趣味Web 小説 2010-11-25

「裏取りなしのスクープでも大歓迎」が日本のネット世論か

1.

とくに証拠はないが小沢一郎さんは悪党に決まっているので、強制起訴は正しかった。何の根拠もなくたって、自分の直感を信じて情報を「拡散」するのは正しい。くらコーポレーションが悪い企業なのは明らかなので、今回ばかりはTBSが正しい。くら側の言い分など聞く耳は持たぬ。私の視界に飛び込んでくるネット上の意見って、だいたいそんな感じ。

人は信じたいものを信じる。それが現実だが、それでいいとは思わない。

日本の司法が冤罪を日々生み出し続けるのは、裁判報道などを見ても当然のことに思われる。警察・検察のいうことは自動的に信じる+犯人に厳罰を、というセットだから、検察は不十分な証拠で起訴し、裁判所も世論を伺って有罪判決を出してしまうのだ。

ケネディが暗殺されてもアメリカは何も変わらず、民主主義の国では大統領の命に特別な価値のないことが明らかになった……という評論を読んだことがある。日本の司法も同じようなもので、最高裁長官や検事総長が次々殺されたって、何も変わるまい。容疑をかけられ、そして逮捕されるだけで人生が暗転するような社会を作っているのは、私たちである。

2.

今年9月、尖閣諸島で日本の領海内に立ち入った中国漁船が、海上保安庁の巡視船に意図的に船をぶつけ、船長が逮捕された。その後、船長は処分保留で釈放された。中国の人々は、そもそも尖閣諸島は中国領なので日本が司法権を行使すること自体が不当だという。一方、日本の世論は、船長の犯罪が釈放を正当化できる程度のものなのか、という点に関心を寄せた。

政府は衝突時の映像を非公開としたが、国会は紛糾し、国会議員を集めて非公開の場で6分半の編集版を上映した。そして今月、神戸の海上保安庁の職員が、庁内LAN経由で入手した44分の映像をYouTubeに公開した。翌朝にはテレビで大報道され、朝刊も最終版に滑り込みセーフ。朝から大騒ぎになった。職員の行為が刑事罰に値するかどうかは警察・検察により慎重に捜査が進められているそうだが、職場の規則や命令に反した行為をしたことは明らかなので、規定に基づく処分をされるそう。

この件について、マスコミ経由なら身元バレはなかったのに、という話があちこちで起きた。すると今度は、海保職員は、事前にCNNに匿名+内容の説明なしでSDカードを送ったけど、動きがないのでYouTubeを利用したことがわかった。その後の報道によると、CNNでは内規に沿って内容を確認せず処分していたという。

ネット世論はCNN批判に傾いている。映像を見れば、それが本物だということは直感的にわかるので、匿名で寄せられた情報だとしても、これを報道しなかったのは大失態だ、と。

私は、このネット世論に与しない。YouTubeに投稿された映像は、海保幹部が未明に「対応を協議」し、海保職員の「おそらく本物」というコメントがあって、それで朝からの大報道になったと私は認識している。政府が黙殺しても国会議員が「自分の見た映像と同じ部分がある」と話すから、大騒ぎは時間の問題だったろう。

だが、何の確証もない内は、「ネットにこんな動画が投稿された」と少し紹介するに止めたはずだ。視聴者にとっては映像から直感的に受けた「これは本物だ!」という認識だけで十分なのだろうが、報道機関がそんなに軽薄では困る。どうせ視聴者は、後で偽物とわかれば報道機関を責めるのだから無責任きわまりない。

結果的にYouTubeに出た映像は本物だった。政府の対応が、それを証明した。が、CNNが匿名で送付されたSDカードだけ見て「これは本物だ!」と判断するような報道機関だったとしたら、それはヤバイことじゃないのか? 映像の提供者がたしかに海保職員であり、映像の入手ルートの説明が合理的で信用に足る、ということをきちんと確認せずに「スクープ報道」をするようなテレビ局が、世界有数の報道機関であっていいわけがない。

取材のきっかけは匿名の情報でもいい。だが、匿名で寄せられた情報を、裏取りなしでそのまま流すなんてのは、報道機関のすることじゃない。

3.

新興ネットメディアでは、噂話を安直に報道する例が多々ある。後で訂正を入れることもない。「噂話があったことは事実」で押し通すつもりだろう。つまるところ、個人の雑感をつづるブログと信頼度では大差ないわけだ。その点『ケータイ Watch』などを運営するインプレスは、それらとは一線を画していることを、あらためて認識した。

CNNを批判する立場からすれば、有志が行っている信頼性の保証がない「検証」は直感的に信用でき、ソフトバンクが悪い企業なのは自明なので、ケータイWatch編集部が記事掲載を一時見送ったのはおかしい、ということになろう。私は、そんな主張がまかり通る世界なんて、嫌だね。

アメリカでも庶民の感覚は日本と変わらないのではないか、と思える記事。もしそうだとすると、報道関係者の「高い意識による自制」による状況の改善も、ある程度までは期待できるという話になるのだが……。

Information

注意書き