Book Guide 2009-09-13

特別法第001条DUST

特別法第001条DUST (バーズコミックススペシャル)

国家に棄てられた若者たちの悲劇を描くファンタジー作品

文庫版で500ページを超える山田悠介さんの長編小説を、171ページに簡略化して漫画化。

就労・納税をしない者を島に棄てるDUST法が成立した世界を舞台とするファンタジー作品。山田悠介作品でリアリティーを云々してもつまらない。孤島で生き延び、かすかな希望を得、しかしそれすら奪われ、最後に切ない思いを残して死にゆく主人公の悲運を素直に受け止めるのが真っ当な消費の仕方だと思う。

漫画版では、サクッと読める原作小説をさらに簡略化しています。具体的には、サバイバルの知識や工夫、努力に関する描写が、ごっそり抜かれています。わずか数コマの農作業描写だけで食糧の安定確保に成功し、衣料品や食器等の生活用品の入手方法は完全に省略。とにかく主人公らが苦労する様子がないから、島の生活自体は意外と悪くないもののように思えてしまう。また、漫画版の主人公は殺人を犯さない。これは個人的には原作よりいいと思っていて、終幕の虚無感がいっそう胸に迫る。

原作小説には「ブラブラしている若者を農村へ送り込もう」という、実際に一部の与党国会議員が大真面目に提案していたNEET対策案への風刺があります。経済学的には需要不足の社会で供給を増やしても繁栄はなく、NEETに労働を強いるのは無意味。しかし漫画版では、人生を操作される理不尽、仲間割れの怖さ、妻子を奪われる悲しみ、などに物語が集約され、徴農政策への風刺はファンタジーに埋没しています。とはいえ、原作の農業描写は取材不足が明らかで、最終的にDUST法が国の繁栄を実現するから台無し。簡略化は正解だと思う。

なお本書は漫画家・壱臣さんの初単行本ですが、絵はなかなかきれいで、コマ割りも自然、人物がきちんと描き分けられていて読みやすい。壱臣さんの今後のご活躍に期待します。

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