食料自給率を上げるべき様々な理由をまとめた入門書です。食料自給率に関して、新聞やテレビ番組などに登場する意見(トンデモを除く)はほとんど拾われており、生活レベルでは必要十分な内容だと思います。
堅い内容ながら、ですます体の語り口調で30ページ程度のお話6本を講演録のようにまとめており、抵抗なくスルスルと読めます。ただ、学習参考書のように要点を箇条書きでまとめるといった工夫はなく、後で参照するには向きません。学習用途であれば、ノートなどに論点を整理しながら読むことを勧めます。
これは自給率向上派の主張がサッと読めるよい本ですが、逆に自給率の向上を「目指す」ことに反対する意見については、体系的な説明がありません。雑多な論点のそれぞれに対する批判などは紹介していますが、主に経済学の分野から提起されている根本的な批判には(一部しか)応えていないので注意が必要です。
行政に携わる著者は、国民の「常識」および日本の経済・財政の枠組から外れた政策を検討できる立場にありません。国民のドメスティック・バイアスを解消する方法はなく、平気で輸入品を買いつつ自給率向上を望む身勝手も改善不可能。関税障壁の撤廃+所得保障型の補助金方式への完全転換も予算の問題で非常に難しい。
過激な意見の飛び交う自給率問題の渦中で、穏当な着地点を探る著者の姿勢は評価したい。自由貿易に依拠して繁栄する日本が自給率を高める道は、消費者が国産品志向を強める他ない、との結論には納得できます。
ところで本書は食料価格が高騰した時期に書かれ、発展途上の食料輸出国で暴動が発生し輸出制限に至ったことから、食料貿易に否定的です。しかしその後の食料価格低下は食料輸出国の厚生を低下させました。病死や餓死を減らすには経済発展が必要です。先進国が食料自給率を高め、食料貿易の大半を先進国間の取引が占める現状に対する経済学者の批判は、今も有効です。