Book Guide 2009-02-05

飢餓国家ニッポン―食料自給率40%で生き残れるのか

飢餓国家ニッポン―食料自給率40%で生き残れるのか (角川SSC新書)

議論の前提に注意して読むべき

日本国内での食糧増産を提言する本です。現時点では少数派に属する著者の主張が強く前面に出ており、初心者の「1冊目」としてはお勧めできません。初心者の「1冊目」は、網羅的な構成を有し、幅広い意見を落ち着いた筆致で紹介する本が望ましく、例えば末松広行「食料自給率のなぜ」がその条件を満たすと思います。

本書は一般向けにわかりやすく書かれています。「世界的に食料の需要が増える一方、供給は頭打ちとなっており、食料価格の高騰は続く、日本は減反をやめ食糧を増産すべき」という論理が一貫しており、リズムよくすらすら読めます。裏付けとなるデータも豊富です。

ただ、本書には著者が自明と考えて説明していない「前提」がいくつかあることに注意してください。そしてじつは、その「前提」が実際には必ずしも自明ではないために、政府が食糧の増産を「目指す」ことに消極的な意見、反対する意見が出てくるのです。

著者の主張の特色は、「今すぐ」食料の増産を目指すべき、とする点にあります。その理由は、農業従事者の平均年齢が高く、近未来に農業人口が急減すること。しかしこの議論には、「農業技術の継承には非常に時間がかかる」「農業への新規参入は難しい」といった前提が隠れています。いずれも手強い反論がある事項です。

より根本的には、著者は「社会を予め調整して状況の変化に備える」計画経済と同様の考え方を採り、自由経済の「価格による調整」を忌避しています。資源配分の歪みを嫌う市場重視の立場とは対立する考え方です。

海外の食料価格が高騰した現在も、国産品価格とは3~8割の価格差があります。強引に食料自給率を上げれば、税金による補助と合算した真の食料費は激増します。著者の提案は国民の大きな負担を伴うものだけに、著者の議論の「前提」は絶対ではなく、様々な異論がありうることに注意しながら読んでください。

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