経済学者の飯田泰之さんと反貧困運動家の雨宮処凛さんの対談本です。内容の6割強が飯田さんの発言とコラムからなり、実質的には「経済成長と適正な所得再分配により貧困は解消可能」という飯田さんの主張を強く訴える編集となっています。
飯田さんは雨宮さんの主張とその背景にある体験・イメージ・価値判断を傾聴した上で、ひとつひとつのトピックについて経済学の知見から雨宮さんの提言が実現した場合の費用と便益を提示していきます。すると、雨宮さんの価値基準に照らしても、飯田さんの示す別解の方が良案に見えてくるという仕掛け。
ただし、雨宮さんが例えば最低賃金アップの主張を今後も続けることには、飯田さんも一定の理解を示します。それはお二方の真の論敵が「世間の常識」だからです。日本人の多数派が根ざす価値観の岩盤を崩すのは極めて困難であり、飯田さんが雨宮さんに通じる言葉を模索したように、雨宮さんもまた運動家として世論に通じる言葉を選ばざるをえないのです。
貧困解消策に関心のある方へ安心してお勧めできる親切な一冊です。巻頭に雨宮さんの、巻末に飯田さんの主張がまとめられています。そして間の対談を読むと、経済失政が続いた20年の体験が経済成長論の壁となること、人々の価値観が金持ちから貧窮者へのシンプルで適正な再分配を阻むこと、つまり本書の主張が実現困難な理由もよくわかります。
類書に「経済成長って何で必要なんだろう?」があります。ご参考まで。
飯田さんは反貧困の活動家を(運動を離れた場では)納得させられる言葉を発見された様子。今後は「世間の常識」を体現するであろう方々、例えばテレビ局の解説委員さんなどと対談していただけたら嬉しいです。