趣味Web 小説 2011-10-25

国語の授業で学ぶのは文章の標準的な読解技術

1.

このところ、「この話題で記事を書こう」と思ってブックマークしてから、実際に記事を書くまでの期間が長すぎて、どこでその話題を知ったのかを忘れてしまうことが多いのだけれど、これはRinRin王国で紹介されていた話題。

国語の授業で学ぶのは、文章の標準的な読解技術。私は、そう考えています。ところが。

初めて読んだ学習指導要領の内容は、私にとっては衝撃的でした……。

「書いてあることをそのまま読み取る能力」の育成は、国語教育の目標のごく一部でしかない。そのかわりに、様々な分野の評論家がテレビとかで主張してきたこと、それを見聞した国民が「そうだ」「その通りだ!」といってきたことが、いっぱい詰め込まれています。

他方、新聞に載る県立高校入試問題やセンター試験問題には大きな変化がない。とすると現在も、私が中学生・高校生だった頃と同様に、学校の授業を「馬鹿馬鹿しい」と思って見切りをつけ、自主的にコアな読解力・語彙力・漢字力の習得に打ち込んだ人が、好成績を修めていることが予想されます。

多くの国民は、学校教育の成果には不満を持っているとしても、この学習指導要領は大筋で支持すると思う。「書いてあることをそのまま読み取る能力」の育成に注力するような改定には、大反対が予想されますね。でも、私はこういいたいよ。

書かれている通りに文章を読み取る力なしに、有意義なコミュニケーションはありえない。足もとがお留守の状態で、思考力だの発信力だの、そんな応用領域の話ばかりやって、有意義な成果が得られるだろうか。テレビドラマには、早合点と誤解が原因のすれ違いが描かれ続け、多くの視聴者が登場人物に共感している。読解力・語彙力・漢字力という問題解決の一丁目一番地をないがしろにした先に成功はない。

2.ケーススタディー

まず前提知識として、「Stay hungry, Stay foolish」が時価総額世界一の企業を一代で築きあげたスティーブ・ジョブズさんの信条だったことを押さえておく必要があります。国語の課題文なら、補注が必要でしょう。以下では、シロクマさんは前記の内容を知っていたと仮定しています。

なお、私が現代文を最も得意としていたのは、苦手科目を敬遠して好きな現代文の勉強ばかりやっていた高2の頃です。その当時も、私はセンター試験の現代文の問題で確実に満点を取れるようなレベルではありませんでした。それから13年が経っています。現在の実力は疑わしい。なので、よくよく疑いつつ読んでいただきたいのですが、私は、シロクマさんの読解は「受験国語的には間違い」だと思います。

岩崎さんの3つの問いは関連しているのに、シロクマさんはバラバラに読み解き、しかも自分の第一印象を全く疑わず、相手が変なことをいっているのだと決め付けて、文意を取り違えたのです。

実際に岩崎さんがどう考えていたのか、それはわかりません。他の文章も合わせて検討したら、シロクマさんの解釈が正しいとわかるのかもしれない。どちらも間違いで、別の解釈が浮かび上がるかもしれない。しかし、引用した部分だけを受験国語的に「素直に読む」ならば、シロクマさんの読解は間違っています。

問1 課題文中の「スティーブ・ジョブズのような人間」とは、どのような意味ですか。本文中から書き抜いて答えなさい。
私の回答:「Stay hungry, Stay foolish」の体現者
問2 岩崎さんが、自分をジョブズになぞらえる理由を書きなさい。
私の回答:自分こそ「Stay hungry, Stay foolish」の体現者だと思っているから。
問3 課題文中の「ザッカーバーグみたい」という表現について、岩崎さんを「ザッカーバーグみたい」と評した人々は、岩崎さんとザッカーバーグさんに、どのような類似点を見出したのか。次の選択肢から、最も適切なもの1つを選びなさい。
 a) 若い世代に属すること
 b) 不器用な生き方
 c) IT関係の実業家という職業
 d) 社会的な評価の大きさ
私の回答:b)
問4 岩崎さんの自己認識として、次の選択肢から、最も適切なもの1つを選びなさい。
 a) ザッカーバーグさんにもジョブズさんにも似ている。
 b) ザッカーバーグさんには似ているが、ジョブズさんには似ている。
 c) ザッカーバーグさんには似ていないが、ジョブズさんには似ている。
 d) ザッカーバーグさんにもジョブズさんにも似ていない。
私の回答:c)
問4 岩崎さんは「自分とジョブズさんは同じくらい偉大な人物だ」と主張している。(Yes/No)
私の回答:No

岩崎さんの3つの問いは、相互に関連しています。ひとつながりの文章です。

なぜ私がAに似ていると思うのか? Bに似ているとは思わないのか? 私こそBの信条の体現者だというのに。

こう書けば、文章の骨格が見えやすいでしょうか。

  1. 問1の解法:第3文は第2文の補足説明。第3文から該当する箇所を見出す。
  2. 問2の解法:第2文の補足説明である第3文をパラフレーズする。
  3. 問3の解法:第1文と第2文の対比に注目する。また第2文の補足説明である第3文の内容に注目する。
  4. 問4の解法:第1文と第2文の対比に注目する。
  5. 問5の解法:これは問3の確認問題。

3.

受験国語は、「実際に書かれている内容を素直に読めばこうなる」という技術を確認するものです。そんなもの、実社会では役に立たない、という意見もあるでしょう。しかし私は、言葉を素直に読み解く以外に、どのようなコミュニケーションのあり方がありうるのか、疑問に思います。

「他のテキストも合わせて検討すれば、解釈が変わる可能性もある」と、先に書きました。しかしそれとて、テキストに根拠があっての話です。

ケーススタディーで扱った事例について、仮に10人中9人が直感的にはシロクマさんの解釈に賛同するとしても、私が引用した文章だけを根拠とする限り、受験国語的には私の解釈の方が正解(に近い)でしょう。しかし本当に10人中9人がシロクマさんの解釈を支持するなら、「受験国語的な読み方なんて現実のコミュニケーションでは役に立たない」といわれるかもしれない。

しかし、「書かれている通りに読む」と「社会的には誤読」となるような言語では、価値観の異なる者同士の意見交換は不可能です。価値観や先入観を同じくする者にしか通用しない解釈が「正しい」としたら、異なる前提を掲げる者同士の対話は不毛です。

「書かれている通りに読む」のが正解とされていればこそ、書き手が「書かれている通りに読めば自分の意見が伝わる」ように文章を書き、読み手は「書かれている通りに読む」ことで、前提や価値観の違う者同士であっても、ひとつの言語で意思疎通を図ることが可能となるのです。

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