以下、技術的困難や政治的困難を無視したメモと断っておきますが。
原発事故があろうとなかろうと、震災直後と今夏の電力不足は生じていました。政治的困難を突破して不合理を排し、価格による需給調整で電力消費の効率的な抑制を実現できないか。全産業で一律15%削減、民生の需要抑制は個人の心掛けに任せる、といった電力需要の抑制策は非効率。その帰結は所得と雇用の減少であり、結局は国民の生活水準を引き下げます。
電気料金の引き上げの大部分を税金の形で行い、それを財源として弱者の保護を行う、という風にできないものだろうか。元気な人たちは公民館や集会所に退避するとか、あるいは家族みんなで小さな部屋に集まって過ごしたりすれば、稼動するクーラーの数が減って、かなりの節電になるかもしれない。電気代が大幅に上がれば、多くの人が自然とそういう風に行動するのではないか。小幅な値上げでは弱者の保護もおざなりになるし、節電の効果も乏しい。大幅な一時値上げがよいと思う。
思えばクーラーなんて最初は1部屋だけだったのに、今では全室冷暖房完備の家が増えている。あるいは、天井を高くしたり、吹き抜けを作ったり。どんなに効率がよくなっても、人々の電力消費が増え続けたのは道理でした。つまるところ、人々はクーラー1台あたりの電気代が減ったら、その分を他の何かに消費するのではなくて、「余った電力」を消費する別の家電(例えば2台目のクーラー)を買ったのでした。生活水準の向上は電力消費とともにあったということでしょう。
昨今はやりのLED照明というのも、結局は同じことになるのではないかと思う。もちろん、部屋をもっと明るくしたいという欲求は多分ないから、電球は増えません。けれども、天候に関係なく乾燥機を使うようになる、とか。梅雨時に乾燥機を使っていると、暑い夏がやってきても、洗濯物を干すのが面倒でたまらなくなる。乾燥機を使うと電気代が高くなっちゃうから……という重石が取れたら、スーッと楽な方に流れていく。
産業向けについては、夏場の平日午後の電気に産業向け全体で需要が2010年比15~20%減となるまで際限なく割り増しの消費税をかけ、その税収分だけ法人税を減税できたとしたらどうでしょう? 電力消費量に比して利益の大きな産業への自動的な支援になりますよね。
また従業員数に比して電力消費量の大きい産業では、深夜・早朝へのタイムシフトが起きるでしょう。深夜手当てより電気代の方が痛いからです。同時に、古い工場の工業団地への移転も進むはずです。住宅街の中にある工場での24時間稼動は難しいですから。
当然、ここで淘汰される企業も出てくるのですが、今後の日本では電力需要のピークを抑制することが最重要課題なのだと仮定すれば、新時代に対応できない企業が淘汰されるのはやむをえません。雇用については、タイムシフトを実施できた会社のシェアが拡大し人手不足になることで、最終的には吸収されるのではないでしょうか。
平時にこうした政策を取る必然性は乏しいのですが、一律15%削減との比較なら、この方がよほどマシだと思います。深夜勤務の人は増えますが、それを問題視すべきなのは、深夜勤務を強制されて他に行き場がない場合と、深夜手当てが安すぎる場合などでしょう。「いや、場合とかじゃなくて、絶対にそういうことが起きるから論外」というなら、いま深夜勤務している人の存在だって忘れてはいけない。既にあるものを等閑視している人が、追加分にばかりワーワーいうのは説得力がない。どうせその追加分だって、見慣れたらもう、問題だと思わなくなるに決まってます。
社会主義的な手法で平日13~19時の電力使用量15%削減を実現すれば、みんなで貧しくなるしかない。けれども価格で調整すれば、儲かる会社も給料が増える人もたくさん出てきて、経済のプラス成長と電気の節約は両立しうるのではないか。