変えたら、講師陣から一斉に反発が起きました。「点数より大事なことがある」と。

塾長は首を傾げて「じゃあその大事なことって何ですか?」と問う。

「今の授業方法で生徒が勉強に興味を持って取り組んでくれています。目先の点数より、興味関心、本質的な理解が大切だと思います」とアルバイト講師。

塾長、応えていわく「みなさんの生徒さんは、宿題をちゃんとやってきますか? 部活が忙しかったとかいって、あまりやってこないでしょう。できの悪い子ほど、そのような傾向があるのです。そしてみなさんは、生徒が宿題をやってきたかどうか、きちんとチェックしていますか。そして成績の推移との相関を調べていますか。私は、調べました。次回、資料を配りますが、宿題の実行率と成績には相関があります。注意してください。全員が、とはいっていません。例外は少なくありません。しかし、講師のみなさんが、自分でその見極めができるとは、考えないでほしい。私が以前に指導した教室では、宿題のチェックをきちんとするようになってから、対象生徒の成績が上がり、また、教室で受講している科目を「好き」と回答した割合が増えました。生徒本人に訊ねると、宿題なんて忙しいから無理、といわれることが多いのです。しかし結果は、事前のアンケートの結果を遥かに超える8割弱の生徒が80%以上の割合で、宿題をやってくるようになったのです」。

残念ながら、私は資料をもう持っていない。ただ、教室の生徒たちの成績が、新塾長の指導であっという間に上がり、近隣教室で一番の上昇率を記録したのは事実です。「今までの努力」を否定されて不満たらたらだった講師陣も、1学期の中間テスト後には、もう文句をいいませんでした。

「テストでいい点なんか取ったって……」という言葉を浴びるように耳にして育ってきたせいかどうか、学生中心のアルバイト講師陣は「点数稼ぎ」を蔑んでいたんですね。ところが、それは色眼鏡で世界を見ていたのであって、実際には、まず成績を上げなければ興味・関心も育ってこなかった。ずっと20点、30点しか取れなかった子が40点や50点を取ると、すごく喜んで、宿題などもきちんとやってくるようになるのです。

もちろん、本番で実力を発揮できなかった子もいます。だけど、ふだんから教室で小テストなどを積み重ねているから、バーチャルな自己像との比較ではなく、リアルな実力と比較になる。口先の言い訳は通用しなくなるわけです。逆に自信にも裏付けができるし、運で取れた高得点も正確に自覚するようになりました。

こうして結果が出てから振り返ると、講師陣の抵抗って何だったんだろう、と思うんですよね。詳細を詰めていくと途端にボロが出るようなレベルの「信念」を奉じて、生徒の笑顔を奪い、好成績への道を閉ざし、上辺では好かれていても本当には信頼されない講師になっていた。新塾長就任前、解約率の高さが教室の課題になっていたんです。それが如実に改善された……。

3.

いま私は経済に関心があるので、「よいデフレ論」をはじめ、社会を不幸に導く信念について、よく考えます。とある個別指導塾の一教室では塾長が蛮勇をふるって成功したわけですけど、国の経済政策となると、そういうわけにもいかない。こういうの、ホントどうにかできないものですかね。

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