雇用問題を中軸に据えて長期不況の害を説き、今般の不況の原因は需要の縮小にあると喝破して、金融・財政政策の総動員による需要増大策こそ必要だと説明する、一般向けの経済評論です。
私は著者の主張の多くに首肯しますが、本書は欠点が目立ちます。
まず、本書は多くの事柄について世論と異なる意見を提示していますが、その主張の根拠となる事実が不足しています。グラフ、表、図解がひとつもなく、単発の数字や論文の引用しかない。論理の提示も大切ですが、素朴な違和感を打破するには一目でわかる事実の提示が必要だと思います。
例えば若年失業者数は景気に連動して増減している(つまり若者劣化論は俗説で景気こそが真の問題である)事実も、著者が地の文でそう書くだけで納得されるわけがない。統計があるのですから、きちんと出典付でグラフを示せば一目瞭然です。私のように先に統計を見ていた潜在的賛同者ならともかく、現時点で若者劣化論に共感している(可能性が高い)一般読者に本書の書き方で伝わるでしょうか?
さらに、本書は本文の構成とペース配分が奇妙です。話があちこちへ飛び焦点が定まらない見通しの悪さは著者の他の単著と同様で、読んでいて疲れます。各章の冒頭で議論の展望を示し、末尾で要約を行ってほしかったです。前書き・後書きが全体の要約として機能していないのも残念。
より微視的には、例えば著者は、上げ潮派について詳しく紹介してから、不同意の立場を簡単に付しています。私はやはり、批判対象の意見は簡潔にまとめ、自論をこそ根拠を添えて詳述してほしいと思うのです。
3部作になるそうなので、以降の2冊では、共著の「構造改革論の誤解」「平成大停滞と昭和恐慌」で見せたようなスッキリした書き方をお願いしたいです。