サブプライムローン・パニックと世界金融危機が生じた過程、その背景、問題の構造、当面の対策を解説し、再発防止策を提案する、初級者から読める解説書です。
実際のデータをグラフや表で多数示して議論を展開しており、安心感があります。また複雑な金融問題をわかりやすく説明するため、図解や表形式のまとめが豊富に入っているのも親切です。描写を刈り込んだコンパクトな記述も、本論を見失いにくく読みやすい。やさしい語り口調で、ページ数も多くなく、さっと読めます。
本書の特徴は、「悪い」人がいたから危機が起きた、という立場を採っていないことです。そのときどきに市場参加者の多くが考えたこと、実際にとった行動には一定の根拠があったことを本書は示します。そして個々の経済主体の合理的な行動が危機を拡大したことを示し、景気循環を促進するようなルール(硬直的な自己資本規制や単純な時価会計など)に問題があることを指摘します。
市場参加者はルールの枠内で合理的にふるまいます。大切なのは、各人の行動が自ずと経済成長に伴う景気循環の波を抑制するようにルールを設計することです。著者はひとつの案として、資産の利益率の変動に応じて自己資本比率の設定値を変え、好況時の資本蓄積と不況時の投売り防止を導くルールを提案しています。
その他、中央銀行と政府による金融システム安定化策が、平時と危機ではどう異なるかを整理し、今回の金融危機への米国の対応について論評しています。
なお金融危機については、米国のバブルを世界的な貯蓄・投資の不均衡による構造問題と見る竹森俊平「資本主義は嫌いですか」、世界各国の経済への影響を分析する原田泰+大和総研「世界経済同時危機」を併読されると理解が深まります。