趣味Web 小説 2011-11-24

『このラノ』批判と『このミス』の「別リーグ」問題

1.

私はライトノベルを読まないので、リンクした話題そのものは「どうでもいい」のだけれど、私が興味を持っている『このミステリーがすごい!』との比較で「面白いな」と思った。

『このミス』で西村京太郎さん、内田康夫さん、赤川次郎さん、木谷恭介さんあたりの作品が票を集めることはない。ベストセラー作品に冷たいというわけではなく、東野圭吾さんや宮部みゆきさんの大ヒット作は、1位にもなっている。『このラノ』でいうところの協力者票だけでランキングを作っているから、そういう偏りが生まれるわけだけれども、西村さんのファンから文句が出たという話は聞かないな。

まあ、その昔、木谷恭介さんは『このミス』に不快感を示したそうだし、笠井潔さんが本格推理よりエンタメ系の作品の方が目立っていることに不満を述べたということもあったと記憶しているけれど、少なくとも現在、私の視界の中で目立つ意見ではない。『このミス』権威化の流れが逆転したようには思えず、『このミス』から排除されているミステリーやエンターテインメントのファンが『このミス』に対して反発しないのは、ちょっと不思議な感じがする。

2.

ミステリー方面で、一般読者票、作家票、評論家票を合算してランキングを作っているといえば、『IN POCKET』の「文庫翻訳ミステリー・ベスト10」。

読者は何年にもわたってパトリシア・コーンウェルさんの新作を1位に推し続けたのだけれど、作家と評論家の同意を得ることができず、とうとう1位を取らせてもらえなかった。結局、コーンウェルさんの方が先に息切れしてしまい、かつての「読者票で圧倒的な1位」という状況が変化。そのため近年は、読者部門ではトップ3に入っても、総合ランキングではベスト10圏外へ……。

読者はマイクル・コナリーさんの作品も好きで、2010年には読者・作家・評論家がみな『エコー・パーク』を1位に推して幸せなランキングになったのだけれど、コナリーさんは例外的存在。一般読者票はたいてい、一番割を食っている(ベスト10に読者票20位圏外の作品が入る確率が高い)。

ライトノベルの「ファンの声」を見ると、協力者票への風当たりが、かなり強い。ライトノベルのファンが特殊なのか、それとも、彼らがネットでの発言に積極的なだけで、ミステリーファンも真の多数派の声は似たようなものなのか……。

私はというと、西村京太郎さんが年に20冊近く書き飛ばしている作品も、東野圭吾さんの作品も、どちらも面白いと思う。評論家が西村さんの作品に冷たい理由はわかるけど、「馬鹿馬鹿しい」「つまらない」という斬り捨て方をする一部の人に対しては、「そりゃ了見違いというもの」といいたくなる。

『このミス』が西村さんの作品を「別リーグ」扱いにしたのは理解するとしても、結果的に、毎月のように刊行される西村さんの作品のうち「とくにお勧めの1冊」を誰も選んでくれない状況になっていて、個人的には不便に思っている。どれを読んでも面白いのだから、適当に選んでも不都合ない。でも、自分が読み逃しているかもしれない傑作がきっとあるはずで、「1冊選ぶならコレ!」という紹介は、切実にほしい……。

3.

たぶん、『このラノ』は一般層にもリーチしているけれど、『このミス』は西村さんや内田さんや赤川さんあたりのファン層には、ほとんどリーチしていないのだろうな。理由はわからないけど。

いや、不思議なのはさ、小説誌では西村さん、内田さん、赤川さんって常連なんだよね。アンケートとかでも評判がいいから連載が途切れないわけでしょう。ああいう雑誌は書店でしか売っていなくて、同じ売り場に『このミス』も並んでいる。どうして両者の客層が全然違うということがあり得るのか。

西村さんのファンが、新幹線で出張する際の暇つぶしに新書版の小説を買う人だけだとするなら、小説誌から西村さんらは消えているはずでしょ。でも実際は、そうではないわけで。

個人的には、『このラノ』は『このミス』の系譜だと思っていたから、「一般票とか不要であって、協力者票だけでいいじゃん」と。でも、現状、一般読者にも『このラノ』のランキングが需要されていて、『このラノ』が一般票を斬り捨てた場合に、その需要を満たす代わりの存在がない(ランキング自体はいろいろあるみたいだけど、多くの注目を集めるものとなっていない)。とすると、折衷案を採用するのは、一強の存在としての責任かもしれない。

ところで、「総合ランキングをやめて、部門別ランキングだけにしたら揉め事にはならなかった」という意見もあったが、そのようにしたら『このラノ』の売れ行きは鈍ってしまったろう。総合ランキングには需要があるので、『このラノ』が蛮勇を奮ったのは商売として正しいと思う。

補記:

私の立場を補足説明したい。私は『このミス』が好き。今後、『このミス』の色が薄まってしまったら、それ自体は残念に思う。しかしながら、「ミステリのランキングといえば『このミス』」という状況には大いに不満がある。「別リーグ」の作家の作品も上位に登場する「今年の傑作小説リスト」が、切実にほしい。

もし今後も『このミス』が現在の地位を占め続けるのであれば、『このラノ』に対して噴出した「協力者票はオカシイだろ!」というのと同じ批判が、『このミス』に対しても向けられて当然。なぜか「別リーグ」作家のファンはネットでは非常に静かなので、実際にはそのような話題が盛り上がることはなさそうだが……。

「別リーグ」作家の初期の作品を推す意見なら、今だって、いくらでもある。でも私が求めているのは、今の、評論家に黙殺されるような内容の、しかし売れ続けている作品を、今も買い続けている読者の価値観に寄り添って分析し、評価し、「最近の作品ならこれがお勧めですよ」と紹介してくれるガイドなんです。

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