新潮社版「電車男」の型式で原本の 2ch ログを印刷すると約5000ページになります。新潮社版ではじつに93%が捨てられているのです。本書は新潮社版(およびその底本となったまとめサイト)が削除した主な記述を列挙し、編集の意図を読み解きます。
新潮社版の刊行を契機として、ネットでは 2ch を中心に「電車男」否定論が噴出しました。著者は新潮社版の分析を通して、それら否定論の根拠をていねいに拾っていきます。しかしむしろ本書を通して浮かび上がるのは、新潮社版が文芸書として周到に編集されている事実です。
「電車男」には通常の文芸書では考えられない量のノイズが残っています。話の展開を阻害するような発言まであります。それらはライブ感を伝えるため選択的に収録されたものなのでした。この絶妙な匙加減が「電車男」の大ヒットを生んだことは間違いありません。
本書は126ページの小さな本で、全ログ収録の CD 付録もありません。著者も取捨選択の必要性は認めており、「新潮社版はきれい過ぎるので、物語の不完全さを示す発言をもっと残すべきだった」と主張しているのです。結局、新潮社版と本書の併読により、著者に近い感性を持つ読者の希望は満たされるでしょう。
なお、著者は「善意の書込みで金儲けするな」というネットで最も反復強調された否定論を(当然ながら)重視していません。「電車男」否定論のまとめ本としても読める本書ですが、その点だけは要注意。