Book Guide 2009-03-10

高校生のためのメディア・リテラシー

高校生のためのメディア・リテラシー (ちくまプリマー新書)

放送部顧問20年の体験談

昨今話題になっているマスメディアとの付き合い方に焦点を当てた狭義の「メディア・リテラシー」教育には距離を置き、放送部の部員たちが番組などの制作を通じて「メディア使い」として成長していった事例を紹介する本です。

著者はメディア・リテラシーを「メディアを使いこなして表現し、仲間や社会にメッセージを発信する能力」と定義します。そして情報発信のステップを「調べ・まとめ・伝える」と整理し、表現の構造を「取材・表現方法の選択・内なる他者の発見と対話・発表」という4項目で捉えます。

本書において著者は表現とコミュニティの関係性を重視し、「調べ・まとめ・伝える」技術は省略、表現の構造4項目に各々1章を割いています。取材が社会に影響を与える、表現方法の適切な選択が意思の疎通を実現する、内なる他者の発見と対話が表現を鍛える、作品の発表が学校や地域を変えていく……20年に及ぶ指導経験から興味深い事例の数々が紹介されます。

著者が長年小論文の指導も行っていることから、元生徒たちの作文が豊富に引用されているのが本書の特徴です。教師の意図と生徒の苦闘の両方を知ることができます。

狭義のメディア・リテラシー教育の参考にしようと思って手に取ると面食らう本ですが、「放送部」や「生徒会活動」に興味のある方にはお勧めの一冊です。ただ、小さな思い込みを脱した生徒たちが、結局はより大きな思い込みに捉われたまま卒業する結末に、私は虚脱感を覚えました。

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